稲荷様は平穏に暮らしたかった。   作:味八木

89 / 94
お気に入り登録、高評価、誤字報告ありがとう御座います!


帝国の苦悩

 

 

ー第二文明圏グラ・バルカス帝国領レイフォル州南部ー

 

グラ・バルカス帝国領レイフォル州南部と隣接しているのは、ソナル王国、ニグラート連合、マギカライヒ共同体の3カ国だ。

 

この3カ国はグラ・バルカス帝国よりも技術が劣っているので、本来なら簡単に蹴散らせる筈だった。しかし、ソナル王国には日本国陸上自衛隊機甲師団と神聖ミリシアル帝国陸軍第1・2軍師団が展開していたのだ。

 

日本国陸上自衛隊機甲師団は、"12式戦車"やコンバットフレームを組み合わせた師団であり、素早い走破性能と攻撃力を兼ね備えている。彼らは難なく進軍を続けていたのだが、神聖ミリシアル帝国はそうではなかった。

 

神聖ミリシアル帝国の方に視点を移してみよう。神聖ミリシアル帝国第1軍に所属する、ある自走魔導砲大隊隊長カニ・ガワリー大佐は頭を悩ませていた。それは、自軍の被害の多さであった。

 

第二文明圏連合軍の各国は、世界最強の神聖ミリシアル帝国軍の支援に感謝しているが、ガワリー大佐は悪戦苦闘したのでは、世界最強の名も名ばかりだと思ってしまったからだ。

 

この大隊は先程までグラ・バルカス帝国軍と戦っていたのだが、日本国の様な一方的な戦闘とは行かなくとも、苦戦はしない…と思いきやいざ蓋を空けて見るば劣勢を強いられていたのだ。

 

彼らが用いていた魔導自走砲とは、名を"ゴルト2"と言う。この自走砲は蜘蛛のような外見をした多脚兵器だ。戦場では地面が整っていることの方が少ないため、悪路でも利用出来るようにと開発された。この"ゴルト2"は設計思想通り走破性能を与えた一方で、多脚故の脚の動きが故障を誘発する原因になってしまい、故障多発が相次いだのだ。

 

この"ゴルト2"の兵装は30口径140mm魔導砲であり、射程と威力は侮れない物である。しかし、故障の多さ故に厚い装甲を有していない。これは、神聖ミリシアル帝国より強い敵が少なかったのと、厚い装甲を敷いた状態で動かすことが出来る小型でパワフルな魔導エンジンを搭載することが出来ない理由から、装甲はグラ・バルカス帝国の"2号戦車ハウンドⅠ"や"Ⅱ"より薄い装甲しかない。

 

この大隊は"ゴルト2"を50輌配備してムー大陸に派遣されていた。しかし、その威光は影も形も無かった。彼らの周りにはグラ・バルカス帝国の"2号戦車シェイファーⅡ"の残骸や自国の"ゴルト2"の残骸が黒煙や炎を吹き上げながら骸となって捨てられていた。その数敵味方合わせて50輌程。その内の4分の1が"ゴルト2"であった。

 

ムー大陸における大陸打通作戦ーチベスナ作戦ーが始まって以降、神聖ミリシアル帝国は南部軍集団の主力として戦ってきた。作戦自体は順調に進んでいたが、神聖ミリシアル帝国軍の活躍は決して華々しい物ではなかった。

 

ガワリー大佐率いる大隊では、グラ・バルカス帝国の防衛線に対して攻撃を行っていた。しかし、日本国航空自衛隊の空爆を免れた戦車や、森の中を迂回して来た戦車隊によって奇襲攻撃を受けた。自走砲と言うのは側面からの攻撃にめっぽう弱い。何故なら、戦車と違って砲塔が回転砲塔ではないからだ。攻撃をするには車体を攻撃する方向に向けなければならず、これが被害を多くする要因だった。

 

神聖ミリシアル帝国の自走魔導砲とは別の歩兵部隊には魔導ゴーレムが機甲戦力として同行していた。しかし、これらはグラ・バルカス帝国の高射砲や対戦車砲で破壊されていった。そして、この魔導ゴーレムだが、日本国陸上自衛隊のコンバットフレームと違うのは乗り込み式ではない事だ。

 

神聖ミリシアル帝国の魔導ゴーレムはあらかじめ生産した魔導ゴーレム(エンジンなし)を魔道士が魔力で操作すると言う方式を取っていた。これで、魔導ゴーレムを動かしていたのだが、魔道士が操作を辞めると魔導ゴーレムも動かなくなると言う弱点があった。

 

これを察知されたのか、グラ・バルカス帝国は魔道士を狙撃する事で魔導ゴーレムを使用不能にさせられると言う事態が起きた結果、身動きが取れなくなってしまった。彼等を本来援護する筈の自走魔導砲大隊はグラ・バルカス帝国戦車隊の奇襲攻撃で身動きが取れなくなる事態に陥ってしまった。

 

最終的に、ムー大陸南部に展開している日本国航空自衛隊やムー大陸南西海域に展開していた神聖ミリシアル帝国海軍"ロデオス級航空魔導母艦"から来た航空支援で難を凌いだが、歩兵師団は再編をする事態になり、自走魔導砲大隊も、大量の被害車輌を出した。その殆どが故障車輌で、放棄を余儀なくされた物が多いのだから軽視出来ないレベルであった。

 

彼はこれからの進軍に頭を悩ませるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ー第二文明圏グラ・バルカス帝国レイフォル州中南部ー

 

グラ・バルカス帝国軍はレイフォル州内に攻め込んできた第二文明圏連合軍相手にレイフォル州各地で戦いを繰り広げていた。しかし、日本国やムー国が繰り出してきた思いがけぬ兵器ー戦車ーなどによって苦戦を強いられていた。

 

既にヒノマワリ州は陥落し、現在はレイフォル州・ヒノマワリ州の国境を守っている。ムー大陸北部では防衛線が何とか持ち堪えているが、崩壊も時間の問題だった。そして、一番の問題が南部であった。南部方面は敵の引き付けが目的だったが、その目的を果たすどころか戦線を押し上げている。

 

というのも、グラ・バルカス帝国が用意した野戦砲や高射砲、戦車、航空戦力。そのどれもが日本国によって破壊され碌な抵抗を取れなかったのだ。防衛線は次々と突破されている。やはり、神聖ミリシアル帝国の超兵器空中戦艦パル・キマイラの登場が理由だろう。

 

ミリシアル8世とヒルカネは日本国から提供されたグラ・バルカス帝国の陸上兵器の性能ではパル・キマイラの装甲は貫けないと判断して投入に踏み切ったのだ。

 

急速に悪化する各戦線の中でも危険度の高い空中戦艦パル・キマイラがいる南部線戦に戦力を充てるべくレイフォリアにある予備戦力を派遣することにした。

 

そして、偵察の為に"2号戦車ハウンドⅠ"や"2号戦車ハウンドⅡ"が1輌ずつ、"2号戦車シェイファーⅡ"が2輌が進んでいた。

 

偵察隊の隊長を任されていたクロワ・タワー曹長は苦々しい思いを抱いていた。

 

彼は典型的な帝国至上主義者の1人だった。彼は精強なグラ・バルカス帝国軍の強さを信じており、この世界の蛮族の軍隊に後れを取るなど考えていなかっただけに、現在の状況は衝撃であった。

 

彼は無線で各車警戒するように注意喚起した時だった。突然爆発音が響き、振り返ると"2号戦車シェイファーⅡ"が1台大破していた。すぐに指示を飛ばして後退しつつ方向転換する。その間に、彼は思考を巡らせた。

 

(軽戦車とは言えマスケット銃ぐらい防げる。と言うことは大砲の攻撃だ。周りは茂みだらけで隠れるのにはうってつけだ。どこにいる?)

 

そう考えている間にも、"2号戦車ハウンドⅡ"が大破する。この攻撃で、敵の大まかな位置と大砲の門数を把握した彼は攻撃地点に向けて進軍した。

 

ここで、彼のミスを指摘するならば後退を続けるべきだった。何故なら、彼等を攻撃したのは野戦砲ではなく、日本国陸上自衛隊の"12式戦車"だからだ。正確無比な射撃と射程、威力で勝る戦車にたった2輌で挑むのは無謀だからだ。

 

敵の野戦砲が見える地点まで近づくと、タワー曹長は気付いた。野戦砲ではなく、自分達の戦車よりも巨大な戦車である事を。

 

彼はすぐに徹甲弾を使用するように指示を出す。しかし、残った"2号戦車シェイファーⅡ"は"12式戦車"によって破壊されてしまった。タワー曹長はすぐに電文を送り報告をする。

 

そして、至近距離で発砲しようと進んだ時だった。突如として側面からやって来た砲弾によって彼の命は尽きたのだった。

 

 

 

 

「敵兵なし。異常なし」

 

"12式戦車"の車長が告げる。それを聞いて、車内は安堵に包まれた。そう、日本国陸上自衛隊の戦車のドクトリンは戦車同士の連携だ。故に、1輌しかいないと言うのは大きな間違いなのだ。先遣隊として偵察部隊を潰すために派遣されていた"12式戦車"2輌はその後本隊と合流した。

 

日本国陸上自衛隊機甲師団本隊の後方からは、歩兵と騎兵を主とした第二文明圏連合軍と神聖ミリシアル帝国陸軍が進軍している。

 

車長である広瀬に通信士が話しかけて来た。

 

「車長。本部からの連絡です。神聖ミリシアル帝国が担当する区域で航空支援として空中戦艦パル・キマイラが投入されるようです」

「…どうやらこっちの帝国も戦況が好ましくない様だな」

「ええ。何でも補給不足と機甲戦力が減少しているとか。歩兵部隊にも影響が出ているそうです」

「まあ、一般兵からすれば故郷から遠い地に行く必要性を感じてないんだろうな。それに伴う厭戦感情を払拭する意図があるんだろう」

「世界最強が聞いて呆れますね」

「そう言うな。軍人は政治には極力関与しない。文民統制(シビリアンコントロール)が原則だ。さあ、仕事を続けよう」

 

そう言って、彼らは命令に沿って進軍を続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ー第二文明圏ヒノマワリ王国第二文明圏連合軍中央軍集団前線司令部ー

 

大陸打通作戦ーチベスナ作戦ーの作戦の1つであるヒノマワリ王国の解放に成功した彼らは、ヒノマワリ王国に前線司令部を設置し、対応にあたっていた。日本国に割り当てられた司令室で、自衛隊高官が本国からの連絡を稲荷神に伝えていた。

 

「グラ・バルカス帝国の主力艦隊が出港する?それは本当ですか?」

「はい。本土から送られてきた衛星写真です」

 

そう言って、自衛隊高官は1枚の写真を手渡した。稲荷神が見てみると、それはグラ・バルカス帝国の帝都の港の写真であり、その港を埋め尽くす大量の艦艇が鎮座していた。総数は約200隻以上であり、中には戦艦や正規空母などの主力艦も含まれている。グレードアトラスター級戦艦こそないようだが、ヘラクレス級戦艦やペガサス級戦艦の姿が多数見える。

 

因みに、固有名詞は別班の活動や捕虜の尋問で入手している。

 

しかも、帝都の港とは別に2つの港にそれぞれ100隻前後の艦隊が待機している。こちらも、戦艦2隻から3隻。空母5から8隻からなる艦隊であり、どうやら3方向から侵攻し、ムー大陸西岸の制海権を奪取するつもりだろう。

 

「確か、敵の艦隊数は5つですよね?」

「はい。捕虜から尋問した話や、入手した情報を見る限り、現在撃破したのは、バルチスタ沖で撃破した艦隊と、ロデニウス南方海域で撃破した艦隊の2つです。この写真に写っているのは残り3つの艦隊との事で、これを撃破すれば残るは植民地或いは本国の防衛艦隊と船団護衛艦隊、訓練中の艦隊のみとなります」

「…本当なら必ず撃破する必要がありますね」

 

稲荷神は少し考えて言った。

 

「今度の戦いに勝利すれば我々の勝利は確定的です。それに、数が数です。超電磁砲(レールガン)や艦対艦ミサイル、無人機と言ったあらゆる兵器の投入を許可します。私も出陣して奴らの野望を挫いてやりましょう!」

「「「はっ!」」」

 

稲荷神の言葉に自衛隊幹部だけでなく、近衛もお世話係も一緒になって平伏した。稲荷神は感情を無にして『良きにはからえ』的態度でやり過ごしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ー第一文明圏列強神聖ミリシアル帝国帝都ルーンポリスー

 

時は少し前に遡る。ミリシアル8世は、国防大臣アグラからの報告を受けていた。

 

「つまり、我が軍の機甲戦力はみるみる内に減少し、魔導ゴーレムについても魔道士が倒れて木偶の坊になっていると言うことだな」

「はい。おっしゃる通りです」

「そうなった理由については分かっているのか?」

「はい。"ゴルト2"については、敵に撃破された車輌が多いと言うより、激しい戦闘で故障が相次ぎその場での放棄が続いている状態です。魔導ゴーレムについては操作に必要な魔力をコストカットと機動性確保の為に装甲を薄くしていました。それが仇となり敵の魔導砲…野戦砲に撃破されていました。それに加えて、魔道士が敵の銃撃で倒れて動かなくなる事態も発生しています。これらが主な理由だと思われます」

 

説明を聞いて、ミリシアル8世は言った。

 

「では、早急な対策を実行せよ。日本国に技術を乞うても構わん。陸軍がこの様な体たらくでは来たるべき魔帝との戦いでは鎧袖一触になりかねん」

「誠に申し訳ありません」

 

次いで、ミリシアル8世は会議に立ち会っていた魔帝対策省古代兵器分析戦術運用部部長ヒルカネに問う。

 

「現在稼働可能な空中戦艦パル・キマイラは何隻だ?」

「はっ。万全の状態で稼働できるのは1隻だけです」

「そうか。では、それをムー大陸南部軍集団に投入せよ」

「お待ちください!空中戦艦パル・キマイラは数に限りが御座います!もし撃墜されでもしたら…」

 

そう言うと予想していたのか、ミリシアル8世はある書類を侍従を通して渡した。

 

「これは…」

「日本国から提供されたグラ・バルカス帝国の陸上兵器の大まかな性能だ。これならば、パル・キマイラを投入しても問題ないと思うが。どうだ?」

 

一通り書類を見たヒルカネはミリシアル8世に告げた。

 

「この性能が本物なら投入しても撃墜される事は無いと思われます」

「そうか。では決まりだ。パル・キマイラを南部軍集団に投入せよ」

「はっ!」

 

これがパル・キマイラが投入される前の話である。






〜コラム〜

ゴルト2

神聖ミリシアル帝国の魔導自走砲。第二文明圏や第三文明圏と違い、牽引式ではない。だが、原作でも言われているように、神聖ミリシアル帝国には小型でありながら馬力の高い魔導エンジンは無いため、どうしても大型化と機動性が悪くなっている。

モデルは地球防衛軍のエクスプローラーを参照。

"ゴルト"はとある国の言葉で"金"である。

お気に入り登録、高評価宜しくお願いします!

グラ・バルカス帝国の今後

  • 日本国本土近海に軍を派遣する。
  • レイフォル沖制海権を取り戻す
  • その他(経緯をメッセージボックスにて)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。