稲荷様は平穏に暮らしたかった。   作:サード・アイ

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アンケート結果から、徹底抗戦からの降伏と言う流れになりました。そのため、今回はその説明回です。


決断

 

 

ー第三文明圏外日本国首都東京ー

 

ムー大陸における最後のグラ・バルカス帝国勢力圏であるダイジェネラ要塞が陥落した翌日、日本国首脳陣はグラ・バルカス帝国の今後についての会議が開かれていた。前回の会議ではグラ・バルカス帝国に対して降伏を促すのか講和を促すのかを議論した。

 

その結果、まず無条件降伏を突き付けその後条件を緩める…所謂、譲歩的要請法(ドア・イン・ザ・フェイス)を行う予定にすると決めた。

 

だが、これはあくまでも予定だ。現在、ムー大陸や神聖ミリシアル帝国と言った各国に対して降伏や講和に関する会議をしたいと調整を行っている。そして、今回の会議はグラ・バルカス帝国の現状確認とそれに伴う予定変更の是非を確認するものであった。

 

「稲荷神様より伝達です。ムー大陸におけるグラ・バルカス帝国の最後の拠点であったレイフォリアの要塞攻略が完了したとのことです」

 

別班隊長の言葉に、政府首脳は胸をなで下ろした。そんな中、閣僚の一人が別班隊長に問う。

 

「ところで、グラ・バルカス帝国がムー大陸に再侵攻する可能性はあるのかね?」

「将来はともかくとして、当分再侵攻は起きないと思われます」

「その根拠は?」

「此方の資料をご覧下さい」

 

そう言って、稲荷神のお世話係が資料を配り始めた。稲荷神が居ない現在、彼らは稲荷神の住居の掃除洗濯やこういった雑務を行っている。

 

「こちらは、確認できる限りのグラ・バルカス帝国の被害を集めたものになります」

 

資料にはこの様にあった。

 

《グラ・バルカス帝国の被害報告》

戦艦…推計40隻以上

正規空母…推計40隻以上

軽空母…推計30隻以上

重巡洋艦…推計70隻以上

軽巡洋艦…推計130隻以上

駆逐艦…推計360隻以上

潜水艦…推計150隻以上

輸送船…推計150隻以上

 

超重爆撃機含めた戦闘機、雷撃機、爆撃機の被害

…推計4000機以上

 

《人的被害》

捕虜、未帰還含めた人的被害…推計350万以上

 

「これは…目を覆いたくなる被害ですな…」

「ええ。我々に置き換えたら海上自衛隊は何回か壊滅していても可笑しくありません」

「しかも、これは海軍と空軍の被害だけでしょう?陸軍も含めると洒落にならない被害です」

 

リモートで会議に参加していた稲荷神は率直に思ったことを言った。

 

『これ程の被害を立て直せるんでしょうか?』

「無理です」

 

別班隊長はすぐに断言した。

 

『どうしてそう言い切れるのですか?』

「理由は幾つかありますが、1つ目は軍艦の建造期間です」

 

別班隊長は言う。

 

「大和型戦艦は約4年、長門型戦艦ですら3年3カ月、アメリカの月刊空母と呼ばれるエセックス級でも1年はかかります。これは、アメリカの広大な国土に広がる造船所や膨大な資源や人的資源、金が用意できるアメリカだからこそ月刊空母と言う離れ業が出来るのです。アメリカとグラ・バルカス帝国では工業力や国土に差があります。月刊空母等という離れ業は不可能です」

 

つまり、戦艦どころか空母ですら最低でも1年は掛かると言う事だ。更に、乗組員の訓練も必要になる。1年や2年ではムー大陸に再侵攻する事など不可能と言う証明であった。更にそれを裏付けるように別班隊長は第二文明圏の地図をスクリーンに投影した。

 

「2つ目にアメリカとグラ・バルカス帝国の国土と人的資源の違いです。アメリカの工業力は目を見張る物があったのはご存じだと思いますが、グラ・バルカス帝国が同じ事が出来ない理由があります。ご覧いただたいているのは、ムー大陸西岸から第二文明圏外を中心に撮影した衛星写真です」

 

そう言って、ポインターをひとつの陸地に当てた。それは、島にしては大きいが、大陸にしては小さい陸地が示されていた。

 

「意外に小さいですね」

「いえ、これは縮尺のせいです。実際にはアルゼンチン位の大きさです。また、人口は1億も無いと考えられます」

 

その言葉に閣僚は驚く。良くそれであれ程の軍量を保てたのだと。

 

「良くそれで財政破綻しなかった物だ」

「恐らく、経済の主要部分を植民地からの収奪で賄っていたのでしょう。しかし、我々の攻勢で経済が大打撃を受けて、ハイパーインフレが起こっても可笑しくありません」

 

稲荷神が呟く。

 

『なるほど、それで立て直しは無理と言ったのですね』

「はい。立て直しには最低でも10年は必要です。しかし、それは主力艦である戦艦や空母の頭数を揃える時間であり、そこから乗組員や航空機生産、パイロットの育成、主力艦の護衛である軽巡洋艦や駆逐艦を再建し、訓練を施し、艦隊行動が出来るようにしなくてはなりません。これら全てをするとなると、20年以上掛かっても不思議ではありません」

 

そう続けて投影されたのは地図に書き込みを加えた物だ。

 

『この赤丸はなんですか?』

「これは、敵海上戦力の分布とその規模を表しています。しかし、その実態は比較的旧式艦で構成されています。ですので、別班としては植民地防衛の艦隊であると判断しています」

『と言うことは…敵さんには攻勢能力は無いという事ですか?』

「はい。捕虜へ尋問もしましたが、もうグラ・バルカス帝国にはそんな余裕は無いと判断します」

 

稲荷神は安堵のため息をつく中、閣僚の一人が言う。

 

「失礼。この資料にある戦死者、行方不明者、捕虜を含めた人的資源が失われたとなると、グラ・バルカス帝国の経済状況はどうなるのかね?」

「はい。それについては財務省の方、宜しくお願いします」

 

そう言って、財務大臣が立ち上がって言う。

 

「はい。これ程の人的資源が失われたとなると、生産年齢人口が大幅に減っていると考えるべきでしょう。恐らく、ここには集計されていませんが、身体欠損に至った者もいるでしょうから、彼らに対する社会福祉も必要になります。具体的には工業製品の圧迫や品薄、植民地投資による不良債権が投資家や銀行を襲います。そうなると、経済が圧迫を受けてインフレが起きるでしょう。そこに先ほども述べたように社会福祉費用も入りますから更に経済を圧迫するでしょう」

 

悲惨。その一言に尽きるだろう。皆がハイパーインフレになった末路を考えていると、稲荷神が告げる。

 

『それで、彼らが降伏を選ばなかった場合どうなるのですか?』

「その時は恐らく彼らの本土攻撃しかないでしょう」

『と言うことは帰れるのは当分先ですか…はぁ』

 

本日2度目のため息をつく稲荷神様であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ー第二文明圏外グラ・バルカス帝国帝都ラグナー

 

帝都にそびえ立つ城の中で、帝前会議が開かれようとしていた。議題はもちろん、ムー大陸の失陥である。出席者は以下の通りだ。

 

・帝王グラ・ルークス

・帝王府長官カーツ

・帝王府副長官オルダイカ

・軍本部長サンド・パスタル

・帝都防衛隊長ジークス少将(帝国の三将)

・外務省長官モトロフ

・外務省事務次官ロジャー

・戦時外交官ゲスタ

・経済産業省長官ジマア

・征統府長官シセル

 

を始め、国の重鎮や軍関係者が集まっていた。

 

「それでは帝前会議を始めます。サンド・パスタル!現状をどう考えているか説明してもらおう!」

 

会議が始まって開口一番の怒声である。サンド・パスタルは軍を取りまとめる責任者として胃に穴が空きそうな身体に鞭打って言う。

 

「ムー大陸の植民地を取り戻すのは不可能です。現在、輸送船とそれを護衛する輸送艦隊なら用意は可能です。しかし、敵艦隊を撃破する主力艦隊の整備が追いついていません。現在、一番整備が進んでいる東部方面艦隊ですら完全とは言えません。また、訓練も足りないため、ムー大陸再侵攻は不可能です」

「では、我々が植民地に投資した金はどうなるのだ!?何より、わが帝国の威信が地に落ちているではないか!?」

 

帝王府長官カーツの怒りはおさまらない。

 

「正直に言えば、回収を諦めるしかありません」

「ですが、パスタル殿。現にわが帝国は経済が壊滅的被害を受けています」

 

そこに、経済産業省長官ジマアが現状を述べる。

 

「一部の実業家や投資家は植民地開発に投資した植民地が失陥したことで金が返ってこなくなり、破産した者が多数います。また、銀行もムー大陸植民地開発に多額の資金を融資していました。しかし、それらが不良債権となって経営を圧迫しており、経営破綻してしまった銀行もあります。この様な前例があるので一部の臣民は銀行からお金を降ろそうと銀行に押し寄せています。今はまだギリギリの所で踏ん張ってはいますが、長くないと申し付けておきます」

 

グラ・バルカス帝国の経済体制は植民地からの収奪で成り立っている。本来なら生産した品を各国に輸出すればそこまで酷くなる物ではないのだが、彼らは全世界を敵に回している。故に、外貨獲得などの方法が取れない。(まあ、自国以外を蛮族と見下している国の外貨など要らないと彼らは思っていそうだが…)

 

ムー大陸の植民地に拓いていた工場地帯や農園、油田、鉱山その他あらゆる施設が占領されてしまった。また、そこから生み出される資源類も使えなくなってしまった。その結果、帝国本土で生産される工業生産に多大な影響出ている。ジマアの言う通り、経済不況が起きている。これが悪化してハイパーインフレに陥るのも時間の問題だ。

 

「サンド・パスタルよ!軍を纏めるものとしてその言葉は何だ!?貴様は帝国の誇りを失ったか!?」

 

カーツの言葉は帝王グラ・ルークスが手を挙げることで止まった。

 

「カーツ、落ち着け」

 

帝王の言葉とあってはカーツは黙るしか無い。

 

「サンド・パスタルは優秀な男だ。ムー大陸を取り戻すのは不可能なのだろう。今後の方針はどうだ?」

 

そう言うグラ・ルークスに陸軍元帥は言う。

 

「はい。陸軍としては"2号重戦車ワイルダー"を帝都を中心に配備し、防御力を高めます。また、海軍から旧式艦を貰い受け、沿岸砲台に改造する予定です」

 

2号重戦車ワイルダーは、日本の製造した重戦車、九五式ロ号重戦車に似た性能をしている。だが、この重戦車ですら神聖ミリシアル帝国の機甲戦力ならまだしもムー国や日本国の戦車の前では大した活躍は期待出来ないだろう。

 

「また、職にあぶれた者を集めた警備部隊を中心に防衛陣地、トーチカなどの製造を行っています」

 

次に、海軍元帥が言う。

 

「海軍としては本国艦隊の残存部隊に24時間の警戒体制の指示と、残存潜水艦艦隊を各地に分散し、空軍と協力して哨戒に当たらせます。東部方面艦隊は残りの艦艇の再建と訓練を急ぎます」

 

最後に空軍元帥が言う。

 

「現在、新型の機体の試作機が完成する見込みです。なるべく早く完成させ、量産体制に当たらせます。また、"グティマウン"の波状攻撃で敵艦隊及び敵陸軍を撃破する予定です。空軍からは以上です」

 

グラ・バルカス帝国は軍が近代化して初めて防衛に回ってしまった。

 

「所でモトロフよ、奴らが外交で片付けてきた場合はどうするのだ?」

「はい。その件については軍の方と調整が必要ですが、現在は降伏を促す旨の通達であれば拒否をする方針です。軍の方からは、『日本国さえどうにかすれば後は大したことはない』との事ですので」

「そうか。分かった」

 

その『どうにかする』部分に具体性が伴っていないが、彼らは馬鹿なのかと、賢い者達は思っただろう。

 

帝王府副長官オルダイカは胸をなで下ろした。国の方針が降伏に向かうのではと心配していたからだ。癒着の裏金が戦争終結で途絶えるのは彼にとって大問題だからだ。

 

こうして、帝前会議は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

国の幹部が会議室から退出する中、帝王グラ・ルークスは思いに耽る。

 

思えば、この世界に転移する前、ユグドではケイン神王国との戦いであと一歩で降伏に追い込む手前まで来ていた。しかし、この世界に転移した結果、帝国経済は少なくない打撃を受けた。

 

何故なら、前の世界で手に入れていた植民地の資源が全てなくなってしまったからだ。応急処置として後に判明する第二文明圏外の土地を征服し、植民地支配をしたが、それでも資源は足りなかった。そして、第二文明圏と呼ばれる領域に手を伸ばした。

 

だが、文明圏と言う括りは国家間の優劣が明確に別れた差別指標に過ぎなかった。そこに、穏健派のハイラスが派遣された。しかし、たらい回しにされ結果的にパガンダ王国と言う国で処刑されてしまった。

 

それに激怒した帝王グラ・ルークス陛下はパガンダ王国を滅ぼした。と言うのが世間一般の考えだがそれは違う。

 

そもそも、情報収集を重要視するグラ・バルカス帝国が碌に此方の情報を知ろうともせず、防諜対策もしていない国の情報を集められない訳がない。つまり、彼らは新たな市場、植民地を第二文明圏に求めていたのだ。その生贄としてハイラスは何も知らぬまま、本国に裏切られているとも知らずに処刑されたのだ。

 

なにせ、グラ・ルークスの野望たる世界征服を果たすための軍備拡張のせいで、帝国の経済を圧迫していた。軍事力を維持するための収奪戦争を行い、また更なる植民地防衛の為に軍備を拡張したことで更なる植民地が必要と言うループに嵌ってしまっていたのだ。

 

折角転移してそのループを物理的に砕かれた以上、最低限の出血覚悟で辞めればよかったのだ。しかし、彼らはこの世界の軍事力の低さを見て容易に征服が可能だと考えてしまった。結果、同じ事の繰り返しをしてしまった。するのは結構だったのだが、日本国と言う伏兵によって経済サイクルが破綻してしまった。

 

さしずめ、メフォ手形を発行して収奪戦争を場当たり的に行ってきた史実ドイツ第三帝国と似た状況にグラ・バルカス帝国は陥っていたのだ。

 

しかも、ドイツ第三帝国よりグラ・バルカス帝国の軍事技術は劣っている。負けるのも道理だった。

 

全てはグラ・ルークスの野望から始まったと言っても過言ではない。そして、グラ・ルークスは『玉体』である。そんな玉体が敵国に捕らえられてはならない。と官僚たちは考えている。更に言うと、世界征服なんて野望の為に臣民に不便を強いる彼が、今更講和や降伏を呑むはずが無い。

 

故に、彼らは地獄の片道切符を切ろうとしていたのだった。

 

 

 






〜コラム〜

玉体

史実日本では天皇陛下を指す。劣勢に追い込まれた大日本帝国は、玉体…即ち天皇陛下さえ居ればそれは日本であると言う証明として本土決戦を行おうとしていた。しかし、天皇陛下が降伏を選ばれたので本土決戦は免れた。

しかし、グラ・ルークスは臣民の為にと言いつつ、選民思想を浸透させた家系の者だ。そんな彼が簡単に自らが蛮族に降るか?いやない。と言う事で、本土決戦をすることとなった。

グラ・バルカス帝国の存亡について

  • 徹底抗戦からの無条件降伏
  • 講話する
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