稲荷様は平穏に暮らしたかった。   作:味八木

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ミリシアルの動揺

 

 

―第一文明圏列強神聖ミリシアル帝国帝都ルーンポリス―

 

この世で一番繁栄している都市ルーンポリス中央に皇帝ミリシアル8世が住むアルビオン城が存在する。その皇帝謁見の間に呼び出された者達がいた。

 

軍務大臣シュミールパオ

国防省長官アグラ

帝国情報局長アルネウス

情報局第6課課長ライドルカ

外務省統括官リアージュ

対魔帝対策省古代兵器分析戦術運用部長ヒルカネ

空中戦艦パル・キマイラ2号機艦長メテオス

 

ここにいた者たちの内にアルネウス、ライドルカ、リアージュは緊張していた。メテオスは冷や汗をかいていたが、それ以外の…軍務に就く者達は真っ青だ。

 

無理もない。神聖ミリシアル帝国は、自分達が主導した作戦であるグラ・バルカス帝国艦隊を撃破し、第二文明圏から追い出し本土攻撃を行う筈がその作戦の第一段階…つまりは、グラ・バルカス帝国艦隊撃破に失敗したのだ。

 

作戦に参加した第一魔導艦隊から第三魔導艦隊は壊滅的な被害を受けて帝都ルーンポリスやカルトアルパスと言った街で戦力再建を行っている。しかし、問題はそれだけでは無い。今回、神聖ミリシアル帝国がグラ・バルカス帝国艦隊撃破を目的に第一文明圏や第二文明圏を中心に呼び掛けた。その結果がこれだ。神聖ミリシアル帝国への信頼が揺らぎつつある。これは由々しき問題だった。

 

彼等の目の前には、ミリシアル8世が提出された報告書を読んでいる。時間が経つにつれエルフの男の顔が無表情になっていくのを見て軍関係者は真っ青だ。彼は、報告書を読み終えて顔を上げる。

 

「アグラよ」

「はっ!」

 

皇帝は、国防省長官アグラを指名した。アグラの顔には冷や汗が絶えない。

 

「今後の計画を申せ」

 

そのたった一言に皇帝の怒りの感情が集約されていた。

 

「はっ!」

 

今回失った人的資源や撃沈された艦艇の穴埋めや損傷艦艇の修理にリソースを割いており今後の予定はまだ決まっていない。しかし、そんな事を馬鹿正直に皇帝に話す訳にも行かない。

 

「まず、今度就役するミスリル級戦艦を第一魔導艦隊に配属し、第一魔導艦隊の再建を目指します。その間は乗組員の練度増強を行い、しばらくの間防衛に徹します…」

「…聞きたいことはそうでは無い」

 

アグラの言葉に多少不機嫌にするミリシアル8世。そのまま、シュミールパオに問う。

 

「シュミールパオ、今後の計画についての考えを聞こう」

「軍事予算を効率的に分配、敵戦力の情報の再分析を…」

「たわけっ!」

 

滅多に怒ることのないミリシアル8世には凄まじい気迫がある。これに、この場にいるもの全員が恐れた。

 

「敵戦力の再分析は確かに重要だ!しかし、戦艦の建造を穴埋めに行う。これは分かる!だが、戦艦をどれ程建造し、その期間はどのくらいか具体的な考えを述べよと言っているのだ!また、失った人員をどうやって確保するなどを具体的に余に述べよ!お前達は国の幹部だ!その幹部が国のトップである余に顔色伺いをしては国が良くない方に向かう!お前達の行動が我が帝国を滅ぼし、臣民の危機になることを良く理解しろ!」

 

一通り文句を言ったミリシアル8世は落ち着いたのか、いつも通りの口調で聞く。

 

「所で、敵戦力の分析は終わったのか?」

 

その言葉に、情報局長のアルネウス…かと思いきや、情報局第6課課長ライドルカが答えた。

 

「陛下、謹んで申し上げます。日本国からの情報提供でグラ・バルカス帝国の海軍戦力は艦艇総数700隻以上です。内訳として、戦艦約30隻、天の浮舟運用のための母艦大小合わせて40隻以上、巡洋艦大小合わせて100隻以上、駆逐艦…我々では小型艦と呼ばれる艦艇が最も多く、およそ700隻以上の内、半数を占めています」

 

そこに、外務省統括官リアージュが補足する。

 

「それですが、日本国からの追加情報で、グラ・バルカス帝国の今の建造スピードだと、半年後には1000隻に及ぶとされています」

 

この言葉に、軍務大臣シュミールパオと国防省長官アグラは驚いた。神聖ミリシアル帝国の総艦艇数は200隻を切っている。本当はもっとあったのだが、マグドラ沖海戦とフォーク海峡戦、バルチスタ沖海戦での消耗によって大幅に減ってしまったのだ。しかし、これには損傷艦艇も含まれる。それを抜いたら150隻前後しか運用可能な艦艇は無く、地方艦隊から引き抜くにしても1000隻と言うのは、驚くべき事実であった。

 

「1000隻か…それでは我が国だけでは不味いやも知れぬな。よし、日本国には情報提供を要望せよ。して続きを…」

「はっ!こちらは、陛下の采配もあり研究開発が行われています。近接信管、レーダー、潜水艦、爆雷、誘導ミサイル等です。これらは、フォーク海峡戦の際に日本国がどんな魔法を使ったのかは存じませんがグラ・バルカス帝国のグレードアトラスターを鹵獲した際に教えて頂きました。まず、近接信管ですが此方は近づいてくる物体に反応して爆発し、その破片を空中にばら撒く事で命中率の低い対空砲を広域に散布し命中率を向上させると言った代物です。これは、これから紹介するレーダーと密接に関わってきます」

 

そこで、一旦止めて続けた。

 

「この、レーダーとは天の浮舟や水上艦を探知するものです。魔力探知レーダーと違い機械でも探知可能であり、これは古の魔法帝国の魔導電磁レーダーと似たようなものです。唯一違うのは…魔力を使うか否かです」

 

この言葉に、アグラとシュミールパオは引き攣る。要求技術が高すぎて神聖ミリシアル帝国でも解析や開発できていない魔導電磁レーダーをグラ・バルカス帝国は科学で開発している。この事は彼等の誇りを一層傷つけた。しかし、ミリシアル8世は素早く反応する。

 

「ヒルカネよ、魔導電磁レーダーの解析はどうなっている?」

「はい。恥ずかしながら遅々として進んでいません。構造が複雑で解析が困難です。しかし、グレードアトラスターに搭載されたレーダーを解析する事で少しずつですがその全貌を暴きつつあります」

「そうか…日本国もレーダーを運用していたな?」

「はい。運用している旨が届いています」

 

ライドルカが答えると、ミリシアル8世は口にした。

 

「日本国に要望せよ。『貴国のレーダー原理を教授できないか?』と」

 

これに、外交官であるリアージュは奏上する。

 

「お待ち下さい陛下!我が国にも矜持があります!それに、日本国のレーダーは科学製です!如何にグレードアトラスターのレーダーを解析しているとは言え、技術体系が異なるのでは意味がないのでは?」

「いえ、よい判断だと思います」

 

リアージュの奏上に反対したのはパル・キマイラ艦長メテオスである。

 

「パル・キマイラに搭載されたレーダーでは容易に感知できましたが、魔力探知レーダーではグラ・バルカス帝国の天の浮舟や軍艦を探知しにくい。敵戦力の捕捉が遅れて、我が国の将兵の消耗が高くなるならレーダーの価値があると思います」

 

言いたいことを言ってくれたメテオスを一瞥しつつ、ミリシアル8世は念押しする。

 

「…と言うわけだ。早急に打診せよ」

「はっ!」

「ライドルカ、続きを」

「はい。次に魚雷と潜水艦についてです。此方は、陛下の采配もあって研究開発が進んでいます。特に、日本国に提供してもらった魚雷に、我が国が培ったノウハウによって改良した魔導魚雷がバルチスタ沖海戦で有効な事が証明されました。現在これらを小型艦に搭載し対艦能力を高めています。しかし、日本国によると魔導魚雷を天の浮舟に搭載し、敵艦に接近して投下する方法もあるらしく、此方は天の浮舟用の魔導魚雷を開発しています。そして、潜水艦ですがこれは水中に潜る艦らしく、輸送船や主力艦隊の奇襲攻撃、停泊中の軍艦への攻撃など、潜水艦や少数の単装砲や対空魔光砲、そして先程の魚雷を利用して『通商破壊』に使われているそうです」

 

自分達が知らない未知の兵器に驚きの余り言葉を失った一同。潜水艦対策の兵器も無い神聖ミリシアル帝国は殺られる一方だ。しかし、希望があった。

 

「して、日本国にその様な兵器があるのなら対策もあるのだな?」

「はい。『爆雷』と『ソナー』です。簡単に言うと音を聞いたりする『パッシブソナー』、音波によって探す『アクティブソナー』の2つのソナーで水中の潜水艦を探します。そして、発見した潜水艦を『爆雷』…これは水圧…つまりは水の圧力によって爆発する爆弾です。そして、その爆発によって生じた圧力で潜水艦を圧壊、撃沈する兵器です」

 

ライドルカの言葉にミリシアル8世は危機感を抱いた。しかし、それ以上の衝撃があった。

 

「そして、誘導ミサイルですがこれは敵艦や敵の天の浮舟に向けて向きを変えながら移動し必ず命中する兵器です」

 

その言葉に会議に出席している全ての者が戦慄した。それは、まるで…

 

「古の魔法帝国の…誘導魔光弾…」

 

参加者の1人が呟く。その言葉にライドルカは頷いて言う。

 

「はい。私もその可能性を疑い確認を取りました。日本国は、『恐らく同一の物と見て間違い無いと思う』との回答を貰いました」

 

誘導魔光弾…古の魔法帝国の代名詞とも恐怖の象徴の1つとも言われる兵器だ。これに対抗する兵器は無く、あるとすれば神竜のみだろう。そんな兵器を持っている事実をこの場にいた者たちは驚愕した。しかし、ミリシアル8世はフォーク海峡戦の際にその旨の報告を受けている。(まあ、信じなかった者が一定数いるが、皇帝のいる公の会議での発言=真実だが)

 

「ヒルカネよ。これらの開発や解析は進んでいるか?」

「はい。潜水艦については時間を頂ければ建造は可能です。ソナーについても、アクティブソナーはまだですがパッシブソナーについては研究段階も終わり開発するだけです。しかし、近接信管、爆雷、誘導魔光弾については進んでいません」

 

これを聞いて、ミリシアル8世は即決した。

 

「リアージュよ。日本国にアクティブソナーと爆雷、誘導魔光弾の輸入を交渉せよ。必要なら技術開示をしても構わん。潜水艦が我が国の海域に既に侵入している可能性がある。まだ、目に見える被害が出ていないだけやも知れぬがな…」

「…分かりました」

 

リアージュは納得こそしなかったが、皇帝の勅令だ。ぐっと飲み込んで承諾した。しかし、リアージュは皇帝に許可を得て1つの文書を渡した。それは、日本国からの『グラ・バルカス帝国反攻作戦案』であった。

 

「先日、日本国外務省からグラ・バルカス帝国反攻作戦に関する提案を受けました。その内容を説明致します」

 

そう言って、日本国の外交文書の写しを見ながら説明を始める。

 

「まず、現在ムー国に派遣された日本国の艦隊がグラ・バルカス帝国艦隊を排除、制海権を奪取すると共に可能であればムー国や日本国共同で制海権維持をお願いしたいとのことです。その後、日本国がムー国からヒノマワリ王国のルートで旧レイフォルへ、我が国がムー国から旧レイフォルへ、ムー国がニグラート連合のルートで旧レイフォルへの3つのルートで侵攻する計画を立てています。つきまして、何か質問や意見があれば日本大使館を通じて欲しいとの事でした」

 

書状を見ながら聞いていたミリシアル8世はアグラに問う。

 

「日本国は面白いな。グラ・バルカス帝国艦隊は任せて制海権維持と敵陸軍の共同撃破か…アグラよ。どう思う」

「はっ!私は彼の国の実力の全てを知っているわけでは無いので何とも申せませんが、グレードアトラスターを鹵獲した魔法技術は確かに凄まじいですが、彼の国の戦力で勝てるのかどうなのかが、心配です」

 

アグラは日本国の力を正確に把握していなかった。グレードアトラスターを鹵獲したとの報告を受けてはいるが沢山の敵艦が入り乱れる戦場でその魔法は使えるのかと言った知識が不足していた。それに、パーパルディア皇国を滅ぼしたとは言え所詮第三文明圏でお山の大将を気取っていたパーパルディア皇国であり、役には立てるだろうがそこまで勝利に貢献出来るか懐疑的だった。

 

「ふむ。情報局としての見解は?」

「はい。情報局としては信用出来ると思います。フォーク海峡戦では、誘導魔光弾や正確な対空射撃で多くの敵の天の浮舟を撃墜しています。そして何より、我らの知識を以ても理解不能な魔法でグレードアトラスターを無力化、鹵獲しています。我々が持っていない兵器を多数所有しており、古の魔法帝国に似た兵器を有しているのならグラ・バルカス帝国をも超える力がある…と考えています」

 

アルネウスが答えるとミリシアル8世はアグラの方を見ていった。

 

「と言う事だ。日本国は本当にグラ・バルカス帝国艦隊を撃破出来るやも知れぬぞ。そうなれば、我らにも好機となろう」

「…そうやも知れません。しかし、バルチスタ沖海戦によって海軍は多数の損害が生じており戦力の立て直しが急務です。故に、主力魔導艦隊の派遣は不可能です」

「それは知っている。しかし、世界最強たる我が国が何もせず指をくわえて見ている訳にも行かない。余は、来たるべき魔帝との戦いで役に立つのか…見極める必要がある」

 

ミリシアル8世は少し考えて言った。

 

「アグラよ。旧式艦からなる地方艦隊を派遣せよ。そして、足の速い艦を日本国監視に向かわせよ。もし日本国が失敗したら派遣した者達も大変だから問題がある地方艦隊で頼む。その監督には…地方艦隊に左遷したクリングでよかろう」

 

クリングは、元々西部方面艦隊の司令官だったが大言壮語を吐いた癖にグラ・バルカス帝国艦隊撃破を出来ず痛み分けに終わった責任を問われバルチスタ沖海戦後、即座に地方艦隊に左遷されている。

 

「リアージュよ。日本国からの輸入の件、援軍要請の前向きな検討をしている旨を伝えろ」

「はっ!」

 

これにより、神聖ミリシアル帝国はムー大陸に援軍を派遣することを決めたのである。

 

 

 

 






〜コラム〜

ミリシアルの日本国の魔法認識。

ミリシアルは、日本国を科学文明であるが一部の魔法が使えると思っている。日本も青い炎は魔法の1種であると公言している。しかし、青い炎は魔法とは異なる。だが、そんな事実を稲荷神は(若干気付き始めているが)含め日本国民全員知らない。故に、稲荷神や青い炎を調べても何一つ分からないのが実情だ。故に、未知の分野である魔法と言っても過言ではない。この事実を日本は隠している。しかし、最近はミリシアルと共同で稲荷神様の技術の一端を調べるべきでは?との議論も話題となっている。

…作者としては新たな宗教戦争になりそうで誠に心配である。

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次回はグ帝の反応です。

これから登場する兵器について

  • 核兵器
  • 光学兵器
  • その他(生物兵器、化学兵器、宇宙兵器等)
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