逆さまのこころ   作:おんせんまんじう

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どうも、皆さん、はじめまして、ここは読み飛ばしても、読み飛ばさなくても結構。

突然ですが、幻想郷の妖怪は人々の畏れから産まれます。
それは、『理想』の状態で生まれる、という事です。
存在意義が確立した状態で生まれると言う事です。
人を殺す、驚かせる、はたまた…嘘を吐く。

まぁ、ご理解頂けると思います…何も無い所から、人々の思想を受けて生まれる、それが妖怪です。

しかし、その『理想』の状態は、すぐに『理想』の状態では無くなります。
何故なら妖怪は感情を持ち、ほんの僅かに『理想』から離れてしまうのです、機械と人間の違いみたいなモノです。
人を殺すことが存在理由だ、だが傷付いた姿を見るのが面白いから、少しだけ痛ぶる。
人を驚かせるのが存在理由だ、だがうまく行かなくて、落ち込んで、少しの間だけ人を驚かせるのを止める。
嘘を吐くのが存在理由だ、だが———

まぁ、例は置いておいて、これら全て、それぞれの『理想』からほんの少し離れているのがお分かりでしょう、しかし、100(理想)が99.9(理想に似た自分)になった様なモノです、当人からすれば、何の問題も無い。
つまり、妖怪は、そのほんの僅かにズレた状態でも、自身は『理想』のままであり、核としたアイデンティティは揺らぎないのだと勘違いしています。
何故なら、妖怪は『理想』では無い自分を認められないからです、人間と違い、妖怪は『理想』で『完璧』な状態で生まれます、その状態がデフォルトなのです、デフォルトから外れれば、デフォルトに戻りたいと感じる。

果たして、『理想』から外れたと気付いた妖怪は『理想』に戻れると思いますか?

100(理想)→80(非理想)になったと気付いて、この80(非理想)を100(理想)に戻せると思いますか?
その答え、私なりの答えを、ここに記したいと思います。


くたばれ、ばーか

「はぁっ、はぁっ…!クソ…ッ!クソッ!クソクソクソ!!」

 

 光の玉がさんざめく。

 幻想郷のルールを無視した致死的弾幕が身を襲う。

 光の球が光り輝く。

 スペルカードルールを脱した不可能弾幕が視界を覆う。

 

「ぐぅ…ぅうううう!!」

 

 被弾。

 即座に反則アイテム、『身代わり地蔵』を用いて被弾を『無かった』事にする。

 大事に大事に温存していた奥の手達が、また一つ消えてしまった。

 

「ふざけるな…!!」

 

 噛み締めて、弱々しく吠える。

 

 『ひらり布』は火の鳥に焼き尽くされた。

 『天狗のトイカメラ』は河童のマシンに無力化された。。

 『隙間の折りたたみ傘』は半霊に切り捨てられた。

 『四尺マジックボム』と『血に飢えた陰陽玉』はそれを超える火力に晒され、全て暴発した。

 『亡霊の送り提灯』はバカみたいな偶然(奇跡)で焼失した。

 

 どれもこれもほんの少しの油断が招いた結果だ。

 

 手元に残っているのは『身代わり地蔵』、『呪われたデコイ人形』一つずつと『打ち出の小槌(レプリカ)』のみ。

 

 反則アイテムを一つ潰された所で、まだまだと、むしろ余裕とさえ驕っていた。

 浅慮そのものだ。

 そこらの魚姫やバカ妖精にすら劣るこの身、だが反則アイテム一つあれば充分だろうと考えていた。

 小さな子供が500円あれば何でも買えると信じる様に、彼女もまた反則アイテムがあれば何も問題は無いと、過大評価し過ぎていたのだ。

 

 策略を巡らせて奪い、騙し取り、くすね取った反則アイテムは両の指の本数を優に超える。

 なのに、その殆どを失った。

 

 限界だった。

 かれこれ3週間は逃げ隠れする生活、見つかる度に消耗していく。

 多く見積もっても1週間、いや、10日もあれば逃げ切れると踏んでいた、もしくは諦めるだろうと楽観していた。

 

「ぐぅ…体が、いたい…!」

 

 往生際が悪い、しぶとさだけは一人前だ、もう観念しろ。

 うるさい、うるさい、うるさい。

 私はアマノジャクだ、人に反抗して、言う事を聞かないのが私の本領だと、何度も自分を鼓舞する。

 

 体はもうとっくに限界だ。

 何日も熟睡出来ていないし、いくつも骨が折れている。

 それどころか適切な治療無しでここまでやり繰りしてきた為か、傷は悪化し、酷く重症化している。

 

 鬼人正邪は妖あやかしの身だ、力も回復力もそこらの人間より遥かに高い。

 だがしかし、今この状態に限って言えば、鍬を持った農民にすら負けてしまうだろうし、切り傷も完治に数日が必要だ。

 

 つまる話、今、彼女に追われている正邪は、もう詰んでいると言っても過言では無いのだ。

 

 ———だが。

 

 細い、細い細い勝ち筋が残っている。

 

「これで面倒臭い仕事もやっと終わるわね」

 

 声。

 

 忌々しい声。

 どんなに上手く隠れても、人外めいた『勘』だけで見つけ出し、毎回反則アイテムを使わなければ逃げられなかった、人外巫女。

 

 憎たらしい気配。

 小人を利用して、この幻想郷のパワーバランスをひっくり返そうと企てたのに、彼女のせいですべてが水の泡と化した、紅白巫女。

 

 空から私を見下ろす女、博麗霊夢、幻想郷の調停者だ。

 

「あんたのせいで忙しい一ヶ月になったわ、私は昼寝したいってのに」

「はっ!そんなに必死に働いているとは、博麗の巫女様は勤勉であられる、通りで毛穴も開いている訳だ」

「は?」

 

 挑発しろ、私はアマノジャクだ、人の嫌がる言葉を紡げ。

 私が何のためにここ まで逃げて来たと思ってる。

 まだ私は勝てる。

 弱者は、強者に勝てる。

 

「気付いていなかったのか?巫女様の家には鏡が無いんだろうな、貧乏人にはそんな高級品を買える金も無い」

「は?は?は?」

 

 霊夢の額に青筋が浮かぶ。

 発せられるオーラの様なものが、私の肌を焼いて心臓を鳴らさせる。

 体がぶるぶると震えている様な気がした。

 

(恐ろしい?そんな訳無い)

 

 自分に嘘を吐く、虚勢を張って自分を強く見せる。

 饒舌に振る舞って、自分を強く見せるんだ。

 

「自己管理も出来ない博麗の巫女様が羨ましいよ、あぁこれまでもそんなお気持ちで異変解決してきたに違いない、こんな巫女様と付き合えるとは、お友達の魔法使いの頭の中はさぞ滑稽で愚かな———」

「一線超えたわね」

 

 さぁ、と。

 血の気が引く。

 

「ぶっ飛ばすだけで済ましてやろうって考えだったけど、気が変わったわ」

 

 殺意が身を突き刺す。

 死の気配を感じる。

 頭の片隅で、さしもの血も涙もない巫女でも、友人を馬鹿にされるのは堪らない様だ、と、弱点を見つけた気がして愉悦を感じる。

 

「念願の挫折を味わいなさい、『夢想封印』」

 

 いつかに放った言葉が、そのまま帰ってくる。

 スペルカードルールでは到底放ってはいけない威力の光弾が、視界を占領する。

 このまま何も出来ずに、鬼神正邪は死ぬ。

 

 ———と、思っているんだろうな。

 

(私が…私が何のためにここに…!魔法の森の入り口まで来たと思っている!!)

 

 手に持ったソレを『夢想封印』に投げ付ける。

 宙を舞い、光球に吸い込まれるソレは『呪われたデコイ人形』。

 

 衝突、次いで爆発。

 

 直撃は避けられたが、爆風が正邪の身を襲い、魔法の森へと吹き飛ばされる。

 これでいい、当初の予定と異なるが、目的は果たした。

 魔法の森に逃げ込むという、逆転の一手を。

 

 魔法の森はその瘴気とキノコの影響で土地感覚を失い、遭難しやすい。

 言い換えるならば紅白巫女はまっすぐに正邪を追えない可能性が高く、更に上空からは鬱蒼とした森のお陰か地表が見えないのだ。

 

 その分自身がここで遭難して野垂れ死ぬ可能性もあるが。

 

「ははっ!ははは!バーカッ!!」

 

 爆風に紛れて、暴言を放つ。

 見下されていたアイツを見返してやれて、とても気持ちが良い。

 そんな感情が一瞬胸を占め、すぐに大部分が苦痛へと変わった。

 

「あっ!?ぎゃっ!うぁっ!?」

 

 『呪われたデコイ人形』と『夢想封印』、その爆発距離が近すぎたか、もしくは爆発規模が大き過ぎたか。

 上手く爆風に乗って森に飛び込み、奥深くまで逃れるつもりが、衝撃が強過ぎたのだ。

 

 無意識に両腕を突き出して着地の衝撃に備えるが、悪手。

 目まぐるしく変わる視界に対応出来なかった正邪は、自身が吹き飛ばされている方向に何があるのか気付けなかった。

 

 大木。

 気付いた所で対処なんて出来るはずも無く、正邪の腕は突き出した状態のまま大樹に激突した。

 

 異音。

 指、掌、肘、両腕の関節が順番に破壊され、それでも止まらずに、次は顔面から大木に突っ込む。

 極大の衝撃、弾ける思考、極彩色に染まる視界の端。

 

「かはっ…」

 

 無様に、地面に転がり落ちる。

 目を開ける、アドレナリンのせいか、痛みはあまり感じなかった。

 

 地面を見ている様で、自分が一体何を見ているのか理解出来ない。

 脳震盪、いやもっと酷い状態だ、そんな状態でまともな思考なんて出来なかった。

 

 だが、無意識に考える事はある。

 

「ひゅー…!っひゅー…!」

(ま、まだ、奥に…に、逃げ———)

 

 使い物にならない腕を動かし、這い蹲って進む。

 1mでも、50㎝でも、あの紅白巫女から逃げる為に、痛みを忘れて全力で這う、実際には10㎝も進んでいないが。

 

 まるで虫の様に動かす五体はどんどん悪化し、正邪の意識を奪っていく。

 

(ここまで…逃げれば、追っては…これな———)

 

 正邪の意識が途絶えたのは、そこから30㎝を超えたあたりだった。

 

◆◆

 

「…おや?」

 

 それから何分経った頃であろうか。

 地面に倒れ伏した正邪は、微かな足音と声に意識を覚醒させた。

 と、いっても、夢を見ている様な酩酊状態に近いが。

 

「君!大丈夫かい!?」

 

 運悪く魔法の森の住人に発見されたのか、それとも運良く怪我と瘴気で死ぬ前に保護されたと見るべきなのか、正邪はわからない。

 

「もう大丈夫だから!家まで運んでいくよ!」

「う…ぐ…」

 

 だが正邪は天邪鬼、善意は受け取らない主義だ。

 五月蝿い、と、あの小人に降伏を誘われた時の様に、その手を突っぱねようとして、失敗した。

 

 あの時と違い、正邪は重症。

 そんな事が出来る筈も無く、無抵抗に彼女は背負われた。

 

「酷い傷だ…安心してね!私は君の味方だから!!」

 

 無性に、腹が立つ。

 なぜ?

 考えれば直ぐに答えが出そうだった。

 

 だが、そんな疑問の蓋を開ける元気は無い。

 正邪は男の背の中で、再び意識を失った。

 

◆◆

 

「はぁ…もう、本当に面倒臭いわね、後は魔理沙か()にでも頼もうかしら…いや、あの雑魚妖怪なら瘴気で勝手にくたばるでしょ」




全15話ほど、毎日更新していきますので、暫しの間、お付き合い下さい。
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