魔道具の効果です!と言い張るフィジカルモンスター系ダンジョン配信者 作:匿名
「Dtube」の「魔道具師ゴンゾウChannel」の登録者数は順調に伸びているし、湯島ダンジョンで採取した魔石のお陰で生活は豊かになりつつある。
一見すると順調だ。しかし、俺には悩みがある。冒険者の等級が上がらないのだ。
現在、俺はE級。一番低い等級だ。
等級が上がれば魔石やアイテムを売却益に対する税金の割合が低くなるし、日本冒険者協会が発行するクエスト(高報酬)も受けられるようになる。
どん底の生活から這い上がるためには冒険者等級を上げることが一番の近道なのだ!
冒険者の等級を上げるにはモンスターを討伐して実績を積み、その上で試験を受ける必要がある。低い等級、D級やC級に上がるには筆記試験。B級やA級になれば実技や面接があるらしい。
俺は冒険者協会に買い取ってもらった魔石の評価から、D級に上がるための実績は十分とされている。
が、しかし! 筆記試験に通らない! 難しすぎるのだ!
「はぁ。せめて選択式ならば……」
D級への筆記試験は記述式だ。様々なシチュエーションで「最適」だと思われる行動について、考えて記述しなければならない。
俺は考えるのは得意だ。頭も悪くない。いや、たぶん世間一般からすると賢いほうだ。なのに、D級への筆記試験にはもう二回も落ちている。
「何者かの陰謀なのか……?」
もしかすると、俺は知らないうちに敵を作ってしまったのかもしれない。それも試験結果すら操作できるような……。
そんなことを考えながら、俺は深夜の湯島ダンジョンに向かっていた。ダンジョン入り口横の詰め所にいる職員に冒険者証を見せ、第一階層の転移の間へと入る。
転移の石に手を触れて目を瞑ると、頭の中に「1~3」の数字が浮かんだ。これは俺が湯島ダンジョンの第三階層まで達していることを意味する。
俺は頭の中で「3」と強く念じた。途端、身体が何かに包まれたような感覚になり、一瞬重力がなくなった。第三階層に転移したのだ。
第三階層を本格的に探索するのは今日が初めてだ。
ただ、どんなモンスターが現れるのは把握済み。第三階層の敵は「ミミック」。あらゆるものに擬態する厄介な奴だ。
攻撃は基本的に擬態からの奇襲のみ。冒険者側が先に擬態を見破ると、もの凄い勢いで逃げてまた別のモノに擬態して奇襲を狙う、やっかいな相手だ。
「さて、配信を開始するか」
俺はバックパックからドローンカメラを取り出すと、パワーオンしてスマホの「Dtube」アプリと連動させる。スマホもドローンカメラに固定し、コメントの読み上げ機能もオン。もうすっかり慣れた手順だ。
<お、ゴンゾウだ>
<毎日ダンジョン配信して偉いな>
<D級への進級試験受かった?>
<さすがに今度は受かったやろ?>
いきなり痛い質問だ。
「今回はちょっと体調が悪くて……駄目だった……」
<体調なんだwww>
<ゴンゾウに体調不良とかあるの!?!?>
<体調不良ならしゃーないかぁ>
<誰かに試験勉強付き合ってもらえよ!>
「残念だが……俺には冒険者の友人はいない……」
<おう……そうか……>
<泣かないで! ゴンゾウ!>
<誰か友達になってやれよ!>
「魔道具師は孤独な職業なんだ」
心に傷を刻みながら、俺は転移の間から足を踏み出す。
この第三階層は全てが油断ならない。ミミックは壁の一部に擬態していることもあれば、宝箱に擬態していることだってある。
気を緩めれば、背後から心臓をグサリ。なんてことになりかねない。
「うん? あの岩は怪しいな」
第三階層の探索を始めて約十分。通路の真ん中に不自然に置かれた岩があった。大きさは縦横それぞれ一メートルぐらい。ミミックである可能性が高い。
俺は足音を殺して、慎重に近付く。もう、あと一歩で手が届く距離だ。
視聴者も空気を読んで黙って経緯を見守っている。
俺は【巨人のグローブ(軍手)】を光らせてから、不審な岩に向けて拳を振り下ろす。
ドンッ! と岩は吹き飛び地面にクレーターが出来た。魔石は残らない。つまり、ミミックではなかったということか……?
<危ない!>
<ゴンゾウ後ろ!>
<ヤバイヤバイ!>
<早く!>
まさか……罠だった?
俺は慌てて振り返る。目の前には人型をした液体金属のようなものが、腕を槍のようにして、迫っていた。正体を現したミミックだ。鋭く尖った穂先が俺の胸を貫く──。
<なんで無傷なんだよ!!!!>
<ミミックがめっちゃ焦ってるwwww>
<【アイアンジャケット】凄い!! 【10pt】>
<普通なら胸を貫かれて死んでるだろwwww 【50pt】>
俺の強靭な肉体はミミックの攻撃を跳ね返していた。視聴者は【アイアンジャケット】の効果だと思っているようだが……。
ミミックは怯えたような様子で、俺に背を向けて走り始めた。物凄い速さだ。普通の冒険者なら、一瞬で置き去りになるだろう。
しかし、俺には魔道具(強靭な肉体)がある。ドローンカメラに向かって足元をアピールした。
「俺が履いている靴はただの靴じゃない。これも魔道具【シルフウォーカー】だ」
しゃがんで安全靴に仕込んだLEDライトを点灯。通路の先、豆粒のように姿が遠くなったミミックに向けてスタートを切る。
<ただの安全靴じゃなかったのかー>
<【シルフウォーカー】! かっこいい!!>
<ゴンゾウ、滅茶苦茶速い──>
<もう姿──>
疾風と化した俺は、ドローンカメラを後方に置き去りにし、代わりにミミックの背中を捉えた。
振り返り、俺の姿を認めたミミックは焦って脚を絡ませ、派手に地面に転んだ。すぐに追いつき、狙いを定める。
「よくも騙してくれたな! 死ね!」
地面に転がるミミックの胴体に拳を振り下ろすと、爆散。飛び散った体は煙となり、やがて魔石だけが残った。
少しするとドローンカメラが追い付いてくる。
<もうミミックを倒したのか!? やっぱりゴンゾウの魔道具は凄いな!>
<【シルフウォーカー】凄いなwwww>
<安全靴の見た目で【シルフウォーカー】はかっけえ>
<ゴンゾウの魔道具には楽しませてもらってます! 【20pt】>
やはり魔道具師の設定は正解だったな。これからも上手くバレないように継続しなければ……。
そんなことを考えながらミミックが残した魔石を拾っていると、すぐ背後で気配がした。慌てて振り返る。
見ると、ダンジョンの壁に凭れ掛かり、こちらを見ている女がいる。
「貴方が最強のE級冒険者、ゴンゾウね」
女は鋭い視線を向けながら、俺の名前を呼んだ。
こいつは人間か? それとも──。