稲荷様は平穏に暮らしたかった。   作:味八木

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内乱

 

 

―カルアミーク王国王都アルクール、ウィスーク公爵邸―

 

 

「さて…と」

 

娘を助けてくれた者達が何を理由に接近したのか探る必要がある。経験上、褒美をチラつかせるのが効果的だと考えて口にする。

 

「改めて、娘を助けて下さり感謝します。何かお礼をしたいと思うのですが、何か欲しい物はありますか?」

「物ですか?特に欲しい物は有りません」

「ほう。無欲ですな。しかし、私は王国三大諸侯の1人です。何もお礼をしないのは忍びない。ですが、見ない服ですな。何処の地区の者ですか?」

 

此処からは外交案件だと考えた北村は気を引き締めて会話を始める。

 

「改めて自己紹介させて頂きます。私は日本国外務省外交官の北村と申します。そして、此方は稲荷神様。我が国の最高統治者です。日本国は貴国からみて南西方向に位置する島国です。我が国は貴国と国交を開設する事を目的としてやって来ました。公爵閣下にはご迷惑をおかけしますが、貴国の外交窓口をご紹介して頂ければ幸いです」

 

公爵は目を見開いた。日本国等という国は聞いたことがない。それに、カルアミーク王国より南西の島国と言うことは、世界の外、つまりは不毛の輪状山脈を越えてきたと言うことだ。しかし、一体どうやってあの山脈を突破したのだろう?そもそも、一国の最高統治者がやって来るとは、王権による威圧しか能が無いほど外交下手なのだろうか?色々と疑問は尽きないが一先、話を続ける。

 

「外交窓口の紹介でしたらお安い御用です。しかし、国交を結べるかどうかは分かりません。それは、他国を排斥していると言う意味では無く、貴国がどんな国でどの様な条件を出すのかを吟味しなければなりません。また、海の外からやって来た使節団の事例が無いので虚偽ではないのか?と言った審議も必要です」

 

カルアミーク王国からすれば、日本国の事を何一つ知らないのだ。事実、地球世界の日本もアメリカの事を断片的に把握していたが、それでも完璧では無い。その結果が不平等条約なのだ。その不平等条約を押し付けられたらたまったものではない。

 

「はい。それは承知しました。参考までにどれくらいの時間を必要としますか?」

「恐らく数日は要するでしょう。そもそも、海から来た使節団と言うのは我が国始まって以来始めてです。ご存知の通り、海に出て輪状山脈を超える必要があります。また、その先にも海があると言われており、我々の世界はこの島の中で完結しているのです」

「そうでしたか。なら、公爵閣下が驚かれるのは無理も無いですね。ですが、我々と国交を結んで頂ければ、外の国々との行き来も楽になると思います」

 

そう言って北村は日本国政府が作成したパンフレットだ。日本国の基本情報や技術力の誇示のため、目に見える凄さである稲荷ツリーやビル群等の写真も見せた。公爵はその写真達に魅入られるばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、ウィスーク公爵邸で一夜を明かした日本国使節団はウィスーク公爵同伴でカルアミーク王国外交局に出向いていた。王国三大諸侯が同伴している上、初めての海の外からの来訪者だ。国王ブランデ含めた各大臣に根回しによって書類が渡された。だが、海の外からの来訪者だけあってこれまでに無いほど非常に丁寧だった。

 

「最終決定に2日から3日かかります。国王様との面談もあるので、日程については改めてご連絡します」

 

この連絡に、日本国使節団は最もだろう。と考えて、留まる事になった。その際、ウィスーク公爵の強い希望で

ウィスーク公爵家に寝泊まりする事になった。しかし、日本国使節団には、更なる動乱が待ち受けていた。

 

 

 

 

 

 

 

時は日本国使節団が、ウィスーク公爵家の娘、エネシーに出会う頃にまで遡る。

 

―カルアミーク王国霊峰ルード東約50キロ地点の遺跡―

 

その遺跡の周辺には、発掘作業員と思われる者達が住む集落が簡易的に作られていた。しかし、作業員は皆が黒いローブを着用しており、作業に適しているとは言い難い。怪しい事この上ない。そんな怪しい黒色ローブ集団の中に場違いな程の装飾を施した服を着ている者がいた。

 

「魔炎駆動式戦車が完成いたしました。マウリ様」

 

大魔道士は「マウリ」と言った。マウリと名のつくのは、カルアミーク王国三大諸侯のマウリ候爵家だ。

 

「そうか。その性能は?」

 

マウリ候爵家現当主マウリ・ハンマンは報告を行う臣下…大魔導師オルドに尋ねる。

 

「全長およそ5メートル、幅、高さ共に3メートル、車体前面に10ミリの鉄板を仕込んでいます。そのせいで時速15キロしか出せませんが、攻撃魔法の殆どを弾き返し、車輪全てを鉄製にしてるので魔装炎戦車を止めれる者はいません」

「素晴らしい」

 

マウリは笑みを浮かべて尋ねる。

 

「所で、遺跡の解析はどうなっている?」

「正直な所、技術が高すぎて殆ど解析が進んでません。ですが、僅かな資料からでも魔炎駆動式戦車の様な兵器が生まれるのです。実に素晴らしい物です。この、ラヴァーナル帝国の遺跡は」

 

ラヴァーナル帝国、それは古の魔法帝国と呼ばれる国だ。しかし、その帝国の遺跡が何故この様な僻地にあるのか?それはこの地の立地に理由がある。この輪状山脈は昔、光翼人の手によって作られたものだ。この地に人体実験の為の人族や獣人、エルフ、ドワーフを連れてきて監禁。逃げられないように海と山脈の壁を作って隔離したのだ。その後、古の魔法帝国が転移で逃げる際に監禁施設を放棄。その後、連れてこられた人々が施設の設備を使いながら村を作り、街を作り、国を作ったのが始まりだ。

 

その結果、比較的数が少なかった獣人とドワーフが手を取り合い、人族とエルフ族が独立。結果として、カルアミーク王国が人族。獣人とドワーフの国がポウシュ国、エルフ族の国がスーワイ共和国だ。

 

そんな古の魔法帝国の産物が気になるマウリは呟く。

 

「そうか。しかし、それ程の兵器である魔装炎戦車の性能を直に見てみたいぞ」

 

マウリ候爵の言葉にオルドは悪い笑みを浮かべた。

 

「そう仰ると思い、闘技場に戦車をご用意させて頂いてます。満足いく戦いが見られると思いますよ」

「ほう。それは実に楽しみだ」

 

この魔炎駆動式戦車は地球世界で言うところの火炎放射戦車であり、魔道士が魔力を注ぐことで移動と攻撃を行う事が出来る。しかし、攻撃方法は火炎弾であり、連射は出来ない。しかも、装甲貫徹能力は見込めないので装甲が施された施設や車両には威力を発揮できない。総合してこの世界の方では上澄みの性能だが、文明圏…特にムー国や神聖ミリシアル帝国と言った列強や文明圏国には微妙と言った性能である。しかし、そんな事を知らないマウリ候爵は…

 

「素晴らしい!素晴らしいぞ!よくやったぞ!オルド!」

 

魔炎駆動式戦車は彼の要求を満たした物だったらしい。高笑いしている。

 

「お褒めに預かり、恐悦至極です。現在の鉱石量だとこの戦車を20輌しか生産できません」

「この様な化け物が20輌も手に入るなら文句など無い!今すぐ生産に移り、準備が整い次第直に行動を開始せよ!」

 

マウリ候爵の言葉をオルドは否定する。

 

「実は、今見せたのは試験性能が済んだ完成品でございます。既に19輌が完成し、最後の1輌が最終調整中でございます」

「おお!でかしたぞオルドよ!よし、その最後の1輌が完成次第、イワン公領の街、ワイザーを攻め落とすぞ!あそこは魔鉱石をたんまり溜め込んでいるらしい。王国を我が手に!」

 

マウリ候爵はカルアミーク王国転覆計画を実行しようとしていた。

 

その日の内に、マウリ候爵は多数の魔獣を引き連れて王国三大諸侯の内のイワン公爵領、領都ワイザーに侵攻した。イワン公爵が不在にしている内を狙った行動であったが、ワイザーに駐屯しているイワン公領軍の精鋭部隊、鳳凰騎士団が迎撃に向かった。しかし、魔装炎戦車に騎士たちの剣や弓矢では勝てない。ワイザーは陥落し、ワイザーの住人は軍人や民間人の区別なく魔獣に食われ、生き残った一部の者が王都アルクールに駆け込み、彼等を通じてマウリ候爵の言葉が届いた。

 

『この世界を支配し、そして外の世界へと進出する。外の世界には数多の国が存在すると言う。どの様な国かは知らないが、我が精強な軍をもってすれば如何なる国、如何なる軍だろうが、敵ではない!』

 

事態を重くみたカルアミーク王国、国王ブランデは戒厳令を発令。王国は動乱を迎える。

 

 

 

 

 

 

 

 

日本国使節団はウィスーク公爵家に滞在している時、大通りで新聞売りが号外を売る。人々は買おうと押しかけ、買った者に集まり情報を得ようとする者もいた。ウィスーク公爵家の使用人や日本国使節団も新聞を手に入れ、事態を把握する。

 

「なんてこった…」

 

最悪、この二文字に尽きるだろう。国交を結びに来たつもりが内戦に巻き込まれてしまった。まだ国交も結ばれていない状態では、使節団の身の上も危ないだろう。理性的な国なら外交官は生かしておくのが普通だ。しかし、この世界は、威圧外交が当たり前だ。下手したら外交官を人質に日本国政府に従属命令を出しかねない。というか、反乱の首謀者のマウリ候爵の目的は新聞の言葉が事実なら世界征服だ。絶対に良くないことが起こる。北村は確信した。善は急げとばかりに、北村は稲荷神や本国、輪状山脈外側で待機している艦隊にも報告したのだった。 

 

ウィスーク公爵は日本国使節団に頭を下げて言う。

 

「…という訳でして、現在この国は内戦状態であり暫くの間に外交交渉が不可能になりました。加えて、王都からの出入りも不可能になりました。重ね重ね言うが、本当に申し訳ない」

「そんな…では、我々は一時帰国して事が落ち着き次第再度、外交交渉を行いたいです。せめて、王都離脱許可だけでも…」

 

北村はお願いするが、公爵は首を横に振った。

 

「スパイ防止の勅令から、許可出来ません。てすが、我が軍の主力部隊が鎮圧にかかります。1週間もあれば、鎮圧出来ると思うので、それまではこの屋敷でお待ち下さい」

「でば、庭を貸して頂ければ、空から帰国したいのですが、それは宜しいですか?」

「マウリ候爵は魔獣を使役していると言います。あなた方から教えて頂いた…ヘリコプター?等を持ってきたら、今の王都の民はマウリ候爵の手の者と思うでしょう。戒厳令下の状況でその様な事をすれば、交渉は絶望的です」

 

そこまで言われてしまっては、仕方がない。北村は、輪状山脈外で待機している艦隊の航空戦力を援軍として派遣する事も考えたが、ロウリア王国戦の時とは違い、これは内戦なのだ。一応、本国と輪状山脈外で待機してる艦隊への現状報告は行う。本来は帰国したかったのだが、公爵が鎮圧に王国軍が当たると言っていたので、一行は渋々―特に稲荷神は早く家に帰りたい―と思いながら王都で足止めを食らってしまった。

 

 

 

 

 

 

―カルアミーク王国、王都アルクール―

 

王城では、緊急御前会議が開かれていた。議題は、マウリ候爵の反乱であった。この反乱に対処するべくカルアミーク王国軍の主力を派遣した。これが4日前の出来事である。しかし、結果は惨敗であった。歩兵、騎兵、魔道士合わせて9000の兵を派遣したが、5600の兵が亡くなった。

 

逃げ帰った兵が齎した情報によると、空の覇者である火喰い鳥50騎以上が投入され、剣や弓も魔法も効かない様な鉄で出来た馬車の様な乗り物がマウリ候爵軍にあったと言う。敗残兵の言葉が正しければ、王都防衛に致命的な穴が空きかねない。国王ブランデは頭を悩ませていた。

 

「我が軍が惨敗だと…しかし、この証言は事実なのか?」

 

国王ブランデの呟きに陸軍大臣が答える。

 

「事実です。諜報員からも裏付けが取れています。奴らは空の覇者であった火喰い鳥を使役しています。火喰い鳥は時速100キロから110キロで空を飛び、火球は射程20メートルまで届きます。我々の対抗手段は弓と魔法のみですが、相手の速度が速く此方の攻撃は当たりにくいでしょう」

 

そう言って、話を続ける。

 

「また、鉄の乗り物は時速15キロで動き、火炎放射を行います。火炎放射も危険ですが、何より我々の攻撃方法は全く効かないのです。この乗り物は20輌確認されています」

 

その後、イワン公爵も話に加わり、会議は更に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

王国軍の大敗は民衆の間にも広がっていた。そこから情報収集をした北村は、稲荷神含めた使節団の人々と情報交換をしていた。

 

「反乱軍は『火喰い鳥』と呼ばれる航空戦力や、火炎放射戦車もあるそうです。これでは、中世時代の戦力しかないカルアミーク王国側は大敗するのも納得です。しかし、困った事に、反乱軍は明日にでもここ、王都を攻撃するでしょう。そうなれば、我々も危険です」

 

自衛隊の1人の言葉に北村を含めた使節団は息を呑んだ。北村は、稲荷神への指示を仰いだ。

 

「稲荷神様、どういたしましょう?」

「そうですね…とにかく帰国準備と本国に連絡して下さい。それと、輪状山脈の外で待機している艦隊に使節団保護を目的に支援を開始する様に連絡して下さい」

「分かりました!」

 

そう言って、北村は無線連絡をする。その一方で、頭お花畑のエネシーはムーラとお庭で戯れていた。稲荷神はその様子を見て…仲良さそう…としか思わなかった。

 





〜コラム〜

内戦干渉

自衛隊は稲荷神の直轄部隊なので、命令一つで内戦にも干渉出来ますが、稲荷神は内輪揉めは自分で止めて欲しいと思っている。公爵も任せて欲しいと言ったので、日本側の被害を防ぐべくお任せした次第です。稲荷神は、明と清の戦争も「多民族国家だから異民族流入は内政」的な理論で鄭成功の援軍要請拒否。シベリア出兵も国境警戒はするが、拒否しました。なので、今回も鎮圧を任せました。しかし、負けているので、使節団保護の為に自衛隊出動要請をしました。

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