ー第二文明圏グラ・バルカス帝国領ヒノマワリ州都ハルナガ京ー
ヒノマワリ王国第3王女フレイヤがバルクルス基地に逃げ込んだ経緯を話すため、少し時間を遡る。
グラ・バルカス帝国がヒノマワリ王国を取り込んでから数年、王城より立派に建てられたグラ・バルカス帝国の行政機関である征統府に大声が響いていた。
言わずもがな、第3王女フレイヤであった。彼女は臣民思いの女性であり、グラ・バルカス帝国が本来ヒノマワリ臣民に行き渡るべき食糧が不足し、市場では食糧の品不足と高騰が続き、臣民は飢餓に苦しんでいる。それに心痛めた彼女は単身で危険な行為と分かった上で陳情に来ていた。
征統府職員が対応に困っていると、そこに声を掛けてくるものがいた。
「煩いぞ。何があった」
仕事で征統府を訪れていた外務省外交官のダラスだった。
「いえ、ヒノマワリ王国の関係者が食糧を国民に十分な量を流通させろと…」
「ほう?ならば私が対応しよう」
「…いえ、ダラス殿のお手を煩わす訳には…」
「いや、これは決定権を持つ私が行った方が早い」
彼は大股で煩い元凶がいる場所にまで向かった。
◆
この辺りは前回説明したのでダイジェストでお送りする。
フレイヤと対面したダラスは用件を聞いた。フレイヤは食糧を国民にも最低限流通させるように言った。
しかし、ダラスは冷静に職員に問う。職員は、本国からの補給が途絶えたので、現地での補給確保の為に行っていると説明した。
フレイヤは取り決めと違うと怒鳴る。しかし、ダラスもそんなフレイヤの態度に怒鳴り返した。
曰く、帝王陛下の言葉は絶対だとか
曰く、悔しければわが国以上の技術を得ればいい
曰く、権力者は国民に寄り添うのではなく国力を高めるためにある
フレイヤは何もできぬ自分を恥じるも、何をされても部屋を出ようとしなかった。ダラスは彼女に平手打ちを食らわせるが、出ようとしなかった。結局彼女は職員に取り押さえられて帰っていった。
フレイヤが連れ出されて、ダラスはある決断を下した。即ち、彼女の排除である。
ダラスは彼女の事を理想論に駆られた無能な小娘という印象を受けた。しかし、最後まで部屋に居座り続け、平手打ちを受けてもコチラをじっと見る彼女の瞳に薄ら寒い物を感じたのだ。彼はフレイヤの事を危険因子と考えた。
彼は征統府職員に言う。
「おい。あの蛮族は帝王陛下を愚弄した。万死に値する。暗殺でも適当な罪をでっち上げても構わん。必ず殺せ」
「…了解しました!」
◆
ー第二文明圏グラ・バルカス帝国領ヒノマワリ州都ハルナガ京フレイヤ居宅ー
ヒノマワリ王国の王室は国民に寄り添ってきた国家としてある種有名だ。
日本の家屋として見れば豪邸と言っていい部類だが、使用人の部屋などを含めると意外とフレイヤのスペースは小さい建物(流石に稲荷神の住宅よりは大きい)の2階でフレイヤは月を眺めていた。
食糧支援の陳情が成功するとは思っていなかった。それは、日々のグラ・バルカス帝国の態度を見れば明らかであるが、民の事を思う彼女は居てもたってもいられなかった。彼女が自分の無力さに嘆いていると、部屋の扉を荒々しくノックする音が聞こえた。
「フレイヤ様!お逃げ下さい!」
「何事です?」
「征統府に勤務している調理師が偶然聞いたそうなのですが、帝国がフレイヤ様を暗殺しようとしています!」
侍従の言っていた言葉がイマイチ理解できなかったフレイヤは一瞬呆けてしまう。そして、帝国は自分が思った以上に悪虐非道だった事を実感した。
「手練れの女剣士2人を護衛に着けます。バレないように少数精鋭です。ご安心下さい。2名は日輪級の剣聖です」
日輪級は国内でも数名しかいない剣の達人だ。そんな者達を2人も寄越す事からも事の重大さがよく分かる。フレイヤは国を出る気はなかった。しかし、グラ・バルカス帝国の魔の手が追って来ていた。
爆発音が響きフレイヤは護衛に抱えられて逃げる。彼女の背後では銃声が響き、メイドを始めとする使用人の悲鳴が響いていた。
フレイヤは自分の行動で死んだ人がいると言う事実による罪悪感に押しつぶされそうになったが、護衛の平手打ちで我に返った彼女は泣きながら馬を走らせたのだった。
◆
ー第二文明圏グラ・バルカス帝国領ヒノマワリ州都ハルナガ京ー
フレイヤ暗殺を指示したダラスは、グラ・バルカス帝国外務省の仕事を終えて、宿泊先のホテルに帰るために征統府を後にしていた。
ハルナガ京は一国の首都なのにも関わらず明かりが極端に少ない。しかし、帝国が接収したり、帝国が建設した建物には明かりが灯っていた。
「明かりが少ない。これが一国の首都とは笑えてくるな」
ダラスは呟く。ここはバルクルス基地にも近く、敵軍の襲撃や陥落する危険があるのは本国も承知しているが、だからと言ってヒノマワリ州に関する事務が無くなる訳では無い。そのため、軍関係者だけでなく、ダラスの様な軍属ではない者も働いていた。
ダラスは足を止めて振り返る。そこには、王城よりも威厳ある姿でそびえ立つ征統府の姿があった。ダラスがいる場所は征統府から距離があるにも関わらず王城と見紛う程であり、ヒノマワリ王国支配の象徴であった。
「やはり我が帝国は素晴らしい。他の建物より遙かに重厚で品があるな」
ダラスが帝国の素晴らしさを征統府を通して再認識していた時だった。突然目も空けられない程の光が現れたのだ。
「な!何?!」
ズガァァァァァァァァン!
鼓膜が破れそうになる程の爆音が響いた。ダラスが目を開けるとそこには、炎に包まれた征統府だったものがあった。建物の瓦礫が飛び散り崩れ去る姿があった。統治の象徴、力の象徴と誇りに思っていた、決して崩れないと思っていた建物がいとも容易く崩れていく。
残業で先程まで征統府に勤務していたのだ。もう少し遅ければ、あそこに巻き込まれていたかも知れない。そして、自分も巻き込まれて死んだかもしれない。その恐怖がダラスの背中を襲った。しかし、こんな恐怖はまだ始まりに過ぎなかった。
ズガァァァァン!
今度はダラスから見て東の方向にある建物が爆発炎上して崩れ落ちた。そこは植民地警備部隊…ヒノマワリ王国を統治する兵達の兵舎があった。それが崩れ落ちたと言うことは、沢山の兵達が一度に殺されたと言うわけだ。
連続する爆炎に爆発音。そして崩れ落ちる建物。ハルナガ京は一瞬にして悲鳴に包まれた。就寝から叩き起こされた人々は何処に逃げていいかも分からずに逃げ惑う。そんな中でもダラスは気づいた。攻撃されているのは帝国の関係施設だけだと。
「バカな!そんなバカな!バカな!バカな!バカな!」
帝国軍基地に取り付けられたサーチライトが点灯されたのか、夜空に幾つもの光の筋が生まれる。混乱したのか、対空砲を無闇矢鱈に撃っているのか、散発的に対空弾幕が上がっている。
第二文明圏の主力航空戦力であるワイバーンなら簡単に撃墜出来る程の火力と索敵能力を帝国軍は持っている。しかし、そんな帝国軍が好き勝手されているのにも関わらず敵を見つけ出せずにいる。
サーチライトは敵の攻撃ですぐ沈黙させられてしまったのか、光は途絶え、対空砲陣地が破壊される。攻撃は連続し、対空レーダーなども沈黙していく。
いくら明かりが少なく、月明かりが照らしているとは言え、上空から肉眼で地上を把握することなど出来ない。夜にピンポイントの精密爆撃など帝国の技術者も出来ないと言っていたのだ。出来る筈が無い。
だから、ダラスは目の前の光景に理解が及ばなかった。だが、そんな事お構いなしに攻撃は続く。
街ではヒノマワリ人とグラ・バルカス帝国人があっちこっちへ逃げ惑っている。ダラスも慌てて逃げ始める。ピンポイントに爆弾を仕掛けられたと言われた方が納得する程に帝国関連施設が狙われる。
ダラスは何処に向かって走っているのか、彼自身理解出来なかった。ただ、自分の知らない未知の兵器に恐怖していた。心の奥底から膨れ上がる恐怖。死への恐怖。それが彼を動かしていた。下手をしたら、敵はグラ・バルカス帝国人のみを狙って攻撃出来るのかもしれない。自分も狙われているかも知れない。
そんな恐怖に、彼は怯え、震える体を恐怖で動かして彼は攻撃から逃れるために森へ逃げていった。
◆
ー第二文明圏グラ・バルカス帝国ヒノマワリ州都ハルナガ京ー
征統府の地下に万が一を想定して作られた地下司令部の中で、司令官であるオル・ブーツは押し寄せる様々な被害報告に苛立っていた。
既に征統府の崩壊や対空砲陣地の全滅。兵舎の崩壊や電波関連施設も破壊されている。応援を各地から求めようにも電波施設が破壊されているので不可能だ。
オル・ブーツはこの難局に頭を抱えた。彼は汚職官僚(軍人を官僚と言っていいのか疑問は付くが…)の一人であった。仕事を適当にこなし、自分の地位を狡賢く利用し、植民地の人間を使って欲望を満たし、金品を巻き上げ、その金と現地人を利用して上司に媚び諂い、部下を使い潰し、同僚を蹴落としてこの地位にまで至った。植民地警備隊の司令官なら前線に出ることもなく美味しい思いも出来た。しかし、異世界連合軍の怒涛の進軍で、彼には重責が来ることになった。
もちろん、こんな汚職官僚に最高責任者としての能力は無いに等しい。
「現在動ける者は皆が戦闘準備をして待機指示しています」
「何故攻撃を事前に察知できなかった!歩兵火器でどうやって航空機を撃墜するんだ!レーダー責任者は誰だ!」
そのレーダー責任者は空爆で既に亡くなっているので、この場には居ないのだが、無能な彼は誰かの責任にしたかった。そんな彼に周囲の者たちは呆れている。
彼は現状を整理する。手元にある戦力は歩兵200人と特殊部隊構成員50名。対空火器は全滅している。
地下司令室は空爆でも無事だ。しかし、軍は既に壊滅状態。敵は今までのどの敵よりも強い。ケイン神王国よりも強いことは理解出来た。迫りくる死の恐怖に彼の頭は回転する。
「空爆の後に地上からの攻撃が行われる可能性が高い。ハルダール川のすべての橋を破壊せよ!そして、暗殺部隊は敵特殊部隊の侵攻に備えよ」
珍しくマトモな指示を出すオル・ブーツ。しかし、緊急信号弾が5発発射され、彼らは激しく狼狽える。
この信号弾は通信系統が使用出来なくなった場合に使われる物で、今回の場合敵の大規模侵攻を示していた。この絶望的な状況でオル・ブーツは決断した。
「援軍をレイフォルから派遣する必要がある。しかし、敵の大規模攻撃に対応できるだけの戦力を充てるにはある程度権限がある者が行くべきだ。ここは私が行こう」
それ即ち、現場指揮の放棄に他ならなかった。周りには構わず彼は退出した。
◆
ーハルナガ京東門付近ー
ハルナガ京の東門付近には、ある特殊部隊が待機していた。グラ・バルカス帝国の特殊部隊の名は、"シーン暗殺部隊"だった。
この部隊は、部隊長シーンの名を冠しており、暗殺部隊としての任務の成功率は極めて高く、帝国本国の評価もすこぶる高い。本業の暗殺をする事もあれば、重兵器を繰り出して殲滅することもあった。
安直なネーミングの部隊名だが、ヒノマワリ王国における特殊作戦部隊であり、通常の陸軍部隊に比べて遙かに強靭な肉体と精神を有している。
この部隊は東門に近い民家を徴用し、屋上に機関銃を配置し、偽装工作も施していた。小型迫撃砲ー八九式重擲弾筒ーの様な物も用意している。
暗殺部隊副隊長フル・ハートは部下の練度に絶対の自信を持っていた。敵の攻撃は恐ろしく正確だが、その攻撃量は少ない。ムー国程度蹴散らせると自信を誇っていた。警戒すべきは敵特殊部隊だが、この部隊ならば充分に対抗可能と考えていた。兵器類は軍事施設ではなく、民家に設置しているので、気付かれる事はない。
ケイン神王国の大軍を少数精鋭で退けた戦場伝説をこの地でも作り上げると張り切っていた。
一番の懸念点は東門付近を絨毯爆撃された場合だ。そうなったら、瓦礫を利用しながら遅滞戦術をする事になっている。
「フル・ハート副隊長殿、民間人を追い出して良かったのですか?」
「奴らは帝国に降っている。故に、帝国の命令は絶対だ。わざわざ何の価値もない植民地現地人に配慮する必要があるか?それなら、1人でも死んでもらったほうが食糧確保の面から見ても有益だよ」
「流石ですフル・ハート副隊長殿!そこまで私は考えが回りませんでした」
彼らは東門付近の住人を征統府から遠く、つまりは門の外側に追い出していた。ヒノマワリ王国の要人を多数暗殺し、第3王女フレイヤ邸で暗殺を指揮した彼らは負けたことがなかった。そんな不敗伝説が彼らの士気を高めていた。
「ん?何だこの音は?」
その音は彼らには聞き馴染みのない音だった。ほんの僅かな、小さい音だが、夜で騒音が少なく、日々訓練をしている彼らだからこそ聞き分けられる程の小さな音だった。
フル・ハートは音のする方に双眼鏡を向けようとする。しかし、音が四方八方から聞こえていることに気づいた。連絡を取ろうと、無線連絡を取ろうとした時だった。
突然爆発音が響いたのだ。爆発音がした方は、暗殺部隊の構成員が待機している場所の1つだった。そこから、爆発音が2度3度と上がり、攻撃だと気付いた。彼が戦略的撤退を取ろうとした時だった。"04式自爆ドローン"が彼を吹き飛ばし、彼の自信は肉体と共に吹き飛んだ。
◆
ーヒノマワリ征統府地下司令部ー
地下司令部をオル・ブーツに代わって任されている副主任ジャギーナは対応に追われていた。
何故なら、評判がすこぶる高いシーン暗殺部隊との連絡が一切取れないからだ。ジャギーナは無線連絡を寄越さないのは敵に襲われて、無線連絡を取る暇すらない程の戦闘をしているか、全滅しているかのどちらかだと考えていた。
敵の特殊部隊が浸透している可能性がある。その事実に司令部は震えた。そうしている間にも、司令部の外では銃声が響いていた。敵がすぐそこに来ている。
ジャギーナは死の覚悟を決めて拳銃を手にする。ドアが開いた瞬間に銃弾を撃ち込んでやる。司令部の面々は皆が同じ気持ちだった。
バァァァン!
ドアが出しては駄目な音を出して部屋の奥に吹っ飛んだ。一瞬驚くもすぐに銃弾を浴びせた。しかし、銃弾は命中することはなかった。
何故なら、銃弾全てが稲荷神の手によって運動エネルギーを止められていたからだ。銃弾を捨てた稲荷神は言った。
「降伏しなさい。さもなくば命はありませんよ」
そう言われ、殆どの者が両手を挙げた。しかし、一人だけ拳銃を稲荷神の後ろにいる第1空挺団に撃とうとした。
「天誅!」
そう言って、銃弾を止めると、拳銃を撃った相手に蹴りを入れた。蹴りを入れられた相手は吹っとんで壁に激突し、血反吐を吐いて気絶してしまった。
こうして、約1名を除いて司令部の人間は降伏した。
尚、オル・ブーツが逃げようとしたが、飛行場の爆発に巻き込まれて死亡した。
〜コラム〜
フェートン号事件
イギリスがオランダ旗を掲げて国籍詐称して長崎に入港、オランダ商館2名を人質にとった。人質解放を促すも、水と食料を要求する図太さだった。
すぐに稲荷神の指示で人質解放作戦が決行され、自衛隊が交渉人に変装して水と食料を渡すと、遅効性の痺れ薬で身動きを封じ、時限式発火装置で資材を燃やした。これに、犯人は大慌て。その隙に小型の武装船で突入した。
結果として30分も掛らずに人質解放に成功する。その後、功労者に稲荷神が勲章を与えた事件である。
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グラ・バルカス帝国の今後
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日本国本土近海に軍を派遣する。
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レイフォル沖制海権を取り戻す
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その他(経緯をメッセージボックスにて)