ー第二文明圏バルチスタ海域ー
夜も耽って、良い子は寝静まっている頃、海を割いて進む艦隊の姿があった。それは、日本の艦隊だった。
日本国海上自衛隊の対空及び水上レーダーがグラ・バルカス帝国の艦隊及び航空機を捉えていた。その距離約100km以上。そこに、"87式無人偵察機"による確認で艦隊の陣形や各艦の場所を確認できた。
日本国海上自衛隊総司令官となっている稲荷神は相手の土俵に合わせる必要は無いとばかりに、"木曽型巡洋艦"の主砲攻撃を行うべく安井司令に問う。
幾ら稲荷神が総司令官とは言え、軍学を学んでない素人だ。ならば、専門家に聞いたほうが良い。稲荷神は思いついたら即興で行う神様だが、相談できる人がいれば相談する神様なのだ。
「安井さん、"木曽型巡洋艦"の主砲攻撃をしますか?相手に合わせる必要は無いですし」
「そうですね。良いと思います。ただ、敵航空機が飛んできているので、そちらに戦力を割く必要が無いように戦闘機"富士"を発艦させて対処させましょう」
安井司令は、敵戦艦の主砲攻撃に対処するには、敵の航空機の対空の為に主砲を使用せねばならず、敵主砲弾を撃ち落とせない。だからこその航空機発艦だった。
この命令は即座に伝達され、空母"出雲"、"青龍"からステルスジェット戦闘機"富士"が発艦した。
ここで、カイザルの部下の目論見は崩れ去った。彼等の夜襲は『夜間の航空機発艦は危険が伴う』事を前提とした物だ。しかし、現代の空母には光学着艦装置が取り付けられている。また、甲板の左右に着艦誘導灯が取り付けられているので、安全な離着陸を可能にするのだ。グラ・バルカス帝国の空母にもこの着艦誘導灯はあるのだ。
しかし、それでも危険は伴う物であり、此方がアドバンテージを少しでも主導権を握る為の策だったのだ。だが、それは日本国も同じだ。先程も述べたが光学着艦装置と言う離着陸を安全に行う装置があるのだ。そして、高性能な対空、対水上レーダーがある日本国には夜間攻撃などお見通しだったが。
グラ・バルカス帝国の航空機は味方の戦闘機に任せた日本国艦隊は、"木曽型巡洋艦"の主砲をグラ・バルカス帝国の探知範囲外から放った。
"木曽型巡洋艦"は巨大な蓄電施設と発電施設兼動力の原子炉を搭載している。この"木曽型巡洋艦"の主砲は、
もし、グラ・バルカス帝国が日本国艦隊の位置を100km離れた位置から航空機等で発見していたとしても射程距離の問題から攻撃することは出来ない。しかし、日本国の
しかも、威力も凄まじい。先程も述べたが、マッハ6(秒速2000m)の速さで主砲弾が飛んでくるのだ。基本的に銃の威力は、運動エネルギーが速度の2乗に比例するとされる。
それによって生まれる威力は戦艦大和の最大装甲650mmをも貫通する威力を誇る。それ以下の装甲を持つ"オリオン級戦艦"は勿論、"ヘラクレス級戦艦"ですら貫通することを意味する。
紙装甲の駆逐艦や巡洋艦など一発で轟沈する。
そんな
『こちらフォックス01、敵攻撃隊全滅!オーバー』
「こちら出雲、了解。帰投せよ。オーバー」
『こちらフォックス01、了解。オーバー』
グラ・バルカス帝国のレシプロ機がジェット戦闘機に敵う筈もなく撃墜された。
「稲荷神様、グラ・バルカス帝国艦隊所属の戦艦及び空母に"木曽型巡洋艦"の
「分かりました。攻撃を続行してください。相手に手心を加えて自衛官に被害が出ては元も子もありません」
「はっ!」
稲荷神率いる日本国艦隊の攻撃が更に苛烈になることが決定づけられた。
◆
ーグラ・バルカス帝国海軍東部方面艦隊ー
軍神カイザル率いる東部方面艦隊は日本国の艦隊に夜戦を仕掛けるべく、攻撃隊を発艦させ艦隊も日本国艦隊に接近していた。水上レーダーは何故か使用する事は出来ず、航空機への無線連絡も出来なかった。故に、目視での視認が求められていた。
まだ日本国艦隊は見つけていなかったのだが、そんな時に驚くべき事が起こったのだ。
突如として、轟音が艦隊に鳴り響いたのだ。
「何が起こった!至急報告せよ!」
旗艦"グレードアトラスター"に乗る東部方面艦隊司令長官のカイザルは報告を求めた。艦橋にいた見張りが伝声管を通じて報告する。
『恐らく敵の攻撃です!"レオ級巡洋艦"、主砲弾薬庫付近に穴が空いたことにより、誘爆!轟沈します!』
「航空機は?!」
カイザルの部下が確認する。
『いえ、周りが暗く判別出来ません!』
「照明灯員に告ぐ!今すぐ艦隊上空をくまなく探せ!」
彼等は、日本国の航空機が"アンタレス07式戦闘機"より高高度から誘導ロケットを撃ち込んで来る事は分かっている。敵航空機は高射砲でなければ撃墜出来ない。"アンタレス"は発射された誘導ロケットの対処に当たらなくてはならない。故に、この攻撃も航空機によるものだと判断して、夜の空に潜む航空機を探そうと照明灯を駆使して上空を探す。しかし、いる訳がない。日本国の航空機は日本国艦隊上空を哨戒しているのだ。これは、彼等の常識の埒外にある兵器の1つ、
"グレードアトラスター"の主砲よりも長射程の
今も、"オリオン級戦艦"の側面装甲が貫かれている。まだ海水が入り込んでいる段階で沈没した訳では無いが、沈没も時間の問題だ。
「まだ航空機は見つからないのか!」
未だ敵航空機の発見報告が無い事に、カイザルの部下で参謀の1人が恐怖を紛らわす様に怒鳴る。彼の独り言に応えたのは、彼の上司であるカイザルだった。
「いや、これは航空攻撃では無い」
「カイザル司令?」
「航空機が誘導ロケットを持っているのだ。艦載用の対艦誘導ロケットがあっても不思議ではない。艦内に通達、日本国艦隊方面の水上の警戒を厳にせよ!」
カイザルの命令は伝声管を通じて艦内に通達される。それと同時に、他艦には手旗信号等のアナログ信号で命令を伝える。
確かに、カイザルの推測は正しい。日本の巡洋艦には対艦ミサイルもある。だが、対艦ミサイルは装甲の厚い戦艦には効果が薄い。
いや、装甲の脆弱な部分を突いたり、対艦ミサイルの飽和攻撃なら戦艦も撃沈出来るだろう。しかし、コストの面でそれは好ましくない。そこで注目されたのが
SF生まれの兵器とは言え、稲荷神のなんの気ない『
しかし、受ける側からすれば悪夢だ。日本国艦隊も航空機も未だ発見出来ていない。しかし、戦艦の装甲を一発で貫く攻撃に次々とグラ・バルカス帝国東部方面艦隊は敗れていく。
駆逐艦や巡洋艦は轟音を立てて沈没する。航空母艦も被害を受けて、艦載機の発艦機能が停止したり、当たりどころの悪い艦は爆発している。それは、戦艦も同様だった。
"オリオン級戦艦"や"ヘラクレス級戦艦"は戦艦の厚い装甲を活かせていない。装甲は貫通され、海水が流入している。ただ、幸いだったのは貫通穴が小さく海水の流入が少ない事だろう。
ダメージコントロールを施して対処するが、それは無駄な足掻きだ。
そんな
…悪夢だ。しかし、日本人の被害を出したくない稲荷神は自重せずに発射する事を決定している。
グラ・バルカス帝国東部方面艦隊は短時間でどんどん艦艇を減らしていた。
『"ヘラクレス級戦艦"沈没します!』
『"レオ級巡洋艦"沈没します!』
『"タウルス級重巡洋艦"爆発します!』
次々と報告される悲痛な叫び。それをカイザル以下司令部の人間は悲痛な面持ちで聞くもの、絶望する者、現実逃避する者、懸命に対処するものと多種多様だった。
未知の攻撃が始まって数時間、今残っているのは、"ペガサス級航空母艦"1隻
"グレードアトラスター級戦艦"1隻、"ヘラクレス級戦艦"1隻
"タウルス級重巡洋艦"2隻
"レオ級巡洋艦"1隻
"エクレウス級駆逐艦"や"キャニス・ミナー級駆逐艦"合わせて6隻
となっていた。
カイザルは日本国艦隊に接近するべく多少の被害を無視して進軍していた。しかし、元々100隻近くあった艦隊が今では12隻程度までなっている。彼は、幾ら誘導ロケットを持っていても弾切れになれば一矢報いる事が出来ると考えていた。
しかし、弾切れを期待しても攻撃は何時までたっても続く。360発もあるのだ。弾切れを期待しても無駄だろう。
だが、諦めの悪さが発揮されたのか日本国艦隊を主砲射程距離に収めたのだ。彼はすかさず、主砲攻撃を命じた。
腕の良い砲術士が空母に至近弾を浴びせ様としたが、それらは、青い炎によって勢いを殺され命中する事は無かった。(初弾なので命中する事はないが…)
旗艦"グレードアトラスター"の戦場伝説はそこまでだった。
その他の戦艦や空母、重巡洋艦、巡洋艦、駆逐艦も
グラ・バルカス帝国がこの世界に転移して陸海共に無敵だった。しかし、その無敗伝説に陸海共に終止符が打たれた瞬間だった。
◆
ー日本国艦隊旗艦"出雲"ー
稲荷神は、冷や汗をかいた。航空機の対艦誘導ミサイルと
しかし、心配だった稲荷神は、青い炎を発動させて主砲弾を燃やし、海に主砲弾は落ちていった。
「海で漂流している生存者は救助してください!」
「了解しました!」
稲荷神の慈悲でグラ・バルカス帝国海軍将兵は救助された。その中には、勲章を沢山身に着けた壮年の男が救助されたと言う。
◆
ー日本国艦隊旗艦"出雲"救護室ー
海上自衛隊の自衛官が休む部屋である救護室では、海上自衛官以外の者達がベットに伏していた。
彼等は、グラ・バルカス帝国東部方面艦隊の生き残った艦に乗っていた将兵だ。東部方面艦隊が壊滅した後、稲荷神の命で救助して一命を取り留めた者達が各艦の救護室で寝かされていたのだ。"出雲"には高官が収容されている。
そんな中、勲章を沢山身に付けていた男が目を覚ました。彼の名は、カイザル大将。グラ・バルカス帝国東部方面艦隊司令長官にして軍神と呼ばれし者だ。
「ここは…」
「目が覚めましたか?」
カイザルの困惑に応えたのは年端もない少女の声だった。声のする方を見ると、そこには男や女が後ろで控える中、狐耳と狐の尻尾を身に着け、宗教的な衣服を身に着けた少女…いや幼女?の姿があった。
「失礼、貴女は?」
「私は、日本国最高統治者の稲荷神です」
その言葉に、カイザルは驚いた。日本国は転移国家と聞いていた。しかし、この世界にいる亜人と呼ばれる存在と瓜二つなのだ。そして、思わずカイザルは呟いてしまった。
「あなたは亜人と呼ばれる存在か?」
その言葉に、稲荷神以外の者たちが憤怒の様な視線を向ける。それもその筈、この世界で亜人とは差別用語なのだ。『人種に劣るもの』と言う意味で用いられる言葉を先祖代々お世話になり、足を向けて寝るなど到底考えられない稲荷神に使われたのだ。そんな反応をしても無理はない。そんな険悪な雰囲気を感じ取ったのか、カイザルが口を開いた。
「失礼、一国の最高統治者に使う言葉では無かった。この場でこの様な格好だが謝罪する」
そう言って、カイザルは軽く頭を下げた。現在、彼は包帯や処置の跡がそこかしこに施されている。野戦病院に入院レベルの傷だ。そんな彼は、選民主義が蔓延るグラ・バルカス帝国の軍人の中では比較的道理を弁える人物であり精神論を振りかざすことも無い。つまりは、有能な人物であるが故に自分が地雷を踏んだことを瞬時に察して謝罪したのだった。
「…所で、私は貴女たちに救助され捕虜となったと言う事かな?」
カイザルは冷静に現状把握と情報収集の為に質問する。
「ええ。その通りですよ」
稲荷神が答えた。カイザルは少し申し訳無くなりながら言った。
「すまない、これから我々はどうなるのだろうか?」
「えっと…」
稲荷神が困った様子で後ろを向くと、女性が耳打ちした。それを聞いて、稲荷神はカイザルの方を見て答えた。
「えっと、この後第二文明圏ムー国に一旦輸送して、その後日本本土に収容する予定です」
「そうか…助けて頂いたこと、感謝する」
その後、稲荷神は救護室を後にした。稲荷神は廊下を歩きながら命じた。
「捕虜からの情報収集をお願いします。勿論、彼等の人権には十分に配慮してください。ただ、認められない主張にはキッパリと断って下さい」
「分かりました。現場担当者に連絡しておきます」
近衛の言葉に満足したのか、はたまたこの後の食事が楽しみなのか、稲荷神はカイザルの事などコロッと忘れるのだった。
バルーン平野の戦いで出てきたので、超電磁砲の登場を予想してる方も多かったのでは?
因みに、この小説を書き始めた頃から、超電磁砲でグレードアトラスターを沈めてやろうと思ってました。遂にここまで来ました(愉悦
〜コラム〜
87式無人偵察機
感想欄で指摘があったのでご説明。
これは、海上自衛隊で用いられる偵察機。無人で動くので衛星や水上レーダーを併用する。また、潜水艦も探知可能である。蛇足だが、陸上自衛隊はドローンを用いて偵察をしている。
尚、現在海上自衛隊が開発中である。
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