稲荷様は平穏に暮らしたかった。   作:味八木

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要塞と市街戦

 

 

 

ー第二文明圏グラ・バルカス帝国領レイフォル州レイリングー

 

レイフォリア東部に位置するこの都市は嘗てこの土地を支配していた旧列強レイフォル国にとって守りの要衝だった。レイフォル国中部から東部の守りの要衝であった。レイリングの周囲は森や山に囲まれており、大軍が通行するには向いていない。大軍が進軍できるのは道一本のみであり、ここを監視すれば対応が可能だ。

 

さながら、鎌倉の様な地形だったのだ。ここに目を付けたのはグラ・バルカス帝国も同様だった。大軍の進軍を阻み、守りを固めやすい地形のこの地に、要塞ラテ・アルマイを築いていた。

 

レイリングにも5000人程が駐屯しており、軍事施設や病院も完備されている。後方から支援する態勢が整っていた。しかし、それも要塞が機能していたらの話だ。不意に、要塞が青い炎で炎上すると共に、敵戦車がアールの森を抜けてやって来たのだ。

 

予期せぬ襲来に、グラ・バルカス帝国軍は対応が後手に回ってしまった。その隙に、日本国陸上自衛隊所属"12式戦車"の先鋒部隊が街の南側を疾走する。それを阻止しようと、"2号戦車ハウンドⅡ"が砲撃をする。しかし、主砲弾は"12式戦車"に命中しない。それに比べて、"12式戦車"の主砲弾は正確無比な射撃で"2号戦車ハウンドⅡ"を一撃で葬っている。性能差が違いすぎる両者の戦いの結果は目を見るよりも明らかだ。追い打ちを掛けるように"04式自爆ドローン"の攻撃もあるのだから、グラ・バルカス帝国の戦車隊が壊滅するまでは遅くなかった。

 

そんな砲撃戦を繰り広げつつ、包囲網を形成していると、不意に町中から黒煙が立ち昇った。黒煙は戦争中だからおかしな点は何処にもないが、砲撃はまだしていない都市に発生するのは不審な点だ。それに、通りでは多くの者達が集まっている。中には家の窓から身を乗り出して、こちらに腕を振ってくる者もいる。この光景には心当たりがあった。

 

彼らは第二文明圏連合軍に気付くと武装しながら近寄ってくる。だが、第二文明圏連合軍は武器を一瞬構えこそしたが、すぐに警戒を解いた。何故なら、武装した一団の装備はどう見ても農具だったからだ。それに、軍服も着ておらずチグハグだ。この時点で、第二文明圏連合軍は彼らの正体に気づいた。

 

「来てくれたか!解放軍!」

「街の案内なら任せろ!」

「コッチにグラ・バルカス帝国人がいる!引き取ってくれ!」

 

そう。彼らはレイフォルの現地人だ。第二文明圏連合軍はレイフォルの街や村を解放する中で彼らのような反乱勢力と度々協力している。今回もレイリング市に住む現地人が蜂起したのだ。そして、彼らは逃げ遅れたグラ・バルカス帝国人をリンチしていたのだ。

 

彼らの行いに思う所はあるものの、仕方ないと割り切り、第二文明圏連合軍…特にムー国と日本国の現場指揮官が向かうと、そこには軍人では無い入植者と思われる者達が5人捕らえられていた。その内の1人は身なりの良い服装だった物を着ていた。過去形なのは、その服装は所々泥が付き、破けている箇所も多数あるからだ。

 

「この蛮族どもめ!俺は外交官だぞ!」

「やかましい!」

 

この汚らしい服を着ているのは、ヒノマワリ王国から逃げ続けてきた外交官ダラスであった。

 

「分かった。それは追々するとして、取り敢えずこの街に駐屯しているグラ・バルカス帝国軍を包囲殲滅する必要がある。協力してくれ」

「任せときな!」

「案内するぜ!」

「回復魔法が欲しい人は居るかい?」

 

レイフォル現地人による協力で包囲網はスムーズに形成されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

レイリングが速やかに包囲されている一方で、稲荷神の狐火で火炙りにされている要塞に視点を移してみよう。

 

稲荷神は巨大な狐火を要塞のてっぺん付近に着火させると、グレードアトラスター級戦艦を燃やす時とは違ってゆっくりと燃やしていた。これは、レイリングに駐屯しているグラ・バルカス帝国軍の陽動の意味合いがあった。

 

未知の魔法攻撃と思しき攻撃に、要塞ラテ・アルマイに勤める兵士は混乱の一途を辿っていた。青い炎は徐々に基地を侵食し、青い炎に侵された箇所はあらゆる兵器が稼働を停止し、人間は悶えている。

 

要塞長コルヒ・ミールはこの前代未聞の事態に対応出来ずにいた。それも当然だ。こんな魔法攻撃をどうやって止めればいいのだろう。術者を止めようにも何処にいるのか分からないと来た。

 

対応が後手に回っている内に要塞ラテ・アルマイの機能は停止に追い込まれていた。要塞ラテ・アルマイの装甲は大型榴弾砲の攻撃にも耐えられる程だ。しかし、表面を伝ってやって来る炎など誰が想定しようか?確かに、火災発生を想定した対策も完備されている。しかしそのどれもが通じない。

 

要塞に勤める者達は我先にと逃げ出した。兵器類で対応出来ない、対応策が何もかも効かない相手にどうやって戦えば良いのだろう?誰も焼け死にたくないのだ。要塞ラテ・アルマイはその機能を完全に停止していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

レイフォル第二の都市レイリングの包囲戦は順調に進んでいた。資材を要塞に集中していたのが仇となり、あっという間に第二文明圏連合軍が浸透、レイリング市民の協力もあってあっという間に解放に成功した。

 

第二文明圏からしたら、めでたしめでたしだが、レイリング市民からすれば、これは始まりに過ぎなかった。グラ・バルカス帝国は植民地人を入植者のストレスの捌け口にし、奴隷同然でこき使っていた。それが罷り通っていたのは、グラ・バルカス帝国がレイフォル国との戦争で勝ったというのもあるが、レイフォル国とグラ・バルカス帝国との軍事技術の差が歴然だった事が挙げられる。

 

グラ・バルカス帝国との軍事技術の差を思い知ったからこそ、レイフォル国の住人はグラ・バルカス帝国を憎んでも行動に移すことが出来なかった。しかし、今はどうだろうか?

 

嘗てレイフォル国のワイバーンロードをアッサリと撃墜したグラ・バルカス帝国の飛行機械は姿を見せず、毎日目にするのはムー国の機体だ。(日本国の航空機は高高度にいて彼らは見つけられていない)毎日の様に来るムー国の機体、第二文明圏連合軍の噂、イルネティア島が奪還された噂。どれをとっても彼らを勇気付ける物ばかりだった。

 

だからこそ、彼らは自分達の国を取り戻すべく決起したのだ。そして、その夢は叶いつつある。だが、彼らの心の内には激しい憎悪があった。

 

彼らは逃げ遅れたグラ・バルカス帝国人を見つけては捕まえて、今までの鬱憤を集団リンチで晴らしていった。過激な者の中には鈍器や刃物で殴る斬りつけるといった行為をする者までいた。

 

彼らは、嘗て自分達を弄んできたグラ・バルカス帝国人達と同様の行為をしていた。感情面では理解出来るが、第二文明圏連合軍の一部からは『どちらが蛮族か分からない』と言った意見まであった。しかし、勝てば官軍負ければ賊軍と言うように、この行為は黙殺された。

 

日本国は出来る限りこれらの行為を止めるように促した。表面的には収まったが、裏ではこれらの行為が今まで解放してきた街や村でも起こっていた。日本国政府及び自衛隊は稲荷神の心が傷つかない様に報告することはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

悲しい事故もあったレイリング市解放は無事成功に終わった。そして、日本国は思わぬ情報も入手していた。それは、燃料である。実は、グラ・バルカス帝国の燃料備蓄は少なかった。

 

何故なら、すぐに片が付くと考えていたグラ・バルカス帝国は燃料の多くを軍事用に使用していたのだ。故に、民生品として使われるガソリンが回されず、本土では木炭を用いたバスが運行している程であった。これは、

レイフォルが侵攻を受ける前から起きていた。しかし、レイフォルが侵攻され、レイフォルで運用する軍事用の石油も採掘が難しくグラ・バルカス帝国は慢性的な燃料不足が起きていた。そして今回、日本国が調べた戦車には植物油が使われていた。それも精度が悪く、精製も粗い。

 

つまりは、石油が使えず、精製設備も満足にない事を示していた。前線部隊ですらこの有様なのだ。前線でもないレイフォリアではどうなっているかなど、報告を聞いた稲荷神にも大まかに予想はついたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ー第二文明圏グラ・バルカス帝国領レイフォル州都レイフォリアー

 

本来、グラ・バルカス帝国の植民地の1つとして大いに栄えているはずのレイフォリアは違った様相を見せていた。言わずもがな第二文明圏連合軍によるレイフォル侵攻のせいである。

 

現在、ムー大陸のグラ・バルカス帝国の植民地勢力はレイフォリアを中心とする西方の僅かな地域にまで縮小してしまった。その影響はレイフォリアにも大き過ぎる影響を齎していた。

 

まず、殆どのお店がシャッターを閉めている。事実上の閉店である。そして、火の手があちこちで上がり、道路では人の死体が倒れ、その上を銃弾や魔法が飛び交っていた。

 

旧レイフォルの現地人が武装蜂起したのだ。グラ・バルカス帝国の植民地支配は強権的であり、東の旧列強パーパルディア皇国と似たような恐怖支配をしていた。恐怖と言うのは便利ではあるが、一部が崩れるとあっという間に全て崩れてしまう脆い支配体制でもあるのだ。

 

レイフォル人のグラ・バルカス帝国人に対する感情は最悪の一言であり、グラ・バルカス帝国の苦戦、第二文明圏連合軍のプロパガンダ、外国組織からの支援。独立の機運を更なる武力で弾圧、支配を強めるグラ・バルカス帝国に我慢の限界を迎えた彼らは決起したのだ。

 

レイフォリアの一角から始まった武装蜂起はあっという間に広がり、"レイフォル解放軍"と名乗り規模を広げていった。彼らは町中や廃墟、下水道などを利用し、魔法、火炎瓶などを多用したゲリラ戦を展開した。その噂は電光石火の如く広がり、各地で反乱が発生した。

 

各地で発生する反乱に、グラ・バルカス帝国の統治体制はガタガタになっていた。帝国軍は外敵と内敵の2つを抱えることになった。現在、日本国、ムー国、神聖ミリシアル帝国によってムー大陸西岸の制海権を奪われている以上、本土から兵士、武器、食糧、医薬品、燃料が一切届かない。全てを現地調達する必要がある。略奪に走ると、略奪にあった者達がレイフォル解放軍と合流する悪循環も発生していた。

 

そのため、兵士の士気は低く、兵器の質も低下し、戦闘継続も覚束ない。それに加えて、日本国、ムー国、神聖ミリシアル帝国は昼夜問わず飛行機を発進して橋や鉄道と言ったインフラを破壊している。グラ・バルカス帝国もムー国と神聖ミリシアル帝国には多少の損害を与えたが、焼け石に水であった。

 

結果、グラ・バルカス帝国軍はインフラと補給線を断たれ、制空権を奪われ、分断された部隊が各個撃破される憂いに立たされていたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

レイリング市を解放した数日後、稲荷神はリモートで日本国政府と会議を行っていた。

 

「それでは、対グラ・バルカス帝国における戦後の対応について会議を開始します」

 

総理大臣の言葉で、会議はスタートした。

 

「今回、稲荷神神様を筆頭に自衛隊、そして第二文明圏の国々によってムー大陸から彼らを叩き出す事が確実となりました。そこで、グラ・バルカス帝国に対して降伏を突きつけるに当たり、条件を決めたいと思います。

 

では、1つ目に、グラ・バルカス帝国本土へ攻撃、本土決戦を行う案です。

 

2つ目の案にレイフォル以西を彼らの勢力圏とする条件講和。

 

3つ目の案は無条件降伏です。

 

条件講和の場合は我々に対して関税優遇措置や鉱山資源採掘などが条件ですね。無条件降伏の場合は面倒ですが、何処かの国が占領統治する必要があります。それは別の国に任せるとして、軍事研究…特に飛行機の開発研究の禁止でしょう。他にも、軍隊の解散が挙げられるでしょう」

 

自衛隊別班高官の言葉に皆が吟味する。この場にいるの者は知らないが、無条件降伏の際に突きつける条件は史実日本に突き付けられた条件と瓜二つだった。しかし、それを知る者はこの場にはいない。稲荷神は知っているが、歴史の成績は悪いので知らないも同義である。

 

「財務省としては、今回の戦争は戦費を多数使っています。レーザー兵器などで節約こそしていますが、弾丸の消費やミサイルなどの兵器の消費が著しいです。これ以上の戦争は国民生活にも影響が出かねません。講和には賛成です」

『そうですね。早くこの戦争を終わらせるのには賛成です。しかし、グラ・バルカス帝国が応じる物でしょうか?』

「普通に考えれば受理するのが普通です。彼の国に戦争する余力などありませんから」

 

グラ・バルカス帝国がパーパルディア皇国の様に徹底抗戦する考えを予想こそしていたが、近代国家がそんな愚かな選択を取るなど考えていなかった。それは、合理的な考えから来るものだった。

 

『では、取り敢えず無条件降伏を突き付けてみて、そこから段階的に降伏の条件を落とす方向でいきましょう』

 

稲荷神の言葉に皆が頷く。外務省は今回の会議で決まった降伏文書を作成し、同盟国各国に連絡、会議の調整に追われるのだが、稲荷神には関係のない話だ。

 

 

 

 

 






〜コラム〜

無条件降伏

無条件降伏で決められた条件として、軍事研究の禁止、飛行機の開発禁止、軍隊の不保持の他、国家元首の退位が挙げられる。これがグラ・バルカス帝国に届けられるのはまだ先の話である。

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グラ・バルカス帝国の存亡について

  • 徹底抗戦からの無条件降伏
  • 講話する
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