稲荷様は平穏に暮らしたかった。   作:味八木

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今回はエモール王国の話です。


列強との接触

 

 

日本国は神聖ミリシアル帝国から訪れた使節団と国交を樹立。第一文明圏の国々と国交を結び始めた。だが、1カ国だけ問題があった。

 

その国の名前はエモール王国。

 

エモール王国とは第一文明圏の大陸、ミリシエント大陸に存在し、神聖ミリシアル帝国の北方に位置する内陸国だ。人口は僅か100万人であり【竜人族】という単一民族で構成されている。だが、侮ってはならない。竜人族はドワーフや獣人を超える身体能力を有し、ハイエルフと並ぶ魔力を持ち合わせている。また、ワイバーンやワイバーンロードよりも強力な【風竜】をガハラ神国同様に操ることが出来る。しかし、ガハラ神国より数は多い。

 

強大な軍事力を持つため、小国であるにも関わらず、列強国と世界からは認識されている。しかし、プライドが高い国民性でありパーパルディア皇国同様難しいとされ、後回しにされていた。仲介を頼もうにも、エモール王国は仲介するなら自分達の足でこい。といったスタンスであり仲介は出来なかった。

 

パーパルディア皇国の様に他国の人々を奴隷に差し出せ…といった行為はプライドの高い彼等は他種族を使役することも無いため、日本国は最終的にエモール王国に派遣される使節団に稲荷神も同行する形で使節団を派遣する事を決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

―第一文明圏列強エモール王国竜都ドラグスマキラ―

 

竜人族が住まう国、エモール王国。人口のほとんどが首都である竜都ドラグスマキラに集まっている。国土面積の大半は森に覆われている。霊峰アクセン山脈から湧き出して流れる大河のほとりにドラグスマキラは存在している。なお、この大河は神聖ミリシアル帝国の首都帝都ルーンポリスへと流れている。

 

竜都ドラグスマキラの北部には、王城が存在する。その王城の最北にある建物の中で、エモール王国竜王ワグドラーンは、空間の占い師アレースルを始めとした多くの魔導占い師たちを前にしていた。

 

地球でいう占いとはオカルトの域であり、本当に当たる者もいるが、それはごく少数だ。しかし、エモール王国の占いは魔力を用いて行われるため、高確率で当たる。故に、世界からは占い大国として知られている。そうした占いの中で特に重要視されるのは【空間の占い】である。

 

この占いはエモール王国や世界を左右する重要事項の有無とその内容を発見し、早期解決を図るのを目的としている。その為、空間の占いは正確性を高めるため、ハイエルフと並ぶ魔力を持ち合わせている竜人族でも更に多くの魔力を持っている占い師30人を掻き集め高純度の魔力を使用する。

 

竜王ワグドラーンを始め国の重鎮が見守る中、薄暗いドーム状の部屋で儀式が始まる。占い師たちの代表であるアレースルの両手には、占い師たちから吸い上げた魔力が宿り、淡い赤色に光る。それと同時にドーム状の天井には、星の様な物が映し出された。

 

「空間の神々の名の下、これより未来を見る」

 

アレースルが空間の占いを始めると宣言し、一同が緊張する。

 

空間の占いは、名前こそ【占い】となっているが、空間の神々に干渉し未来を見る高等魔術だ。そのため、この空間の占いの的中率はは98パーセント以上だ。つまり、この占いによって予言された事象は確実に起きる。ということを意味する。そのため、占いによってとんでもない事象が予言されるのではと、今回も場は緊張に包まれる。

 

「…な!な…何ということだ!」

 

アレースルの動揺が室内に響き渡った。

 

「なんだ!何が見えたというのだ!」

 

静まり返った室内。静寂が支配する世界でアレースルは震えていた。だが、自分の使命を果たすべく言葉を振り絞った。

 

「…魔帝なり!」

「なんだと!」

 

魔帝という単語に竜王ワグドラーンは怒鳴る。その言葉を聞いた重鎮もざわめきが巻き起こった。そしてアレースルは決定的な言葉を口にした。

 

「そう遠くない未来。古の魔法帝国は…神話に刻まれるラティストア大陸は…この世界に復活する」

「何ということだ…」

 

この言葉に竜王ワグドラーン含め、重鎮達は言葉が出なかった。理由はエモール王国成立前に遡る。

 

古の魔法帝国が存在した数万年前、世界には竜の神々が統治する【インフィドラグーン】が存在した。魔法帝国は竜の神々に配下の竜人族を毎年一定数差し出せと命令した。竜の神々の1柱が理由を尋ねると

 

「竜人族の皮は丈夫で美しいから、バッグを作って売ったら国内で売れそう」

 

という理由からだった。当然、竜の神々は断固として拒否。そこから龍魔戦争と呼ばれる熾烈な戦争が巻き起こった。だが、インフィドラグーンの戦力は凄まじく戦局が一向に好転しない事に痺れを切らした魔法帝国は究極破壊兵器、コア魔法の使用に踏み切った。この魔法により、インフィドラグーンの大都市は、消滅した。結果的に竜の神々とインフィドラグーンは古の魔法帝国に敗北。身を守るために、竜人族は散り散りになって世界各地への避難を余儀無くされた。

 

やがて、古の魔法帝国が大陸ごと未来に転移し、この世界から去った後、竜人族はかつてのインフィドラグーンが存在した地に再び集まって国を作った。これが現在のエモール王国である。個々の能力が高い竜人族が他種族に屈したのは、歴史的に見て古の魔法帝国のみである。そのため、彼らは古の魔法帝国を酷く恐れ、警戒していた。

 

「復活する時期は!」

「…読めぬ」

「では場所は!」

「読めぬ。空間に歪みが生じている」

 

アレースルの表情は苦渋に満ちた表情であり本当に読めないのが見て取れる。

 

「では、我らを含め全ての種は古の魔法帝国に辛酸を耐えなければならないのか?」

「否、読めぬ。未来は不確定なり」

「不確定だと?どういう事だ?」

「言葉の通りなり」

「では…滅びもしくは従属から回避する方法があるのか?」

「ある!」

 

空間の占いは精神を消耗する。後少しでアレースルは気絶するだろう。そうなる前に情報を手に入れる必要がある。竜王ワグドラーンは問う。

 

「その手段とは?」

「…新たな国の出現」

「新興国か?」

「否、転移国家だ」

「何処だ?何という国だ!」

 

アレースルの額に大粒の汗がたくさん出ている。限界も近い。情報を得なければと竜王ワグドラーンの口調は激しくなる。

 

「…東、第三文明圏のフィルアデス大陸より更に東の島国、太陽神の娘が統治する人族の国、太陽を国旗とする国、日本国」

「人族だと!相手は古の魔法帝国だぞ!魔力をほとんど持たない人族に何が出来る!」

「分からぬ。だが、この日本国と太陽神の娘が古の魔法帝国に対抗する鍵となろう」

「鍵…か。近場にあるロデ二ウス大陸には太陽神の使いなる連中がいたらしいな…太陽神の使いの遺産が鍵なのやも知れぬ」

 

竜王は外交担当の貴族を呼ぶ。

 

「日本国について調べろ!第三文明圏外の国に頼るのは癪だが日本国について調べて国交を結べ!」

「はい!」

 

「その必要は…ない!」

 

外交担当の貴族が立ち去ろうとした所、アレースルの声が響いた。

 

「何故だ!」

「日本国は自ら国交を結びに来る…現在、ミルキー王国の砂漠を通過中だ。間もなく、27番の門に来るであろう…」

 

そこまで言ってアレースルは床にへたり込んだ。体力、精神力が限界に達したのだ。

 

「よくやった。アレースル。彼を部屋に連れていけ!それと27番の番人に門前払いしないよう伝えておけ!」

 

魔帝の復活と告げられ動揺するも竜王ワグドラーンはテキパキと指示を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーミルキー王国砂漠上ー

 

空間の占いをエモール王国が行っている頃、日本国外務省の使節団と稲荷神は【砂船】と呼ばれるミルキー王国の砂漠で使用されている特殊な船だ。車輪を何輪も船に取り付け、【風神の涙】で進む船だ。

 

「不思議な船ですね」

「稲荷神様ならもっと早く進めるのでは?」

 

稲荷神の呟きに、近衛が反応する。

 

「確かに私の方が速いでしょうが、旅は現地の交通機関を使った楽しみがあるんです」

 

稲荷神がそんな事を言った直後に船頭の声が響いた。

 

「お客様にご連絡します。当船は間もなくエモール王国国境に到着します。お降りの方はご準備お願いします」

 

砂船は停泊し、ドアが開かれる。そこは、砂漠と豊かな森林が交差する港だった。稲荷神の視線の先には青い門がある。

 

「あちらの青い門がエモール王国の国境です」

 

船頭の案内に従って門まで歩く。そこには身長二メートルを超える独特な民族衣装を身に着けた衛兵らしき者たちが通行証を確認していた。

 

門の前には商人からどこかの国の使節団まで様々だ。日本国使節団は列の最後尾に並び、順番を待つことにした。

 

「お前たちも列に並べ!」

 

しばらくすると、列の整理をしていた職員の怒鳴り声が響いた。その言葉に怒鳴られた者たちも怒鳴り返す。

 

「我々は第三文明圏リーム王国の使節だ!その辺の商人とは違うのです!貴国の外交官に取り次いでもらいたい!」

「国の使者だろうが商人だろうが人族だろう!我が国で優遇されるのは竜人族かハイエルフくらいだ!お前たちも列に並んでもらう!」

「くっ!分かりました…」

 

この様子を見ていた近衛は稲荷神に耳打ちする。

 

「交渉は難航しそうですね…」

「まあ、無事に国交を結べるのなら別に大丈夫ですよ」

 

稲荷神はそう言って苦笑いした。

 

そんな事を話していると門の方で動きがあった。兵士らしき4人の護衛を伴って質の高そうな衣服を着込んだ1人が門から出てきた。一行は列を進んでいき、日本国使節団の前で立ち止まった。

 

使節団の面々がざわつく中、やってきた竜人はよく通る声で話しかけてきた。

 

「我は、列強エモール王国外交担当の貴族、モーリアウルだ。そなたらは何をしに来た?どこから来た?」

 

モーリアウルと名乗った竜人に日本国使節団の外交官は姿勢を正して答えた。

 

「はい。私共は東に位置する第三文明圏のフィルアデス大陸より更に東、第三文明圏外と呼ばれる地域に位置する島国、日本国から参りました。こちらは、我が国の最高統治者の稲荷神様です」

「よ…よろしく…」

 

稲荷神は二メートルを超える巨体にびっくりしつつ対応した。そんなやり取りを見て、外野から小さい笑い声が響いた。聞こえないような音量の声も稲荷神の耳はしっかりと捉えていた。

 

「パーパルディア皇国を倒したあの…」

「ムーの支援でも受けていい気になってるだけだろ」

「第三文明圏の準列強である我がリーム王国でも難航しているのに文明圏外の国など門前払いが関の山よ!」

 

日本国に驚くものから日本国を疑う反応と様々だ。特に最後の言葉は大勢に聞こえるような音量であり稲荷神も眉をひそめた。だが…

 

「おお!そなたらが日本国の使者か!お待ちしていた。国交開設を前提で貴国や貴女の事が知りたい。貴賓室で対応しよう。我に続かれよ」

 

プライドが高いと聞いていただけにこの好反応に一同は面食らったが、先へ進むモーリアウルに困惑しながらついていった。

 

それは列に並んでいた商人や使節団も同様だった。モーリアウルの反応は普段のエモール王国の外交姿勢からかけ離れており、皆が呆然とした。だが、それを良しとしない者たちもいた。

 

「我々は第三文明圏が一つ、リーム王国の使者である!我々は貴国と国交を開設すべく参った!対応をお願いしたい!」

「ふう…」

 

リーム王国の横やりにモーリアウルはため息をついて言った。

 

「リーム王国はただの中流国だろう。列に並んで待たれよ」

「なっ!」

 

リーム王国の使節の申し出をバッサリと切り捨てたモーリアウルは日本国外務省の使節団に振り返る。

 

「さあ、日本国の方々よ、貴賓室に案内する。来られよ」

 

稲荷神達には事情はさっぱり分からなかったが、国交開設の前提なら困ることも無い。と考えた使節団の面々は難なく門を通過。翌日に国交を結んだ。

 

 

 

 

 

 

―エモール王国竜都ドラグスマキラ、モーリアウル邸―

 

日本国の使節団が帰国したその日の夜、モーリアウルは自室で食事をしながら考え事に耽っていた。

 

エモール王国の大事な行事である空間の占いで予言されたのはあの恐るべき魔帝…古の魔法帝国が復活するという物であった。だが、古の魔法帝国の対抗手段となる鍵が第三文明圏外の低文明とも呼べる地域に属する人族が治める日本国という国にあるという。

 

人族の助けを借りるのは癪だが、鍵が日本国にある以上、下手に悪い印象を与える訳にはいかない。故に、モーリアウルは心の内では煮え切らない感情を抱いていたが、それは日本国の使節団を見た時に消え失せた。

 

何故なら、日本国の使節団にいた狐の獣人…人族が稲荷神と呼ぶ存在を一目見ただけで、あらゆる感情が驚きによって塗りつぶされたからだ。モーリアウルは軍人ではないが、大抵の種族との兵器を伴わない戦闘には勝てる自信がある。それだけのポテンシャルが竜人族にはあるのだ。だが、稲荷神は違った。勝てる可能性が見えない。そう思わせる竜人族の血か何かが反応したのだ。

 

故に彼は稲荷神に対して無礼がないよう注意していた。怒らせたら何をするか分からないからだ。

 

実際はそこまで短気ではないが、モーリアウルにとって稲荷神とはそれ程の存在だったのだ。彼は、親日派の旗頭となったのである。

 

 

 

 

 






ーコラムー

空間の占い

エモール王国の空間の占いについて、太陽神の娘との記述がありますが、彼らは太陽神という存在を噂程度にしか知りません。竜の神々がいるので神の存在は信じてますが、下界に降りて来る事は無いからです。(原作でも知っている限り竜の神々は龍神や神竜の様な存在であり、太陽神しかも娘等信じれないからです)なので、エモール王国側は稲荷神=太陽神の娘と理解できてるのはアレースルとモーリアウル他数名です。

お気に入り登録、高評価、よろしくお願いします。まさか、エモール王国で一話使うとは思わなかった…
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