ーロデニウス大陸南方海域ー
グラ・バルカス帝国特務軍第1艦隊は混乱に包まれていた。理由は先ほど発光信号で送られた『第2艦隊全滅』の報告である。
疑問に思うミレケネスだったが、帝国の三将に数えられるだけの事はある。狼狽えずに冷静に直掩機を増やして警戒するように指示する。
兵士が慌ただしく動く中、レーダー技師であるマゼランはレーダーが人為的に使えなくされている可能性に至り周波数を変え、最大出力で再起動しようとしていた。
スイッチを押すとそこには、レーダー技師にとって見慣れたレーダーの画面が現れた。画面に反応はあるものの、マゼランはそれが航空機なのかノイズなのか判断はつかなかった。
日本国のナハナート王国近海の上空から放たれたのは"14式地対艦誘導弾能力向上型"だ。本来なら通常の"95式空対艦誘導ミサイル"で十分なのだが、レーダーの電波妨害が一時的に途絶えたのを理由に安全を取って"14式地対艦誘導弾能力向上型"の使用に踏み切ったのだ。
"14式地対艦誘導弾能力向上型"は長射程ミサイル(スタンド・オフ・ミサイル)でありその射程はおよそ1000km。
この距離はグラ・バルカス帝国のレーダーの射程外である。グラ・バルカス帝国のレーダー射程はおよそ300kmであり完全に視覚外からの攻撃である。レーダー技師マゼランが発見したのはこのミサイルなのだが、この時ミサイルは超低空飛行をしていたので、飛行機を想定しているグラ・バルカス帝国のレーダーでは海面反射のノイズと判断されてもおかしくないのだ。超低空を飛行しているのも間違いを助長しているだろう。
ともかく、そんな視覚外の攻撃も肉眼で捉えられる距離にまで接近されれば発見されるのは自明である。グラ・バルカス帝国特務軍第1艦隊の苦難が始まる。
◆
異変に気づいたのは特務軍第1艦隊から見て東方を警戒していたエアウルフ隊だった。
超高速で飛行する8本程のロケット弾が海面スレスレを飛行していた。対して、エアウルフ隊の数は15機だ。
"アンタレス07式艦上戦闘機"の速度を遥かに超えるスピードで特務軍第1艦隊に向かって行くロケット弾にエアウルフ隊は急降下をする。スピードはそのままに搭載された機関砲が発射される。機関砲から放たれた弾丸は真っ直ぐにロケット弾に向かって行く。
しかし、音速を超えるミサイル兵器に当たるはずもない。15機の"アンタレス"から放たれた弾丸は虚しく宙を切り、海面に大量の水飛沫を出すだけとなった。
そして、それは特務軍第1艦隊も見ていた。航空機の機銃掃射に期待する一同、しかし、それを裏切るようにやって来るロケット弾の群れ。
勿論、タダでやられる訳もなく各艦の対空砲火が雨霰の様に水平に放たれる。しかし、それらは当たらずロケット弾は上昇する。
対空砲火もそれに合わせて上昇するが全く当たらない。
"14式地対艦誘導弾能力向上型"は軽巡洋艦"ベルナンテ"に向きを変えた。"ベルナンテ"は対空砲火を浴びせるが、近接信管の作動が遅くロケット弾を止める障害になっていない。
"ベルナンテ"はミサイル攻撃を受けて炎上している。しかも、急速に傾いており沈没するのは誰の目にも明らかだった。
その他にも駆逐艦や重巡洋艦、空母や戦艦にもロケット弾は命中する。重巡洋艦や戦艦は持ち前の装甲で耐え忍ぶが、重巡洋艦ほどかそれ以下の装甲を持つ空母も飛行甲板は無防備だ。飛行甲板に命中したロケット弾は爆発炎上し、とてもではないが飛行甲板を使える状態では無い。
当たりどころが悪い艦は空母だろうが、重巡洋艦だろうが大破した艦もある。それ以下の装甲しかない軽巡洋艦、駆逐艦はお察しだ。
参謀のデルンシャは日本国が魔法によってロケット弾を誘導している可能性に至った。魔法と言うのは未開拓の分野である。研究は進められているが、『魔力』という未知の物質への理解が乏しいのでそれらしい成果は無い。
艦橋には悲痛な報告が響いていた。次々と寄せられる駆逐艦や軽巡洋艦の轟沈の報告。それは一目見て皆が納得するほどの有様だった。
その元凶であるロケット弾に対処するためにある限りの高射砲や機銃を掃射する。前世界ユグドのケイン神王国の航空機を、この世界の竜を、神聖ミリシアル帝国の航空機すら撃墜してのけたグラ・バルカス帝国の対空砲火が日本国相手には嫌になるほど当たらない。
ロケット弾が爆発した艦艇の末路は撃沈か中破ないしは大破だ。これを見ていたミレケネスは自身の、ひいては特務軍艦隊の敗北を悟った。
ミレケネスは思案する。このまま戦っても負ける未来しか見えない。しかし、撤退すればボロ負けした責任を取ることになるだろう。彼女自身、情報収集を怠った結果がこれなので、責任を取ること自体に迷いはない。しかし、降伏する事は憚られた。そもそも、降伏の方法が分からないのだ。だからと言って何もしない訳にはいかない。
ミレケネスは艦内放送で、ある伝達をした。
『総員退艦せよ。繰り返す。総員退艦せよ』
この報告を受けたグレードアトラスター級戦艦"スピカ"の生き残った乗組員は次々と海に飛び込んでいく。手旗信号や発光信号で他艦にも知らせると、続々と海に飛び込んでいく。
しかし、彼らが退艦する前に発射された"14式地対艦誘導弾能力向上型"は容赦なく振り注ぐ。ミレケネスは責任を取ってグレードアトラスター級戦艦"スピカ"に艦長やその他司令部の人間と残ったが、命中した"14式地対艦誘導弾能力向上型"によって艦橋から放り出された。
数十mの高さから落下したミレケネスは着水時に背中から着水。脊髄破裂や臓器破裂といった損傷を受け、泳ぐことも出来ず、溺死した。
生き残った駆逐艦は懸命な救助活動を行った。結果として、生き残った艦艇は駆逐艦10隻のみだった。だが、退艦した艦に人は残っていないが、艦艇自体はのこっている。
救助活動をしていた駆逐艦10隻は無人の艦艇を置いて帰還を開始する。
◆
ーロデニウス大陸南方海域ー
日本国海上自衛隊はグラ・バルカス帝国の駆逐艦10隻が救助活動を開始した時点で"14式地対艦誘導弾能力向上型"の発射を停止した。
そこを遠巻きに見ていた第三文明圏外の国々の海軍や海賊、冒険者などが操るワイバーンが火を吹いたのだ。日本国からすれば、本来は、人道的な立場から止めるべきなのだろうが、日本本土を攻撃しようとした連中に情を掛ける必要もない。
故に、これらの攻撃は黙認され海軍や海賊、冒険者のワイバーンが無人となったグラ・バルカス帝国の軍艦に攻撃を開始する。
真っ先に、攻撃を始めたのはワイバーンだった。多数のワイバーンから発射される導力火炎弾が無人の軍艦目掛けて向かって行く。
止まっている軍艦なら、速度の遅い導力火炎弾でも命中する。艦上は炎上し、赤い光が揺らいでいる。本来なら対空砲火が上がるのだが、無人の軍艦にそんな事が出来る筈もなく第二文明圏連合竜騎士団を壊滅させた対空砲火は1つも上がらない。
第三文明圏外のワイバーンは安全にまるでゲームの様に軍艦に命中させている。一発でも攻撃を当てれば神聖ミリシアル皇帝からの褒賞は約束されている。攻撃を当てたワイバーンは帰還する。ワイバーンの攻撃が終わると第三文明圏外の海軍や海賊、冒険者は集団で無人の軍艦を沈めるべく接近する。
彼らの武器は第三文明圏元列強パーパルディア皇国の降伏によって流失した魔導砲やパールネウス王国の技術開示によって販売されている魔導砲だ。それを各国の海軍が採用し、または海賊が何らかのルートで入手したものだ。
動かない軍艦など的でしかない。反撃が無いのを良いことに、確実に弾を命中させるべくどんどん近づいていく。
神聖ミリシアル帝国の条件は『魔導砲を一撃叩き込む』であり、更に撃沈すれば上乗せの褒美や3級国家への格上げなどいいこと尽くめだ。
結果として、無人の軍艦を撃沈した国や砲弾を命中させた国、導力火炎弾を命中させた冒険者はホクホク顔でそれぞれの故郷に帰還した。後には、海の藻屑となった軍艦しか残っていなかった。
◆
ー第三文明圏外ニューランド島ー
グラ・バルカス帝国特務軍第1艦隊は救助活動をしていた駆逐艦以外全滅した。彼らはニューランド島のチエイズ王国及びグルート騎国の帝国軍基地に航空支援要請をした。理由はワイバーンによる襲撃である。
本来ならワイバーンの襲撃など全く意に介さないのだが、10隻しかいない駆逐艦で何百ものワイバーンを捌くのは骨の折れる事であった。(速度の遅いワイバーンの攻撃に当たる艦艇は少なかったが…)
ならば、前世界でも今世界でも日本国を除いて無敵だった"アンタレス"ならワイバーンなど蹴散らせると思っていた。しかし、帝国軍基地はその要請に応える事は出来なかった。
何故なら、帝国軍基地には、アルタラス王国から発進した日本国航空自衛隊の空爆を受けていたからだ。
まず、基地の滑走路に精密爆撃を敢行し"アンタレス"が発進出来ない状態を作り制空権を確保した。さすがにレーダーに映っていなくとも攻撃があれば敵の攻撃だと気付く。
サイレンがけたたましく鳴り、将兵は高射砲や対空陣地に配置に向かう。対空砲火を浴びせようとするが、その前に航空自衛隊のステルスジェット戦闘機富士の"85式空対地誘導ミサイル"が対空砲陣地や高射砲を破壊する。
自分達の脅威となる対空砲や滑走路が破壊された事を確認した航空自衛隊は、次にレーダー設備を破壊する。燃料タンクも破壊され、宿舎や格納庫も破壊される。
凸凹にされた滑走路を修復するのはグラ・バルカス帝国にとって簡単だが、重機も容赦なく破壊され修復は全て人の手でする必要がある。これでは、駆逐艦10隻の援護など出来る筈が無い。
チエイズ王国とグルート騎国のグラ・バルカス帝国軍基地はどちらも再起不能レベルにまで破壊された。両基地の司令官は移動式対空機銃の用意を命じたり、軍港に停泊していた艦隊の避難を指示する。
現在、グルート騎国及びチエイズ王国の軍港には合わせて、戦艦2隻、正規空母2隻、軽空母2隻、重巡洋艦6隻、軽巡洋艦6隻、駆逐艦24隻、補給艦6隻が停泊している。
彼らは、日本国から一番近い基地である両基地を攻撃する可能性を考えて、基地司令からの撤退命令を受けて前線から撤退するべく軍港から準備の出来た艦から撤退しようと行動していた。
しかし、そこに待ったをかけたのは日本国海上自衛隊潜水艦群"依10型原子力潜水艦"だった。
彼らは逃げようとするグラ・バルカス帝国地方艦隊に攻撃を加えるべくやって来たのだ。日本国側としては、本土の安全を確実な物にするためにグルード騎国及びチエイズ王国のグラ・バルカス帝国軍基地を破壊し、両国を日本の勢力圏に組み込むべく"87式潜水艦発射型誘導弾"や"12式魚雷"が残っている潜水艦を中心に派遣したのだ。
両基地の司令官や艦隊司令官は被弾報告を受けて目視で確認出来る範囲で水上艦が居ないことから潜水艦による攻撃だと結論付けた。
彼らは潜水艦による攻撃なら近くに居ると判断して駆逐艦を中心に対潜戦闘を始めるが、一向に見つけることはできなかった。
中でも、グルート騎国では海からの攻撃だけでなく空からの攻撃に見舞われることになった。幾つもの国を経由してナハナート王国から発進したムー国の大型爆撃機がやって来たのだ。
ムー国が使用した大型4発の爆撃機は"ラ・カオス"である。今でこそ輸送用として使われているが、その気になれば爆撃機として活用することもできる。"ラ・カオス"は巡航速度280km、航続距離7000kmと言う破格のスペックを持っている。
だが、航続距離7000kmを実現するには最低でも搭乗人数10人の所を6人まで減らし、巡航速度を220kmにする必要がある。
そこで、搭乗人数を最低限とし、飛行に影響が無い範囲で出来る限りの爆弾を積んできたのだ。それが140機飛行していた。既に基地上空を警戒していた"アンタレス"は日本国航空自衛隊が先にナハナート王国から発進して排除している。ムー国は戦闘機も対空砲火の心配もする必要もなく安全に爆撃が出来るようになった。
アメリカのB29の編隊とまでは言わないが、大型の4発型爆撃機が飛ぶ光景は圧巻だ。(そもそもB29は稲荷世界であまり活躍していない)
積めるだけ積み込んだ爆弾がグルート騎国のグラ・バルカス帝国軍基地に投下された。
無誘導爆弾の暴力は唯でさえ日本国の攻撃で滑走路や対空砲陣地、レーダー設備を破壊された基地の機能を完全に破壊するには十分な効果を持っていた。無誘導爆弾ゆえに、塹壕に退避していた者は生き残ったが、大規模な修理が必要なほどに基地は破壊されてしまった。
グルート騎国のグラ・バルカス帝国軍基地は破壊されたが、チエイズ王国はどうなったのか?それは次回お届けするとしよう。
〜コラム〜
"14式地対艦誘導弾能力向上型"
自衛隊員の安全を守る観点から現実の自衛隊も導入を始めているミサイル兵器。稲荷世界では既に配備が終わっている。しかし、第二次大戦仕様のグラ・バルカス帝国に通常ミサイル兵器はまだしもこのミサイル兵器は高価すぎると判断されて使用はされなかった。
しかし、使用は現場の判断に任されており、ナハナート王国自衛隊司令官である八神は即時判断でこのミサイル兵器の使用に踏み切った。まあ、正直言って過剰兵器だった訳だが、それは第三者視点の話であり自衛隊員の安全をジャミングバレの時点で決断した彼は優秀だと言えるだろう。
お気に入り登録、高評価宜しくお願いします!
グラ・バルカス帝国の今後
-
日本国本土近海に軍を派遣する。
-
レイフォル沖制海権を取り戻す
-
その他(経緯をメッセージボックスにて)