ー第二文明圏グラ・バルカス帝国領レイフォル州ダイジェネラ要塞ー
レイフォリア陥落によって、グラ・バルカス帝国の最後のムー大陸勢力圏であり最前線のダイジェネラ要塞。
この要塞はダイジェネラ山と言うレイフォリア南部の小高い山1つをくり抜いて要塞化しただけに防御力は高い。山肌に沿って張り巡らされた榴弾砲や高射砲、対空機銃は全て半分が地下に隠れて爆撃から守っており、砲門は偽装の為に茶色く塗装し、二重三重の防火壁で守られている。これは、敵ワイバーンが火攻めを行ってきた時の為の対策だ。
内部には、何ヶ月にも及ぶ食糧備蓄と砲弾や弾薬、豊富な地下水によって何ヶ月もの籠城戦が可能だ。これだけでも、容易に落ちない事が分かるのだが、兵士の士気は低かった。
「統合基地ラルス・フィルマイナ、応答ありません」
「あれだけの爆発音だ。艦砲射撃によって全滅したとみるべきだろう」
陸軍大佐ランボールが言う。そう、つい先程から響いていた爆発音が止まったのだ。これを受けて、彼はムー大陸におけるグラ・バルカス帝国の勢力圏がここ、ダイジェネラ要塞だけになったと判断した。
グラ・バルカス帝国は圧倒的な軍事力で第二文明圏外を征服、その後パガンダ王国やレイフォル国、ついでとばかりにイルネティア王国までも滅ぼした。その後、ムー大陸での戦線押し上げで植民地を拡大させていった。これは、グラ・バルカス帝国が周辺国との圧倒的な軍事力の差があったからだ。
しかし、第二次バルチスタ沖海戦から全てが変わった。敵である日本国はなんと、帝国の誇る当時最新鋭機の"アンタレス07式艦上戦闘機"すらも追いつくことの出来ない速度で飛行し、限界高度よりも更に上を行く戦闘機や、誘導弾、不可視の攻撃によって帝国最高峰の練度を誇る東部方面艦隊を打ち破り、勢いそのままムー大陸への補給拠点だったイルネティア島、パガンダ島を占領されてしまった。
それ以降、輸送艦は日本国の潜水艦によって悉く沈められ、ムー大陸でも敗北に次ぐ敗北を重ね、今やここまで追い詰められたのである。
ランボールは忙しく指示を飛ばしていた。そんな中、避難してきていた外務省の面々が入室してきた。
「この要塞は持つのでしょうか?」
そう言うのは、フォーク海峡戦で捕虜となり、外交官と言う理由で解放されたシエリアであった。
「ええ、持つか持たないかで言ったら持たないでしょうが、我々も死力を尽くします」
「ええ。私も覚悟を決めています。皆さんにすべてを委ねます」
ランボールはシエリア外交官を助けたいと思っていた。しかし、ランボールの協力者はグラ・バルカス帝国に付くより、第二文明圏連合軍に付いた方が良いと考えたのか、音信不通となっている。最早、助ける手立てはない。
シエリアも、上からの命令で全世界に宣戦布告したが、宣戦布告をしたのは彼女だ。宣戦布告によって多くのグラ・バルカス帝国軍人が亡くなっている。シエリアはその責任の為に残るつもりだった。
◆
次の日、グラ・バルカス帝国陸軍ディーエム二等兵は要塞の外にある監視塔で見張りをしていた。この監視塔勤務は危険だ。何故なら、要塞の外、尚且つ目に付きやすいため、狙撃の危険が伴うからだ。
だが、彼がそんな任務をしているのは自国に対する愛国心故の行動だった。
そんな理由で監視塔勤務を続けていると、彼は東の空に黒いシミのような物を見つけた。ディーエムは双眼鏡を手に取り、黒いシミを観察する。
それは、僅かに上下運動を繰り返していた。その黒いシミはやがて竜の形をし、騎士の輪郭が見えるようになる。
「竜騎士だと!なんて数だ!」
真っ青になったディーエムは上官に伝達する。
「敵襲!敵襲!沢山のワイバーンだ!」
「なんだと!?信じられん!」
上官は通信機をひったくると、慌てて司令部に伝達する。
「ワイバーンの大編隊です!」
『馬鹿者!具体的な数を言わんか!曖昧な報告では分からん!』
「目測ですが、5000を超えています!」
『馬鹿な!ワイバーンの航続距離は短い!それほどの数、途轍もない量の滑走路がいるぞ!』
報告を聞いたランボール大佐以下司令部もあまりの数に驚きを隠せない。彼らの前提知識として、ワイバーンは大飯食らいで運用コストが高く、離着陸に必要な滑走路の整備がいる。そんな素振りはなかった為に、彼らは驚いていたのだ。
グラ・バルカス帝国の常識では考えられない物量で押し寄せてくる敵の迎撃の為に要塞内ではサイレンが鳴り響き、兵士達が配置につく。
ワイバーンは、要塞にある対空砲の射程圏外を旋回しながら山を取り囲む。時折聞こえるワイバーンの叫び声が兵士達の士気を下げる。そんな中、ディーエムは南の空からゴゴゴゴゴ…と音を出すある物を見つけた。
その方向には、金属製の巨大リングが空を飛び此方に向かって来ている。この巨大なリングが何かを知らない兵士は、グラ・バルカス帝国にはいなかった。
「こちら監視塔!南より、大型の飛行物体が接近中!あれは…ミリシアルの空中戦艦パル・キマイラです!数1、距離10km!」
この報告に、司令部は更にパニックになる。陸軍にとって空中戦艦パル・キマイラとは絶対に撃墜することが出来ない兵器だ。司令部や一般兵に至るまで覚悟を決める。
そして、戦端が切って降ろされた。
◆
神聖ミリシアル帝国が日本国の技術を真似て生産した新型魔信による管制システムで1000以上を超えるワイバーンを統制する。グラ・バルカス帝国の対空砲火によってワイバーンが撃墜される。しかし、母数が多いので焼け石に水であった。
そして、現場の判断の元、ワイバーンの導力火炎弾による一斉放火が行われた。一発一発の威力は低いが、数が数だ。圧倒的な数の火炎弾を撃ち込まれたダイジェネラ山は忽ち山火事が発生した。
しかし、グラ・バルカス帝国側も森林火災は予想の範疇であり、防火壁を閉じれば対処できる話だ。しかし、空中戦艦パル・キマイラの魔導砲が対空砲目掛けて火を噴いた。
グラ・バルカス帝国は、空中戦艦パル・キマイラが攻撃をするのを見て急いで対空砲座の防火壁を閉じようと試みるが、遅かった。神聖ミリシアル帝国…と言うか空中戦艦パル・キマイラには魔導電磁レーダーの他に他国でも運用されている魔力探知レーダーがある。魔力探知レーダーは、ー如何なる国の魔力探知レーダーよりも高性能だがー、生物の持つ魔力反応を探知できる。1個体が持つ魔力量はたかが知れているが、対空砲座は複数人で運用するので魔力集団として探知は可能だ。魔力集団が感知できる場所に正確に巡洋艦クラスの主砲攻撃を放ったのだ。
砲弾は多くの対空砲座に命中し、兵士を殺傷する。この攻撃で多くの対空砲座が沈黙していく。そんな地獄の様相を呈する中、ダイジェネラ要塞は激しい揺れに見舞われた。
何故なら、日本国の爆撃機がイルネティアにほど近い基地から発進して、ここダイジェネラ要塞に地中貫通弾ー所謂バンカーバスターーを撃ち込んだのだ。
撃ち込まれた地中貫通弾は地下60m付近まで貫徹し爆発。ダイジェネラ要塞の上層部から中層部に至る地点は壊滅。下層部に至っては上部構造の壊滅により機能停止に追い込まれた…訳ではなかった。要塞と言うだけあってしっかりと構造を作っていたからだ。しかし、だからと言って無事と言う訳ではなく、機能は半分以上停止する事態になっている。だが、司令部は無事であった。更に、対空砲が上がらない事を確認した神聖ミリシアル帝国の空中戦艦パル・キマイラは要塞直上に接近し、超大型魔導爆弾ジビルを投下した。
しかし、ジビルは謂わば魔法版燃料気化爆弾だ。貫徹弾では無いので、上部構造を破壊した程度であり効果は振るわなかった。これでも要塞の機能が動いていることを無線傍受で確認した日本国は、稲荷神様にお願いして要塞を燃やそうとも考えた。
しかし、そうはならなかった。何故なら、エモール王国より援軍の申し出があったからだ。エモール王国が何を出してくるのかは分からないが、折角だからお願いしようと言うことで、稲荷神はオオトリとなった訳だ。
◆
ニグラート連合の竜騎士であるダールは焦っていた。日本国の爆撃によって要塞から放たれる対空砲火は見て分かる程に薄くなっていた。しかし、まだ要塞は崩れていない様で、今後の作戦のためにもムー大陸からグラ・バルカス帝国勢力圏を完全に排除するつもりでいた。
しかし、後もう少し火力が足りない。そう焦りを募らせていると、魔信から声がした。
『ふむ、貴様らにしてはよく頑張った方だろう。後は我に任せて下がれ』
脳裏に語り掛けてくるような威厳ある声が魔信から響く。ダールが乗るワイバーンは彼が指示を出す前に一目散に逃げ出した。ワイバーンはダールの指示を全く聞かず、一目散に急降下する。よく訓練されたワイバーンが此方の指示も聞かず、本能のままに逃げ出すなどよっぽどの事だ。
その時だった。東の空からワイバーンより重々しい羽ばたき音が聞こえた。ダールがその方向を見るとワイバーンより遙かに大きい、頭から尻尾まで1kmはあるかと思われる巨大な龍が羽ばたいていた。その姿は黒く、目は鋭く輝いている。この巨大な龍を鷹と称するならばワイバーンは蚊にしか見えない。それ程の大きさであった。
そして、この龍をダールは知っていた。
「あれは!もしや極みの雷炎龍か!?三龍の内の一体が来たというのか!?」
魔信からまた声がする。
『我は誇り高き竜人族のエモール三龍が一人、イヴァンである。竜王ワグドラーン様の御心により、戦場に遣わされた。お前たちは良く戦った。そして運が良い。インフィドラグーンの力の片鱗をその目に焼き付けるがよい』
その場にいた竜騎士は皆、極みの雷炎龍の戦いが見られることに感謝した。
神話にはこうある。かつて龍神達が治める国、"インフィドラグーン"と呼ばれる国があった。インフィドラグーンは多数の龍を使役しており、あの古い魔法帝国ラヴァーナル帝国と対立していた。その魔法帝国との戦争…龍魔大戦が起こったのだ。
インフィドラグーンは空を埋め尽くすほどの極みの雷炎龍を使役していた。魔導技術こそ魔法帝国の方が優れていたが、基礎能力は龍の方が優れていた。彼らは技術とフィジカルで戦争をしていたのだ。
しかし、最終的にはインフィドラグーンの都市が魔帝のコア魔法によって消滅し、竜人族は各地に散った。その竜人族が再び集まって出来た国が列強エモール王国だ。
エモール王国では極稀に古龍を操る天才が現れる!その天才の中でも一握りのものが、亜神龍たる極みの雷炎龍を操る事が出来るのだ。現在、エモール王国には亜神龍を操る事が出来る天才が3人いる。彼らは"三龍"と呼ばれ、その強大な力故に本土防衛以外では戦闘を禁じられている。
しかし、竜王ワグドラーンの指示によりこの戦場に遣わされたのだ。竜王ワグドラーンとしては、イルネティア王国に神竜がいる事実に驚き、同地を解放し、再会を果たさせてくれた日本国に感謝し、彼を派遣したのだ。出来ればグラ・バルカス帝国を滅ぼしてイルネティア島にいる神竜様に安心して頂こうとしたが、流石に航続距離などの問題で断念した。
閑話休題
モーセの海割りの様にイヴァンの前にいたワイバーン達が左右に割れる。多くの竜騎士達のワイバーンが操作不能状態に陥り、極みの雷炎龍から逃げる。パル・キマイラも砲撃を辞めて退避している。
「あれがエモール王国の切札ですか!?ミラさんといい勝負しそう!」
厨二心とオタク魂を揺さぶる形状の龍に稲荷神のテンションもMAXだ。
「フフフ…あれがグラ・バルカス帝国の要塞か…小さきものよ。科学か…所詮は人のお遊びの領域を出ない。下等生物め…龍魔大戦で活躍した我らの力を思い知るがいい」
イヴァンは要塞を見て呟く。
「エモールをみくびったお前たちの罪、死をもって償え」
巨大な龍は空中は空中で静止し、口を大きく開ける。光弾が口の前に現れ、太陽の様に光り輝き、雷が弾を包む。魔力によって雷炎龍の力が凝縮されているのだ。何億ボルトにも達する電力で形成された弾は内部の空気流を活性化させる。
強大な粘性発熱が起こり、分子は原子に分解されそして原子から電子が飛び出してプラズマ化する。それを強大な電磁力でコア部分に固定し、アーク放電が出来る直前の恐ろしいほどのエネルギーを秘めた球ができあがった。
雷と魔力によって構成された圧縮ブレスが放たれようとしていた。
この極みの雷炎龍の存在に、司令部は蜂の巣をつついた騒ぎに陥っていた。
「大きい!大き過ぎます!全長が1kmはあります!」
「対空砲は何をサボっている!」
「対空砲を使用するには防火壁を開ける必要があります!そもそも、上層部は壊滅状態で対空砲を撃つ余裕などありません!」
「ああ!そうだったな!幸い、一酸化炭素中毒の心配は敵さんが開けてくれた穴で気にする必要はない!動ける対空砲は巨大龍を撃破せよ!」
ランボール達、司令部の面々を嘲るように極みの雷炎龍の咆哮が響き渡る。それはレイフォリア市民にも届き、恐怖に震えるもの、立ちすくむ者、恐怖を押し殺して目に焼き付ける者、三者三様であった。
レイフォリアの民は望む、望まないに関わらず、歴史に残るであろう戦いを経験する。
光弾エネルギーは空気を震わせ、甲高い音を出す。一方、ダイジェネラ要塞の兵士達はランボールの指示のもと、一酸化炭素中毒の恐れから閉めておいた防火壁を開けて対空砲を撃とうとする。しかし、それは間に合わなかった。
魔法エネルギーが解放され、雷が山を包む。解放された高温高圧のプラズマは、その形を雷と巨大な火災旋風へと姿を変えた。
山に火災旋風が発生し、岩石は固体を保てず液状化している。煙が晴れるとそこには、溶岩と化した山の姿があった。
レイフォリアの民は絶句する。グラ・バルカス帝国の防火壁も周りの岩石が溶けてしまっては無力であった。要塞内部の空気が一気に排出され、急激な気圧変化で肺が潰れる。それに加えて、溶岩が流れ落ち、グラ・バルカス帝国兵は骨すら焼ける。
やがて、山自体がその形を保てず轟音と煙を立てて崩れ落ちる。要塞下部にいた司令部のランボール以下の面々やシエリアは生き埋めと火刑に処される事となった。
稲荷神は、エモール王国の力に興奮していた。ダイジェネラ要塞は陥落し、ムー大陸からグラ・バルカス帝国は駆逐された。このニュースは世界を駆け巡り、人々に希望を与えたのだった。
〜コラム〜
極みの雷炎龍のブレス
極みの雷炎龍のブレスは本文の通りプラズマ化させるのだが、アーク放電による物質が原子にまで破壊され、原子は原子核と電子に破壊され、原子核は陽子と中性子に破壊され、陽子と中性子はクォークに破壊され、クォークは瞬時に結合して電子を吸収して、原子へと戻る。この工程でプラズマが生じている。
という風にしようとも考えたが、魔力で固定すると書かれていたのでプラズマを半永久的に発生させると言う案もあったが、今回の案は没となり、原作のままとなった。
グラ・バルカス帝国の存亡について
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徹底抗戦からの無条件降伏
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