稲荷様は平穏に暮らしたかった。   作:味八木

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今回ちょっと短めです。


帝国の手詰まり

 

 

 

ー第二文明圏グラ・バルカス帝国領レイフォル州都レイフォリアー

 

ダラスは、苛立ちと動揺を隠せずにいた。その理由は、日本国が中心となって発表した陸海空自衛隊大本営発表にリモートで稲荷神が世界に向けて配信した作戦の戦果報告にある。

 

リモートにて稲荷神は戦果報告やパガンダ島及びイルネティア島に関する条約や取り決めを説明した。その内容は、魔信や無線が発展していない一部地域を除いて全世界に伝えられた。そして、それはムー大陸も同様である。

 

ダラスは、レイフォリアからムー国で放映されているニュースを見て驚愕した。少し前、日本国外交官と共に来た獣人が画面の中で戦果報告をしていたのだが、その内容は驚くべき事であった。パガンダ島とイルネティア島を失陥し、自分は敵の中で孤立したと言う事だ。

 

彼含め、殆どのグラ・バルカス帝国人は自分達の軍隊が世界最強であると疑っていない。それは、前世界も今世界が今まで証明していた。しかし、今回の報道はその証明を不確かにするには大き過ぎた。グラ・バルカス帝国東部方面艦隊が敗れ、パガンダ島、イルネティア島が立て続けに失陥した事は彼の自信を失わせるには十分なインパクトだった。

 

彼は、敵の欺瞞工作と言う一途の望みに掛けて統合基地ラルス・フィルマイナに問い合わせてみた。そこで得られた情報は以下の通りだった。

 

『パガンダ島及びイルネティア島を失陥したのは事実である。また、レイフォルに駐留していた艦隊も壊滅的であり、両島の奪還は不可能である』

 

そして、輸送機のピストン移動で補給すれば良いと思ったダラスだが、パガンダ島とイルネティア島を失った事で航続距離が足らず不可能との回答を貰った。彼は、あらん限りの暴言と思いつく限りの罵倒を電話越しで怒鳴り散らかした。

 

こういう人型モンスターの対応する人は大変ですよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

ー第二文明圏外グラ・バルカス帝国帝都ラグナー

 

帝都ラグナの中心地近くに建てられた軍本部では職員や将校、果ては将軍クラスまでもが慌ただしく動いていた。理由は言うまでもなく、日本国の大本営発表である。

 

日本国の大本営発表がムー国の放送局や神聖ミリシアル帝国が運営する世界のニュースを通じて国内外に報じられた。グラ・バルカス帝国もそれらを傍受しており、今回の被害を確認した。

 

イルネティア島への援軍を派遣してもう安心だと思ったらその艦隊(中央第2艦隊)は消息を絶ち、戦局を把握出来ず更なる援軍を派遣するかを議論していた矢先の出来事だった。イルネティア島守備隊は玉砕或いは降伏して通信途絶、イルネティア島やムー大陸周辺の艦隊に連絡を取ろうにも応答が無い。ムー大陸はグラ・バルカス帝国勢力圏から孤立している。

 

これはつまり、ムー大陸に入植した入植者達や軍人が多数取り残されてしまった事を意味する。

 

それに、グラ・バルカス帝国の情報不足も今回の敗因の1つだろう。前世界ユグドで世界を二分して争ったのはケイン神王国だ。今世界では神聖ミリシアル帝国が一番の難関と考えられて来た。しかし、神聖ミリシアル帝国の情報を集めた結果、魚雷やそれに伴う潜水艦、航空機の性能差による戦術の違いから苦戦はするかもだが、負けることはないと考えられてきた。

 

しかし、神聖ミリシアル帝国は第一次バルチスタ沖海戦で雷跡が無い魚雷や空中戦艦等という物もあるのが分かってきた。それらも、帝国の秘密兵器"グティマウン"で対処できると思われた。

 

だが、気にも留めていなかった日本国によってグラ・バルカス帝国は危機的状況に陥っている。グラ・バルカス帝国海軍東部方面艦隊を全滅させ、ムー大陸西の制海権を奪われ、植民地を失陥し、ムー大陸植民地も危機に陥っている。それでいて、確認できる限り日本の被害はゼロに等しいと言う事実が、今まで戦った敵とは全く違うことを証明している。

 

今回失陥した植民地は、本国とムー大陸との中継地として機能していた。しかし、それが失陥したとなれば、船舶や航空機が本国からムー大陸まで行くことが出来ない。その逆もまた然りだ。このままムー大陸まで失陥したとなればグラ・バルカス帝国の国際的な畏怖が無くなるのは自明だろう。そんな、政治的な問題以上に経済問題が重くのしかかる。

 

グラ・バルカス帝国は島国である。故に、資源が豊富とは言えず、採掘量にも限度がある。帝国主義が一般的なグラ・バルカス帝国は海外に植民地を形成し、資源を本国に回して経済を潤しているのだが、現状、ムー大陸からの資本が途切れている。これが更にムー大陸そのものを失陥したとなれば今までの開発費用を全てドブに捨てる事になる。

 

そんな事になれば、植民地開発に投資した国民や銀行は破産。最悪の場合、デフレスパイラルに陥りかねない。

 

これらの報告を聞いて事態を非常に重く見た帝王グラ・ルークスは、「パガンダ島及びイルネティア両島の奪還及び敵戦力を撃滅せよ」との勅を発した。これを受けて、グラ・バルカス帝国軍本部は陸海空軍が一丸となって帝王の望みを叶えるべく努力を始めた。

 

陸軍では、部隊動員準備を始めるとともに機械化を推し進め始めたり本来なら、完全機械化師団である第4師団がムー大陸戦線を担当する予定だったが、部隊は壊滅している。ムー大陸は広大であり機甲師団による素早い浸透が必要だと考えられる。そのため、急ピッチで機甲戦力の開発生産を始めたのである。また、現在開発段階にある"2号戦車ワイルダーⅠ"の開発を推し進め始めた。

 

この"2号戦車ワイルダーⅠ"は幕末頃に自衛隊で開発された"九五式重戦車ロ号"に酷似している。

 

因みに、九五式重戦車ロ号の性能は以下の通りだ。

 

全長…6.47m

全幅…2.70m

全高…2.90m

重量…26.0t

速度…時速22km

行動距離…110km

主砲…18.4口径70mm

副武装…口径37mm戦車砲

    6.5 mm重機関銃

    7.7mm車載重機関銃

装甲…12〜35 mm

 

ムー国や神聖ミリシアル帝国相手には善戦できるだろうが、日本の戦車に敵うかは押して然るべきだ。

 

海軍では、残ったの西部、北部、南部の方面艦隊からどの艦を引き抜いて主力艦隊を編成し、ムー大陸に派遣するかを検討を始めた。しかし、潜水艦は検討から外された。何故かと言うと、潜水艦が減りに減っており新規建造をしなければ到底戦力にならないのだ。

 

空軍では、陸軍と海軍の援護だが確実にすべきことは"アンタレス07式戦闘機"をも上回る機体の開発或いは"アンタレス"の改良型の開発である。というのも、複数の交戦記録から"アンタレス"が日本国には敵わないことを把握したからだ。

 

だが、日本の航空機が音速を超えることを把握出来ていないあたり、汚職官僚と言うのはトコトン国の癌であることが分かるいい例だろう。

 

ムー大陸が孤立している事実は政府上層部のみに秘匿され、世間的に箝口令が敷かれることになった。グラ・バルカス帝国臣民は自国の現状に気付かぬまま普段通りの生活を行っている。しかし、一部の知識人や情報通な者は、ムー大陸への航路便がいつまで経っても一時停止が解除されない事や、戦意高揚を目的とした広告や軍への入隊を促す広告などが増加した事に違和感を感じていた。しかし、誰もそれを公に口にすることはない。 

 

何故なら、憲兵隊にしょっ引かれるからだ。憲兵隊の摘発を恐れていないのはスノッラ出版くらいな物だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

ー第二文明圏グラ・バルカス帝国領レイフォル州都レイフォリアー

 

統合基地ラルス・フィルマイナ司令部にて、軍港司令官や参謀を始めとする将軍や大佐クラスの者達が頭を抱えていた。理由は、先日本国から届いた帝王グラ・ルークスの勅命であった。

 

『陸海空軍が共同してパガンダ及びイルネティア両島を奪還及び敵戦力を撃滅せよ』との文書と軍本部からの指示が送られてきた。

 

帝王の勅命である以上全力を尽くすのが帝国軍人だが、現状それは無謀であると言わざるを得ない。レイフォルにある海軍戦力ではパガンダ島やイルネティア島の奪還どころか上陸まで怪しいだろう。

 

何故なら、少し前まで駐留していたレイフォル防衛艦隊や地方艦隊は今や見る影もなく、10隻前後の駆逐艦、僅かな軽巡洋艦があるのみである。戦艦、航空母艦、重巡洋艦と言った大型艦は全て潜水艦やロケット攻撃によって沈没している。

 

港を見れば、作業員が着底した艦艇の一部を覗かせている艦艇の処理をしている。

 

まず軍港を使える状態にし、残存艦艇である軽巡洋艦や駆逐艦を動かした所で、日本国の軍艦に見つかってしまえば、末路は同じだ。これは航空機に見つかっても同様だと言える。

 

日本国の情報を集めようにも報告を寄越す前に消息不明の艦が多いので、それも進んでいない。航空機に援護を頼もうにも、航空基地は空襲で被害を被っており、滑走路や設備が破壊されている。

 

修復して、使用可能な状態にすれば航空支援出来るだろう。だが、パイロットが少なくなっている。この状況で強行しても良いが、熟練パイロットが少ない中では十分なパフォーマンスを発揮するのは不可能だ。

 

そして、司令部に勤める者達に更なるストレスを与えてくるのは、他でもない帝国臣民であった。

 

彼ら彼女らは、統合基地ラルス・フィルマイナに属する飛行場や工場といった設備が空襲に遭い、機能を停止した事を知り、自分達が危機的な状況にいるのではと思っていた。そこで、助かりたい一心でデモを始めたのだ。

 

そのデモは日に日に高まっており、暴動に発展しても可笑しくないレベルまで来た事もある。更には、ムー国が放送した戦果報告でムー大陸に居る自分達が本国から切り離されてしまった事を知った者達が大挙して軍港や基地前に乗り込んで来たのだ。

 

彼ら彼女らからすれば、寝耳に水な話だ。政府が植民地の安全は保証されていると主張するので、それを鵜呑みにして、あるいは政府を信じて入植した。しかし、レイフォルやパガンダを失い敵中に孤立した事を隠す軍への不信とそれを嬉々として伝える異世界軍が此処に攻め込んでくる。その恐怖に怯えていた。

 

その時だった。

 

レイフォルの支配の象徴だった征討府が突然爆発したのだ。レイフォリア全域からでも見れる建物の爆発に、デモ隊は固まってしまった。

 

だが、彼らは直に逃げるべきだった。行政府や軍関係施設が密集していたが為に、爆発で生じた大小様々な瓦礫が四方八方に飛び散ったのだ。デモ隊の所にも少なくない数の瓦礫が飛び散る。

 

思わぬ危険に各々がプラカードなどで瓦礫を防ぐ。デモ隊は瓦礫の飛散が収まった所で堪らないとばかりに帰っていった。

 

この爆発は勿論日本国によるミサイル攻撃である。現在、ムー大陸を中心に戦況報道を意図的にレイフォル側に放送されるようにしている。これは、グラ・バルカス帝国臣民に厭戦感情を植え付けるための情報戦であった。そして、別班の諜報員から一部の住民がデモをしている事を知った日本国は、更なる厭戦感情の増幅を狙い、デモ隊の目の前で目立つ建物を破壊したのだ。

 

他にも、潜水艦による魚雷や"87式潜水艦発射型誘導弾"を残存艦艇に向けて発射した。

 

それらは、誘導されて狂いもなく着弾した。魚雷や"87式潜水艦発射型誘導弾"による機関部などの損傷の結果、残存艦艇は悉くが大破着底した。

 

これにより、グラ・バルカス帝国領レイフォルの残存艦艇は全て損失してしまった。

 

レイフォルに着任していた司令部の軍人は、今できることを精一杯する為に奔走することになる。

 






〜コラム〜

ワイルダー重戦車

日本の自衛隊の重戦車である九五式重戦車ロ号に酷似した戦車。まだ、開発段階であり実戦投入はまだ先である。現状、ムー大陸までの航路が使え無い以上、使えるのはパガンダ島及びイルネティア島の奪還作戦か本土決戦だろう。

お気に入り登録、高評価宜しくお願いします!次回は舞台を変えてお送りします。(グラ・バルカス帝国絡みなのでご心配なく)

グラ・バルカス帝国の今後

  • 日本国本土近海に軍を派遣する。
  • レイフォル沖制海権を取り戻す
  • その他(経緯をメッセージボックスにて)
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