稲荷様は平穏に暮らしたかった。   作:味八木

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グラ・バルカス帝国の衝撃

 

 

 

―第二文明圏圏外グラ・バルカス帝国帝都ラグナ―

 

国の転移によって、前の世界、【ユグド】で数多の植民地を持っていたグラ・バルカス帝国は本土以外の領土を失った。しかし、この世界の諸国家は前世界【ユグド】よりも技術レベルが低かった。それが分かってからは、国力、軍事力、技術力の圧倒的な差によって次々と制圧。植民地化によって物資を集めてきた。地球ではとっくに廃れた帝国主義的思想の国家である。なまじ、技術力が高いだけに、同じ帝国主義国家の旧パーパルディア皇国よりもタチが悪い。

 

その、グラ・バルカス帝国の帝都ラグナ、工場の排煙や自動車の排気ガスによるスモッグが霧のように包み込み、帝都の空は淀んでいる。稲荷神が見れば嫌悪する光景だろう。そんな公害甚だしい帝都の景色を、帝都の民は誇りに思っている。無知とは恐ろしい限りだ。

 

そんな帝都に存在する帝国軍司令部の会議室で、フォーク海峡戦の戦果報告とそれを受けての今後の対応の会議である。帝国海軍特務軍艦隊司令長官ミレケネス中将、帝都防衛隊長ジークス少将、東部方面艦隊司令長官カイザル中将の【帝国の三将】をはじめ、数多くの上級将校、帝国情報部も参加している。

 

「皆様、お忙しい所、お集まり頂きありがとう御座います」

 

司会の言葉から会議がスタートした。

 

「一月ほど前、我が国は、神聖ミリシアル帝国からの要請により、先進11カ国会議と言う蛮族共の世界会議に参加し、そこで、全世界に『従属せよ』との宣言をしました。その翌日に、帝国海軍特務軍艦隊所属の東征艦隊が世界最強等と自称する神聖ミリシアル帝国の一個艦隊を全滅させました。その2日後、世界会議に東征艦隊が開催地及び出席している各国艦隊に攻撃を仕掛けました。結果として、予想通り、各国艦隊を全滅に近しい被害を

与える事に成功しました。これにより、蛮族共は我々の強さに恐れ慄くでしょう」

 

この報告に、会議に参加している面々は笑みを浮かべる。この結果は彼らにとって予定調和だったからだ。しかし、彼等の認識は塗り替えられる。

 

「しかし、フォーク海峡戦で、思わぬ損害が生じました。航空攻撃に参加した200機のうち、約100機もの機体が未帰還になりました。また、生き残ったパイロットの話では、グレードアトラスター級戦艦【アンドロメダ】が航行不能になっていたと言うのです」

 

その言葉に、会議に参加する面々は驚きを隠せない。グレードアトラスター級戦艦は、間違いなく世界最強の戦艦だ。そんな戦艦を無力化出来る兵器がある訳が蛮族国家共にあるとは思っていなかったからだ。

 

「これを受けて、神聖ミリシアル帝国と並ぶ国家がいる可能性が高まりました。今回は、その国家に対しての対策と今後の方針を決める会議になります」

 

司会の言葉が終わると、直にカイザルが口を開いた。【帝国の三将】の中で、カイザルは【帝国の軍神】と呼ばれる程の功績をのこしており、それ故に、彼の言葉1つに軍部が注目するほどの影響力がある。そのカイザルの言葉は、特務軍艦隊司令長官ミレケネスに向けてのものだった。

 

 

「ミレケネス殿、この損害だが、総合的な被害だろう?どの国の軍隊からどれ程の被害を受けたのか分かるか?出来れば、その時の敵の戦力規模も教えてもらいたい」

 

ミレケネスは、頷き、席を立って報告する。

 

「特務軍艦隊が派遣した東征艦隊の損害は、戦艦1隻、重巡洋艦1隻、駆逐艦1隻の喪失と戦艦1隻、重巡洋艦1隻の大破、軽巡洋艦1隻の中破、戦艦1隻の未帰還、その他複数艦艇の小破です。また、マグドラ沖海戦とフォーク海峡戦の飛行機の損害は、合計して100機以上が未帰還となりました。内訳は、マグドラ沖海戦での喪失がアンタレス型艦上戦闘機2機、シリウス型艦上爆撃機2機、リゲル型雷撃機1機で、フォーク海峡戦の損失が、アンタレス艦上戦闘機30機、シリウス型艦上爆撃機40機、リゲル型雷撃機20機です。その他にアンタレス型艦上戦闘機、シリウス型艦上爆撃機機、リゲル型雷撃機が、多数撃墜されています。以上が東征艦隊の詳しい損害の内訳です」

 

そう言うと、1人の男が声を上げた。

 

「なんだねこれの結果は?」

 

そう言うのは、北部方面艦隊司令長官ヴィットーリア中将である。彼は、冷徹な軍人であるが、方面軍司令長官になるだけあって客観的な判断ができる人物である。たが、一部からはねちっこく人を見下す節がある彼を毛嫌いされている。

 

「技術で劣る彼等に何故此処までの損害を出したのですか?」

「落ち着け、ヴィットーリア。まだ、話の途中だ」

 

カイザルの忠告に従ってヴィットーリアは口を噤んだ。

 

「被害の内訳ですが、神聖ミリシアル帝国から受けた被害は、戦艦1隻、重巡洋艦1隻、駆逐艦1隻の喪失と重巡洋艦1隻の大破、軽巡洋艦1隻の中破、その他複数の艦艇の小破。そして航空機11機の喪失と2機の被撃破です。次に、ムー国による被害が、航空機3機の喪失と4機の被撃破。エモール王国による被害が戦闘機22機の喪失。アガルタ法国による被害が航空機2機の喪失。日本国による被害が、航空機50機の喪失、10機の被撃破です。以上で、報告を終了致します」

 

ミレケネスの言葉に、会議室がざわついた。

 

「どういう事だ?神聖ミリシアル帝国からの被害は予想できたが、同じ転移国家である日本国にこの被害だと?」

「日本国の対空砲火が凄まじかったのか?」

 

そんな事を呟く面々を置いて、ジークス少将がミレケネスに質問する。

 

「艦艇の被害は、マグドラ沖海戦による結果でいいのか?」

「はい。その通りです」

「では、先程の報告で『戦艦1隻の未帰還』と仰ってましたが、これはどういう事でしょうか?」

「はい。未帰還となった戦艦は、グレードアトラスター級戦艦【アンドロメダ】です。本艦は、フォーク海峡戦に1隻で任務に当たっていました。しかし、帰還したパイロットの報告によりますと、突然青い炎が船体に広がり、航行停止状態になったとの事です。これにつきましては、専門家よりご報告願います」

 

ミレケネスの言葉で立ち上がったのは、ラグナ国立大学のエミット教授だ。

 

「はい。ラグナ国立大学教授エミットです。まず、此方の写真をご覧下さい」

 

そう言って、配られた写真は、青い炎に包まれた帝国の象徴の1隻、【アンドロメダ】だった。

 

「この様に、艦全体に炎が広まっています。調査の結果、この炎は自然発火で燃え広がったとは考えにくく、何らかの兵器による物だという結論に至りました。しかし、この炎がどの国からの攻撃による物なのかは、情報部の方が調べています」

 

そう言って、着席した。ミレケネスがその後立ち上がって報告する。

 

「また、先程、未帰還と言ったグレードアトラスター級戦艦【アンドロメダ】についてですが、情報部から、カルトアルパスに【アンドロメダ】が入港した事を現地の諜報員が確認したとの情報を入手したとの事です。この事から、【アンドロメダ】は信じられない事に、鹵獲されたと思われます」

「…これは失態ですよ」

 

ヴィットーリアは、声色を低くして言う。それだけで、彼が怒っている事が窺える。

 

「尚、【アンドロメダ】が西に向かってカルトアルパスを出港した事から、ムー大陸方面に向かったと思われます。【アンドロメダ】の詳しい所在については、情報部の情報待ちです」

 

ミレケネスの話は続く。

 

「日本国の対空戦闘についても、帰還したパイロットから信じ難い証言が得られました。日本国の艦艇は、1門の小口径砲しか装備していないのにも関わらず、此方の航空機を百発百中で撃墜していたと言うのです。また、日本国は、ロケットと思われる兵器で何機もの航空機を撃墜しています」

「ロケットだと?あんな欠陥兵器に当たるなど、パイロットの技量も落ちたのか?」

 

そう言うのは、南方方面軍司令長官アウグストだ。会議に参加する面々は、日本国の実力に半信半疑だ。そんな中、カイザルが口を開いた。

 

「日本国の実力は、不明な点が多い。受けた被害が神聖ミリシアル帝国より多い以上、情報を集め、対策をする必要があるな」

「そうですね。情報部に重点的に探らせましょう」

 

「ええ。それに加えて、日本国の戦力を減らす必要があります」

 

ミレケネスが会話に入った。ミレケネスに視線が集まる中、ミレケネスは続ける。

 

「日本国の戦力を減らすために、潜水艦を活用します。この世界の者共は、魚雷を知らない可能性が高いです。そんな魚雷を主兵装とする潜水艦等、想像も出来ないでしょう」

「なるほど、しかし、日本国が知っていたらどうするのだ?」

「現時点では、何とも言えませんが…仮に知っていたとしても、どうする事も出来ないでしょう。実際、爆雷の命中率は高く有りませんし」

 

日本国について、好き勝手に言っているが、日本国は彼等が所有する潜水艦より高度な技術が使われている原子力潜水艦を保有している。また、主兵装は誘導魚雷だし、潜水艦対策も誘導魚雷を有している。しかも、魚雷を破壊する魚雷も保有している。そんな国に、第二次大戦仕様の潜水艦では、勝てる可能性があるかは、甚だ疑問だ。

 

しかし、そんな事を知らない彼等は、日本国に対する対応を考える。

 

「では、日本国には第二潜水艦隊を差し向け、情報収集と水上戦力の削減を図る。これでいいか?」

「ええ。それが宜しいでしょう」

「具体的にどうする?」

「輸送船団には、短波通信による連携による一斉攻撃、単独の場合は、味方艦に敵艦の位置を知らせた上で攻撃を行います。小型艦ならその限りでは、有りませんが…」

 

これは、狼群戦術(ウルフ・パック)と呼ばれる戦術だ。ドイツ海軍によって生み出された戦術であり、偵察機で輸送船団の位置を特定し、航路で待ち伏せて、3隻以上の潜水艦と連携して攻撃する戦術であり、地球世界のイギリス船に対して有効に働いた。この狼群戦術(ウルフ・パック)をグラ・バルカス帝国は編み出していた。前世界ユグドでは、高い技術を要求される潜水艦を所有しているのは、グラ・バルカス帝国とケイン神王国のみだった。ケイン神王国が持つ潜水艦や対潜装備は、グラ・バルカス帝国より劣っており、ケイン神王国の輸送船団や水上艦隊にも有効打を与える事が出来た。彼等は、そんな潜水艦での戦力削減を狙ったのだ。

 

「よし。その方針で行こう」

「現在、日本国より南方の無人島に小規模ですが、前線基地を建築しています。既に、フィルアデス大陸近海までは、基地を建設し終えていますので、ここが、完成すれば、日本国近海への潜水艦の展開が可能になると思います」

 

ミレケネス含めて会議に参加している面々は、知る由もない。日本国は、潜水艦が標準装備で各国が配備している世界から転移した国であり、グラ・バルカス帝国よりも技術が進んだ国であり、対潜装備もしっかりしているのだ。そんな所に幕末時代の潜水艦がやって来たらどうなるかは、言うまでもない…

 

 

 





〜コラム〜

潜水艦

日本国は、現在、原子力潜水艦を配備している。対潜装備にソナー類は勿論、誘導魚雷、敵魚雷破壊魚雷も配備されている。尚、原作では、潜水艦の描写もないが、大和型戦艦を幕末に作れるなら、伊400型も作れるだろう。と言う判断です。

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これから登場する兵器について

  • 核兵器
  • 光学兵器
  • その他(生物兵器、化学兵器、宇宙兵器等)
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