稲荷様は平穏に暮らしたかった。   作:味八木

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三国会談

 

 

 

ー第一文明圏列強神聖ミリシアル帝国南端部港町カルトアルパスー

 

かつて、グラ・バルカス帝国によって少なくない被害が出たこの街は復興も進み、元の街並みを取り戻していた。

 

ここに、ムー国、神聖ミリシアル帝国、日本国の三国が集まっていた。理由は、グラ・バルカス帝国に対する対応と、来たるべき魔帝への対策である。因みに、ここが選ばれたのは第二文明圏と第三文明圏から一番近い地点だからだ。

 

三国間で首脳会談や実務者の会談を行う予定だ。参加者は以下の通りだ。

 

《神聖ミリシアル帝国》

・皇帝ミリシアル8世

・外務大臣ペクラス

・外務省統括官リアージュ

・情報局局長アルネウス

・軍務大臣シュミールパオ

・国防省長官アグラ

 

《ムー国》

・国王ラ・ムー

・外務大臣オーサ

・列強担当外交課長オーディクス

・軍本部長クラミル

 

《日本国》

・総理大臣石原

・外務大臣大隈

・別班隊長大島

・稲荷神

 

ムー大陸からグラ・バルカス帝国を追い出して約1週間、想像以上の速さで三国間首脳会談が実現した。

 

伊達に数百年生きているとは言え、世間にはあまり顔を出してこなかった稲荷神は錚々たるメンツに根が小市民な事もあって疲れていた。まあ、稲荷神パワーで胃に穴が空くことも気絶する事もないんですが…

 

そして、自己紹介から始まった。神聖ミリシアル帝国、ムー国と続いて日本国となっている。やがて、稲荷神の番が来た。

 

「稲荷神です。日本の最高統治者?をやらせてもらってます」

 

そう言うのが精一杯であった。頭から捻り出した言葉でもある。

 

「何でも、進んで先陣を切り味方を鼓舞する。『勝利の戦乙女』や『戦神』とも、イルネティア島に存在していた神竜を助け出したなどと輝かしい戦果を挙げていることは聞き及んでいる」

 

そう言う皇帝の姿は穏やかだが、その目つきは鋭い。稲荷神の未知の力を見極めようとしているかのようだ。

 

「我々ムー国としても貴殿及び貴国に国民を代表してお礼を述べさせて頂きたい」

 

ムー国の国王ラ・ムーも稲荷神に好意的な意見を述べる。その後、雑談や情報共有をして本格的な会議が始まった。

 

「では、これより首脳会談を行います。日本国の方、お願いします」

 

司会のペクラスが述べる。その言葉で別班隊長大島が立ち上がった。

 

「はい。現在、我々はグラ・バルカス帝国が持つムー大陸最後の拠点であるダイジェネラ要塞をエモール王国の援軍の元、撃破しました。そこで問題になるのはこの戦争の落とし所です。そこで、両国に対してお聞きしたいのですが、グラ・バルカス帝国に対してどの様に対応するつもりでしょうか?意見を一致させる為にもお聞きしたく存じます」

「アグラ長官」

 

ペクラスが指名したのはアグラであった。アグラは立ち上がって言う。

 

「はい。我が神聖ミリシアル帝国は奴ら…グラ・バルカス帝国を完全に屈服させるため、本土占領を行い、奴らの帝都で降伏を宣言させるべきだと考えています」

 

それを聞いた時、日本国の面々は『やはり』と思った。この世界の文明国は大なり小なりプライドが高い。その点では、ムー国は稀有な例であろう。また、神聖ミリシアル帝国は軍が近代化してから戦争をしたことがあまりにも少ない。それは、世界最強となったことで喧嘩を吹っかけてくる敵がいなくなったこと。周辺国が弱過ぎた事に帰結する。それに、旧パーパルディア皇国などの戦争終結の判断は敵国の首都を落としたか否かだ。

 

つまり、この世界では敵国の首都を落として講和ないしは降伏となるのだ。それが近代戦では如何に難しいかは史実世界が証明している。

 

「これは、開戦前のミリシアル8世陛下のお言葉と一致したものです。付け加えると、我々はグラ・バルカス帝国に国際会議の場で蛮行を働き、わが国の臣民を殺されました。必ず報いを与えねばなりません」

 

打って変わってムー国の意見はこうだった。

 

「我々としては、ムー大陸から奴らを追い出せた以上、ここで講和か和平を行いたいと考えています。理由として、長く続く戦時体制の影響で多数の将兵が戦死、あるいは負傷しました。物価の上昇や物流の低下、負傷兵への社会福祉も必要です。今はまだ彼らへの恐怖で不満の声は少ないです。しかし、ムー大陸から敵が消えたとなれば今までの不安が払拭され、国への不満となっても可笑しくありません。なので、我々はこの戦争を終わらせたく思います」

 

なんと、発言したのは国王ラ・ムー本人であった。それだけ、彼らは本気なのだと言う意思表示でもある。そして、最後に日本国外務大臣の番となった。

 

「我々としても、この戦争を終わらせるべく講和を結びたいと思います。理由としては幾つかありますが、何より我々の調べたところによりますと、彼らがマトモな戦力を保有するのは10年から20年先の話です。お忘れかもしれませんが、エモール王国の"空間の占い"によると、魔帝…古の魔法帝国が復活するのは4年から25年の間だと言われています。ならば、この様な不毛な戦争など手打ちにして、生存戦争であるラヴァーナル帝国との戦いに向けて行くべきでしょう」

 

日本国の考えは尤もであった。それを更に裏づけるように稲荷神はお付きのお世話係にスクリーンとプロジェクターを持参させた。勿論、電気は小型発電機を利用している。

 

「そこで、私から皆さんに向けて伝えたいことがあります」

 

稲荷神がそう言ってお世話係の方を向くと、お世話係はこの世界の地図を投影していた。初めて見る世界の地図に皆が驚く。

 

「少し前、日本国から北東に位置する場所にある島国と国交を結びました」

 

そう言ってお世話係はポインターで北東のリングの島を指す。

 

「この島にはカルアミーク王国と呼ばれる国がありました。他にも2つ程国がありましたが、重要なのはカルアミーク王国には魔法帝国の遺跡がありました」

 

魔帝の遺跡と言う言葉に神聖ミリシアル帝国の一同は目を見張る。次の瞬間、会場が揺れた。

 

「この遺跡には、核兵器…この世界で言うところのコア魔法の製造方法が記されていました」

 

その言葉に皆は驚愕する。そして、次々に捲し立てる。

 

「コア魔法の製造方法だと!?」

「あの魔法兵器が何故その様な辺境に!?」

 

皆が大声を出す中、ペクラスは理性を総動員して場を収める。そして、会場が静まった頃、アグラが稲荷神に問う。

 

「何故、その様な事実がわかったのですか?貴国はコア魔法など持っていない筈ですが…」

「はい。わが国含め、我々が元いた世界でもコア魔法…科学では核兵器ですが、核兵器は一発も製造してません。しかし、理論は確立されており、製造は簡単でした。それをしなかったのは何故かは私には分かりませんが…」

 

その時、総理大臣石原が挙手をする。

 

「稲荷神様の言葉に付け加えると、核兵器が製造されなかったのは稲荷神様がわが国を数百年もの間平和に、そして世界有数の経済大国に押し上げた実績があるからです。ですので、諸外国は核兵器を作らずとも良かったのです」

 

そう言って着席する石原総理。稲荷神本人は初耳なのか目が点になっている。神聖ミリシアル帝国とムー国は表情に?を浮かべていた。数秒の後、稲荷神は復帰して話し始める。

 

「そこで、この遺跡に記されたコア魔法の原理は初歩的な核兵器である事が分かりました。また、このコア魔法を誘導弾…魔法では誘導魔光弾と言うそうですが、それに搭載して敵に確実に当てる兵器を魔帝は実用化しています。そこで、皆さんに核兵器の恐ろしさを知ってもらうためにわが国が数十年前に作成した映画を持ってきました」

 

そう言っている間にお世話係は映画の上映準備をしていた。

 

「これからお見せする映画は、もしわが国の広島や長崎と言った都市に核兵器が投下された場合どうなるのか?と言ったシュミレーション映画です。では、ご覧下さい」

 

そう言って見せられたのは想像を絶する物だった。神聖ミリシアル帝国、ムー国の者達は震え上がった。

 

『これが、インフィドラグーンを滅ぼしたコア魔法…』

 

と。稲荷神はそんな心境に至る彼らに気付かぬまま続ける。

 

「ご覧の様に全て同じとは言えないでしょうが、概ねこれ程の被害が出ます。彼らはこの兵器を数百発と保有し、迎撃不可能な誘導魔光弾でコア魔法を発射し、躊躇いもなく国を滅ぼします。そんな国に、備えなければならない以上、グラ・バルカス帝国などに構っている暇はありません」

 

稲荷神の言葉に皆が頷く。それは尤もな意見だったからだ。最初は敵国の首都に攻め入ると主張していた神聖ミリシアル帝国も考えを改めたらしい。それを見計らって外務大臣大隈は告げる。

 

「そこで、皆様に提案なのですがグラ・バルカス帝国に対して無条件降伏を突き付け、その後、講和条約にレベルを落とすという、手法を使っては如何でしょう?」

「それはどういった理由が?」

 

ムー国大使の言葉に、外務大臣大隈は言う。

 

「最初に無理難題を吹っかけて、その後に多少ハードルを落とすのです。そうすると、心理的に軽く思えてしまう。そう言った手法です」

 

現状、グラ・バルカス帝国との早期戦争終結を望んでいる以上、この提案は渡りに船であった。だが、1つだけ問題があった。

 

「しかし、もし彼らがどちらも拒絶した場合はどうするのですか?」

「その時は、神聖ミリシアル帝国が言っていたように彼らの本土攻撃しかないでしょう」

 

皆が出血覚悟でその提案に乗った。早く戦争を終わらせなければ、自分達の未来がない。その事実を思い出したからだ。

 

その後も話し合いが続き、次の内容が決められた。

 

・グラ・バルカス帝国に対して無条件降伏を求める。

①武装解除

②軍国主義の排除と戦争責任者の処罰

③民主主義の強化と基本的人権の尊重

④領土制限

⑤軍隊の解散と不保持、研究禁止

 

そして、これらを蹴った場合、講和条件として以下の事が決められた。

 

①領土あるいは植民地の縮小

②重兵器の不保持、軍隊規模縮小

③賠償金支払い

④民主化の推進

 

が取り決められた。そこまでは良いが問題はこの文書をどうやって彼らに伝えるかであった。元々はレイフォリアにある外務省の出張所がその役目を担っていたが、レイフォリアを解放してしまったのでそれは不可能だ。だが、そこで手を挙げたのは稲荷神であった。

 

「では、こう言うのはどうでしょうか?我々は既にグラ・バルカス帝国の本土の場所を掴んでいます。ならば、我々が爆撃機を用いてこの文書をグラ・バルカス帝国の上層部から末端の市民にまで届けましょう。そうすれば、彼らの信じる帝国の勝利が揺らぎ、早期の戦争終結に向かう事が出来ると考えます」

 

稲荷神は後ろに控えるお世話係が読み上げる内容を自慢の聴力で聞き取って話す。そんな事は露知らず、神聖ミリシアル帝国とムー国はこの提案を吟味する。そして、日本国に任せることになった。さもありなん。この二か国はグラ・バルカス帝国の本土を日本国の情報提供で知っていても、距離の問題から爆撃機を飛ばせないのだ。

 

神聖ミリシアル帝国の空中戦艦パル・キマイラなら可能かも知れないが、日本国が可能と言うのならば任せよう。と言うことになった。

 

そうして、作戦はこの会談の約3日後に決行された。

 

 

 

 

 

 

 

 

ー第二文明圏外グラ・バルカス帝国帝都ラグナー

 

この日、帝都の住人は初めて恐怖した。大型の飛行物体が帝都上空を飛行し、紙をばら撒いていた。彼らを撃墜しようとした、帝国が誇る"アンタレス07式戦闘機"の上位互換である"アンタレス07式戦闘機改"でさえ護衛の飛行機に撃墜されている。

 

この事実に帝国臣民は恐怖していた。そんな彼らを更に恐怖に陥れたのは空からばら撒かれた紙にあった。それには、こう書かれていた。

 

『グラ・バルカス帝国上層部、及び帝国臣民に告ぐ!』

 

この様な見出しで書かれた紙には驚愕の内容が含まれていた。『グラ・バルカス帝国の海軍は最早機能していないのに等しい。ムー大陸における植民地は異世界軍によって奪還され、君達の愛すべき家族はムー大陸に取り残されている。だが、上層部はこの事実を隠し、君達の生活を一層苦しい物にしている』と言う物であった。更に、無条件降伏の条件も提示されていた。降伏を受け入れる場合は、白旗を掲げてパガンダ島に入港するようにとあった。

 

彼らは我先にとこの紙を手に入れて真実を知ろうとする。しかし、憲兵隊がこれを強引に回収しようとした結果、不慮の事故も少なからず起きてしまった。

 

民衆は政府に説明責任を果たすよう求めるが、政府はこれを黙殺。艦艇が出撃しない事を人工衛星で確認した日本国は、再度チラシを配るべく彼らの本土に向かった。

 

民衆が異世界軍の進撃のインパクトがまだ冷めきっていない内に、更なるインパクトが齎された。それは、無条件降伏ではなく、講和条件であった。民衆は先日の条件より軽くなっているのを見て、政府に講和を求めるように言う者も少なくなかった。回答期限は1週間であり、早くパガンダ島に向かうようにと。

 

だが、政府の意見としては蛮族に降るなどプライドが許さなかったのだ。彼らは玉体である帝王グラ・ルークスがいれば帝国は無事であると考えていたのだ。故に彼らは本土決戦に臨んでしまったのである。






〜コラム〜

映画

アメリカが水爆実験をする事を日本国側に教えた。それに、稲荷神は反対し、臨界実験で手を打った。その後、歴史の修正力が働いたのか原子爆弾のシュミレーション映画の舞台として広島と長崎に投下されてしまった。それを見た少年少女は恐怖のどん底に陥ったのだった。

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グラ・バルカス帝国の存亡について

  • 徹底抗戦からの無条件降伏
  • 講話する
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