適性不足で戦闘員にすらなれず捨てられた俺、それでもしぶとく生きてます 作:ダブル亮禅
とりあえず、若井翔太と一緒に行動しているところをナーガマラの構成員に見られたら俺の身が危険になるので、若井氏にはフードとサングラスを付けて貰う。
若井氏、少し渋ったが、俺が危険な目に遭うからと納得して貰った。
ファミレスに着くと、若井氏から
「敬語辞めません?僕の方が年下だし、改造されたのはそちらの方が先輩なんですから。」
との提案を受ける。その気になれば指一本で俺を殺すことが出来る相手にタメ口を聞くのは恐怖だったが、今後、この無鉄砲な青年の手綱を握らないと、最悪、ナーガマラの総攻撃を受けて死んでしまいかねない。そうはならないとしても、ここで彼1人に任せてしまうと、知らぬ間にナーガマラが壊滅してしまい、薬が手に入らないまま俺は数ヶ月後に死んでしまう。
なんとか都合良く、壊滅前に薬だけはゲットしてしまいたい。
そういう下心があるので、彼をコントロールしておきたい。
俺はタメ口で話す事を了承する。
そんな打算をしていると、ふと、改造人間である以上、薬については、若井氏も同じ事情では無いかと気付く。
もしかしたら、父親から十分な量の薬をもらっているのかもしれないと期待を込めて、
「そういや東海方面軍が壊滅してから1週間以上経つけど、若井さんは薬どうしてるの?大量にもってるとか?」
と聞いてみた。
若井氏はキョトンとした後、ハッと何か気付いた様で、
「あっ!そういや戦闘員の人は薬がいるんでしたね。無理矢理、力を引き出す代償で体が崩壊しやすくなるとか。あれ酷いですよね。薬切れた後の死に様とかドロドロに崩れていくんですよね。でも怪人になると他の生物の細胞組織がしっかり混ざって、薬無くても体安定するらしいので、僕は薬は必要ないんですよ。」
とあっさりと言う。
もうちょっと戦闘員の俺に気を遣えよ、つか、こいつ薬持ってないのか!と落胆しつつも、怪人になれば薬はいらないという話は少し興味があった。毎週薬を飲む生活を死ぬまで続ける事に不満もあったし、何より数十年経っても薬の効果は変わらないのか心配だったのだ。薬の使用期限が1年程度だとしたら、大量に薬を手に入れたとしても意味がなくなってしまう。
それならこの際、怪人に改造されてしまった方が安心して暮らせるでは無いか。若井氏の様に人間にも戻れる改造手術、俺にもして貰えないかな?と淡い期待を持つ。
「怪人への改造って誰でも出来るのかな?ナーガマラの幹部も全員怪人になれたんだよね?」
と若井氏に聞いてみる。
「まあ、難しいでしょうね。適性値と手術の成功確率は比例するみたいなので、戦闘員未満の適性値だと、ほぼダメだと思いますよ。幹部連中は元々暗殺部隊に所属していた様な人達なので、ちょっと人間離れしてたし。」
と若井氏は見事に俺の淡い期待を打ち砕いてくれる。
しかし、がっかりしている俺を見て、流石の若井氏も、
「あっそうか。先輩は薬飲まなきゃ死んじゃうんでしたね。だったら薬の確保も必要か…。先輩、基地のどこに薬が保管しているか知ってますか?」
と、どうやら協力してくれる様だ。
しかし、残念ながら何度か基地に忍び込んだけど、まだ薬の場所を見つけられていないのだった。怪しいなと思う場所はあったが、警備が厳重で流石に近づけ無かったのだ。
「怪しい場所は2、3箇所あるにはあるけど、ちょっと近づけないんだよね。」
と、正直に話す。
「じゃあ、僕が囮になりますよ」
こうして、若井氏の協力により薬を強奪する作戦が開始した。
作戦は単純明快。
若井氏には基地の正門から堂々と殴り込んで貰う。
組織から指名手配中の人物が正面から堂々とやって来るのだ。
ナーガマラは若井氏を仕留めようと、戦力を若井氏に集中するだろう。
その隙を狙って俺が基地に潜入し、警備がいなくなった基地の最深部を調べて、火事場泥棒の様に薬を盗み出すという作戦というのも憚られる作戦だ。
一応、薬が見つけられなかったパターンも考えている。薬を奪う過程で、別の基地の場所を割り出せれば、そのまま若井氏に関東方面軍を壊滅して貰う。最悪、薬が無くても別の基地の場所さえ分かれば、そこで薬を手にいれれば良い。もし、別の基地の場所も、薬も見つからない様なら、壊滅はさせずに基地は残しておき、後日再トライすれば良い。
雑な作戦ではあるけど、数十匹の怪人を瞬殺出来る若井氏がいれば多分大丈夫だ。
何度か忍び込んだから分かるのだが、関東方面軍で怪人をあまり見た事が無いのだ。唯一、あの蝶の怪人を見たくらいだ。人に変身できる幹部クラスの怪人もいるかもしれないが、幹部なら蝶の怪人もそれなりの態度で接するはずだが、そういった人物は会議の場にも来てはいなかった。唯一の怪人と見られる蝶の怪人にしても、毒の鱗粉は大量殺人兵器として普通の人には効果的な武器だろうが、毒の効かない改造人間には無力。すなわち関東方面軍は戦力的に弱いのだ。
念の為に若井氏にもこの戦力差について聞いてみる。
「何度か基地に忍び込んで見たけど、こっちの基地には怪人1人くらいしかいないみたいだけど、東海方面軍の基地はなんでそんなに怪人とか多くいたのかな?」
俺の質問を聞いて、若井氏は驚いたようで、
「えっ!1匹しかいないんですか!えー!首都のある関東の基地だし100匹くらいはいると思ってたんですが…」
と少し、いや、かなり残念そうに言う。そして、
「あっそうか!一応、僕、怪人の王として造られたから、各方面の幹部や主要な怪人は皆んな集まっていたんだと思います。なんか、お披露目みたいな雰囲気でしたし。関東は主力が集まってたから、ほとんど東海方面軍の基地に来てたのかもしれませんね。」
なるほど、言い換えれば今の関東方面軍基地には留守番の戦力しかいないと言うわけなのかと納得する。
「それにしても怪人の王様の誕生だーって、お披露目会開いて主力が全員集まって、最終的にその王様である若井さんによって主力が全滅するとか、酷く間の抜けた話しだね。」
そんな間抜けな組織に改造されて人生狂わされたなんて…と泣きたくなる。
「まあ、既に脳みそいじられてまともな思考ができなくなってるんでしょうね。父もまさか自分たちの基地を放ったらかししてそんなに集まって来るなんて想定外だったらしく、浮かれた幹部の1人が『我らが王の誕生を皆で見守ろう』とか言い出して、突然多勢の前で公開で改造手術が行われる事になっちゃって、洗脳手術やってないのがバレたって感じですね。」
若井氏も呆れたように言う。
「それは若井さんのお父さんも焦ったろうね…」
俺は、呆れて良いのか、怒れば良いのか分からなかったので、とりあえず慰めの言葉をかけておく事にした。
そんな俺の気遣いも他所に、若井氏は、
「えー、あれが主力だったのかー。あと残ってるのは雑魚だけ?えー!せっかく改造手術で強くなったのに、あの戦闘がピークかー。俺暴走しただけだよー」
と、一人ボヤいていた。
次の日。
早速、関東方面軍基地を襲撃する事にする。
東海方面軍壊滅の際に、若井氏の改造もあったと言うことは、改造手術に関する技術者ももう死んだと言う事になる。少なくとも、一番技術がある人に怪人王の改造はさせるだろうから、その人は死んだと言う事だ。戦闘員用の薬がどうやって作られているのかは分からないが、その際に薬の製造知識ももしかしたら失われてしまったかもしれない。
出来るだけ早く動いて、薬の残り在庫はあるだけ回収しておきたかったのだ。
俺は若井氏に、出来るだけいきなり全力は出さずに、時間を長く稼いでくれるように頼んでから基地への潜伏ポイントに潜み、若井氏が正面で暴れるのを待った。