稲荷様は平穏に暮らしたかった。   作:味八木

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グラ・バルカス帝国は西に傾く

 

 

 

ー第二文明圏グラ・バルカス帝国レイフォル州都レイフォリアー

 

かつて列強最下位のレイフォル国があった国の都は、今やグラ・バルカス帝国の植民地の1つとなっている。そんな亡国の王都ー現州都レイフォリアーの郊外に建てられた統合基地ラルス・フィルマイナでは基地全体が悲哀の雰囲気に彩られていた。

 

「…もう一度言って頂けますか?」

「…艦隊は全滅。援軍は最早来ない」

 

ナグアノの言葉に陸軍守備隊長ファンターレは答えた。事態は最悪と言っても余りある程だ。グラ・バルカス帝国には本国艦隊、東西南北、特務軍艦隊の6つがある。外征可能な艦隊は東西南北と特務軍艦隊、本国艦隊所属の中央艦隊の6つだ。

 

第二次バルチスタ沖海戦で東部方面艦隊が日本国によって壊滅した。その直後には、日本国本土に派遣していた特務軍艦隊が全滅した。そして、今回の海戦では西、北、南の艦隊が全滅したのだ。

 

つまり、グラ・バルカス帝国は外征可能な艦隊を全て失ったことになる。本土にも艦隊はあるが、グラ・バルカス帝国は島国と言う立地から中央軍が高い練度を持っておらず、彼らの任務は本土防衛や植民地防衛であり、主力艦隊の到着まで遅滞戦術をするドクトリンを採用している。

 

そんな艦隊を派遣した所でグラ・バルカス帝国の外征可能艦隊を全て撃破した異世界軍相手に勝利できるとは到底思えない。

 

「これでムー大陸の失陥は確実だな」

 

ナグアノの言葉は現状を端的に表していた。中には、有りもしない希望的観測に縋り、「地上戦で巻き返すべき!」と虚勢を張る者もいた。だが、ナグアノはバッサリ切り捨てる。

 

「制空権を取られてるんだ。延命処置は出来るだろうがそれ以上は無理だろ」

 

今のレイフォル州の現状は悪化の一途を辿っている。既にレイフォル州の北部、東部、南部全ての戦線が押されている。そこから、主に日本国の航空部隊によりレイフォリアを始めとする主要都市に爆撃をされているのだ。"アンタレス改"ですら敵わない速度で飛行する爆撃機と戦闘機に自軍の航空部隊は次々と撃墜されてしまった。

 

今レイフォルに残っているパイロットは質も量も低下している。戦前とは比べ物にならない程に空軍部隊は痩せ細っている。

 

敵の爆撃も激しく、前線に近い街では工場が全て破壊され、レイフォリアでも工場稼働率が目に見えて悪化している。そして何より、敵航空機が悠然と飛ぶ様は植民地人を勇気づかせたようだ。元々、神聖ミリシアル帝国の『世界のニュース』とか言う番組を通して報道していたのもあるが、やはり直に見るのではインパクトが違うのか、レイフォル州に侵攻が始まってから時間が経つにつれて指数関数的に現地人の反乱が頻発している。最早内戦中と言っても過言ではない有様であった。

 

更に、この反乱は更なる補給圧迫を引き起こした。レイフォル州に届けられる補給が激減した他、現地調達をしようにも治安悪化に伴い補給物資を運んでいた列車やトラックが襲撃され、民需、軍需共に生活必需品や軍需品が届かなくなった。つまりは、前線に食糧が届かなくなったのだ。

 

また、レイフォリア周辺にある工場で兵器の生産自体はしている。しかし、前述したように補給が届きにくい上、原料生産や加工をするにしても現地人を雇うわけにもいかず、労働者を入植者の女子供で賄っているのだ。更に、空襲によって工場の多くが爆破されてしまうので、工場稼働率は益々低下していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ー第二文明圏外グラ・バルカス帝国帝都ラグナー

 

ムー大陸より西、パガンダ島やイルネティア島よりも更に西にある海域にグラ・バルカス帝国本土があった。

 

「詳しい説明が出来るのだろうな?」

 

帝都ラグナに聳える帝城の会議室にて、帝国の幹部達が集まって帝前会議が開かれていた。参加者は帝王グラ・ルークスは勿論のこと、帝王府長官カーツや帝王府副長官オルダイカ。そして、軍関係者として軍本部長サンド・パルタスや帝都防衛隊長ジークス少将など錚々たる顔ぶれだ。

 

だが、参加者の表情は皆お通夜ムードであった。こうなっているのは当然、ムー大陸西岸の制海権を奪取するために計画、実行した反攻作戦が失敗し、外征可能な艦隊が全滅したことと、今後の方針を決めなければならないためである。

 

グラ・ルークスの鋭い眼光に、パルタスは竦んでいる。グラ・ルークスはパルタスに問う。

 

「今後の予定を聞かせよ」

 

冷や汗を流しながら、パルタスは言う。

 

「はい。主力艦隊及び航空隊の再建のために兵器生産企業各社に兵器増産指示を出しました」

「それで?」

「はい。兵員を拡充し…」

「余はそのような事を聞いているのではない」

「…」

 

グラ・ルークスにバッサリと言われてしまったパルタスは言葉が出なくなってしまった。彼の情けなさに呆れたのか、帝都防衛隊長ジークスがフォローした。

 

「今回、我が海軍の主力艦隊は日本国の艦隊や航空部隊、神聖ミリシアル帝国の戦艦との交戦によって甚大な被害が出ました。南部、西部、北部全ての艦隊に帰還した艦艇は無いというのが現状です。そんな中ですが、僅かながら日本国の兵器の情報を入手しました。情報によると、誘導弾なる自動追尾ミサイルや光線兵器、対空精密射撃といった物であり、我々の対応能力を遙かに超える兵器を繰り出してきています

 

正直に申しまして、我が軍では日本国の相手は不可能です。今後、異世界軍が我々の勢力圏…下手をすると本土にまで侵攻してくることも予想されます。そのため、本土防衛の見直しと兵器の革新が急務です。そして、ムー大陸における植民地についてですが…軍としては心苦しいですが…見捨てるしかありません」

 

一息ついて告げられた言葉に参加者は息を呑んだ。ある者は驚愕し、ある者は下唇を噛み、ある者は不満の目をジークスに向ける。皆、予想しない言葉であったのは言うまでもない。主戦派の意見を代表して、帝王府長官カーツが怒りを現しながらジークスに問い詰める。

 

「ムー大陸の植民地を…ひいては、我々の同胞を見捨てろというか!帝王陛下の御前でよくもそのような事を言える!軍部は弛んでいるのか!?」

「軍部は弛んでなどいません。しかし、現に艦隊は全滅し、我々には外征可能な艦隊はありません」

「本国艦隊があるではないか!?」

「本国艦隊は植民地防衛や本土の一次的な防衛任務を担っています。練度も高いとは言えませんし、旧式艦も多いです。集めれば300隻程にはなりますが、日本国に勝てるとは思えません。しかも、これを投入した場合、本土も植民地もがら空きになってしまいます。そうなれば、敵の反攻を抑えられません」

 

ジークスの論理的な説明にカーツは押し黙るしかない。彼を援護するように経済産業大臣も言う。

 

「私も本国艦隊を投入する事には反対します。我が国の経済や産業はその多くが植民地からの資源によってまかなわれています。これ以上の植民地の失陥は帝国の経済に致命的な打撃を与えます。最悪の場合、国家財政の破綻が起こり得ます」

 

彼の援護が決め手だったのか、グラ・ルークスはジークスに問う。

 

「分かった。ではジークスよ。本土防衛の見直しと言ったが具体的にどうするのだ?」

「はっ。まず、本国艦隊に所属する各地方隊の警戒態勢レベルの引き上げと、空軍による24時間の哨戒により、敵艦隊の早期発見。そして、海軍の第1潜水艦艦隊も空軍と同じく敵艦隊早期発見に協力してもらいます」

 

グラ・バルカス帝国には3つの潜水艦艦隊があった。しかし、第2・第3艦隊は日本国によって壊滅状態に陥っている。

 

「陸軍ですが、制式採用されたばかりの"2号重戦車ワイルダー"を本国含め、各植民地に配備し敵の侵攻に備えます」

 

"2号重戦車ワイルダー"は日本国が開発した"九五式重戦車ロ号"と酷似した見た目と性能をしている。しかし、この戦車は残念ながら日本国の"12式戦車"やムー国の"イ・ロク式戦車"に比べると力不足であり、効果が薄いのだが、それを知るものはこの場にはいなかった。

 

「海軍ですが、現在東部方面艦隊を再建しています。5割程度まで回復しましたので、訓練も含めて再建を急ぎます」

 

「空軍としては、パイロットの育成が急務です。また、新型機でも対応出来なかった事から航空機製造会社各社に更なる新型機の開発を急がせています」

 

陸軍、海軍、空軍の元帥がそれぞれ意見を述べる。これら意見をジークスが纏めて、グラ・ルークスに奏上した。グラ・ルークスはすぐにこれを裁可した。汚職官僚であったオルダイカやゲスタは不満そうな表情を見せたが、彼にはどうすることも出来なかった。

 

というのも、新型開発を終えたばかりなのに更なる新型機の開発とあっては開発費用が重なり、自分の懐に入る金が少なくなる事を危惧しての事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー第二文明圏グラ・バルカス帝国領レイフォル州要塞ラテ・アルマイー

 

全世界に宣戦布告する事にしたグラ・バルカス帝国は技術が圧倒的に劣る異世界軍が物量に任せて進軍してくるのを想定して旧レイフォル国第二の首都レイリングを守る要衝として建造されたのがここ、ラテ・アルマイであった。

 

現在、レイフォル州には異世界軍がなだれ込んでいる。これ以上の進軍を防ぐ為にラテ・アルマイを絶対国防圏と定め、森と森の間、平地に繋がる部分…所謂扇状地に、山の斜面をも利用して地下にまで至る要塞を作り上げた。

 

この要塞は長射程の回転砲塔を有している。この砲塔は、空から見えにくい様に偽装され、攻撃に耐えられるように厚い装甲を持ち、制空権を失っても敵陸軍に有効打を与えられるように設計されている。

 

要塞の近くにある森を迂回するルートもあるが、それだと大した兵力を運べず、小規模の部隊ではレイリング駐屯地の兵力で対応することが出来る。

 

統合基地ラルス・フィルマイナの東に位置するこの要塞は難攻不落の自信をグラ・バルカス帝国に与えていた。そして、第二文明圏連合軍はこの基地を攻めあぐねていた。

 

そして今日、この要塞を攻め落とす為の会議が前線近くの基地で行われていた。因みに稲荷神はリモート参加である。

 

「では、今回は敵要塞の陥落に向けて議論したく存じます」

 

司会の言葉で会議が始まった。まず、日本国があらゆる科学技術を駆使して要塞の全貌を記した書類を参加者に配った。第二文明圏の面々は日本国の凄さをまた一つ実感すると共に要塞攻略は無謀に思えてきた。何故なら、ハリネズミの様に対空砲が並べられ、強力な野戦砲もある。これではワイバーンを飛ばせば蜂の巣にされ、無理に近づこうとすれば纏めて葬られる。日本国だけは違うのだろうが、第二文明圏の国々にとっては益々無理に思えてきた。

 

しかし、待ったをかけた者がいた。

 

『その要塞、無理に攻略する必要はないのでは?』

 

我らが稲荷神であった。

 

「稲荷神殿。真意を伺っても?」

 

第二文明圏連合軍の軍人が尋ねる。稲荷神は不思議な顔をして言った。

 

『いえ、森を戦車で突っ切ってはどうです?』

 

その言葉に、日本国以外の面々は面食らった。戦車は平地で効果を最も発揮すると言われている。それなのに、森を突っ切るとはどういう事かと思ったのだ。

 

『グラ・バルカス帝国の戦車では難しいでしょうが、我々の戦車やムー国の戦車であれば可能ですよね?』

 

稲荷神が自衛隊幹部に問うと、肯定的な意見が帰ってきた。万が一に敵が態勢を立て直しても戦車の性能差から問題が無いとも言う。他にも要塞攻略の案は出されたが、一番効果的と考えられる稲荷神の案が採用されたのだった。

 

こうして後日、ラテ・アルマイ要塞攻略戦が始まった。日本国陸上自衛隊第2軍とムー統括陸軍第1軍の"12式戦車"が先陣を切り、その後ろから陸上自衛隊第2軍本隊とムー統括陸軍第1軍がラテ・アルマイ要塞付近の森、アールの森に突入。破竹の勢いで進撃し、1時間も経たずに森を突破してしまった。

 

レイリング北東部に現れた連合部隊はすぐさま隊を3つに分けた。日本国陸上自衛隊第2軍はレイリング北側を迂回して北部から西部を包囲し、"12式戦車"からなる先鋒部隊はレイリング南側に突っ切り、南側を包囲。ムー統括陸軍第1軍は東部の包囲を担当する。

 

第二文明圏連合軍がレイリング市内の包囲開始する一方で、稲荷神はラテ・アルマイ要塞全域を狐火で燃やし尽くしていた。これならば、地中貫徹弾を使わずとも後方の憂いなく前方の敵に集中出来る。犠牲が最も少ないプランであった。

 

稲荷神は自衛隊にレイリング開放を任せつつ、目の前の要塞を狐火で炙っていた。

 






〜注意〜

今アンケートをしているのですが、それによってグラ・バルカス帝国編が大きく変化します。アンケートへのご協力宜しくお願いします。

尚、コラムは今回お休みです。

グラ・バルカス帝国の存亡について

  • 徹底抗戦からの無条件降伏
  • 講話する
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