稲荷様は平穏に暮らしたかった。   作:味八木

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前回短かったので、今回は増量でお送りします。

追記、日間ランキング入賞ありがとう御座います!


ヒノマワリ解放への道

 

 

ー第二文明圏グラ・バルカス帝国ヒノマワリ州ー

 

かつてヒノマワリ王国としてレイフォル国から独立したヒノマワリ王国は、現在ではグラ・バルカス帝国の海外領土となっていた。

 

ヒノマワリ王国を解放しようとする第二文明圏連合軍とグラ・バルカス帝国軍で激しい戦闘が起こっていた。グラ・バルカス帝国は強力だった。この世界の主要な軍はマスケット銃などの近世レベルなのに対して、グラ・バルカス帝国は第二次大戦レベルなのだ。だが、そんなグラ・バルカス帝国だが、歴史上類を見ない速度で後退を重ねていた。

 

日本国自衛隊と第二文明圏連合軍によって陸も空も押され続けていた。

 

2ヶ月前から今なお続く空襲は、ヒノマワリの民にとって希望だった。自分達のワイバーンでは決して勝てなかったグラ・バルカス帝国の戦闘機が次々と撃ち落とされているのを見せつけられたのだ。

 

レーダーに映らず、目視で確認できる頃には接近を許し、直掩機を向かわせようにも速すぎる。攻撃を仕掛けようと近づいても"アンタレス07式戦闘機"のエンジンでは飛ぶのがやっとな酸素の薄い高空を飛行する。

 

やっとの事で近づいた所で、護衛の戦闘機による不可視の攻撃で撃ち落とされるのだ。これによって、迎撃に出た"アンタレス"が半数以上、下手をしたら8割失って戻ってくれば、工場や軍関系施設に爆弾を落とされ焼き払われると言う事態が相次いだ。

 

"アンタレス"が少なくなったと見るや、ムー国の旧型の爆撃機が爆弾を落とし、戦闘機が機銃掃射を浴びせるのだ。グラ・バルカス帝国から来た入植者たちは現地の植民地人を劣等人種と位置づけ、万が一にでも反乱が起きても住人の安全が確保できるように居住地は現地人と植民地人とで分けていたのだ。それが仇となり、ムー国の機銃掃射の餌食となっていた。

 

そんなヒノマワリ州の東部から中央部に掛けて、何度も地上戦が繰り広げられていた。

 

グラ・バルカス帝国の砲兵らが号令を元に砲弾を一斉に発射する。しかし、一斉にと言う割には門数はたったの3門しかない。他の砲は全て空爆で破壊されてしまったのだ。

 

彼らの砲塔の先には何台もの戦車ー12式戦車ーの姿があった。彼らはグラ・バルカス帝国にしかない陸上兵器である戦車がある事に動揺するが、自国の"2号戦車ハウンドⅠ"や"Ⅱ"を破壊できる対戦車砲なら撃破出来ると信じている彼らは次弾装填を急ぐ。先ほど一斉発射した砲弾は全て空中で爆発するか回避されている。土煙を所々に上げているのを見て、彼らは焦りを隠せない。

 

もう各門5発は撃った筈なのに敵戦車にはまるで効果がない。そんな中、戦車の陰にいた人影が途轍もないスピードで此方に向かってきたのだ。グラ・バルカス帝国でも歩兵は戦車の陰に隠れて戦車の援護をするものなのにだ。

 

戦車の陰から出てくるのは自殺志願者か馬鹿のどちらかだ。しかし、敵戦車の陰から出てきたのはどちらでもなかった。やってきたのは狐耳と尻尾を付け、かつてのグラ・バルカス帝国の前身となる国の宗教衣装を纏う狐の獣人だった。

 

言わずもがな、稲荷神である。稲荷神は思いつくままに敵陣に突貫したのだ。この突然の行動に近衛と陸上自衛隊は慌てるがすぐさま全軍突撃を掛けた。稲荷神に小銃の弾丸が殺到する。流石に歩兵1人に砲弾はコストパフォーマンスが悪いと言う判断だろう。

 

稲荷神に弾丸が殺到する。しかし、それらは全て手で掴み取られポイ捨てされる。これに驚いたグラ・バルカス帝国側は砲弾を向ける。しかし、次の瞬間青い炎が陣地全体に広がったのだ。

 

この炎のせいで、防衛陣地にあった対戦車砲や数少ない野戦砲、戦車は尽く燃え、兵士は熱さのあまり転げ回る。彼らは自分達の攻撃が通じない敵兵に疑問を抱き、叫ぶ者もいる。

 

彼らに襲い掛かったのは日本国陸上自衛隊第2軍である。彼らは、航空自衛隊の近接航空支援や"04式自爆ドローン"による重砲などの脅威度の高い兵器の排除を行っていた。そもそも、装甲の薄い九七式戦車と似た装甲を貫く対戦車砲と言っても、溶接技術が高く、合金技術も高い物で作られた"12式戦車"なら無傷だ。(そもそも当たらない)

 

稲荷神の攻撃から難を逃れた数台の戦車も突撃してきた"12式戦車"によって撃破される。対戦車砲も戦車も失ったグラ・バルカス帝国に抗う術はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

日本国陸上自衛隊が防衛陣地を食い破った知らせは後方遮断を任されていたムー統括陸軍にも伝わった。

 

ムー統括陸軍第1軍の司令官、シューゲール中将は指示を飛ばす。日本国陸上自衛隊とムー統括陸軍の中央部軍集団の作戦はシンプルだ。まず、日本国陸上自衛隊が真正面から前線に突撃し、食い破る。同時に、比較的速いムー統括陸軍の新型戦車で敵背後に回り込み、包囲撃滅する。これが中央部軍集団の基本戦術だ。

 

彼らは頑張りあって警戒の薄い側面から後方を遮断する事に成功した。後方遮断に成功した彼らはすぐに車から降りて塹壕を掘り始める。掘り返した土は袋詰めにして土嚢を作っている。たかが土と侮るなかれ、土が集まれば機関銃の弾も弾く。防御力向上に繋がるのだ。

 

大急ぎで即席防御陣地を作って、迎撃態勢を整えていると、彼らの前に戦車が現れた。敵が後退してきたのかと思いきや、見えたのは日本国陸上自衛隊の"12式戦車"だった。

 

彼は味方の姿を見て思案する。

 

(これでヒノマワリ王国王都ハルナガ京への進軍が可能になった。しかし…市街戦となると相当の被害を覚悟しなくてはならない。ヒノマワリ人は友好国ヤムートの末裔…被害は出したくはないが…被害は相当な物になるな…)

 

彼は日本国とムー国が進軍するにあたり、ヒノマワリ王国の者達の国民感情に注意を払っていた。いくらグラ・バルカス帝国から解放するためとは言え、ヒノマワリ人を多数誤射してしまえば、理性では仕方の無い事とは分かっても感情がそれを許すのは難しい。

 

この矛盾した難しい問題にシューゲール中将は頭を抱えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

日本国陸上自衛隊がグラ・バルカス帝国軍を包囲殲滅した翌日、中央軍集団はヒノマワリ王国王都ハルナガ京が見える位置にまで進軍することに成功した。しかし、思わぬ膠着状態に陥ってしまった。

 

市街戦と言うこともあって、被害をシュミレーション算出した所、ヒノマワリ人に多くの被害が生じてしまう事に、ムー国上層部は難色を示したのだ。

 

ヒノマワリ人とは、かつてムー国が地球にいた頃にムー大陸にいた当時の友好国ヤムートの民が転移に巻き込まれた者達が建国した国なのだ。ヤムートとムー国は転移前から重要な同盟国だったので、ムー国は転移直後から彼らの事を気にかけていたのだ。

 

そして、ヤムートとは後の日本に当たるため、稲荷神からすれば、自分より前の時代に生まれた親の末裔…つまりは稲荷神の庇護対象なのだ。そんな彼等を人質に取る形でグラ・バルカス帝国陸軍は市街戦の用意をしているので、攻めあぐねていた。

 

ムー国は日本国に連絡を取り、被害を最小限に市街戦を出来ないかと持ちかけた。当然、稲荷神としてはそれが望ましいのは分かっているが、それが無理な話なのは自衛隊幹部の話でも理解できる事だった。

 

ともかく、情報共有をすべく稲荷神は近衛とお世話係、自衛隊幹部を連れて、バルクルス基地を(リモートで)訪れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

バルクルス基地にてムー統括軍現場指揮官ミックは日本国航空自衛隊幹部に地図を用いて問う。

 

「ハルナガ京にあるグラ・バルカス帝国征統府は実質軍の指揮所になっています。この建物は王城の近くにあり、昼間にヒノマワリ人が、夜間にグラ・バルカス帝国人が勤務している。軍関係施設も貴族街の近くに建てられています。

 

我がムー国はヒノマワリ王室ならびに臣民に被害が出ることを望んでいません。最小限とするために夜間爆撃が望ましいのですが、我々にはそのノウハウも技術もありません。日本国は明かりのない中での爆撃は可能なのでしょうか?」

 

彼は日本国の力をよく理解している。しかし、そのどれもが昼間であり、夜間での精密爆撃が可能なのか分からなかった故の質問だった。

 

「ムー国としては、ヒノマワリ王国にあるグラ・バルカス帝国軍基地は小規模で大した影響は無いと考えています。ムー国としては被害を大きくしてヒノマワリの民を危険に晒したくない」

 

彼はムー国上層部の意図を示しただけだったが、そんな事を知ったことではない他の第二文明圏各国は激しく反応した。彼としても上の意向を話しただけであり、『政治の話など知ったことか』と声を大にして言ってやりたかった。

 

「稲荷神様、発言をよろしいでしょうか?」

『構いません』

 

航空自衛隊幹部は、稲荷神の許可を得て話し始めた。

 

「夜間の精密爆撃ですが、可能か不可能かで言ったら可能です」

「可能なのですか!?」

 

皆がざわつく中、国岳は続けた。

 

「では、攻撃目標はグラ・バルカス帝国の征統府、対空陣地、兵舎、格納庫、電波施設などでよろしいですね?」

 

第二文明圏各国の多くは、グラ・バルカス帝国の技術について詳しくなく、軍事技術に対してもざっくりとしたイメージしかない。故に、国岳は念を押す様な言い方をした。各国も、自衛隊の助け合っての反攻作戦なので文句はでなかった。

 

その時だった。会議室の扉にノックが響いた。入室を促すと、入って来たのはバルクルス基地の警備を行っている者だった。

 

「報告します!前線の補給部隊がこの基地に向かう3人連れの女性を発見したとのことです。彼女らは、ここバルクルス基地を目指しているとのことです。そして、彼女らの中にはヒノマワリ王室の王族とその護衛との事です!」

 

その言葉にミックは驚き、会議室にいる面々に確認をとって彼女らを入室させた。

 

部屋に入ってきたのは、高山に住む民族の衣装と着物をごっちゃにしたような独特の衣装を身にまとい、肌の色は日本人と変わらない。しかし、彼女達は夜通し馬を走らせたらしく、髪は乱れ、目元に隈をつくり、服や肌は汚れてしまっている。

 

彼女らはスクリーンに投影された稲荷神の姿を驚きはしたが、すぐに案内人の案内のもと、着席した。

 

会談が始まると、女性の1人が立ち上がって頭を深々と下げた。

 

「ヒノマワリ王国第3王女、フレイヤと申します。皆様方は我が国がグラ・バルカス帝国に降った理由をご存知ないと思うので、その経緯についてまずお話いたします」

 

フレイヤが語ったのは以下の通りだった。

 

旧列強国だったレイフォルがグラ・バルカス帝国に滅ぼされた際に、属国だったヒノマワリ王国はそのどさくさに紛れて独立した。しかし、独立して数年でグラ・バルカス帝国による圧力が始まっていった。

 

そんな折、第一次バルチスタ沖海戦が始まり世界第一位の列強神聖ミリシアル帝国までもが敗れた事を知り、自分達には敵わないとヒノマワリ王国はグラ・バルカス帝国に降った。

 

この事を、稲荷神含めた日本国上層部は別班の活動を通して知っていたが、大半の者にとっては初耳であった。

 

グラ・バルカス帝国に降ったヒノマワリ王国は耐え難きを耐え続けた。ヒノマワリの民は奴隷の如く扱われ、様々な物資を搾取してきた。しかし、状況が変わってきたのは、中央歴1643年に入った時だった。

 

グラ・バルカス帝国は搾取する物品の中からついに食糧にまで手を付け始めたのだ。これは、フレイヤにとって許せぬ話だった。そもそも、降伏する際に『食糧には手を付けない』と再三確認し、外交文書にも調印したのにも関わらずの行為だったからだ。

 

そんな文書、グラ・バルカス帝国からすれば自分達が負ける筈もないと言う絶対の自信からくる約束であり、その気になれば軍事力に物を言わせて黙らせるつもりだから毛ほどの効果もないのが実情だ。だが、そんな考えを温室育ちのフレイヤが分かるはずもなく、彼女はグラ・バルカス帝国征統府に抗議をした。しかし、帝国の外交官に一蹴されて今に至るという。

 

(グラ・バルカス帝国ってホントにロクなことしない…いい加減帰ってほしい)

 

稲荷神はグラ・バルカス帝国に対して怒りが湧いてきた。彼女からすれば、戦国時代に人々から五穀豊穣を齎してくれと言われ、自分の持つ普通科高校生までの農業知識で皆に豊作を与えてきた。それに、戦乱の京都で飢えに苦しむ民たちを見て、彼ら彼女らの悲惨さを見て改善する必要があると考え、自分のできる範囲で、そして、日本国民が独り立ち出来るように手伝ってきたのだ。

 

そんな経緯がある彼女からすれば、グラ・バルカス帝国が日本人の親戚を奴隷の如く、消耗品のように扱っていることに我慢ならなかった。稲荷神が不機嫌オーラを醸し出し始めた頃、バルクルス基地に侵入者が現れた。

 

いや、侵入者ではなく侵入鳥と言ったほうが正しいだろう。フレイヤの護衛の一人が侵入鳥ー伝書鳩ーを見て驚いた。

 

「姫様!胸に王家の紋章が!」

 

これを見て、稲荷神含め日本の者は驚く。伝書鳩とは江戸時代中期に発達した連絡手段だ。しかし、江戸時代後期になると、稲荷神の発言によって黒電話が開発されてしまい、伝書鳩の価値はなくなっていった。しかし、技術は宝と公言している稲荷神によってロストテクノロジーとまでは言わないが、現代となってはほぼ見ないし、使われることもない伝書鳩に皆が驚いていたのだ。

 

「今後に関する話かも知れないので、見てもらって構いません」

 

ミックが読むように勧め、手紙を読んだフレイヤは一瞬にして表情が曇り、身体が震え、涙を流し始めた。

 

「我が国の諜報部とでも言うべきでしょうか、情報に通じている貴族からの連絡です」

 

護衛の一人がそう付け加えると、フレイヤは涙ながらに話し始めた。

 

「父上と兄上が幽閉され…姉様達が…殺されたそうです…」

 

やがてフレイヤが泣きながら、感情に折り合いをつけたのか、涙で腫れた目には怒りの感情が込み上げているのを稲荷神はスクリーン越しでも理解出来た。

 

「ヒノマワリ王国王家は幽閉され、その実権を失いました。私はヒノマワリ王国第3王女フレイヤです。王家の権限が停止されているので、ここに非常時国家保護法に則りヒノマワリ王国のすべての権限はこのフレイヤに移譲されました」

 

非常時国家保護法、これはすべての国内法を越権する法律であり、権限を集中させたった1人ですべての事案を取り決められる下手をすると悪用される危険性を孕んでいる特殊な法律だった。

 

「ヒノマワリ王国として、対グラ・バルカス帝国第二文明圏連合軍及び日本国へ正式に要請いたします。身勝手ではありますが、ヒノマワリ王国内で臣民を苦しませているグラ・バルカス帝国の排除を要請いたします!」

 

これを聞いて、まず反応したのは稲荷神だった。

 

『分かりました。私の遠い孫を虐めるようなグラ・バルカス帝国に天誅を下してやりましょう!』

「「我々は稲荷神様の御意向に従います」」

 

稲荷神の宣言に陸上自衛隊、航空自衛隊両幹部は稲荷神の命令には従うスタンスだ。

 

「分かりました。我らムー統括軍も微力を尽くしましょう」

 

ここに、ヒノマワリ王国解放への作戦が始まる…

 






〜コラム〜

黒電話

その開発は江戸時代中期に遡る。稲荷神は神皇の位を返上するための言い訳として、『現場の状況判断ガ困難で指示を出すのが間に合いません。なのでそろそろ幕府と現場の判断に任せて神皇は引退ですね』

と言った所、征夷大将軍や幕府の役人が『稲荷神様に神皇を続けてもらうため、可及的速やかに情報伝達手段を築き上げるべし!』と公言。親方日の丸に電話事業に多額の投資を行い、オーストラリア含めた親日国を巻き込んで数年で黒電話にまでこぎつけたのだった。

その時彼女は『神皇を引退する機会を逃したなぁ』と語ったという。

次回は、黒電話に関係したフェートン号事件の解説です。

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グラ・バルカス帝国の今後

  • 日本国本土近海に軍を派遣する。
  • レイフォル沖制海権を取り戻す
  • その他(経緯をメッセージボックスにて)
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