稲荷様は平穏に暮らしたかった。   作:味八木

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ムー大陸西方沖海戦

 

 

 

ームー大陸西方沖ー

 

鋼鉄の多数の船が東に向かって進んでいた。艦艇はおよそ200隻にも及び、そのいずれの艦もグラ・バルカス帝国の国旗を掲げていた。グラ・バルカス帝国西部方面艦隊と北部方面艦隊による連合艦隊だ。

 

目的はムー大陸西方の制海権を奪取することである。何故なら、ムー大陸に駐留していた帝国の三将であるカイザル大将が率いる東部方面艦隊が日本国艦隊に敗北。司令部の面々は全員が未帰還となり、主力艦艇も未帰還となった。

 

軍上層部が事態を受け止める前に同時刻、ムー国に支援を行っている日本国を打倒し今後のムー大陸戦線を優位にすべく数多の燃料や弾薬を利用した日本国本土攻撃作戦に向かった帝国の三将であるミレケネス中将率いる特務軍艦隊までもが消息不明となった。

 

そうこうしている間にも、ムー大陸戦線はますます悪化し、ムー大陸に上陸したグラ・バルカス帝国陸軍軍人と入植者達が敵の包囲網の中に取り残されてしまった。

 

この状況を打開するべく、外征可能な艦隊を駆使して大規模攻勢を開始したのだ。

 

西部方面艦隊司令官であるハーシー中将は日本国艦隊の実力は疑いようもなく強いと考えていた。思えば、帝国でも1・2を争う練度をもつカイザル大将率いる東部方面艦隊が敗れた時点で疑うべきだったのだ。そこについて、紛うことなき失策だったと思っている。だが、彼は勝機も見つけていた。

 

「日本国は我々と連続で戦っている。連戦で戦えば損耗している筈だ。贅沢を言えば更なる情報が欲しかったが、ない物強請りしても仕方あるまい」

 

実は、グラ・バルカス帝国は日本国との海戦結果を把握していなかった。日本国が発刊している新聞などで把握すれば良いと思うが、日本国は国民が過度に自信過剰になるのを防ぐ為に戦果を過小に公表し、多少の損害を被っている事にしているのだ。グラ・バルカス帝国も更なる情報収集はしていたが、日本国の防諜対策に手を焼いていた。故に、正確な情報を掴めていなかったのだ。

 

西部方面艦隊は日本国艦隊の正確な位置は掴めていなかったが、南部方面艦隊が相手取っているのかも知れない。とにかく、今はムー国の港町ツナタを攻撃しようと意識を改めた。

 

ハーシー中将は攻撃隊出撃命令を出すと、通信を受け取った10隻を超える空母から航空機発艦作業が始まった。約10分程で準備は完了し、航空機は次々と発艦していった。

 

第一次攻撃隊の編成は"アンタレス07式艦上戦闘機改"150機、"シリウス型爆撃機"80機、"ハマル型爆撃機"40機、"リゲル型雷撃機"50機、"スピカ型雷撃機"50機の編成だ。また、対地攻撃と言うことで、雷撃機には魚雷ではなく爆弾を搭載している。その代わり、第二次攻撃隊には敵艦隊接敵の為に魚雷を搭載する予定だ。

 

攻撃隊が発進して暫くして、攻撃隊から連絡が入ってきた。

 

『報告!現在ツナタより西方に敵艦隊を視認!国章から見て、神聖ミリシアル帝国の物と思われる!戦艦3隻、重巡洋艦4隻、軽巡洋艦6隻、駆逐艦5隻、空母2隻、補給艦3隻と思われる!』

 

第一次攻撃隊は艦隊を撃破する程の火力を有していないので、本来の目標通り空爆に向かうとの事だ。その判断は尤もとしつつ、第二次攻撃隊を発艦させるべきか悩んでいると、またもや第一次攻撃隊からの連絡が入ってきた。

 

『報告!現在神聖ミリシアル帝国より攻撃を受けている!敵戦闘機は速い上に途轍もない対空弾幕だ!あの戦艦には近寄るn…』

 

そう言って、第一次攻撃隊隊長からの通信は切れた。思わぬ報告にハーシーは困惑していた。神聖ミリシアル帝国はグラ・バルカス帝国の軍事力をもってすれば勝てない敵ではなかった。唯一警戒すべきは空中戦艦パル・キマイラだが、そんな趣旨の報告はしていない。つまり、通常の海軍戦力の対空砲火に敗れた事になる。事前情報と実際に起こった事が食い違っていた事に彼は違和感を感じていた。

 

「閣下、考えるのは後にしましょう。幸いにも敵艦隊の位置は分かっている上に、第二次攻撃隊の準備は完了しています。出撃のご命令を」

 

参謀長のマールが催促をする。これに、ハーシーは少しハッとしつつも攻撃指示を出した。すぐに空母から攻撃隊が発艦していった。

 

攻撃隊が発艦して約30分後、連絡が入ってきた。

 

『なんだあの爆発は!?大きすぎるぞ!』

『対空弾幕が正確すぎる!』

『敵戦闘機も速い!狙いが定まらない!』

 

そんな悲鳴じみた連絡をして、通信は途絶してしまった。あまりに予想外な結果に司令部の面々は絶句していた。だが、参謀長マールはすぐに意見具申した。

 

「制空権は確保できませんでしたが、戦艦は3隻とこちらの戦艦の数の方が上回ってます。幸い、戦闘機は残っています。敵艦隊への攻撃は出来ずとも我が艦隊の防空や着弾観測程度は可能です。油断は出来ませんが、艦隊決戦を挑むのはどうでしょう?」

「…分かりました。空中戦艦が無い神聖ミリシアル帝国など砲撃戦で蹴散らしてくれます」

 

彼らは、日本国は兎も角東部方面艦隊が撃破した神聖ミリシアル帝国の艦隊など、負ける可能性は考えていなかった。

 

 

 

 

2時間後、グラ・バルカス帝国連合艦隊は遂に神聖ミリシアル帝国の艦隊の艦影を水平線に見つけた。ハーシー中将は更に敵艦隊に近づき、有効射程距離に近づいた時だった。

 

「司令。敵から通信が届いています」

「…通信を繋げ」

「はっ!」

 

「私はグラ・バルカス帝国連合艦隊司令官ハーシーだ。何のようだ?」

『やっと繋がったか。私は神聖ミリシアル帝国混成魔導艦隊デス・バール艦隊司令タキオンである。単刀直入に言おう。降伏せよ。我々と貴様らとの戦力差は圧倒的だ。戦う場合、貴様らを一隻残らず撃沈する。これは神聖ミリシアル帝国皇帝陛下からの最後の慈悲である』

「貴様らの艦隊に我らが栄光たるグラ・バルカス帝国艦隊が負けると思っているのか!?日本国が加わろうと簡単に負ける事はない!それとも何かね?日本国に泣き付いて助けてもらうかね?」

『…何を言っている?参加するのは我が神聖ミリシアル帝国のみだ。更に付け加えて言うなら参戦するのは我が混成魔導艦隊の旗艦である"オリハルコン級魔導戦艦コスモ"で十分だよ』

 

その余りに前代未聞の発言にハーシー中将は思わず参謀長マールに問う。

 

「敵は一体どう言うつもりだ?」

「恐らく政治的パフォーマンスのつもりかと」

 

その言葉に理解を示しつつ、ハーシー中将はタキオンに罵声を言い放った。

 

「グラ・バルカス帝国に降伏はない!自分達の力の無さを悔いて死ね!」

『その言葉、そっくりそのまま返してあげよう』

 

そう言って、通信は切れた。すぐにハーシー中将は行動に移した。そして、早速敵戦艦に主砲攻撃をお見舞いしてやろうと準備をしている時だった。

 

一際目立つ敵戦艦ーオリハルコン級魔導戦艦コスモーとか言う戦艦からロケットと思わしき飛翔体が青く輝く尾を放物線状に描きながら接近してきた。ハーシー中将はこれを神聖ミリシアル帝国の誘導弾と結論づけた。そして、全艦に対空戦闘をするように伝えた。

 

各艦が近接信管を利用した濃密な対空射撃を浴びせる。しかし、飛翔体に命中することなくヘラクレス級戦艦に飛翔体は命中した。凄まじい轟音と爆風が響いた。一堂が驚き目を思わず閉じた。目を開けた時にはヘラクレス級戦艦の姿は無かった。いや、ヘラクレス級戦艦の艦橋と思われる部分は海に沈みつつあった。このヘラクレス級戦艦は北部方面艦隊の旗艦であり、北部方面艦隊司令官であるヴィットーリア中将が乗艦していた。

 

通信長が連絡を取るが、一向に繋がらない。ハーシー中将は呆然としていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

グラ・バルカス帝国と接敵する2時間程前、ムー大陸西岸に多数の軍艦が航行していた。

 

「魔導電磁レーダーに感あり!敵機編隊が接近中!数およそ300。速度は時速約300km、反応及び速度から見てグラ・バルカス帝国だと思われます!」

 

「了解。総員対空戦闘配置」

『総員対空戦闘配置、繰り返す。総員対空戦闘配置』

 

司令官であるタキオンの命令に無機質な女性のオペレートが復唱する。その5分後、対空戦闘配置が完了したと旗艦である"オリハルコン級魔導戦艦コスモ"の艦長であるイレイザが答えた。

 

そして、近未来な艦橋にディスプレイが何個も浮かび上がる。

 

「誘導魔光弾発射筒魔力注入システム異常なし。及び誘導魔光弾管制システム異常なし」

「魔法力電力変換システム異常なし。誘導電波準備完了」

 

各種システムチェックが行われる。そうこうしている内に、敵編隊との距離が30kmを切った。

 

「"地の火"発射準備及び各種対空砲発射用意!」

「了解。"地の火"及び各種対空砲発射準備…エネルギー充填完了」

「何という充填速度の速さだ!」

 

誘導魔光弾は通常の砲撃や装甲強化よりも多くの魔力を使用する。それでいて、魔力充填速度の速さにタキオンは驚愕していた。

 

「続いて座標入力…入力完了!」

「相対速度計算開始…計算完了!」

「全システム異常なし。誘導魔光弾及び対空砲発射用意完了!」

 

全てのシステムチェックが行われた後に、艦長イレイザは司令官タキオンに問う。

 

「司令。敵編隊を殲滅しても宜しいですね?」

「もちろんだ」

「"地の火"、発射!」

 

オリハルコン級魔導戦艦コスモに取り付けられた彼らが"地の火"と呼ぶそれは、青い尾を引きながら空へと飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

神聖ミリシアル帝国が開発した誘導魔光弾の2種類の内の1つ、対空ミサイルである"クウ・ウルティマⅠ型"は射程こそ対艦ミサイルである"ウルティマⅠ型"よりも射程は短いものの、従来の対空兵器から見れば破格の射程距離を誇る。

 

また、グラ・バルカス帝国のグレードアトラスター級戦艦を調べた際に、"近接信管"と言う恐るべき対空兵器を発見した。これを神聖ミリシアル帝国流にアレンジした結果、従来の対空兵器にも近接信管を搭載する事に成功した。だが、魔法文明でも解決できなかったのが反応速度だ。日本国の言い分通り近接信管は音速に迫る或いは超える航空機に対応しきれなかった。故に、"クウ・ウルティマⅠ型"は敵の航空機の中央に向かい、そこで大爆発を起こして纏めて航空機を葬る事にした。

 

そして、取り残した航空機は近接信管付きの対空兵器や魔力計算機を応用した対空砲で仕留めるのだ。魔帝の対空砲火に比べれば精度は悪いが、精密射撃を可能としている。

 

そんな絶望を運ぶ"クウ・ウルティマⅠ型"は敵編隊の中央で爆発。この爆発でグラ・バルカス帝国の約3分の1の航空機が失われた。そして、対空兵器を用意万端にしていたのだが、それは無駄骨だった。何故なら、先程出撃した天の浮舟ージグラント4−は旧式の"ジグラント3"に比べて最早別物と呼んでいいまでに全ての性能が向上しているのだ。音速に迫る…いや入門しているレベルの速度で飛行する航空機にグラ・バルカス帝国のレシプロ機が主導権を握れる訳もなく次々と撃墜されていった。

 

続いてやって来た第二次攻撃隊も同じように撃墜され、神聖ミリシアル帝国が派遣した混成魔導艦隊デス・バールに傷1つ付けることなく全滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、グラ・バルカス帝国艦隊が見えて来た頃、彼らは別兵器を試そうとしていた。

 

「対艦誘導魔光弾、"天の火"発射準備!目標敵戦艦!」

「了解。対艦誘導魔光弾"天の火"発射筒の魔力回路開放。コアへの魔力充填開始…完了!」

「続いて対象座標入力…完了!」

「相対速度計算開始…完了!」

 

「全システム異常なし!対艦誘導魔光弾発射可能です!」

「よし!これより神聖ミリシアル帝国は暴虐なる科学帝国に鉄槌を下す!"天の火"発射!」

「発射!」

 

神聖ミリシアル帝国が独自に開発した技術の結晶がグラ・バルカス帝国へと迫って行く。彼らは必死に回避運動や撃墜しようと試みるが命中することなく、当初の目標通り敵戦艦ーヘラクレス級戦艦ーの主砲部分に命中した。

 

超高速魔導性流体と変化したコアの前方は鋼鉄を貫き、内部に突入する。内部に突入したコアの後方は爆裂魔法による爆圧で魔力融合反応を引き起こし、膨大なエネルギーが顕現した。その力は凄まじいのひと言で、戦艦の厚い装甲を紙であるかのように吹き飛ばし、付近の海水をも吹き飛ばした。猛烈な光と爆風が出現し、戦艦の主砲攻撃の何十倍はあろうかと思われる爆発が現れた。

 

その威力にグラ・バルカス帝国の将兵達は驚き恐れ、神聖ミリシアル帝国の将兵達は驚き喝采をあげる。両者は自分(相手)の兵器の凄さを正しく理解していた。

 

そして、神聖ミリシアル帝国側は勢いそのままに砲撃戦に移行した。オリハルコン級魔導戦艦から放たれる41cm3連装魔導砲によるアウトレンジ砲撃で敵艦を沈めていく。グラ・バルカス帝国も魚雷や砲撃をお見舞いするが、水雷防御を施した上に、グレードアトラスター級戦艦の主砲攻撃をも耐える装甲を有しているオリハルコン級魔導戦艦コスモに有効打を与えることは出来ず、殆どの艦が撃沈された。

 

結果として残ったのは神聖ミリシアル帝国の艦艇のみであった。

 

こうして、神聖ミリシアル帝国は日本国の活躍によって失いかけていた求心力を回復させ、世界に『世界最強は健在』と言う政治的パフォーマンスを轟かせたのだった。






〜コラム〜

自衛隊機

航空自衛隊の機体は史実日本の機体より数段階先に行っているのはご存知だと思うが、何より違うのは機体一つ一つにAIが搭載されているのだ。これにより、スムーズな機体運用が可能になる他、オペレーターもついている。尚、音声は稲荷神の声色そっくりである。これで、航空自衛官の士気が上がること間違いなしだ。

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グラ・バルカス帝国の存亡について

  • 徹底抗戦からの無条件降伏
  • 講話する
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