魔道具の効果です!と言い張るフィジカルモンスター系ダンジョン配信者 作:匿名
六本木にある高層ビルの最上階に与えられた個室。スタイリッシュな執務机についた神城イリスは、熱心な様子でノートPCのモニターを見つめていた。
彼女がアクセスしていたのはダンジョン配信プラットフォーム「Dtube」。あるA級冒険者のライブ配信がまさに始まろうとしていた。
『こんにちは! A級冒険者のユズルです! 今日はゲストと一緒に湯島ダンジョンの第二階層に挑もうと思います!』
ユズルがハキハキとした声で挨拶をすると、カメラ一旦引いてユズルの隣に立つ男を映した。
男はユズルと同じように髪をセンターパートにし、涼しげな瞳をした美男子だった。顔も背格好も、ユズルとよく似ている。身に付けている鎧すら、ユズルと同じようなデザインだった。
『C級冒険者の雪村カズキといいます。よろしくお願いします』
カズキの登場にコメント欄が騒がしくなる。
<めっちゃイケメン!>
<スタイルやっば>
<てか、ユズルと似てない?>
<ユズルの苗字も雪村だったような……>
視聴者の反応を見て、神城はニヤリと笑う。すべてが思惑通りに進んでいるかのように。
『いや~秒で見抜かれちゃいましたね! 皆さんの言う通り、カズキは俺の弟です。まだ18歳と冒険者になりたてですが、既にC級。なかなかの実力者なんですよ』
ユズルは得意げにカズキを紹介した。カズキは少し照れ臭そうにしながらも、否定することはない。
<カズキ、18歳でC級なの? はやくね?>
<二人ともイケメンで実力者って遺伝子やべ~>
<いままでも二人でダンジョン潜ってたの?>
『実は兄弟で初めてのダンジョンアタックなんですよ! 連携とかぎこちないとこあるかもだけど、温かい目で見守ってください!』
そう言うと、ユズルとカズキは転移の間から足を踏み出す。二人ともサッと腰の短剣を抜いて油断のない様子だ。
シンとした湯島ダンジョンの第二階層に二人の足音と鎧の擦れる音だけが響く。
<湯島ダンジョンの第二階層ってどんなモンスターが出るの?>
<またスライム系?>
<いや、巨大な獣系らしい>
<巨大な獣系ってなんだよ>
視聴者のコメントに答えるように、俄かにダンジョンが震え出す。
ユズルとカズキは足を止め、キリと通路の先を睨んだ。やがて、振動の原因が露になる。
『バーサクボアだ! こいつを一対一で仕留めることが出来たらB級相当の実力があると言われる。カズキ、いけるだろ?』
『ち、全く兄貴は人遣いが荒いな』
ユズルが後退すると、入れ替わるようにカズキが前に出た。
ノートPCの前で神城はギュッと拳を握り、緊張した面持ちでじっとディスプレイを見つめている。ユズルからカズキの実力は聞いていたが、実際に戦う姿を見るのはこれが初めて。
将来はA級を期待される逸材とはいえ、まだ冒険者になって数か月のルーキーがバーサクボアに挑むのは無謀に思えたのだ。
神城の心配をよそに、カズキは落ち着いた様子でバーサクボアと対峙する。
全長四メートルを超える巨体が狂った赤い瞳を輝かせながら突進してくる。中空をホバリングするドローンカメラが、カズキの背後からその様子を捉えていた。
あと十メートル。
カズキは左手を前に突き出し、魔力を漲らせる。紫電を纏った球体が現れ、バチバチと音を立てた。
『【雷突】』
右手の短剣が紫電の球体を貫く。剣身が紫電に覆われると、まるで槍のように前方に鋭く伸びた。
雷で出来た穂先がバーサクボアの眉間を貫く。それまで一直線にカズキを目指していた巨体がガクガクと痙攣し、脚を折って地面に転んだ。
<うおおぉぉぉおおおおお!! カズキやべえ!!>
<なに今の技!? 初めて見たんだけど!!>
<複合スキルってやつじゃない? 複数系統の才能を持っていると発生するやつ>
<すげええええ!!>
カズキは勢いよく駆け出し、いまだに痙攣を続けるバーサクボアに肉薄する。そして、紅く濁った瞳に深く短剣を突き入れた。
バタバタとバーサクボアの巨体が跳ね上がり、すぐに動かなくなった。カズキの完勝だ。狂戦猪の亡骸はやがて煙となり、魔石だけが地面に残った。
<これでC級ってランク詐欺でしょ! 【50pt】>
<もうさっさとB級に上げようぜ! 【50pt】>
<カズキ、カッコ良すぎ!! 【100pt】>
<雪村兄弟最高!!!! 【200pt】>
勝利を祝って、視聴者からはスパチャが投げられる。カズキは左腕の内側に固定したスマホで「Dtube」のコメント欄を確認し、アカウント名を読み上げてお礼を続けた。
「順調ね」
神城は満足そうに呟く。
その後も雪村兄弟は第二階層の探索を続け、順調にスパチャを稼ぎ続けた。
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「なるほど。第二階層にはバーサクボアが出現するのか……。どんな魔道具を使って倒せばスパチャを稼げるか考えないとな……」
ボロアパートの一室。俺はA級冒険者のライブ配信を見て湯島ダンジョンの第二階層について予習していた。
スマホアプリ「Dtube」では今もスパチャを稼ぎ続ける兄弟の様子が映し出されている。
ド派手な魔法やスキルはやはり、視聴者にウケる。魔法もスキルも使えない俺からすると、うらやましい限りだ。
「とはいっても、ないものねだりしても仕方がない。俺は頭をつかって賢くスパチャを稼ぐしかない」
丈夫な身体と力だけが取り柄の俺が底辺から抜け出すには、工夫が必要だ。考えて考えて考え抜くしかない。
才能のある奴等の何倍も思考しなければ、このどん底から這い出すなんてことは出来ない。
俺は第二階層に現れたバーサクボアの動きを思い出しながら、魔道具の構想を練り続けた。