魔道具の効果です!と言い張るフィジカルモンスター系ダンジョン配信者 作:匿名
「私が冒険者の常識を教えてあげる。だから連絡先を教えなさい」
夜凪にそう言われてlineを交換した翌日、早速連絡がきた。
「23時に新宿ダンジョンで集合」と。
新宿ダンジョンは第一階層から様々な種類のモンスターが出現するので「冒険者の常識」ってやつを知るのに丁度いいらしい。
かつては「東横キッズ」がたむろしていた場所に出現した新宿ダンジョン。今でもその名残があるらしく、居場所のない若者達が集まり、職員の目を盗んで無許可でダンジョンに入ったりするらしい。
俺も施設に入っていなければ、同じようなことをしていたかもしれない。
そんなことを考えながら駅から新宿ダンジョンに向かって歩いていると、徐々に治安が悪くなる。
道端に落ちているゴミの量が増え、地面に座る人が現れる。まだ、中学生ぐらいの見た目の男女が酔っ払ったように、じゃれ合っている。
居心地の悪さを感じながら、新宿ダンジョンへ。詰め所の職員に冒険者証を見せ、階段状になったダンジョンの入り口を降りていく。
スマホを取り出して時間を見ると、22時50分。待ち合わせ場所の転移の間に入ると、黒いローブを着た女の姿がある。夜凪だ。
「遅いわよ、ゴンゾウ!」
「まだ、待ち合わせ時間前だろ?」
「女性と待ち合わせしてるときは、必ず女性よりも先に来て! 『楽しみで三十分前に着いちゃった!』って言って!」
大声を出した後、夜凪は肩を上下にさせて息を吐く。
<これは厄介な女だわ~>
<ずっとこれはしんどいわ~>
<そりゃ、バツが増えますよね~>
「えっ!? もうライブ配信してたの?」
夜凪は驚いて目を丸くする。
「あぁ。スマホで配信している。まだドローンカメラは接続していないが」
急に態度を取り繕い、夜凪は姿勢を正した。
「あら、ゴンゾウ。早いわね。まだ待ち合わせ時間前よ」
えッ!?
<さっきの遣り取り、なかったことにしようとしてる!?>
<勝手にtake2やり始めて草>
<流石はヤバイ冒険者ランキングの常連だぜ>
「さて。今日は私が冒険者の常識をこの新宿ダンジョンで教えてあげるわ」
キリリと顔を作り、夜凪は俺のスマホに向かってアピールした。随分と視聴者を意識しているらしい。
俺は背負っていたバックパックを下ろし、ドローンカメラを取り出す。「Dtube」アプリと連携し、スマホを固定すればダンジョン配信の準備は完了だ。
「さて、行こう」と転移の間から足を踏み出そうとした途端、夜凪が声を上げる。
「はい! ストップ! 今行動だけで、筆記試験には落ちるわよ!」
ん? 何故、転移の間から出ただけで筆記試験に落ちるんだ?
「理由を教えてくれ」
振り返って尋ねると、夜凪はしたり顔で話始める。
「ゴンゾウは新宿ダンジョン初めてでしょ? それなのに無警戒に転移の間から足を踏み出した。もしかしたら事前に下調べはしていたかもしれない。それでも、転移の間から出るときは慎重になるべきだし、事前の情報を整理し直すのが普通よ」
「……なるほど……」
伊達にA級冒険者ではないらしい。
「D級への昇給試験でも出たと思うけど、ゴンゾウはなんて回答したの?」
「ドローンカメラをDtubeと連携させてライブ配信を開始する。と」
「それはダンジョン配信者の心得でしょ! その前に冒険者の心得を身につけなさい!」
人差し指で俺を指しながら、夜凪はピシリと指摘する。
「わかった。やってみる」
「そうよ! 今回だけ特別に私が新宿ダンジョンの情報を整理してあげるわ。新宿ダンジョンの第一階層に出現するのは、スライム、マッドラット、スケルトンの三種類。群れで現れることはないわ」
「なるほど。じゃ、行くか」
転移の間から外に出ようと──。
「待ちなさい! なんでマップを確認しようとしないのよ!」
「まぁ、第一階層だしなんとかなるかと」
「甘いわ! 転移の間のすぐそばにモンスターのスポーン地点があるかもしれないでしょ!? 角を曲がったらすぐ戦闘! なんてこともあるのよ? 慣れないダンジョンでは必ず、毎回マップを確認しなさい!」
そう言って、夜凪は紙のマップを俺に押し付けてきた。
「いまさら紙のマップなのか?」
「スマホの充電が切れたり、破壊されたりしたらどうするの? マップは命綱なのよ?」
「……確かに……。今まで考えたこともなかった……」
俺と夜凪のやり取りに視聴者達が反応する。
<急に姐さんがまともな人に思えてきた……>
<てか、ゴンゾウ、今までどうやって冒険者やってきたんだ?>
<それはフィジ……魔道具のお陰だろ……>
「どう? マップは把握した?」
「あぁ。転移の間の近くにはスポーン地点はない。通路もしばらくは真っすぐだ」
「いいわ。じゃ、先に進みましょう」
やっと許可を出され、俺は転移の間から出た。ゴツゴツした岩で出来た通路は湯島ダンジョンと変わらない。
少し歩くと、地面を這うモノの音が聞こえた。たぶんスライムだ。
足を止め、様子を窺う。
「どうしたの?」
「地面を這うモノの音がした」
夜凪は驚き目を丸くする。
「ゴンゾウは聴力も凄いのね……」
うっ……。これは失敗したかもしれない。普通の人はスライムの這う音が聞こえないのか……。
「み、耳の中に拾った音を増幅する魔道具を仕込んでいるんだ!」
「……そうね。ゴンゾウは魔道具師だものね……」
少しすると、地面を這う透明な物体が現れた。スライムだ。
「スライムはどうやって倒すのが正解だと思う?」
「それは簡単だ。コアを狙って石を投げる」
「そんなわけないでしょ! なんでそんな難易度の高い倒し方をするのよ!」
マジか……。玉砂利でコアを狙うのが正攻法だと思っていた。
「剣や槍でコア狙うのが普通の戦い方よ。もし、魔法が得意なら魔法でもいいけど」
そう言って夜凪はスライムに向かって人差し指を向けた。魔力を籠めているのか、ぼんやり蒼く輝いている。
そしてスッと指を下ろす。途端、小さな風の刃が発生してスライムに向かい、コアごと真っ二つにした。
「モンスターに対してはなるべく距離を取って戦うのが基本よ。人間の身体は脆い。怪我をしてしまえば、途端に力を発揮出来なくなるわ。それを念頭にいれて、ダンジョン探索は進めなくてはならないの。D級への昇級試験だって、そーいう観点で解答しないと、絶対に合格しないわ」
「……なるほど……」
常識を知れってことか……。
その後も俺は夜凪に「普通の冒険者の考え方」を学び続け、新宿ダンジョンを出た頃にはすっかり夜が明けているのだった。