適性不足で戦闘員にすらなれず捨てられた俺、それでもしぶとく生きてます 作:ダブル亮禅
目を覚ますと俺は死体の山の上にいた。
「ひっ」
と軽く悲鳴を上げる。
昨日までは普通に仕事行っては家で酒飲んでって気楽な生活してたはずなのに、たった1日で大変な事になったぞと、これまでのことを思い出す。
薬か何かで眠らされていたので断片的ではあったけど、大体のことは思い出せた。
あの日、
家で酒飲んでて、飲み足りないから小銭入れ持ってコンビニへ行った帰りに拉致されて眠らされる。
次目覚めた時には、硬いベッドに寝かされてた。
ベッドに固定されて身動きが全くできない。
ベッドの側にいる、いかにもマッドサイエンティストみたいな人が
「こいつは怪人には使えん。戦闘員で使い潰すか。」
と聞いたあたりでまた眠らされ、
次にはまた硬いベッドに寝かされてて、手術中の医者みたいな格好の人が傍にいて、誰かと喋ってる。
「こりゃ廃棄だね。適性値1.74じゃな。戦闘員の最低ランクでも1.99だから、使えん。戦闘員の適性なんて大抵通るのにハズレだね。はい、廃棄〜」
勝手に拉致って改造しておいて、勝手に廃棄!とか腹立ててると、
「廃棄用はこの注射で良かったかな〜」
となんか適当に注射を打たれてそのまま眠って、現在に至る。
生きてるところを見ると、どうやら殺処分は免れた様だ。
しばらく呆けていた俺は、
「こんな所でいつまでも転がってたって仕方ないな」
寝転がっていた真上3メートルくらいの高さに自分が落とされたであろう廃棄用の入り口がある。
試しに軽くジャンプしてみると簡単に出られた。
どうやら本当に改造されているみたいだ。
「おお!すごい!これは改造されてラッキーだったかも」
能天気にも喜んでいると、
廊下の向こうから人の声が聞こえる。
急いでジャンプして天井に張り付く。
「すげえ俺忍者みたい」
呑気に喜びながら、声のする方を警戒する。
向こうから全身黒いタイツのようなものに頭から足先まで身に包んでいる2人組が歩いてくる。
「それにしてもなんで俺たちこんなとこで戦闘員なんてやらされてんだろな」
「まあどうせ警察に追われてる俺としてはまあここは悪くないけどな」
「お前はそうかもしれないけど。俺はそこそこ良い生活してたのに、なんの因果でこんなとこで悪党やらされてんだか。トホホ」
「まあ俺たち戦闘員は組織が週に一回くれる薬飲まなきゃ死んじゃうからな。堅気な生活にゃ戻れねえわな」
と愚痴言いながら通り過ぎていく。
「マジか…。薬飲まなきゃ死ぬのか、俺。くそっ!勝手に改造して!勝手に捨てて!挙げ句の果てに俺、勝手に死ぬのかよ!」
もっと詳しい話を知りたくてこっそり天井に張り付きながら後をつける。
2人は戦闘員の待合室みたいな所に入っていく。
ドアを薄く開け中の様子を伺う俺。
運良く2人はまだ薬の話をしている。
「とりあえずこの前支給された薬を飲んどくか」
「あー、これ飲まなきゃ死ぬからな」
と、その時、基地内にサイレンが鳴る。
ブーブーと鳴り響くサイレンと共に放送が流れる。
『基地内の戦闘員は至急第一トレーニングルームに集合してください』
2人組は
「げっトレーニングルームっていうとあれだな、新しい怪人の試運転…」
「またサンドバッグ役か〜」「俺たち、生き残れると良いな」
と遠い目をしながら待合室を出て行く。
俺はすかさず待合室に侵入し、机の上にあった薬を2個とも掴み、ポケットに入れる。
これでとりあえず2週間は生き延びられるなと少し安心する。
ふと、待合室の中を見渡すと、掲示板に目が行く。
幼稚園バス、バスジャック計画!
とデカデカとパスターが貼り付けてある。
日付は来週の朝の登園時間。
その情報をしっかり覚えておく。
俺が生き残る為には薬がいる。
その薬は戦闘員が持っている。
奴等の本拠地であるこの秘密基地にはあまり長居はできない。
でも幸い戦闘員達は何日か前に薬を渡されているらしい。
だから奴らが街に来た時に奴等の持っている薬を奪うのだ。
この「幼稚園バスバスジャック計画」はまさに好機。
今はそれだけが俺にとっての希望なのだ。
そんな事を考えながらぴょんと軽く塀を乗り越え、悪の秘密結社の秘密基地から逃げ出した。
人通りのあまりない薄暗い道に真っ黒なバンが止められている。
よし来たぞ!
の声と共にバンのドアが開かれ、中にいた数名の黒ずくめの男たちが出てきて、大通りを走るネコの装飾を施したバスに向かって走り出す。
しん、と束の間の静寂。
そこにはドアが開け放たれたままのバンが一台。
俺はチャンスとばかりにバンに入り込み、サイドブレーキの横や扉、ケースの中などを探す。
あった!
そこには計5個の薬が置いてあった。
それをポケットに入れる、俺はすぐさまきた道を引き返した。
こうして、俺の初めての強奪計画はいとも呆気なく成功したのだった。
次の日、ニュースでは登園途中の幼稚園バスが何者かにバスジャックされ、園児を含む18名が亡くなったと報道されていた。
俺はその後、嘔吐した。
翌週、仕事が休みの日に奴らの秘密基地に忍び込む。オリンピック選手以上の身体能力があるから、潜入するまではそれほど難しくはなかった。
そこから基地内では逃亡の時にも使った戦闘員の制服とも言える黒ずくめの格好に着替える。
幹部らしい戦闘員の部屋を見つけ忍び込むと、次の計画を知る。
次は小学校の給食か…
バスジャックの時とは桁違いの被害が出るんだろうな。
頭の中に沢山の子供達が毒で苦しみながら死んでいく姿が目に浮かぶ。
バスジャックの時の吐き気が再びしたが、堪えて幹部の机を調べる。
今は自分の事だ!
まずは1番上の引き出しを開ける。
あった!
10錠入りの薬が3束!
半年以上生き延びられる!
張り詰めていた糸がようやく緩んだ気がした。
おっと、今はまだ敵の本拠地の中だ。
慎重に人目を避けながら秘密基地を抜け出した。
家に着くとホッと一息。
ドッと疲れが押し寄せる。
重くなる体とは逆に、冷静さが頭をスッキリさせてくれる。
流石にこれだけ大量に薬を盗んだんだ。組織側も窃盗に気付いただろう。
薬なんて改造された怪人か戦闘員しか欲しがらない。だから犯人は怪人か戦闘員。
薬の管理も厳しくなる。
これまでのような身体能力任せの空き巣みたいな真似通用しなくなる。
そこまで考えて、思考を一旦止める。
まだ半年以上ある。
これから組織の動きを観察してから考えよう。
ゴロンと横になってこれから何をしようと考える。
週刻みの命だったのが一気に半年、時間ができたのだ。なんかなんでもできるような気になる。
同時に、幹部の部屋で見た次の計画が頭に浮かぶ。
今計画を知るのは組織の者と俺しかいない。
止められるとしたら、俺しかいない。
冷静に考えれば無理だろう。計画が関東一円と広範囲な上、奴らは組織で頭数も多い。でも…
頭に毒に苦しみ死んでいく子供達の映像が浮かぶ。
せっかく手に入れた半年の命だ、俺の事を不良品扱いして捨てた奴らに一泡吹かせてやるのも良いかもなとニヤリと笑った。
組織の計画が実行される当日、給食センターから給食が積み込まれて出荷されたのを確認すると、俺は警察に電話する。
関東一円の給食に毒を入れてやったぜ!ヒャッハー
…
組織の計画はあっさりと失敗した。
俺の電話でちゃんと警察が仕事をしたのだ。念のために調べた給食からしっかり毒が検出されて、一気に関東の全ての学校で捜査が行われ、被害者は0。日本の警察が優秀で良かった。
まあ、その日、給食食えないまま午後の授業受けなきゃダメだった小学生達や明日からしばらくは毎日お弁当を作らなきゃいけない子供達の親御さんはちょっと気の毒だけどな。
…とりあえず。
これで奴らに一泡吹かせてやれたかな。
ざまあみろ!だ。
…でも、今後も奴らはこれからも同じ様な事件を繰り返すだろう。
…そんな事、俺にゃあ関係ない。
…でもまあ、薬の補充もしきゃダメだから、薬の場所とか情報収集の為に奴らの秘密基地にまた忍び込まなきゃな。うん。
たまたま次の計画の事知っちゃうかもだけど、そん時はそん時考えよう!
久しぶりにいい気分でゴロンと寝転がった。