稲荷様は平穏に暮らしたかった。   作:味八木

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第二次バルチスタ沖海戦前夜

 

 

ー第二文明圏列強ムー国マイカルー

 

第二文明圏の経済の中心であるマイカルでは、ムー統括海軍のとは異なる洗練された軍艦が集結していた。それらは、砲塔が1基しかなく、船体はどれもが"ラ・カサミ級戦艦"より大きい。

 

これらは、どれも日本国艦隊であった。旗艦である空母"出雲"では司令室でチョコンと座っている者がいた。我らが稲荷神だ。

 

「これより、対グラ・バルカス帝国との海戦の作戦についての会議を行います。安井司令お願いします」

 

艦隊司令長官安井に"出雲"艦長山本が話を振る。安井は説明を始める。

 

「はい。ではまず、我々の動員戦力についてご説明致します」

 

そう言うと、稲荷神のお世話係が海上自衛隊幹部と共に資料を配る。配り終わった所で安井司令は話し始める。

 

「まず、ムー国に派遣していた全艦を本艦隊に集結させます。その総数は、資料に書かれている通りです」

 

そう言われて、稲荷神は資料を見る。そこに書かれていた戦力は以下の通りだ。

 

空母…"出雲""青龍""白虎"計3隻

巡洋艦…"木曽"型巡洋艦3隻

    その他6隻の計9隻

駆逐艦…"大潮"型駆逐艦5隻

    その他7隻の計12隻

輸送船…18隻

原子力潜水艦…"依10型"5隻

 

計47隻だ。

 

「そして、別班が調べた情報によりますと、現在レイフォルに戦艦10隻、正規空母軽空母含め10隻、重巡洋艦9隻、軽巡洋艦10隻、駆逐艦75隻の艦隊が待機しています。この中には、大和型戦艦が含まれている模様です。また、空母の艦載機については、零戦等のレシプロ機が主流です。ですので、余程のミスが無ければ問題無いでしょう。しかし、油断は禁物です」

 

その言葉にこの場にいる者は改めて気を引き締める。それを見て、安井司令が続ける。

 

「作戦概要を説明します。まず、明日にここマイカルを出港します。その後、巡航速度でムー大陸を南下して旧レイフォル沖に向かいます。この海域は、グラ・バルカス帝国からすれば補給線です。故に、遅かれ早かれ我が艦隊に対して、レイフォルに待機中の艦隊を差し向けてくるでしょう」

 

そう言って、第二文明圏の地図を提示した。この地図は資料にも記載されている。

 

「現在、陸上自衛隊を中心に第二文明圏の国々がムー大陸からグラ・バルカス帝国を叩き出す作戦準備をしています。しかし、グラ・バルカス帝国艦隊がレイフォル沖の制海権を握っている以上作戦の障害となります。故に、今回はその艦隊を撃破することです」

 

「まず、無人機とレーダーを活用して敵艦隊の居場所を特定します。その後、発見した情報を元に空母から発艦した戦闘機"富士"が敵航空戦力を減らし、その後空母を撃破します。それを繰り返し敵艦隊が接近してきたタイミングで"14式対艦誘導ミサイル"の飽和攻撃で駆逐艦や巡洋艦を破壊します。その後、戦艦については"木曽"型巡洋艦の主砲攻撃で撃破するのが大まかな流れです。その間、"依10型"潜水艦は無理のない範囲での敵艦隊戦力の削減をお願いします。また、敵潜水艦による攻撃があるでしょうが、グラ・バルカス帝国の潜水艦の防音はザルらしいので"大潮"型駆逐艦や"依10型"の対潜装備であれば容易に発見できると思います」

 

まだまだ安井司令は続ける。

 

「制海権を確保すると共に、グラ・バルカス帝国の海軍拠点となっているパガンダ島を占領もしくは破壊して敵の補給基地を機能不全にし、作戦開始までの時間を稼ぐのが目的です。そして、これはまだ予定段階ですが、イルネティア島を奪還するため準備を整え次第イルネティア島にも戦力を派遣する予定です」

 

この電撃的とも言える作戦に稲荷神は疑問を呈する。

 

「グラ・バルカス帝国艦隊を撃破して、海軍基地を機能不全にするのはまだ分かります。しかし、何故イネティア島を奪還するのでしょうか?」

「はい。それは主に2つの理由からです」

 

そう言って安井司令は稲荷神に説明を始めた。

 

「1つ目に、旧イルネティア王国の第1王子エイテス殿とその部下のビーリー侯爵がムー国にイルネティア島奪還を要望しており、ムー国側がこれを受理したことにあります。日本国側からもその旨の要望があったとの事で外務省と防衛省が協議しています。2つ目に、パガンダ島を占領した場合、パガンダ島を取り返すかイルネティア島を軍事拠点化する可能性があります。そうなれば、パガンダ島を占領もしくは機能不全にした意味が無くなります。以上が主な理由になります」

「分かりました。早急に結論を出して下さい」

「はっ!そして、先程説明しましたが、グラ・バルカス帝国艦隊を撃破した後、パガンダ島攻略に当たって陸上自衛隊部隊を派遣します。陸上自衛隊の部隊護衛の為にある程度の艦艇が戦線を離れます。故に、実際に戦力となるのは約17隻程です」

「…分かりました。それでいきましょう。戦力不足も考えて私もグラ・バルカス帝国艦隊撃破に貢献したいと思います」

「稲荷神様のお力があれば百人力です!感謝します!」

 

そう言って、一糸乱れぬ姿で会議室にいた全ての者が90度の礼をした。その姿に最早慣れた顔で頷く稲荷神の姿があった。

 

因みに、実際にグラ・バルカス帝国艦隊撃破に向かうのは、空母2隻、巡洋艦6隻、駆逐艦6隻、原子力潜水艦3隻の17隻だ。これを聞けば、グラ・バルカス帝国の軍人は『帝国を舐めている』と言うだろうが果たして…

 

翌日、レイフォル沖に向けて47隻からなる日本国艦隊が陸上自衛隊第三師団を乗せて出港した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー第二文明圏ムー大陸西岸ー

 

グラ・バルカス帝国海軍東部方面艦隊はレイフォル州都レイフォリアにのんびりと滞在していた。しかし、マイカルに潜入していた諜報員が、日本国艦隊が消息を絶ったと報告したのだ。その後、ムー大陸南方に通商破壊の為に展開されていた潜水艦が次々と消息を絶っていった。これを重く見たグラ・バルカス帝国海軍東部方面艦隊は情報の収集を急がせた結果、日本国艦隊がムー大陸を南下しているのが発見されたのだ。

 

敵は、空母3隻を主力とする艦隊だ。しかし、グラ・バルカス帝国将兵は楽観視する姿勢だったが、艦隊上層部はグレードアトラスターを鹵獲した日本国と言うこともあって警戒している。

 

対策の為に潜水艦による戦力削減を図ったが、何の報告もなく消息を絶っている。恐らく撃沈されたのだろう。

 

バルチスタ沖海戦の後に情報局員バミダルから渡されたグラ・バルカス帝国に関する兵器の本。そこに書かれていた日本国の兵器…対勧誘導ミサイルや対空レーザー、音速の航空機といった我々の常識の埒外にある兵器にグラ・バルカス帝国海軍東部方面艦隊司令長官カイザルは勝てないと感じていた。

 

故に、戦力の増加を本国に連絡したカイザルだったが、戦力の大幅な増援は認められなかった。

 

実は、帝王総督府副長官のオルダイカが欺瞞情報と決めつけて握り潰したのだ。だが、ムー国の秘密の海軍基地がある地方都市イスタンを灰燼にする為の戦力は必要と言う考えからある程度の戦力は必要との考えと『軍人カイザルが言うなら』…と言う理由の元、世界連合艦隊との決戦時よりかは劣るが、ある程度の戦力を東部方面艦隊に送ったのだ。

 

実際、外見から判断すれば日本国の艦隊は数が少なく設計思想が分かりにくい。グラ・バルカス帝国の常識から判断すれば艦艇数が少ない敵などこれ程の戦力で十分と判断しても仕方ないだろう。

 

グラ・バルカス帝国情報部は、カイザルの要望で必死こいて日本国に関する情報を集めた。しかし、諜報技術が余程優れているのか日本国本土での情報収集は物理的に距離があるのもあって遅々として進んでいない。かろうじて、ムー国で販売されている日本国製の軍事に関する書籍による情報なら集まっている。

 

カイザルは齎された情報を旗艦"グレードアトラスター"で読み込み、思案に耽っていた。

 

(此方の艦艇数が110隻近くに対して日本国艦隊が40隻程の艦隊なら我が帝国を舐めているだけの愚か者と判断するべきだろう。だが…)

 

彼は、一冊の雑誌を手に取った。それは、情報局員のバミダルから渡された雑誌の他複数の軍人書籍だった。技術書は規制が敷かれているのか、ムー国の書店にもそういった類の書籍は無かった。もしくは、ムー国上層部はそういった類の書籍を持っていて、徹底的に管理しているかだが、日本国の技術を数カ月で物に出来たら苦労しないのでそこにカイザルは期待はしていなかった。(弱点を発見出来れば良いとは思っていたが…)

 

兎も角、彼は書籍を開いて思案を再開する。

 

(この雑誌に書かれている内容が真実かどうかあの時は疑った物だが、複数の書籍で似たような事が書かれている以上真実なのだろう…我々の攻撃手段は艦載機による魚雷と爆撃機による急降下爆撃、駆逐艦による魚雷、戦艦の主砲弾だ。この世界の一般的な国家ならこれだけでも十分な脅威なのだが…)

 

彼は雑誌のページを睨見つけた。

 

(対艦誘導弾、対空レーザー、音速の航空機…どれをとっても帝国を上回っている。だが、上からの命令は完遂する。それが帝国軍人だ。幾らこれら兵器の能力が隔絶していたとしても、数の暴力なら通用するだろう。接近して主砲、副砲問わず撃てば或いは…)

 

彼は思考を纏めると、各艦に通信を繋いだ。

 

「全艦に告げる。私は、東部方面艦隊司令長官のカイザルだ。東部方面艦隊所属の潜水艦が新たな敵を報告してきた。敵は、日本国艦隊だ。数は我々の半分ほどだ。しかし、神聖ミリシアル帝国の空中戦艦の様な超兵器を持っている事を確認している。何か異変を感じたら直ぐに司令部に伝えてほしい。あらかじめ言っておく。敵は今までの敵より強い!だが、どんな敵も打ち破るのが帝国軍人だ!君たち一人ひとりの奮戦に期待する!」

 

そう言って、カイザルは通信を切った。各艦の乗組員は士気を大きく高めていた。あの軍神であるカイザルが『期待する』と言ったのだ。その期待に応えようと迎撃の準備を整えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

ー第三文明圏外列強日本国首都東京ー

 

外務省の一室で、防衛大臣や属する官僚と外務大臣と官僚が会議をしていた。議題は、『イルネティア島奪還』だ。

 

「私としては、イルネティア島を奪還すればグラ・バルカス帝国に対する我が国の姿勢を示す事が出来ると思いますが…」

「外務大臣、無茶言わないでください。ムー国に派遣した陸上自衛隊の部隊は既に予定が埋まっています。そこに更なる作戦をねじ込めば前線に綻びがでかねません。更なる戦力の派遣をすれば話は別ですが…」

「なにも陸上自衛隊だけを派遣する必要はないですよ。ムー国を巻き込んでしまえば良いんです。元々ムー国は旧イルネティア王国第1王子に対して戦力派遣を決定していました。ムー国の面子を保ちつつ、戦略的意義も果たせるのでは?」

 

外務大臣の言葉に防衛大臣は考え、言った。

 

「ムー国が戦力を少しでも派遣するのであれば、その分の装備の貸し出し等は必要かも知れませんが、戦闘団の編成など時間を余り掛けずに行い、現地に派遣する事も可能かもしれません。兎に角、防衛省の結論としては纏まった戦力の増加は無理ですが、ムー国が戦力を送るのならその限りではないです」

「では、ムー国大使館に連絡すると共に早急な打ち合わせをしましょう」

 

会議は早期に決まっていく。これら外国との協力には国会で通す必要もあるが、ペロリストである国会議員達は稲荷神の言葉にはイエスマンなので、稲荷神がムー国を救援すると決めた以上、間違いなく審議は通ることだろう。

 

民主主義とは一体…

 

 

 

 

 

 

 

 

ー第二文明圏列強ムー国首都オタハイトー

 

一方で、日本国側からの提案を受けたムー統括軍と外務省が協議する予定だったが、国王ラ・ムーも参加する御前会議となっていた。

 

「これより、御前会議を始めます」

 

外務省幹部の言葉で会議が始まった。最初に口を開いたのは、外務大臣だった。

 

「申し上げます。日本国側は、イルネティア島奪還について『戦力派遣は直ぐには難しい。しかし、ムー国側が戦力を派遣してくれるなら、武器の貸し出しと少数精鋭部隊の派遣を約束するとのことです。統括軍としてはどう考えますか?」

「はい。この提案は非常に有意義になると思います。イルネティア島奪還をすれば、グラ・バルカス帝国はパガンダ島を含めて旧レイフォル国への補給が困難になります。そうなれば、ムー大陸での作戦を有利に進められます」

 

統括軍のトップの言葉に外務大臣は付け加えた。

 

「外務省としても支持します。本来なら、イルネティア島奪還はイルネティア王国第1王子の支援要請で決まっていました。ただ、イルネティア王国に戦力を派遣する前にグラ・バルカス帝国に滅ぼされてしまったので今まで放置されてきました。第1王子エイテス様の支援要請を守る意味でも、『ムー国は第二文明圏の長たらんとする』姿勢を示す政治的パフォーマンスの為にもこの提案は渡りに船です」

 

その後も統括軍と外務省の賛成派と否定派の間で長い間議論されていたが、ここまで口を閉ざしてきた国王ラ・ムーが口を開いた。

 

「余は、日本国と軍事同盟を結ぶべきだと思う」

 

その言葉に、この場にいた者達は凍りついた。というのも、ラ・ムー国王は政治の一線を退いており国政に関われる立場では無いのだ。故に、その立場を無視した発言に場にいた者は固まったのだ。まあ、史実日本の様な憲法に記されている訳ではなく慣習法的な物だ。だが、国王が政治的発言をするのは極めて珍しいのだ。

 

「元々、イルネティア王国の支援要請に基づき永世中立を破棄すると決めたのは政府だ。ならば、日本国と軍事同盟を結ぼうとも問題はないのではないか?」

 

その言葉を受けて、御前会議に参加していた全ての者が頭の中で素早く算盤を叩く。そして、その有用性を誰もが認めた。仮に、軍事同盟が結ばれれば日本国が善意で送ってくれている部隊をさらに増援してくれる他、現在行われている技術供与を無償或いは減価でしてくれるかも知れない。そうなれば、ムー国の国力は更に高まる。いい事ずくめだった。

 

この提案を受け入れた外務大臣は日本国側に提案。それを稲荷神が(5分考えて)即決。軍事同盟が結ばれる運びとなった。その名も、日ム安全保障条約だ。

 

まんま、日米英独豪安全保障条約のパクリである。内容も似たような物で、日本国がムー国に駐屯する代わりに諸経費をムー国側が払うことになっている。だが、負担はちょっぴりムー国が多く支払うことになっているが、良心的だ。史実日本の思いやり予算よりマシである。この他には、型落ち装備の提供や技術指導を行う。

 

この条約をもって、日本国とムー国の連携が一層強化されることになる。バルチスタ海域に向けて日本国艦隊がマイカルから出港した2日後の事であった。

 






〜コラム〜

"大潮"型駆逐艦

対潜水艦任務を主とする駆逐艦。ソナーは勿論、水中無人機による機雷除去や潜水艦追尾、駆逐艦とは違うが無人飛行艇等対潜装備が充実している。そんな国に、喧嘩を売った潜水艦乗りの運命は…

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これから登場する兵器について

  • 核兵器
  • 光学兵器
  • その他(生物兵器、化学兵器、宇宙兵器等)
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