ー第二文明圏グラ・バルカス帝国領レイフォル州都レイフォリアー
元第二文明圏列強レイフォルは、グラ・バルカス帝国によって滅ぼされ、その都レイフォリアは"グレードアトラスター"の砲撃によって灰燼に帰している。そんな瓦礫の山となった都市は、グラ・バルカス帝国によって再建され、かつての景色は見る影もない。
そんな都市の一角にグラ・バルカス帝国外務省レイフォル出張所があった。ここは、現地国家との外交窓口として機能している。そんな建物で働く男がいた。彼の名は、ダラス。グラ・バルカス帝国の外交官だ。彼は現在、第二文明圏の国々に対してどの様な対処をしていくのかを検討していた。
その理由は、第二文明圏を取り巻く状況にある。現在、グラ・バルカス帝国は第二文明圏レイフォルより西を勢力圏としている。そして、第二文明圏の主要国家があるムー大陸では、ムー国、ニグラート連合、マギカライヒ共同体、パミール王国、ソナル王国が断固として戦う姿勢を示している。
しかし、第二文明圏で一番発達しているムー国ですらグラ・バルカス帝国より劣っている。故に、ダラスはあっという間にムー大陸を掌握するだろうと考えているのだ。故に、バルクルス基地が落とされたのは驚いた。しかし、たかが基地1つ、簡単に取り戻せると思っている。
そして、第二文明圏の国々が降伏する対処に追われない様に予め降伏条件の文書を作成しているのだ。
そんな時だった。突然、ダラスがいる部屋の扉が激しくノックされたのだ。同室で勤めていたシエリアが入室許可を与えた。
「至急連絡したい事があるので失礼する」
入って来たのは外務省勤務の者ではなく、軍人だった。彼の名は、ランボール。グラ・バルカス帝国陸軍将校でありムー大陸戦線を担当している。彼は、シエリアの方に近付いていく。シエリアは、来客を椅子に座らせて対応する事にした。
「ランボール殿、今日はどの様なご要件で?」
「第二文明圏は攻略完了したのですかな?」
シエリアの質問に、ダラスは冗談を交えながらランボールをからかう。しかし、ランボールにそんな冗談に付き合っている場合では無かった。
「一大事だ!ムー国に潜入していた諜報員が手に入れた情報だ!情報局に回ってきたのだが、外務省にも連絡すべきと考えて持ってきた」
シエリアは嫌な予感がしながら、ダラスはヘラヘラ笑いながら手渡された物を見る。それを見て、シエリアとダラスは凍りついた。
手渡されたのは新聞だったのだが、書かれている物が衝撃的だった。
「何だこれは?!」
「見ての通りだ。東部方面艦隊は全滅、残ったのは修理の為に戦線を離脱した一部の艦のみだ」
それは、まさしく衝撃だった。まず第一に東部方面艦隊が全滅したというのが驚きだ。東部方面艦隊は、『帝国の三将』と呼ばれるカイザル大将が指揮する艦隊だ。東部方面艦隊は、兵器の質と量共に高く、兵の練度も高い。この世界では神聖ミリシアル帝国以外無敗だと思っている。
実際、空中戦艦によってある程度の艦艇を失っているとは言え、帝国全体から見れば損害は軽微と言っても問題なかった。しかし、今回の敗北は帝国の政治的にも経済的にも大打撃だ。
政治的に見れば、グラ・バルカス帝国に敵う国は無いと思っていた現地人国家が今回の海戦で日本国の強さを知った。これに、現地人国家や植民地人は勢いづくだろう。経済的に言えば、戦艦や空母等の主力を失った他、練度の高い兵士達を多数失ったことになる。それはまだ良いほうだ。ランボールの一番の懸念は別にあった。
「東部方面艦隊が敗れては、レイフォル沖の制海権をしばらく敵に渡す事になる。そこで、本国からの入植を制海権を取り戻すまで取り止めて貰いたい」
「何だと!駄目だ!入植者の受け入れによる資本の形成は帝国の経済の大きな支えだ!これは、帝王陛下の希望であり陛下を裏切る行為だ!」
グラ・バルカス帝国にとって、植民地から齎される資源は宝の山だ。島国と言う事もあって国土がお世辞にも広くないグラ・バルカス帝国は、国力を高める為に海外へと版図を広げている。そして、勢力圏に植民地として組み入れた土地に工場や
というのも、帝王グラ・ルークスの著書が原因だった。その著書は、要約すると『国家間が戦争をするのは沢山国があるのが原因だから、グラ・バルカス帝国が全て支配すれば平和になるよね?』と言った選民思想マシマシな上に矛盾している本なのだ。それを盲信する一部の者が植民地人を劣等人種と見なして上記のような行動をとっているのだ。
無論、その著書の主張や植民地経営は必ず儲かると言うのは全くの出鱈目なのは、地球世界の欧米諸国が証明している。
閑話休題
即ち、ランボールの提案は、入植者は勿論、帝国経済に悪影響を及ぼす上に、帝王グラ・ルークスの意向に反対するものに他ならない。シエリアは兎も角、熱心な帝室信者であり帝王グラ・ルークスを神と崇めるダラスにとって、この提案は受け入れ難いものだった。
「だが、我々軍人の仕事は入植者の安全を確保する事だ!東部方面艦隊が壊滅した今、入植者の安全を確保する事は難しい!帝王陛下の臣民の安全を確保出来なければ軍に対する信頼が大きく揺らぐことになりかねない!」
「だが、入植者達によって齎される利益がどれ程本土の経済に寄与しているのか、分からないとは言わせませんぞ!」
「まあ待て、少し落ち着け。私としてはランボール殿の提案に賛成だが、皆の意見を聞いても遅くはない」
ダラスとランボールの口論をその後もシエリアがとりなす事態となり、急遽会議が開かれる流れとなった。そんな中、日本国側から会談の申し入れが入って来て荒れに荒れるのだが、それは別の話である。
◆
日本国側からの会談の申し入れを受けて、シエリアとダラスが対応する事になった。日本国外務省所属の朝田外交官は部屋でグラ・バルカス帝国外交官を待っていた。
「して、何のようですかな?降伏する為に来たのですか?」
部屋に入って開口一番ダラスが呟く。それをシエリアが目線で黙らせる。そして、要件を聞いた。
「それで、今回は何の用ですか?」
「我々、日本国はこれより潜水艦による通商破壊作戦を開始する。故に、我々は人道的立場に則り貴国に警告をする」
真面目な顔で語る朝田にダラスは笑いが込み上げてきた。
一方で、シエリアは懸念を抱いた。グレードアトラスター級戦艦"アンドロメダ"が鹵獲された際に一時期捕虜となった身だ。健康診断で業務に支障なしとして、この場で働いているが、彼女は日本国の凄さを僅かながら認識していた。シエリアは、朝田に問う。
「それを伝えるのは結構ですが、そんな事を教えて良いのですか?」
「ええ、我が国の潜水艦は貴国とは比べ物にもなりませんから。我々は、パガンダ島からイルネティア島及びレイフォルにおける海域にて通商破壊作戦を行います」
ダラスは劣等民族が上から目線に告げるのを良しとしなかったが、口を挟む前にシエリアが話す。
「そうですか。ご要件は以上ですか?」
「ええ」
「そうですか。我々は用事がありますので、これにて失礼します」
そう言って、足早に部屋から出るシエリアに慌ててついて行くダラスの姿があった。
◆
ー第二文明圏グラ・バルカス帝国帝都ラグナー
東部方面艦隊の結末はパガンダ島の海軍基地と外務省から届けられた。
これを受けて、緊急帝前会議が開かれた。どちらの文書も本国には届けられたが、外務省の日本国による通商破壊作戦と海戦の結果は、帝王府副長官オルダイカが握り潰してしまったので、届けられたのは軍から帝王に直接送られた東部方面艦隊の生き残りが届けた報告だけたった。
理由としては、帝王グラ・ルークスが皇太子時代にまで遡る。当時、グラ・バルカス帝国は侵略活動をしていた。だが、帝国と戦争をしていた北方に位置する国アースカルプは冬季での戦争であり、立地と気候を生かして抵抗してきた。そこから、帝国では冬戦争と呼ばれている。そんな冬戦争時代に皇太子だったグラ・ルークスは自ら兵を率いて、鋭い観察眼と戦術、戦略の造詣の深さから"叩き上げの傑物"と呼ばれている。そんな彼だからこそ、軍への人脈は広い。故に、オルダイカの握り潰しも効かなかったのだ。
「サンドよ。今後の軍の予定は?」
帝王グラ・ルークスが問う相手は帝国軍本部長だ。彼は顔を青くしている。
「はい。東部方面艦隊の補充には地方艦隊や特務軍からの引き抜きや新造艦で対処する予定です」
「なるほど、それで?」
「はっ…はい。暫くの間はレイフォル行きの入植者の輸送船団は待機させ、軍事物資のみの搬入を制海権を取り戻すまでする予定です」
「確かに、入植者の身の安全は第一だからな」
グラ・ルークスの言葉にホッとするサンド。サンドは続ける。
「日本国も100隻近くの東部方面艦隊を全滅させたのなら、相当の打撃を受けた筈です。なので、本国艦隊を派遣して、制海権を取り戻す予定です」
「我が艦隊を40隻近くで相手取ったのだから相当な被害を受けている筈だ。それくらいで十分だろう」
確かに、グラ・バルカス帝国と同程度の戦力であればそれでも十分だろう。しかし、日本国の兵器はグラ・バルカス帝国を遥かに上回る。一隻も撃沈どころか、軽微な損傷すら与えていない。しかし、彼等はそんな事は知らない。これも、帝王府副長官オルダイカのせいだ。彼のせいで、パガンダ島の海軍基地から送られた報告書には、『日本国の攻撃により被害甚大、東部方面艦隊の生死不明』と日本国の戦闘機と誘導ロケットしか報告できなかったのだ。
その後も会議は続いて、以下の事が決定された。
・ムー大陸への入植の一時停止
・入植者はイルネティア島及びパガンダ島へ輸送
・陸軍はバルクルス基地奪還及び戦線の維持
・制海権及び制空権の維持
・地方都市イスタンにある"アンドロメダ"への破壊工作及び作戦立案
・カイザル大将率いる東部方面艦隊については箝口令を出す。
◆
ー第一文明圏列強神聖ミリシアル帝国首都ルーンポリスー
もう一つの帝国である神聖ミリシアル帝国でも動揺が走っていた。
「日本国は約束を守ったらしいな」
アルビオン城では御前会議が行われており、ミリシアル8世が呟く。
「ええ、写真の偽造も考えましたがその様な跡は見られなかったので正真正銘本物でしょう」
「まさか、第三文明圏外の国に"グレードアトラスター"が沈められるとは…」
彼等が見ている写真は、日本国やムー国で発行されている新聞だ。それを潜入中の諜報員が手に入れたのだ。その見出しには大きく砲塔を爆発させている"グレードアトラスター"の姿があった。この写真を見ているのは、ミリシアル8世は勿論のこと、外務大臣アルノー、外務省統括官リアージュ、軍務大臣シュミールパオの他にも対魔帝対策省所属のヒルカネやメテオスもいた。
ミリシアル8世は、負けていられないと思った。日本国がグラ・バルカス帝国に対して大きな戦果を挙げた。なのに、世界の長たる神聖ミリシアル帝国が何もしないと言うのは沽券に関わるものであった。
「リアージュとアルノーよ、余の文書を日本国に必ず届けよ。軍事において認識の齟齬があってはならない。連携を密にして作戦を成功させるのだ」
「ははっ!」
ミリシアル8世は外務省関係者から軍関係者に目を向ける
「アグラよ。陸軍部隊及び地方艦隊の準備はどうだ?」
「はい。陸軍第1・2師団の準備を行います。ミリシエント大陸の各国は対グラ・バルカス帝国で連携しているので、彼等を送り込んでも国防に問題は無いと思われます。両部隊は魔導ゴーレムと自走魔導砲も配備されています。ムー大陸戦でも十分な力を発揮する事でしょう」
「では早急に準備せよ」
「はっ!」
次に、対魔帝対策省のヒルカネに問う。
「空中戦艦パル・キマイラの出撃は可能か?」
「申し訳ありません陛下、何分解析も進んでおらず整備中です。ご期待に添えられず申し訳ありません」
その言葉に皇帝は首を横に振った。
「よい。兵器は万全な状態で使う必要がある。整備はしっかりと行え、ただしなるべく早くな」
「はっ!」
現在、神聖ミリシアル帝国の求心力は低下している。先進11カ国会議によるグラ・バルカス帝国の横暴による襲撃を防げなかったどころか数多の天の浮舟を破壊された。
神聖ミリシアル帝国が主導した世界連合艦隊はバルチスタ沖海戦で敗北している。しかも、古の魔法帝国の超兵器空中戦艦パル・キマイラ2機の内1機を破壊される体たらくだ。
だが、民間には知られていないが、日本国はグラ・バルカス帝国の超弩級戦艦"グレードアトラスター級戦艦"を鹵獲している。また、ムー大陸では陸軍基地を制圧し、バルチスタ海域では"グレードアトラスター"を含む艦隊をたった40隻程で壊滅させている。
第三文明圏外の科学文明が魔法文明である神聖ミリシアル帝国よりも活躍している。世界に冠たる神聖ミリシアル帝国の沽券を取り戻すべく、魔法文明の優位性を示すべく、彼等は行動を開始する。
〜コラム〜
オルダイカについて
オルダイカが通商破壊作戦と東部方面艦隊の報告書を握り潰した理由として、
通商破壊作戦では沢山の艦艇が沈めば、新造艦の受注をするから会社が儲かって自分の懐も潤うから。
東部方面艦隊の壊滅を伝えなかったのは、艦隊の運用が消極的になるのを防ぐためである。
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