稲荷様は平穏に暮らしたかった。   作:味八木

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世界の広さ

 

 

―輪状山脈から南西300キロ海域―

 

国交開設の為に派遣された外交官護衛の為に派遣された駆逐艦3隻、空母1隻は慌ただしくなっていた。何故なら、稲荷神からカルアミーク王国の内戦に巻き込まれ、使節団保護を目的に出動要請が発せられたからだ。空母甲板では、完全武装の戦闘機がぎっしりと並んで…いなかった。だが、駆逐艦に備え付けられたAI制御型無人戦闘ヘリコプターが次々と発艦準備を整えていた。司令官上田は、艦隊の乗組員に艦隊放送をする。

 

『総員傾注!現在、我々が護衛してきた国交使節団の皆様方、及び護衛の陸上自衛隊の自衛官、そして何より、我らが稲荷神様が危険に晒されている。連絡によると、カルアミーク王国所属の貴族の1人が国家転覆を狙ってクーデタを起こしたとの事だ。尚、王国側は劣勢との事だ。反乱軍は『火喰い鳥』と呼ばれる時速100キロ程度の航空戦力と、火炎放射戦車、大型魔獣1体を投入している。反乱軍は王国軍を撃破し、稲荷神様がいらっしゃる王都アルクールに迫りつつあると言う。このままでは、使節団の身の危険が高まり、外交交渉も白紙になる可能性が高い。また、クーデタ首謀者は、西側の国々を支配すると息巻いているらしい。つまりは、我が祖国日本も危機に晒されると言うことだ。自衛隊の意義は日本を守り、国民の暮らしを守る為にある。稲荷神様は出撃命令を出された。索敵機によると、あと1時間程で、王都アルクールに到着する見込みだ。その前に、制空権を確保、その後、地上戦力を掃討する。世界を知らない愚かな連中に教育してやれ!』

 

そう言うと同時に、戦闘ヘリが離陸する。ジェット戦闘機では、速すぎてパイロットの技量が高くとも、当たる銃弾も当たらないと判断したのだ。戦闘ヘリは火喰い鳥よりも速い速度で内戦状態であるカルアミーク王国王都に向かった。

 

一方、王都アルクールでも動きがあった。

 

「ムーラ様!早く避難しましょう!」

「その気持ちは有り難いが、私は使節団の皆様を守らねばならない。貴方こそ早く逃げなさい」

 

ムーラは外交官北村から護衛としてやって来ていた艦隊からの航空支援が入る事を知った。それを受けて、ムーラはやって来るまでの時間稼ぎとしてムーラに反乱軍の航空戦力を無理のない範囲での撃破を要請したのだ。それを受けて、ムーラはこれから出撃しようとしていた。

 

「しかし、相手は火喰い鳥を多数操っているとか!その様な相手に向かってはムーラ様の命が!」

 

食い下がるエネシー。しかし、ムーラの決意は揺るがなかった。

 

「確かに単騎では出来ることも限られる。しかし、私の竜騎士としてのプライドが、目の前で民間人が殺されていくのを黙ってみていられる訳にはいかないのだ!行くぞ!相棒!」

 

そう言って、ムーラは相棒のワイバーンと共に王国の空を舞った。エネシーはそれを見届けて崩れ落ちた。

 

(ムーラ様…行ってしまったわ。ムーラ様が強くても、マウリ侯爵の軍に勝てるとは思えない…けど素敵♡)

 

エネシーの妄想は留まる所を知らない。

 

 

 

 

 

「フッフッフッ…ハーハッハッハ!」

 

マウリ侯爵は高笑いしていた。それもそのはず、5日ほど前に接敵した王国軍を退け、順調に王都まで進軍したからだ。彼等の目の前には王都アルクールを囲む城壁がある。世界で一番堅牢な城壁と呼ばれた壁がそびえ立っているが、此方には12角獣や全長20メートル以上を誇る巨体を持つ超魔獣ジオビーモス、魔炎駆動式戦車20輌、火喰い鳥多数の軍団がいるのだ。負ける筈が無いと思っていた。

 

「オルドよ!」

「はっ」

「世界を征服したら、外の世界に打って出るぞ!」

「マウリ様の軍があれば外の世界の者共は皆、貴方様に平伏すことになるでしょう!」

 

2人は世界征服は簡単だと思っているが、輪状山脈の南西には第3文明圏のフィルアデス大陸だ。リーム王国等の文明国が存在する。その東に行けば、日本国を含めた第3文明圏外国だ。元々この地域に限らず全ての文明圏で、火喰い鳥より速いワイバーンやワイバーンロードを使用しているので勝ち目はない。また、第3文明圏外国や一部文明国は日本国からの輸入でレシプロ戦闘機を導入している。第3文明圏の西には、神聖ミリシアル帝国やエモール王国が存在する第一文明圏だ。神聖ミリシアル帝国は近代兵器を取り揃えているし、エモール王国はワイバーンより速い風竜騎士団が存在する。そのまま更に西にはムー国がある第二文明圏。最近暴れているグラ・バルカス帝国がある。どうやっても勝てませんね。まさしく井の中の蛙です。

 

そんな事は知らないマウリ候爵は、火喰い鳥で構成された有翼騎士団に出撃命令を下す。火喰い鳥が城門まで近づいた頃だった。

 

「ギュォォォォォォーン!」

 

何かの叫び声が響いた。空を見あげると、御伽噺の筈の竜に乗った騎士が1人と、足から青い炎を噴射している狐の獣人の姿があった。言わずもがなムーラと稲荷神だ。

 

ムーラは攻撃を仕掛ける。速度が遅い火喰い鳥は、ワイバーンの導力火炎弾を受けて火だるまになって撃墜される。稲荷神はもっと凄い。稲荷神は、視界に入った火喰い鳥を狐火で燃やしていく。数は多いが対処できない数では無い。次々と撃墜される火喰い鳥を見て、マウリ候爵は苛立ちを覚えていた。相手はたった1騎と1人。なのに倒せない事が、彼の怒りを増幅させる。

 

「今回の戦いにも勝てるだろうが…」

「はい。外の世界にあの様な航空戦力があるなら此方も相応の航空戦力を用意する必要があります。また、生身の獣人が飛行するなど私は、初めて見ました。是非とも解析して我が軍に応用したいです」

 

オルドは、飛び回る稲荷神を恍惚とした表情で見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

戦闘は数分で稲荷神優位に傾いていた。しかし、稲荷神の援護があるとは言え、ワイバーンは生物だ。ちょっとずつ疲弊していた。ワイバーンの動きが鈍くなっている。そんな時だった。

 

バッバッバッバッ

 

独特な音が王都上空に響いた。それは、日本国のAI制御型無人戦闘ヘリコプターだ。本来なら、この戦闘ヘリが火喰い鳥の相手をする予定だったのだが、稲荷神がほとんど片付けてしまったので、対地支援に切り替えた。

 

戦闘ヘリは装備された機関銃で敵を撃ち抜いていく。マウリ候爵軍も負けじと、魔炎駆動式戦車に戦闘ヘリを撃墜する様に命令する。しかし、戦闘ヘリは装備されたAIや自動回避システムと連携して回避して、攻撃を仕掛ける。鉄板が仕込まれているが、それは問題にならない。次々と銃弾が貫通し戦車が爆発する。稲荷神は狐火で燃やしていく。

 

マウリ候爵肝いりの魔炎駆動式戦車は次々と数を減らしていく。その様子を見て、ウィスーク公爵は突然現れた航空戦力をバリスタで撃墜しようとする王国兵を止める為、声を張る。

 

「やめろ!アレは味方だ!」

 

それを聞いて、王国兵はバリスタから離れる。しかし、数発は撃ち込まれてしまったが、速度が遅いバリスタ弾にAIや自動回避システムが反応出来ない筈がなく、問題無かったが、そんな事を知らないウィスーク公爵は気が気でない。援軍に攻撃してしまった事にだ。ヘリコプターは、そんな事は気にせず攻撃を続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

マウリ候爵は絶望していた。火喰い鳥は既に撃破され、新しくやって来た未知の航空戦力によって魔炎駆動式戦車がほとんど撃破されてしまった。超魔獣ジオビーモスも倒されてしまった。マウリ候爵の戦力は無いに等しい状態になってしまったのだ。火喰い鳥の変わりに空を飛ぶのは御伽噺と思われた竜と未知の航空戦力だ。

 

まだ、戦車が少しと魔獣が4割ほど残っているが、統制は取れず、戦力にはならない。後方に撤退しようにも、未知の航空戦力が絶えず攻撃を加えているので、撤退する事も出来ない。それを好機と見たカルアミーク王国軍は逆賊マウリを討つべく突撃を開始した。

 

戦闘ヘリの援護も受けながら、カルアミーク王国軍は魔獣に恐れることなく突き進み、マウリ候爵やオルドを捕らえた。これにより、カルアミーク王国の内戦は終結した。

 

 

 

 

 

 

 

 

カルミアーク王国国王ブランデは内戦終結を宣言した。これを受けて、国民は不安から解放され、お祭り騒ぎになり、王宮では、内戦介入をして王国軍を勝利に導いた日本国使節団との外交交渉が再開されていた。

 

外交交渉には、国王ブランデも参加しており、日本国の国家体制や人口・歴史・特産品・軍事力・技術力等と言った説明をパンフレットや写真を交えて受けた。カルミアーク王国としては、一番知りたいのは軍事力と技術力である。圧倒的な差を利用して不平等条約を結ばれては堪らない。それを回避すべく、度々質問をして来た。それに対して北村は懇切丁寧に答えた。立憲君主制と言うシステム、人口が1億5000万人以上いる事、歴史(日本書紀神代巻参考の稲荷神降臨以降の歴史を中心に)伝統工芸品、イージス艦と言った最新システムの兵器は理解出来ないだろうから、初歩的な軍事技術である銃、大砲、戦艦、レシプロ飛行機等、技術力は写真などで稲荷ツリーと言った摩天楼を見せた。

 

カルミアーク王国としては、国力を高めるチャンスだ。それに、外の世界との交易も行う事が出来る。カルミアーク王国としては、国交開設を拒む理由等無かった。

 

その日の夜は、使節団の歓迎会が開かれ、豪勢な食事に1外交官の北村や自衛官の面々は面食らった。それは、稲荷神に仕える近衛も同様だった。しかし、近衛は稲荷神の護衛だ。稲荷神が楽しそうに、嬉しそうにほっぺをモキュモキュさせながら舌鼓を打っているのに、食べる訳にはいかない。と心を無にして護衛に徹していた。

 

そんな歓迎会が開かれている中、ウィスーク公爵がムーラを呼びながら駆け寄ってきた。しかし、その顔には赤みをハッキリと帯びており、酒に酔っているのは明白だった。

 

「ムーラ殿!私は一人娘であるエネシーを貴殿の嫁に迎え入れたい!」

「はっ…?」

 

思わず動揺するムーラに気づかずウィスーク公爵は続ける。

 

「エネシーはそれを望んでる。君にとっても悪い話ではあるまい?」

「いえ…しかし…」

「遠慮しなくていい。エネシーは美人だろ?」

「確かに美人ではありますが…」

「よし!なら決まりだな」

 

実際、エネシーは美人だ。それは事実だが、妄想癖が激しい残念美人、いや脳味噌お花畑美人だが…

 

しかし、当事者であるムーラにとっては只事ではない。彼には妻どころか、娘もいるのだ。これ以上話を続けられては困ると、声を大にして言う。

 

「ちょっと待ってください!私は、妻もいますし、一人娘もいます!公爵閣下の申し出は名誉ではありますが、慎んで辞退させて頂きたく思います」

 

その言葉を聞いて、ウィスーク公爵は酒気を帯びている影響で赤かった顔がもとに戻るどころか、真っ青になっていく。ウィスーク公爵は素早くムーラに耳打ち出来る体勢になると、周囲に人がいないことを確認して小声でムーラに尋ねる。

 

「ム…ムーラ殿?エネシーにその話はしているのかね?」

「いえ…」

「では、その話は帰国するまで、エネシーには伏せてくれないか?」

『しかし、それでは、エネシーさんに悪いのでは…」

 

ムーラは、生真面目なのでウィースク公爵の言葉に後ろめたさを感じていた。しかし、ウィースク公爵の考えは違った。

 

「取り敢えずは、ムーラ殿が帰国するまで結婚延期と言うことにしよう」

「何故ですか?」

 

ウィースク公爵から放たれた言葉は恐ろしい物であった。

 

「良いかい?絶対にエネシーは君のことを諦めないだろう。君に妻がいる事を知ったら君の祖国まで日本国が整備した空港を利用してやって来るぞ。当面は、結婚延期と言うことにして、暫くしたら君は戦死した事にするよ。そしたら、別の男性を紹介するよ。救国の英雄の一人の幸せを奪ったのが、自分の娘なんて笑い話にすらならないからね」

 

(地雷女だったか…)

 

ムーラは渋々ながらも、ウィースク公爵の計画に賛同した。

 

 

 

 

 

 

 

 

ムーラとウィースク公爵が話をしている時、稲荷神もまた、ウィースク公爵の血縁―エネシー―と話していた。とは言っても、公にする訳にはいかない話なので、エネシーは稲荷神を連れて別室で二人きりだ。

 

「何ですか?折角美味しい料理を食べてたのに…」

 

稲荷神は、立食パーティーで美味しい料理を食べていたのに無理矢理連れてこられた事に若干不満だ。

 

そんな様子を見たエネシーは意を決した様に切り出した。

 

「ムーラ様と離れて下さい」

「は?」

「ですから、ムーラ様と離れて下さい」

「何言ってるの?」

 

稲荷神からすれば、「何言ってるんだコイツ?」たが、エネシーからすれば、「愛しのムーラ様とどうして離れる必要があるんだ!」と解釈した。見事なすれ違いである。まあ、エネシーの一方的な敵視が原因なのだが…

 

「ムーラ様の生涯の妻は、この私、エネシーです!貴方が私より強いのは、百も承知。ですが、私は負けられないのです!」

「………いや、私ムーラさんとそういうかn「ムーラさん?!貴方!ムーラ様も事に及んでムーラさん。だなんて!まさか…そこまで関係があると言うの?!」いや…あの…」

「負けませんわ!私は必ずムーラ様の妻の座を奪って差し上げますわ!」

 

一方的に話をしたエネシーは典型的な悪役令嬢の笑いをしながら、部屋から退出した。巻き込まれた稲荷神は、余りの衝撃にチベスナ狐顔になるのだが、関係の無い話である。

 

 

後日、カルミアーク王国は無事、日本国と国交を開設。その際、ポウシュ国、スーワイ共和国両国の仲介をしてもらう事になった。また、マウリ元候爵が発見、発掘した遺跡について、ラヴァーナル帝国の遺跡である事は確認がとれたが、カルミアーク王国では解析出来ない事から日本国への協力を申し入れた。これに対して、日本国側は、空港等のインフラが整い次第技術者を派遣して共同分析する事になった。また、日本側が解析をしていた技術者を調査に協力させたい。と連絡した所、カルミアーク王国はマウリ元侯爵部下の魔道士達に処刑か、協力かを突き付けた所、全員が協力を申し入れた。しかし、マウリ元侯爵や大魔道士オルド以下幹部は処刑され、マウリ侯爵家は領地と財産没収、一家断絶されて滅亡した。まあ、当然の結果である。

 

このカルミアーク王国との国交樹立が思わぬ形で日本に恩恵が齎されるのは先の話である。

 






〜コラム〜

日本書紀神代巻

稲荷神が、仕事が少なく貧乏している朝廷に依頼して慶長四年三月発行された日本の歴史書。稲荷神が広めた現代日本語で書かれた天地開闢から始まるこの歴史書だ。「稲荷大明神の活躍も載せているので、是非とも読んで感想を聞かせてほしい。」と、稲荷神はやんごとなき御方から鼻息荒く言われた。その時は、自室でゆっくり読みます。と答えた。その後、読書に勤しんだ所、捏造が見つかった。以下が捏造部分である。

戦乱の世に嘆き悲しむ日の本の民を救うために、二度と高天原に戻らぬ覚悟を幼き身に宿して、地上へと現界す。五穀豊穣の稲荷大明神はその叡智をもって枯れた大地を癒やし、青き炎で国賊を焼き尽くし、長き戦乱を終わらせる。その手で嘆き悲しむ民の涙を拭い去り、天下泰平へと至る。

誇張表現に、日本人は私の事をこう見てるのかな…と頭が痛くなり、やんごとなき御方には、「なかなか独創的な文章で読んでいて楽しかったです」と当たり障りない感想でお茶を濁した。

次回から、グラ・バルカス帝国編です。

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