ー南方世界アニュンリール皇国ー
その報告が皇帝ザラトストラに届いたのは翌日の事だった。軍事基地であるエリア35に侵入者がやって来て、数多くの機密書類が盗まれたとの報告を受けたザラトストラは狼狽した。
彼はここ最近休まる暇がなかったのだ。何故なら、先日窓際部署として知られている魔帝復活管理庁長官のヒスタスパ・デュラムから受けた一報だった。魔帝復活ビーコンが一基地上に反応を示している事だった。
実は、魔帝復活ビーコンはリンク機能が存在し、コアとなる機能が魔帝が保管しており、そのサブコアをアニュンリール皇国が保管している。その他のビーコンは宇宙空間にあったり、地下に眠っている場合と様々だ。だが、コアとサブコアに座標を送り続けているのだ。
だが、その内の一基。今回の場合は宇宙空間にあるべきビーコンの一つが地上で反応しているのだ。こんな事はアニュンリール皇国始まって以来初めての事だ。慌てるのも無理なかった。
「して、ビーコンが地上で反応している理由は何だ?」
「はい。位置情報から見て日本国にて反応しています。恐らく、彼らが僕の星を回収した物と思われます」
「つまり、彼らは宇宙空間に物体を送り込めると言う訳だな?」
「はい。信じられませんが…」
ヒスタスパ・デュラムは不思議に思ってる様だが、皇帝ザラトストラとしては腑に落ちた形だ。彼はアニュンリール皇国の文明偽装を日本国が見破った事を不思議に思っていたのだ。だが、古の魔法帝国の様に宇宙空間に僕の星を送り込めるのなら、偽装も意味がないと思ったからだ。
彼はすぐに対応策を講じる様に命じた。それがつい1週間もしない前の出来事だった。そこに、軍事基地に侵入者の報告だ。忙しくなるのも無理なかった。報告を受けたその日の昼頃には彼は報告を聞いていた。
「現場検証をしましたが、侵入者の足取りや何処の国、或いは組織の犯行かは証拠が残っておらず判別不可能でした。ですが、警備兵の遺体を検分した所、非常に小さい魔導弾がありました。これは、状況証拠からの推理ですが、魔導弾から魔力反応がなかった事から科学文明、そして我が国を疑っている日本国の犯行かと思われます」
諜報部からの報告に皇帝ザラトストラは動じない。彼にとってこれは予想の範疇だったからだ。それよりも、彼にとっては機密漏洩の方が心配だった。
「機密書類の漏洩の可能性は?」
「はい。基地責任者のデスクに保管されていた格納されていた兵器類のスペック表が盗まれていました。その為、大部分の兵器の性能が敵に判明してしまったと思われます」
皇帝ザラトストラはエリア35の警備責任者を左遷する事を決め、インター軍務長官に問う。
「短距離及び中距離のコア魔法搭載型誘導魔光弾の情報は?」
「はい。そちらも盗まれた物かと思われます」
皇帝ザラトストラは拳を目の前の机に叩き付ける。
「『盗まれた』では済まされんぞ!あれは我が国の機密事項!この世界でコア魔法を所有しているのは我が国のみ!あの情報を元に神聖ミリシアル帝国が製造を可能にしたらどうする!それに日本国だ!あの国は宇宙空間に僕の星を送り届ける程の技術力がある!ならばコア魔法を実用化していても可笑しくないのだ!」
皇帝は怒鳴る。実際の所、彼の予測は当たっている。日本国は火星や月にコロニー建設を可能にしており、大陸間弾道ミサイルも製造可能だ。それに核実験こそ行っていないが、製造、搭載する技術は十分過ぎるほどに持っている。彼の予測は実に的を射ていると言えるだろう。
「…では、国連の制裁が来るのは最早確実となった。たった今より戦争経済の移行を宣言し、各自厳戒態勢に努めよ。インター軍務長官は今後の軍功次第で貴様の座る椅子が変化すると思え」
取り敢えず、コア魔法の情報を盗まれたのに、事の重大さをあまり理解せず、平然としているインター軍務長官の罷免を匂わせた皇帝ザラトストラは戦争経済への完全な移行を宣言した。彼の中でコア魔法と言う古の魔法帝国の誘導魔光弾と並ぶ有名な魔法を持っていると世界に知られれば世界各国はアニュンリール皇国に対して本格的な武力行使をしてくるのは秒読みだと考えたのだ。
彼の判断が吉と出るか凶と出るかは未だ分からない。
◆
ー第三文明圏外国列強日本国首都東京ー
稲荷大社の謁見の間で稲荷神は会議に参加していた。稲荷神の手元には、アニュンリール皇国が保有する兵器についての報告書があった。
「これらの報告にある通り、彼らの保有する兵器は地球基準では1950年代の兵器が主です。機関銃や大型銃を搭載した搭乗型コンバットフレームや誘導弾を装備した戦艦、マッハ2に及ぶ戦闘機や回転翼機を配備しています。これが我々が解析した兵器のスペック表になります」
そこには、小銃から戦闘機に至る陸海空の兵器の殆どのスペックが記されていた。しかし、これは手に入れた情報を下に算出されているので、確実ではない。だが、問題なのは以下の4つの性能だった。
・空中戦艦パル・キマイラ
・水上要塞パルカオン
・誘導魔光弾
・コア魔法
この4つだ。空中戦艦パル・キマイラに関しては神聖ミリシアル帝国やクルセイリース大聖王国が保有していたので、大凡の性能は理解できる。しかし、水上要塞パルカオンは違う。
水上要塞パルカオンは装甲が氷で出来ている。嘗てイギリスが建造計画を進めていたハボクックと同じ物だ。だが、決定的に違うのはハボクックは空母としての運用を目的としているが、この水上要塞パルカオンは海上を動く要塞として建造されている。
装甲は海水を熱エネルギーの奪取で容易に修復が可能であり、魔法を用いれば科学よりも低コストで運用出来る。また、武装も強力であり、対空魔光砲や対艦誘導魔光弾、対空誘導魔光弾などの各種魔光弾を搭載し、
他にも、誘導魔光弾の存在は厄介だ。対空、対艦誘導弾を相手も持っている事に自衛隊は危機感を募らせる。今までの様な物量で押し潰す相手ではない、質と質の戦いだ。
だが、神聖ミリシアル帝国やクルセイリース大聖王国が使用していた誘導弾は亜音速でレーダー回避をしない為、低空飛行をしない。その点を見れば日本国側に有利だが、アニュンリール皇国もそうとは限らない。
そして、問題はコア魔法だ。所謂魔法版核兵器だ。日本人達は核兵器に対してヒステリックな感情を持ち合わせてはいないが、CG映画でその怖さは知っている。そんな兵器を持っている国に喧嘩を吹っ掛ける必要性は無いように思えるが、その様な大量破壊兵器を所持しているとなれば武力制裁の大義名分は十分な程にある。
幸いなことに大陸間弾道ミサイルは無いようで、本土が危険に晒される可能性はない。後は、戦場で使われる戦術核を防げば問題ではない。
稲荷神は一通りの説明を受けて、宣言する。
「アニュンリール皇国はコア魔法と呼ばれる核兵器を多数配備しています。これは、我が国の安全保障及び世界全体の安全を鑑みても許容出来る物ではありません。コア魔法と呼ばれる兵器を隠し持っている事について同国に抗議し、撤去が認められなければ自衛隊を派遣します」
稲荷神はこの世界で初めて自衛隊の動員を宣言した。今までは、ロウリア王国然り、パーパルディア皇国然り、グラ・バルカス帝国然り、宣戦布告を受けての動員だった。しかし、今回は日本国側が宣戦布告をする可能性を示唆したのだ。
これは、日本国建国以来、そして自衛隊創設以来初めての事だ。第二次世界大戦でさえ、日本国は連合国盟主としての加盟と言う形で参戦したのだ。稲荷神の言葉が如何に重みを持っているかが理解出来るだろう。
その場にいた出席者が平伏する中、稲荷神は今後を憂うのだった。
◆
前回の総会から数週間後、稲荷神は再び総会会場に訪れていた。
今回はアニュンリール皇国とグラ・バルカス帝国に関しての議題が主な内容になる。そこで、日本国から重大な話があるとして総会が開催された。
各国の代表が席につく。やがて、稲荷神が壇上する。お供として、手元のカンニングペーパーとお世話係の桜さんが一緒だ。
「今回は我が国からアニュンリール皇国についてお話があります」
そう言って切り出された言葉と共に、お世話係の桜さんがスクリーンを操作して1枚の写真を投影した。そこには、空中戦艦パル・キマイラの姿があった。
「アニュンリール皇国に対して武力制裁を科す事を我々は提案しましたが、同国を調査する過程で驚くべき事実が判明しました。なんと、彼らの本土は神聖ミリシアル帝国並みに発展しており、神聖ミリシアル帝国がグラ・バルカス帝国戦で投入した空中戦艦パル・キマイラを保有していたのです。更には、水上要塞パルカオンと呼ばれる水上要塞や天の浮舟、我々が持っている回転翼機と軍事力は列強と遜色ない物でした」
その言葉に場は騒然とする。彼らの本土が発展している事にも驚きだが、古代兵器を保有している事実に驚きを隠せないでいる。
「落ち着いて下さい。そして、重要なのはここからです。この古代兵器も脅威ですが一番の脅威は誘導魔光弾とそれに搭載されたコア魔法でしょう」
稲荷神の爆弾発言に場は一気に怒号に包まれた。特に、エモール王国の大使の気迫は凄まじい。あまりの形相に隣りに座る同盟国トルキア王国の大使は萎縮してしまっている。
「稲荷神殿、その情報は事実なのですかな?」
「はい。幸いにも大陸間弾道ミサイルでは無いので、敵国の首都に落とされる危険性は有りませんが、戦術核、つまりは戦闘中の敵陣に撃ち込まれる可能性は十二分にあります」
この言葉に武力制裁に積極的だった国々は鳴りを潜めてしまっている。無理もない。コア魔法で自軍が全滅してしまうとなれば躊躇するのは当たり前だ。
だが、稲荷神は呼び掛ける。
「我々は、コア魔法と言う大量破壊兵器を保有しているアニュンリール皇国に対して徹底的な制裁を科すべきでしょう。コア魔法の廃棄とそれを見届ける監査団を受け入れなければ武力制裁を科すべきだと進言します」
つまり、稲荷神は前世で起きたイラクの大量破壊兵器生産疑惑や、詳しくは描写しないが、親日国の某国の大量破壊兵器に対して、日本の同盟国の某大統領が大義名分としたように大量破壊兵器処分を要求し、応じなければ武力制裁をすると言っているのだ。
勿論、稲荷神には上記の例を念頭に言ったわけではなく、国との協議の末に決められた事だ。(そもそも、後者の事例は2026年の出来事であり、稲荷神が転生したのは2020年である)
「では、アニュンリール皇国に対して要求が通らなければ武力制裁を科す事に賛成の方はご起立願います」
列強たる神聖ミリシアル帝国、ムー国、エモール王国、イルネティア王国、そして日本国は起立だ。他にも、エモール王国の同盟国トルキア王国、コア魔法について記された遺跡があるカルアミーク王国。その他第1文明圏を始めとする魔法文明は起立した。
ここに、アニュンリール皇国への武力制裁が目前に迫ったのだった。
◆
そもそも、何故日本国がアニュンリール皇国に対してここまで武力制裁に拘るのか、それを不思議に思った読者諸君と国際連合加盟国はいなかったのだろうか?
目ざとい者は何か裏があると読んでいたが、その真意までは汲み取れる者は少ないだろう。そして、読者諸君は分かっていると思うが、アニュンリール皇国に対して武力制裁を科したがるのは、彼らの目的が嘗て暴虐の限りを尽くした古の魔法帝国ーラヴァーナル帝国ーの復活を目的としている事実を知っているからだ。
事の発端はエスペラント王国事変の際に国交を結んだヘイスカネンのエルヤ代理として代表を務めていた『神降ろしの聖者』バハーラの言葉だった。
彼は、日本国と言うか稲荷神に対して『奴らは古の魔法帝国の復活を狙っている』と伝えたのだ。稲荷神は日本国政府と協議し、一つの結論に達した。
『狂ってる』
これが、日本国政府及び稲荷神が下した結論であった。この世界の神話は史実に基づいた内容が当時の人達の知識を下に作成されているので抽象的な物も多いが、実際に起きた出来事を題材にしている。
日本国も神話を研究し、古の魔法帝国については共存不可能な明確な敵と定義している。特に、核兵器を躊躇わず発射し、奴隷を迫るような相手では面倒事は回避したい稲荷神としては頭の痛い内容であった。
だが、日本人もまた前例のない事態に驚く。
日本国始まって以来の日本国側からの宣戦布告、これに日本国内は騒然とするのであった。
〜コラム〜
コア魔法
魔法版核兵器。アニュンリール皇国は短距離及び中距離核ミサイルを所有している設定。何故なら、弾道ミサイルを生産、発射できる体制であれば世界征服をしていても不思議ではない。だが、それをしていないのは、生産出来ない、或いは技術が無いからだとの結論に達したので、大陸間弾道ミサイルは所有していません。
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アニュンリール皇国戦について
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原作?知るか?!
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原作出るまで待ちます
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平和に終わる