魔道具の効果です!と言い張るフィジカルモンスター系ダンジョン配信者 作:匿名
「こんばんは。魔道具師ゴンゾウです」
湯島ダンジョンの第二階層の転移の間。俺はメルカリで購入した型落ちのドローンカメラに向かって話し掛ける。ドローンカメラにはスマホを固定し、「Dtube」のアプリを立ち上げてコメント読み上げ機能をオンにしている。
すぐに視聴者から反応があり、コメントが読み上げられた。
<おっ、魔道具師ゴンゾウだ!>
<魔道具師wwww>
<おい、笑うな!>
<ゴンゾウ、今日はどのダンジョン?>
最近は登録者も増え、ライブ配信を始めるとすぐに同時接続数が増えるようになった。「魔道具師ゴンゾウ」が認知され始めたのだ。
「今日は湯島ダンジョンの第二階層に挑戦する」
<E級冒険者が湯島ダンジョンの第二階層行って大丈夫か?>
<ゴンゾウには魔道具があるから大丈夫だよ!>
<魔道具があるからね!>
<そう! 魔道具があるから!>
「その通り。魔法もスキルも使えない俺がダンジョンで戦えるのは、自作の魔道具があるからだ。今夜は新しい魔道具のお披露目もあるから、是非最後まで見てほしい」
<……おっ、おう……。新しい魔道具、たのしみだな……>
<……そうだな……>
<新しい魔道具。ごくり……>
<い、一体、どんな魔道具だろうなぁ……>
視聴者も新しい魔道具が楽しみで仕方がない様子だ。これは無様な様子は見せられないな。気合を入れないと。
俺は転移の間から通路へと出た。
安全靴が小石を食む。少し力を入れると、音もなく砕けた。アドレナリンが体内を駆け巡り、気分が高揚してくるのが分かる。
歩き続けていると、俄かにダンジョンが揺れ始めた。俺はその原因を知っている。赤く濁った瞳をもつ、狂戦猪、バーサクボア。遠く通路の先に、その巨体が見える。ドローンカメラがズームの倍率を高め、バーサクボアの姿を視聴者に伝える。
<おお! 早速のバーサクボア!>
<ゴンゾウ大丈夫か? 無理してない?>
<いけゴンゾウ! 魔道具の力をみせてやれ!!>
<新しい魔道具は?>
「新しい魔道具だが、実はすでに着用している。この上着はアイアンジャケットといい、あらゆる衝撃に耐えることができるのだ!」
おれはワークマンで買ったジャケットの裾をピシ! と引っ張ってドローンカメラに向かってアピールする。ジャケットのロゴはマジックで塗りつぶしてあり、これがワークマン製だとばれる恐れはない。しっかりとケアしている。
<ただのジャケットでは?>
<……お、おう……【アイアンジャケット】ね……>
<一見ただのジャケットに見えるけど、凄い魔道具なんやろうなぁ>
<本当に衝撃に耐えられるのか?>
「【アイアンジャケット】の凄さを見せてやる!」
俺は両手を広げ、通路の真ん中で仁王立ちになる。バーサクボアは瞳に赤い光りを灯らせながら、一直線に駆けてくる。どんどん速度が上がり、ダンジョンの振動も大きくなる。その足音で、視聴者のコメントが聞こえないほどに。そして──。
ドッ!! と重たい音がして、バーサクボアの巨体が俺の身体とぶつかった。岩で出来た地面が泥濘のように抉れるのが分かる。
しかし、俺の身体が吹き飛ぶことも、バラバラになることもない。しっかりと受け止めている。
<なんで無事なんだ!?!?>
<ゴンゾウの身体はどうなっているんだ!?!?>
<【アイアンジャケット】の効果だろ! 凄い魔道具ですね……!!>
<す、凄い魔道具だなぁ……>
「そして【巨人のグローブ】の出番だ」
俺は両手にはまった【巨人のグローブ(ただの軍手)】のLEDライトを光らせ、バーサクボアの下あごから伸びた牙を掴む。
「うおおぉぉぉおおおおお!!」
<なんでバーサクボアを持ち上げられるんだよ! 絶対10トン以上あるだろ!!>
<す、ゴンゾウすげえ>
<みんな! 凄いのは【巨人のグローブ】だから!!>
<そうだ! そうだ! 【巨人のグローブ】すげええええ!!>
「いけええぇぇぇええええ……!!」
俺はバーサクボアの巨体を頭から地面に叩きつけた。隕石でも落下したように地面が陥没する。巨体が痙攣を始め、やがて動かなくなり、煙になって魔石だけが残った。
「どうだ? 俺の魔道具は?」
<いや、【アイアンジャケット】破けてるけど……>
<すごいです! ゴンゾウさんの魔道具最高です! 【30pt】>
<もっとゴンゾウの魔道具みたい【40pt】>
<やべえ。こいつは本物だ……【50pt】>
スマホからスパチャの効果音が響く。気持ちいい。最高の気分だ。人間、頭を使って工夫を重ねれば、報われる。それを証明した瞬間だった。