―第二文明圏列強ムー国首都オタハイト―
夜も明けて来た早朝、ムー国首都オタハイトの一角にあるムー統括軍総司令部は、蜂の巣を突いた様な騒ぎになっていた。軍人や軍属の職員がひっきりなしに出入りしている。その理由は昨夜、マイカルに入港していた日本国艦隊から一報が届いたからだ。
『戦艦1隻、軽空母1隻、巡洋艦3隻、駆逐艦多数の計25隻からなるグラ・バルカス帝国艦隊の別働隊がムー大陸東岸を北上中』
この一報のせいで、ムー統括軍総司令部は大慌てになったのだ。奴らの目標は、首都オタハイトや商業都市マイカルの可能性が高い。これら2つの都市は、どちらもムー国にとって重要な都市であり、オタハイトはムー統括軍総司令部がある。つまりは、軍の中枢だ。商業都市マイカルもムー国の経済を支えている重要都市だ。オタハイトは、マイカルより北に位置しており、マイカルが狙われる可能性が高いが、オタハイトが狙われる可能性も捨てきれない。しかし、どちらも守るべき都市である事には変わらない。
しかし、そこに更なる悲報が舞い込んできた。神聖ミリシアル帝国が主導する世界連合艦隊に派遣していたレイダー提督が送ってきた電文である。
『戦闘終了、我が方の損害19隻喪失、25隻損傷、航空機喪失82機。世界連合艦隊は戦力の半数を消失。水上戦力及び航空戦力共に壊滅した。第二文明圏連合竜騎士団700騎も全滅。艦隊はこれより撤退する。敵艦は1隻たりとも撃沈できず。尚、神聖ミリシアル帝国の損害は不明』
この電文に、ムー統括軍総司令部に激震が走った。彼等は、日本国からグラ・バルカス帝国の強さを教わっており、勝てる可能性は低いと考えていた。しかし、彼等の心の底ではこれ程の戦力なら勝てると言う油断があったのだ。世界最強と呼ばれる神聖ミリシアル帝国が参加していたのも拍車をかけていた。
しかし、蓋を空けてみれば惨敗だ。神聖ミリシアル帝国は兎も角、世界連合艦隊は手も足もでなかったのだ。成果は、戦闘機数機の撃墜であり、敵艦は1隻も撃沈する事が出来なかった。そもそも、装甲を張った艦でもグラ・バルカス帝国の爆撃や魚雷によって多数撃沈されているし、非装甲の戦列艦や竜母の中には機銃掃射だけで沈む事もあった。技術レベルに大きな差がある世界連合艦隊ではグラ・バルカス帝国に勝てなかったのだ。
世界連合艦隊が勝利出来なかったのは残念だが、今は目下の敵の対処だ。ムー統括軍は既に対応を始めていた。
オタハイト郊外の基地から索敵機が離陸しているし、内陸基地からも空軍が必要最小限の戦力を残してオタハイトとマイカルに航空機を移送している。陸軍防衛隊も戦闘準備をすると共に、市民の避難誘導を行っている。海軍も首都防衛艦隊の出撃準備をしている。
しかし、この海軍の首都防衛艦隊には1つ問題があった。それは、空母が存在しない事だ。首都防衛艦隊の内訳は戦艦2隻、装甲巡洋艦8隻であり航空機はオタハイト近くの基地から発進しなくてはならないのだ。
これは、ムー国を取り巻く情勢が理由だった。かつては、科学が魔法より劣っていた頃、他国から攻められることもしばしばあった。故に、都市防衛部隊は精鋭が割当てられていたのだが、科学技術が発達し、列強2位にのし上がると、攻め入る国はなくなってしまった。軍隊は国家予算を食う癖に生産性は何一つ無い事から、適度な軍縮が行われた。結果として、必要最小限の戦力の配備に留まっていたのだ。それが今回、裏目に出たのである。
しかも、戦艦とは聞こえは良いものの、配備されているのは、【ラ・ジフ】級戦艦だ。これは、ラ・カサミより前の旧式艦であり、回転砲塔を持たないのだ。前弩級戦艦でも厳しいのに、それより前の戦艦でグラ・バルカス帝国艦隊に勝てるとは思えない。しかし、首都防衛艦隊の乗組員は、「自分達が首都を守る!」と意気込んでいた。
◆
グラ・バルカス帝国艦隊の別働隊の報告から1日が経過していた。そして、索敵機から報告が入ってきた。
『オタハイト東にて、距離350キロ付近にグラ・バルカス帝国艦隊を発見!』
この報告を受けたムー統括軍総司令部は直ちに首都防衛艦隊の出動を決定。ラ・ジフ級戦艦2隻とラ・デルタ級装甲巡洋艦8隻からなる艦隊は、首都オタハイトを出港した。一方、オタハイトに入港していた日本国艦隊はオタハイトの最後の守りとして残ることになった。そして、その日本国艦隊に護衛される形で帰国したラ・カサミ改めラ・カサミ改はオタハイトで補給中だったのだが、出撃許可は下りなかった。
その事をラ・カサミ改の艦長ミニラルは歯痒く思っていた。彼は、日本国に滞在して訓練や日本国の技術を知る一方、グラ・バルカス帝国に関して日本国が集めた軍事情報を知る事が出来た。そこから、グラ・バルカス帝国艦隊に対抗出来るのは、ラ・カサミ改しか無いと判断していたのだ。ラ・カサミでは対抗するのは不可能。ラ・ジフ級戦艦は論外だ。
そう考えたミニラル艦長は、日本国が改造してくれたラ・カサミをここで使い潰すのは両国の関係にヒビが出かねないと判断していた無能な上層部を説得。結果、上層部が折れて、ラ・カサミ改に出撃命令が下った。
◆
出撃命令が下ったラ・カサミ改は、首都防衛艦隊を追って、東へと針路を取っていた。すると、先行していた首都防衛艦隊旗艦【ラ・ゲージ】から入電があった。
『敵航空機によって、我が方は壊滅状態!至急応援を求む!』
と言う物だった。首都オタハイトに接近していたグラ・バルカス帝国分艦隊は、空母を1隻保有している。ここから発艦した航空戦力によって首都防衛艦隊は全滅状態に陥っていた。日本国から機銃を輸入していたとは言え、旧式艦では厳しかった様だ。
そして、今まさに敵爆撃機が最後の生き残りである旗艦ラ・ゲージにトドメの爆撃を加えようとする所だった。
しかし、間一髪間に合ったラ・カサミ改は20ミリ高性能機関砲がFCS-2-23 射撃/短SAM管制装置の情報を下に圧倒的な命中率で、ラ・ゲージやラ・カサミ改に迫ったグラ・バルカス帝国航空機をあっと言う間に全機撃墜させた。
ミニラル艦長は、OPS-28C 対水上捜索レーダーの反応を頼りに18ノットで迎撃へ向かう。それに、ラ・ゲージも追従した。
ここで、ラ・カサミ改の艦長ミニラルはある一手を打つ。それは、グラ・バルカス帝国艦隊への交信だ。これは、降伏を促したり対話を求めるものでは無く精神的揺さぶりを掛けるためであった。
「こちら、ムー統括海軍所属、戦艦ラ・カサミ改艦長ミニラルだ。グラ・バルカス帝国艦隊へ、聞こえているなら応答願う」
ミニラルとしては、気休め程度であり侵略者が素直に応じてくれるのか…と思ったが、案外直に応答してくれた。
『グラ・バルカス帝国本国艦隊"イシュタム"隊、戦艦メイサ艦長オスニエルです』
"イシュタム"隊。それは、グラ・バルカス帝国本国艦隊第52地方艦隊の通称である。バルチスタ沖海戦で戦力が出払っているだろうムー本国を直接狙うべく出撃した隊だ。
現在こそ、本国艦隊所属になっているが、転移前の第52地方艦隊は謂わば占領地護衛艦隊所属であった。その任務は、グラ・バルカス帝国の植民地防衛と反乱の鎮圧にある。つまり、本国艦隊と比べると練度は低いと言う事だ。しかし、グラ・バルカス帝国は前世界で他国とは一線を画した技術と国力を有していたが為に、植民地への外敵は少ない。すると、必然的にこの艦隊の相手は反乱を起こした現地人となる訳だ。彼等は弱者を一方的に蹂躙し恐怖を植え付けるための艦隊であり、その性質から司令官から一兵卒に至るまで残虐、非道、粗暴で品性最悪なサディストから構成される。
その余りの残虐性から現地人から恐怖を込めてイシュタム隊と呼ばれている。それが、そのままこの艦隊の通称として使われている。
「繋がったか。少し用があって通信を送らせてもらった」
『戦場で敵に通信を送るとは、狂ってますねぇ。味方がどんどん殺られてるのを見て降伏する気にでもなりましたか?』
「残念だが、その逆、警告だ。我が軍は貴官らを迎え撃つ準備を整えている。このまま攻め込むなら貴様らの全滅は免れない。直ちに反転、離脱することを強く勧める」
ミニラルの言葉をオスニエルは笑い飛ばす。
『クククッ…ハッハッハッ!笑わせないでください。我々は1隻も失っていない。そちらと違って…ね。そんな戦力差も分からないのにそんな事を抜かすとは…よく艦長が務まりますねぇ…蛮族らしく、考える知能もありませんか…』
明らかな挑発。しかし、ミニラルは何処吹く風で言い返した。
「その割に、貴官らの航空機は全く歯が立たなかった様だが?報告は聞いていなかったのかね?それなら艦隊司令官に代わってくれ。貴官では話にならんのでな」
『首都攻撃艦隊の司令は、この私オスニエルだ! もう許さんぞ! 貴様らを殺し、根絶やしにして首都を焼き尽くしてくれるわ!』
ミニラルが少し煽った途端、直に激昂したオスニエル。この反応にミニラルは内心ほくそ笑んだ。指揮官たる者、冷静さを失っては勝てる戦いも勝てないのだ。今回は、精神的な揺さぶりが簡単に効いてよかった。
「首都を狙う戦略性は見事だが、我々も少しは力を付けているのだ。我々で貴官らを食い止めるだろう」
ミニラルは忠告する。しかし、オスニエルは笑うだけだった。
『フフフ…我々を食い止めようとしても無駄ですよ。何故なら、あなた方が戦っている間にマイカルは火の海ですから!』
「なんだと!」
『我々はあくまで陽動。真の狙いはマイカルですよ!残念ながら手遅れです!』
口調から見て、相手はコチラを絶望に落とそうとしているらしい。しかし、ミニラルは知っている。マイカルには日本国艦隊の本隊がいるのだ。更には、日本国最高統治者の稲荷神もいる。稲荷神の力は推し測る事は出来ないが、自衛官が束になっても勝てないらしい。魔法も扱えるらしく、その力があれば百人力だ。バルチスタ沖海戦にムーの主力が出ている以上、マイカル防衛は手薄だ。申し訳ないが、マイカル防衛は日本国艦隊に任せるしかない。
「オスニエル艦長、貴官は何か勘違いしている。我々は『全力で』とは一言も言っていない。我々はまだ戦力を残している。引っ掛かったのはそちらの様だな」
『ハハハハハ!良いでしょう!良いでしょう!そこまで言うなら予備戦力ごと貴様らを粉砕してやる!絶望しながら死ねッ!』
怒声と共に、通信は切られた。ミニラルは即座に、総司令部に『オタハイトに向かう敵艦隊は陽動!本命はマイカル!』と連絡。たとえ逃げたとしてもオタハイトが火の海になる。そうなるなら、玉砕覚悟で刺し違えるつもりだった。
ラ・カサミ改とラ・ゲージはグラ・バルカス帝国艦隊イシュタム隊へと向かう。途中、やって来た敵航空機を20ミリ高性能機関砲で全機撃墜した。
ラ・カサミ改は敵艦隊を双眼鏡で視認すると30ノットの速度に上げる。コチラの戦力がラ・カサミ改とラ・ゲージの戦艦2隻のみに対して、相手は8隻だ。これでは荷が重いと考えたミニラルは、敢えて最大射程から45口径410ミリ単装自動砲を撃つ。それは、最大射程ではある物の、FCS-2-23 射撃/短SAM管制装置の効果により駆逐艦レサトを撃沈する。
続いて、両舷のハープーンSSM4連装発射機2基から発射された艦対艦誘導ミサイルが8発、軽空母、戦艦、巡洋艦、駆逐艦合わせた7隻に発射する。戦艦に2発、それ以外は1発ずつ発射した。
艦対艦誘導ミサイルは駆逐艦ジュバ、巡洋艦フルド、戦艦メイサに命中した。前衛の駆逐艦ジュバは戦闘不能に、巡洋艦フルドはレーダーを破壊。戦艦メイサは砲塔1基と右舷高角砲が使用不能になった。それ以外の駆逐艦、巡洋艦も戦闘不能ないし、レーダーを破壊した。
その後、艦長ミニラルは80式対艦誘導魚雷の使用を決定。速やかに戦艦、巡洋艦に対して1発ずつの対艦誘導魚雷を発射した。
魚雷を発射したラ・カサミ改は45口径410ミリ単装自動砲2基や54口径127ミリ単装自動砲4基で砲戦を行う。これらの火力は長門型戦艦の41センチ砲並みの威力がある。
戦艦と言うのは、戦艦に搭載された砲の直撃に耐えられるように設計されている。つまり、金剛型戦艦は戦艦三笠に酷似したラ・カサミ級戦艦の攻撃は物ともしないが、金剛型戦艦より上位の長門型戦艦や大和型戦艦の砲撃には耐えられないのだ。そんな図式が成り立つ長門型戦艦の砲レベルの砲撃をFCS-2-23 射撃/短SAM管制装置2基の正確な誘導によって金剛型戦艦モドキであるオリオン級戦艦のバイタルパートをに命中すればどうなるだろうか?
答えは簡単、装甲を貫く
装甲を貫いた砲弾は機関室を直撃。航行不能になってしまった。しかし、前部主砲1基は使えないがそれ以外は動く事が出来る。戦艦メイサの副砲から放たれた砲弾が前部主砲と後部主砲に直撃、砲塔の損傷は大した事ではないが、人員の負傷と機器の点検で一時的に1基〜2基が使用不能になってしまった。
ラ・カサミ改と戦艦メイサが砲撃を繰り広げていると、グラ・バルカス帝国艦隊イシュタム隊の戦艦メイサや巡洋艦フルドに80式対艦誘導魚雷が命中した。
竜骨の下で爆発した80式対艦誘導魚雷3発は戦艦だろうが巡洋艦だろうが、等しく軍艦を真っ二つに軍艦を切断してしまった。
駆逐艦2隻が戦闘不能、軽空母は艦載機を全て喪失していた。イシュタム隊の残存戦力は駆逐艦3隻と軽空母1隻だ。それらも、主砲や対空機銃を破壊され最早軍艦の様子を呈していなかった。
戦艦メイサや巡洋艦フルドが沈没した直後、残ったイシュタム隊の艦を攻撃するために近隣の空軍基地から集められた爆撃機マウンが対空砲火の薄い駆逐艦や艦載機が既に無く、丸裸の軽空母に攻撃を加えた結果、イシュタム隊の首都攻撃艦隊は全滅した。
〜コラム〜
日本国艦隊について
日本国艦隊は、オタハイト最後の砦としてイシュタム隊迎撃に行かなかった理由はラ・カサミ改の性能テストと実戦練習として丁度いいと判断したから。日本国艦隊は、ラ・カサミ改が危機的状況に陥れると判断すれば即座に救援する予定だった。
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次回は稲荷神様の戦闘が来ます!
これから登場する兵器について
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核兵器
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光学兵器
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その他(生物兵器、化学兵器、宇宙兵器等)