適性不足で戦闘員にすらなれず捨てられた俺、それでもしぶとく生きてます   作:ダブル亮禅

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3話 その男、若井翔太

若井翔太。

一見普通の10代後半の好青年だが、その正体は悪の秘密結社ナーガマラの次期総統候補だった怪人だ。

人間の姿にも戻れる彼は、脱走して人間社会に紛れ込みながら、悪の秘密組織ナーガマラを壊滅さる機会をうかがっているらしい。事実、彼を改造した東海方面軍は先日壊滅させられたという。

俺は足繁く秘密基地に潜入し、ナーガマラの諜報部隊らが報告する情報を盗み聞きする。その結果、若井翔太の潜伏先に目星がついたので、組織より一足先に、彼に会う事にした。

味方に引き込み、俺の為に戦ってもらう為に!

 

顔写真といくつかの写真を見ただけなので、見つけられるか不安だったが、思いの外、早く見つける事が出来た。明らかに他の人より、何というか、圧?存在感?何にせよとにかく目を引くのだ。

しかも、彼自身、逃亡中だというのに、コソコソとした様子は微塵も感じられない堂々とした立ち居振る舞い。

味方に引き込む前に、まずは人となりを見極めたいと観察する事にする。

 

とりあえず、見失ってもいけないので、尾行をしてみる事にした。

出来損ないの廃棄品とはいえ、そこは改造され強化された体。

人の数倍ある筋力を使えば、最小限の動作で音もなく動く事が出来るのだ!

俺は靴を脱ぐとつま先だけで歩いた。

息一つ切らす事なく、足音もさせずに。

どうだ!ちょっと見た目は異様だけど、

普通の人間には出来ない俺のスーパーなフィジカルは!

まあ戦闘員未満の不良品なんだけど(涙)

そうして尾行を続けていること10分弱。

気がつくと俺は人気の無い空き地に誘導されていた。

やばい誘い込まれた!と気付き、焦っていると、

「君は人間じゃ無いね?」

と背後から声がした。

驚いて振り返るとそこには若井翔太がいた。

「あ、いつの間に!」

と、思わず言ってしまう。

若井翔太は俺の事を上から下まで見た後、

「怪人では無いね?でも、戦闘員にしては少し人間っぽい様な」

と独り言の様に言いながら、俺を観察してくる。

人間じゃ無いと改めて言われた事にショックもあったが、相手は化け物の様な強さを誇る怪人すら凌駕するエリートな怪人だ。怒らせてしまったら人生終わる!という恐怖。誤解を解く事に専念しなければと、

「ま、待ってくれ。俺は敵じゃ無い。今から説明するから聞いて貰えないだろうか?」

必死に懇願する。

なんなら土下座だってしてやる!という覚悟だ!

「一応僕も追われる身なんでね。変な真似はしないでくれるなら聞くよ。少しでも怪しいそぶり見せたら攻撃しちゃうんで」

若井翔太は余裕を見せながらも、そう警告する。

壁にもたれながら立っているだけなのに、殺気を感じる。絶対逃れられない、下手打ったら即殺されるという確信だけはあった。

 

俺は名を名乗り、元々普通の会社員だった事、ある日拉致られて改造された事、不良品として廃棄された事を出来るだけ簡潔に話した。

「なるほど、改造されてるっぽいのになんか人間っぽいなと思ったら洗脳前だったんだね。それはツイてたね」

と何やら納得顔で言った後、

「ごめん、拉致され改造された人にツイてたは無いよね」

と謝られる。どうやら話は信じて貰えている様だ。

それにちょっと引っかかる点があって聞いてみる、

「さっきから俺の事、人間っぽいとか言ってましたが、洗脳ってどんな事されるんです?」

「そうかなんの説明もなく改造されたんだよね。酷い話だ。ナーガマラでは怪人も戦闘員も改造後に洗脳手術されるんだけど、それがかなり徹底してて、それこそ脳を直接切り刻むレベルなんだ。ロボトミー手術っていうらしい。それ受けちゃうとナーガマラの命令には絶対逆らえなくなる。あと、罪悪感とか良心とか生存本能とか、そういう人としての大事な部分が無くなっちゃうんだ。だから爆弾持って敵に突っ込むとか、怪人の性能テスト用のサンドバッグとかでも命令が有れば躊躇なく実行する」

と顔色変えずに教えてくれる。

俺は廃棄されて良かったとつい考えてしまった。

それにしても、と疑問が浮かぶ。

「若井さん、詳し過ぎません?」

とその疑問をぶつけた。俺と同じく拉致られて改造されたとしたら知り過ぎているのだ。俺は警戒する。

組織の罠か?

いちいち俺1人をハメる為にこんな手の込んだ小芝居するはずないし、実力行使されたら瞬殺される自信もあるけど、散々人生を滅茶苦茶にされた俺のせめてもの抵抗である。

その様子を見て、若井翔太は自分の怪しさに気づいた様で、

「ごめん、ごめん別に隠してたわけじゃないんだけど、実は僕の父親が幹部で元々ナーガマラの創立メンバーだったんだよ。父親の頼みで、僕は自ら進んで改造を受けたんだ」

と驚くべき発言をした。

彼は続けてナーガマラについて語ってくれた。

 

ナーガマラの元となった組織は、本来は愛国者の集まりとして、売国奴やスパイの抹殺など、政府黙認の下、世の中の暗部を請け負っていた。

しかし、平和ボケした日本では、孤軍奮闘に近く、日本を害しようとする外国の勢力は強力で、次々とマスコミや政治家など掌握されて、しまいには黙認という形で協力してくれていた、政府からも敵対視されるようになっていった。

国の為と思い、汚れ役をしていたのに、その国に裏切られたのだ。組織の目的は徐々にズレ、より強い力を!と、組織の強化にばから力を注ぐ様になった。

その後、マッドサイエンティストを組織に招き入れ、怪人という力を持ってしまった事で、再生の為に国家を転覆しようと本格的に動きだしてしまう。

 

若井翔太の父親はその現状を嘆き、組織の解体を決意する。

手始めに怪人、戦闘員のみだった改造を幹部にも行う様に誘導した。

自ら、率先して改造手術を受け怪人となる。

「怪人達のトップたる我々が改造に尻込みしていて、何の世直しか!我らこそ、より強力な力を持って模範となるべきであろう。」

と幹部連中の尻を叩いた。元々血の気の多い面々。ビビっているのか?と煽られて、

「なんの改造くらい屁でもないわ」

と改造を承諾したらしい。

怪人手術と一緒に洗脳手術を受けさせた。

若井翔太の父親が前もって手を打ち、洗脳手術も改造とセットであると改造担当者に通達していたのであった。

幹部達はまさか洗脳手術まで受けさせられるとは思っていなかったが後の祭り。

幹部達の思考力は大幅に弱体化する。

指揮系統が全て脳筋化した事で、組織は放っておいても自滅を免れないだろう。最近の場当たり的な、力任せの作戦はその思考力低下の影響によるところが大きい。これまで各所に潜伏させていた組織の構成員のお陰でまだ表だった騒ぎにはなっていないが、それも時間の問題であろう。ちなみに他の幹部連中には受けさせておきながら、当然父親は洗脳手術は受けていない。

 

でもそれでは無茶な作戦によって一般人に多くの犠牲者が出てしまう。組織の力はそれほどまで大きくなっていた。

そこで父親は次なる一手を打つ事にする。

解体を促進させ、同時に組織の注意と戦力を集中させる為に圧倒的な力を持つ若井翔太の改造を進めた。

若井翔太は組織を壊滅させる為のみに生み出された存在だったのだ。

 

そして、改造は成功する。

そのまま若井翔太と父は全国の組織を壊滅させて回る予定だった。

しかし、改造手術直後に若井翔太の父親が洗脳手術を行っていない事がバレてしまい、東海方面軍の基地のど真ん中、しかも、頼みの若井翔太は手術直後で力の使い方も分からず、意識も朦朧としていて戦力としてあまり役に立たなかったらしい。日本の未来の希望、息子の若井翔太を守ろうと父親は怪人の姿となり、応戦するが、多勢に無勢。しかも、東海方面軍のトップ、本郷将軍はかなりの実力者でもあった為、健闘虚しく殺されてしまったらしい。

それでも無数の戦闘員に怪人数体と将軍の片腕を道連れにしたと言う。

事切れる父親を見て、若井翔太は覚醒。暴走に近い形で東海方面軍を壊滅させたのだと。

 

「…壮絶、ですね」

話を聞き終わり、俺がやっと口に出来たのはそれだけだった。それしか言えなかった。結構俺も命懸けでやってた気になってたけど、車上荒らしにロッカー荒らし、警察に密告電話、基地でのデバガメとよく考えればロクな事していない。それも全て自分の為だけ。

国の為、他人の為、自ら改造を受け入れ悪と殺し合う。覚悟もスケールも違い過ぎて想像すら出来ない。

利用する為に近づいたが、そんな自分が心底情けなく感じた。

そんな事を考えていると、

「そうやって東海方面軍を潰してやったのは良いけど、父さんと一緒に組織の拠点を一つずつ潰していく予定だったから、他の拠点の場所、知らないだよね。東海方面軍の基地の資料を調べられたら良かったんだけど、あそこの基地、将軍倒したのと同時に自爆して爆散しちゃったから。一応ニュースで幼稚園バスの一件を見て、間違いなく組織の仕業だとこの辺うろちょろしてたけど、見つからなくて困ってたんだ」

と洗脳手術も受けていないのにどうやら脳筋キャラのようだ。

でも彼の求める情報を俺がもっているという事が俺を我に帰らせる。俺にだって命がかかっているんだ。

先ほどの情けなさもどこへやら、

どうやって若井翔太を組織とぶつけよう?

壊滅させる前にどうやって組織の持つ薬を確保しよう?

ワンチャン、改造担当者脅してもらって元に体に戻せないかな?

と悪巧みを始める俺。

そんな俺に構わず、

「いやー、でもこんな所で関東方面軍の基地の場所知ってる人に会えてラッキーだったよ!さあ、今すぐ基地をぶっ潰しに行こう!」

とやる気満々な若井翔太。

「すぐ潰したらまた自爆ですよ。ちゃんと他の拠点の場所の情報を手に入れてからにしましょう」

となだめながら、その単純過ぎる新たな相棒に一抹の不安を感じる俺であった。

 

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