稲荷様は平穏に暮らしたかった。   作:味八木

41 / 94

お気に入り登録、高評価、誤字報告ありがとう御座います!


外伝 竜の伝説
稲荷神は恋■?


 

 

―日本国首都東京、外務省―

 

ある会議室の中で、外務大臣を始めとした官僚幹部はある地図を見て頭を抱えていた。それは、目の前に広がるある衛星写真によって作られた地図にあった。

 

日本の北東、約4500キロ先にある異質な島だ。その島は、天然に出来たとは思えない1500メートル級の山々がカルデラの様にリング状に連なっている。その内側には、アルタラス島の約半分の大きさの島がある。そこにも内海があり、まるで、山と、内海に挟まれた刑務所の様だ。しかし、そこには城壁に囲まれた都市や王城と言った建物が確認されており、文明があるのは明白だった。

 

しかし、問題なのは日本からこの島の距離もそうだが、1500メートル級の山々によって断崖絶壁となっているために、船を乗り付けるための湾口や砂浜もない。空から行こうにも、滑走路らしき物はなく、ヘリで着陸しようにも街の近くには、高い木々が生い茂っておりヘリでの着陸は不可能。自衛官ならロープ等を利用して降下出来るだろうが、外交官にそれをやれと言うのは無理と言うものだ。だからといって、勝手に森を焼き払う訳にもいかない。日本国外務省は頭を抱えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

―日本国首都東京、稲荷大社謁見の間―

 

外務大臣は外務省の役人を伴って稲荷神と謁見していた。

 

「稲荷神様。この地図にあります様に、この奇妙な島に文明がある事を確認しました。船での乗り付けは不可能。空から行こうにも、滑走路は無く、高い木々のせいでヘリは着陸出来ません。国交を開こうにもこちらからこの島に上陸する手段がないのです。そこで、稲荷神様の知恵をお借りしたく存じます」

 

(そんな事言われても…ヘリは駄目だし、飛行機は滑走路が無い、船も乗り付けは出来ない…無理でしよ。でも、垂直離着陸ならいけるかな?)

 

「垂直離着陸による移動はどうでしょうか?」

「垂直離着陸ですか?しかし…私共が知る限り自衛隊にそれが可能な機体は…」

「あると思いますよ。自衛隊ではないですが」

「…と、おっしゃいますと?」

「ワイバーンですよ。生物なのだから滑走路が要らない種もいるのでは?」

「なるほど!ありがとう御座います!稲荷神様!」

 

こうして、外務省は垂直離着陸可能なワイバーンを探した。ワイバーンロードを使わないのは、滑走路が更に必要になるとの判断からだ。そして、ロウリア王国に住んでいる元竜騎士であるムーラに白羽の矢が当たった。彼は、今回の垂直離着陸を了承。海上自衛隊の空母でワイバーンを移送する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

―日本国北東海域―

 

奇妙な形状をした島との国交を結ぶため、日本国は駆逐艦3隻とワイバーン発艦の為に、空母1隻を派遣していた。

 

物資をヘリ輸送する関係から、駆逐艦を多めに派遣しており、自衛官はヘリからのロープ降下となっている。やがて、空母甲板に飛行機ではない物が姿を現した。それは、この世界ではごく一般的な航空戦力、ワイバーンだった。ムーラは外交官北村を乗せて発艦した。その後ろから、下駄から狐火を出してワイバーンに並行して飛んでいく稲荷神を海上自衛隊の面々は見送った。

 

その後、稲荷神を見送っていた面々は次々と運搬物資をヘリ内部に運び、ヘリに乗って自衛官は稲荷神達の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本が国交を開設しようとしていた島には3つの国が存在する。

 

カルアミーク王国

ポウシュ国

スーワイ共和国

 

の3カ国だ。

 

その中の、カルアミーク王国王都山を一つ挟んだ約10キロ地点の森の中に使節団は着陸した。竜騎士ムーラと外交官北村、稲荷神、自衛官20人、近衛4人だ。

 

「ここでいい子にしておけよ。何かあったら逃げていいから、絶対に人間を食うなよ」

「キュウキュウ」

 

竜騎士ムーラが相棒のワイバーンと話している間に、自衛官がヘリから色んな物資を取り出す。ワイバーンの餌である保存食や、食料、外交資料等その他諸々だ。それらを運搬してさあ行こう!という時だった。

 

「キャァァァー!誰か、助けて!魔物が、嫌ァァァ!」

 

女性の悲鳴が木霊した。それを聞いた稲荷神はその優れた聴覚で悲鳴の出処を把握する。稲荷神は持ち前の身体能力でジャンプして、下駄から狐火を噴射して現場に向かう。竜騎士ムーラは稲荷神の行動にびっくりしたものの、すぐに相棒のワイバーンに乗って稲荷神の後を追う。近衛と護衛の自衛官も多くの荷物を背負って動き始めた。

 

同時刻、使節団が降り立った場所から北の丘陵を登っている女性がいた。この女性はエネシー。エネシー・ウィスークである。カルアミーク王国のマウリ侯爵家・イワン公爵家と並ぶ、王国の3大諸侯と呼ばれる内の名家、ウィスーク公爵家の娘である。

 

間もなく開催される建国記念祭で、エネシーは公爵家の娘としてドレスを着ることになる。それに当たってドレスの飾りとして、べノンの花と呼ばれる綺麗な花は、絶対に外せない物だった。街の商人たちに声をかけたみたが、今年は不作で僅かな在庫も既に買い取られている。しかし、そこは行動力に定評のあるエネシーだ。彼女は小さい頃に山で多数のべノンの花を見たことがある。その山は、王都の外だが、王都から見てかなり近いところにある山だ。

 

彼女は、父から言われた王都から出ない。と言う忠告を安易に考えて無視。王都の外に来ていた。

 

花が咲き乱れる地で、二重瞼イノシシとじゃれていると二重瞼イノシシの悲鳴があがった。何故なら、エネシーの視線の先には全長3メートル、足は6本、体の筋肉は足から先が丸見え、頭に12本もの角が生えた魔物がいた。

 

これは、伝説の魔獣、12角獣だ。最近よく目撃されるグランドマンというトカゲの姿をしていて、原始的な武器で人間を見つけたら襲ってくる気性の荒い性格の魔物だが、そんな魔物をも上回る魔獣である。

 

12角獣を前に、エネシーは逃亡した。しかし、12角獣はエネシーの想定を遥かに超える身体能力でエネシーに迫る。追いつかれる。そう思った時だった。

 

ギュォォォーン

 

そんな叫び声がした。そして、何かが地面に着地した様な振動がした。エネシーは目を閉じて最期の時を待っていたが、中々来ない。恐る恐る目を開けると、竜の背中に人が乗っていた。そして、伝説の魔獣の姿は無かった。

 

エネシーは予言めいた言葉を思い出した。

 

『幾多の魔獣現れ、王国に危機を及ぼさんとする時、天翔る魔物を操りし異国の騎士が現れ、太陽の女神との盟約により王国のために立ち上がる。王国は建国以来の危機に見舞われるだろう。しかし、異国の騎士の導きにより、王国は救われるだろう』

 

この異国の騎士こそ、目の前にいる竜に乗る人なのだろうと。こういったロマンチストじみた考えを持つエネシーは、彼が自分の将来の夫なのだろうと思った。

 

しかし、ムーラは既に既婚者である。しかも、妻子持ちである。エネシーの考えはまるっきり違うのだが、彼女はまだ知らない。というか、実際に助けてくれたのは稲荷神なのだが、竜に乗るムーラに心奪われたエネシーはその事がまるで目に入っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

稲荷神は上空から女性を追っている角が12本もある生き物を見つけた。稲荷神は即座に急行し、スーパーマンかのようにパンチを食らわせた。その破壊力は凄まじく、頭蓋骨が破壊され絶命した。稲荷神が件の魔獣を確認している横で、後からやって来た竜騎士ムーラは女性の対処に当たっていた。

 

「大丈夫ですか?怪我はない?」

「あ…ありがとう…ございます…」

 

ムーラは女性の頬が赤く染まっているのを気の所為と思った。すると、ガサゴソと草木をかき分ける音が聞こえる。ムーラの護衛として来た日本の自衛官と近衛2人だ。余談だが、近衛は4人中2人で誰が稲荷神の所に行くかで揉めていたのは御愛嬌。

 

「稲荷神様!大丈夫ですか!?」

「ムーラさんも大丈夫ですか?」

 

近衛と自衛官が声を掛けるが、稲荷神とムーラは何ともない。

 

「大丈夫ですよ」

「そうですね。稲荷神様のお陰で女性も無事ですし」

 

ムーラと稲荷神が自衛官と近衛と会話をしている頃、エネシーは心震えていた。

 

(竜騎士様!そう、彼はドラゴンナイト様よ!きっと彼が魔獣に襲われる私を助けてくれたのよ!それに、顔もイケメンだし、エネシーはもう、貴方の虜です。けど…)

 

エネシーは目線を稲荷神に向ける。

 

(まさか、恋仇がいるなんて…けど、あんな子供体型の獣人に私が負ける訳が無いわ!絶対にこの人の妻の座を手に入れるわ!)

 

エネシーは勝手に妄想を膨らませ、どういう思考回路をしてるのか稲荷神を恋仇に認定した。稲荷神には恋愛の二文字は無い。そもそも、日本国民全てを自分の義理の子供達と思っている様な慈愛溢れる女神が結婚や恋愛なんて数える程しか考えたことはない。

 

やがて、所謂迷彩服を着た自衛官や近衛がぞろぞろとやって来た。その格好は野蛮の一言であり、その場で、森の蛮族と彼女は命名したほどだ。それを見て、エネシーは思った。

 

(汚らしい格好なのに、私と騎士様を思っている…なるほど、竜騎士様の配下の人ね。こんな汚らしい人でさえ大事になさっているなんて、騎士様はなんと心が広いのでしょう。けど、どちらかといえばあの獣人に集まっている気が…まあ、気の所為ね。とにかく、神様が私と騎士様を引き合わせてくれたのよ!)

 

その神の1柱がその場にいる。というか、一方的に目の敵にしてる人物だとは思っていない。そんな事を露知らないエネシーは公爵家に恥じない挨拶を、と思いお辞儀(カーテシー)話始める

 

「竜騎士様の配下の皆様方、私、カルアミーク王国三大諸侯の一つ、ウィスーク公爵家の娘、エネシーと申します。竜騎士様に助けていただいたことを感謝し、是非お礼に家でご一緒にお食事でもいかがでしょうか?配下の方々も、よろしければご一緒に」

 

女性が勘違いしている事に気づいた北村は勘違いを訂正しようとするが、エネシーは気づかず話を続ける。

 

「この先を抜けると城門がございます。どこの国の方かは存じませんが、あなた方は私の命の恩人です。是非おいで下さい」

 

この経過を見て、北村はほっとしていた。"公爵家の娘を助けた"のなら心象は良いことだろう。そんな北村をよそに、エネシーはムーラの方を見ていた。

 

「竜騎士様、お名前をお聞かせください」

「ああ、ムーラという」

「ムーラ様、素敵なお名前…」

 

そして、エネシーは小さく呟いた。

 

「私の将来の旦那様に相応しい名前…」

 

小さな声だったが、この場にいる全員に聞こえた。稲荷神はキョトンとし、北村は困惑し、近衛と自衛隊は普段はいがみ合ってるのに、この時ばかりはお互い顔を見合わせた。

 

「好意を持ってくれるのはうれしいが「ちょちょちょ!」…」

 

外交官北村はムーラを呼び止める。

 

『ちょっとムーラさん!外交の糸口を潰すような行動は慎んでください!』

『しかし、私には妻がいる。ハッキリ伝えておかなければ』

『外交に私情は厳禁です』

『いえ、私は外交官では無いですし…』

『くっ…しかし、貴方の行動で我が日本政府やロウリア王国に迷惑がかかる可能性があります。公爵と接触するまでは隠して下さい』

『ですよね。稲荷神様』

 

そう言って、北村は稲荷神の方を見る。稲荷神は遥かに優れた聴覚で話を聞いてたが、外交の事など分からないので取り敢えず頷いておいた。それを見たムーラも

 

『まあ…そこまで言うなら…』

 

と、取り敢えず納得して、言葉を飲み込んだ。

 

「やん!好意を持ってくれるのが嬉しいだなんて!」

 

エネシーの態度に困惑する一方で、日本国使節団一行はカルアミーク王国王都アルクールに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―カルアミーク王国王都アルクール、ウィスーク公爵邸―

 

カルアミーク王国三大諸侯の1人、ウィスーク公爵は内心頭を抱えていた。その原因は目の前にいる妙な服装をした人と、娘であるエネシーの言葉だった。

 

エネシーは、王都から出るなと言われたにも関わらず建国祭に着飾るドレスの装飾として勝手に花を採取しに行ったと。エネシーに勝手に出歩く癖があるとは言え、これは大事だ。もう少し危機管理能力を鍛えて欲しいと切実に思った。そして、花を採りに行った山でこの付近には生息していない12角獣に遭遇し命を落としかけたという。公爵は、絶対に娘を護衛無しでは外出を認めない事を誓った。そして、命の危機に陥った娘を竜に乗った騎士が12角獣を呆気なく倒したという。偶然には出来過ぎており、怪しいものだ。

 

そして、同行している緑色の服を着た者達、一言で言えばなるほど、エネシーが森の蛮族と言っていたのも頷ける。今、自分の目の前でまともな格好をしてるのは2人だ。ムーラと言う竜騎士と北村と名乗った異国人、そして、奇天烈な格好をした稲荷神と名乗る者だ。竜は森に置いてきたらしい。まあ、娘を助けてくれた者達に強くは当たらない。

 

「娘を助けて下さり、ありがとうございます詳しいお話は中でしましょう。ちょうど食事の用意ができております」

 

笑顔を浮かべて一行を中に通す。彼等の格好に場違い感が高まり公爵は一層エネシーが連れてきた者達を怪しく思った。

 

食事会が始まり、エネシーのムーラ様カッコいい話を席に着くもの皆がスルーしていく。公爵自身何度も聞いており、耳にタコが出来そうだ。そもそも、竜など、本でしか見たことが無い上に人が操れるなど疑わしいと思っている。

 

そんな考え事をしていると…

 

「お父様!聞いてるのですか!?」

「ああ、何かな?」

「ムーラ様に、庭のお花畑を見せて差し上げたいのですが、席を外してよろしいでしょうか?」

「ああ…良いよ」

 

そう言ってムーラとエネシーは席を外す。

 

「さて…と」

 

此処からは大人の腹芸が始まる。公爵はそう思った。

 






〜コラム〜

稲荷神の恋

エネシーは日本国使節団の中で唯一、女性の稲荷神に恋仇を抱いてます。しかし、稲荷神は500年と16年は処女を拗らせてます。その為、稲荷世界日本では現実日本より規制が緩いので自分の薄い本を見てチベスナ顔になってます。ですが、恋には初心らしく、現在の上皇后陛下から結婚パレードの際に「気になる殿方はいるのか?」と言われて顔を真っ赤にして口をパクパクした。その時、周りの女性は黄色い声を上げた。

お気に入り登録、高評価、宜しくお願いします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。