楽しめるか否か。それが問題だ。   作:ジェバンニ

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私の遅筆力は53万ですよ。


ペンは剣よりも

その日、その時までスリザリン寮に所属するドラコ・マルフォイは上機嫌だった。

現在あるカードを使えば無意味なまでに下品で暑苦しく、その上あのポッターと親しい大男の使用人を学校から退けることができるかもしれない。なおかつドラゴンの存在を隠匿するのに手を貸していたとしてあの忌々しい三人組を最高の場合に退学に、最悪でもホグワーツに存在しているべきでないあの寮から点数を十ポイント単位で減らせるかもしれないのだ。

だからこそ当事者の一人からこんな風に声を掛けられたとき耳を疑った。

「君は一体どういうつもりなんだ!」

そういきなりポッターの奴が声を掛けてきたとき何故自分相手に強気になっているのかがまず分からなかった。間抜け面のウィーズリーも居るが何やら顔を顰めていた。

「ポッター、一体なんの話だい?」

両隣のクラッブとゴイルも意味が分からなそうにしていた。……まあ、それは何時もの事なのだが。

喧嘩を売るつもりなのだろうか?だが赤毛ののっぽも傍にいるし教室から出て少し経ったから先生方の眼が無いとはいえ圧倒的に有利なのはこっちなのだ。そうではないのだろう。

「恍けないでくれ。今までのこれは一体何のつもりだ」

そうして渡されたのは今までに見たことがない手紙だった。

一通目。

 

「親愛なるハリーへ

 

突然の手紙で驚いたことでしょう。僕も君とこんな形で手紙を交わすことになるとは思ってもいませんでした。

初めて見た時からハーマイオニー・グレンジャーのことが忘れられないのです。

彼女について知っている限りのことを色々と教えていただけませんか?

 

愛に生きる男の子ドラコ・マルフォイ!」

 

思わず吐きそうになった。

しかも最後に付いているエクスクラメーションマークは一体何なのだ。自分はこんなものは断じて書かない。……だが確かにこれは見間違えることのない、他の誰でもない彼の字だった。冷や汗が止まらない。彼は知らない間に何者かによる錯乱性の魔法攻撃を受けていたのだろうか?

「ついでにこれもだ!」

とまたポッターのクルクル眼鏡から手紙を手渡された。

二通目。

 

「親愛なるハリーへ

 

僕の胸はグレンジャーへの溢れんばかりの想いで張り裂けそうです。

彼女のシマリスのような魅力的な前歯とモップ頭のような素敵な髪形が僕の頭から離れません。

どうか僕と彼女の間を取り持っていただけませんか?

 

マグル生まれに恋した男の子ドラコ・マルフォイ」

 

何だか寒気がしてきた。何なのだ、これは。

「これは一体どういうことなんだ!」

幾ら彼でも許しがたい種類の冗談だった。

「僕が聞きたいよ、それは。こないだから送り続けてきたのは君じゃないか!」

何を言っているのかが分からない。

「こないだ?」

彼曰く一日に一通ずつ送られてきて、現在十通もあるとのことだった。

嘘だ、断じて送っていないぞそんなもの。いや、待て……それよりこんな物が一枚や二枚どころじゃなく十通以上……だと!?

そんなことを考えている間にゴソゴソと手持ちの鞄からポッターが取り出したのは書かれたものが表に出た手紙の束だった。

見たところ、ほぼ近しい内容のそれが全部で十枚近くあったのだ。全部読み通したわけではないが彼が今流している冷や汗の量は先ほどまでと比べると倍以上となったはずだ、体感で。

曰くグレンジャーの容姿の美しさを讃える恥ずかしいというよりは見るに堪えないといって良い詩から、彼女は一体どんな物を好むのかと言った名状しがたい質問まで。何が悲しくて純血の名家に生まれた自分が汚らわしいマグル生まれの者なんぞの容姿を讃えたり、趣味趣向の類を気にかけたりしなければならないのだろう。

こんな手紙が出回る理由や何が原因なのかはさっぱり分からない。だが非常に拙い。こんなものがもしも同じスリザリン寮生に目撃でもされたら彼の学校生活が終わる。繰り返すようだが当然こんなものを書いた覚えはない。

だがしかし自身もスリザリンに身を置く者としてできるだけスマートに事態を収拾しなければ

「おい。どうしたんだ」

と思っている最中の彼にそんな声を掛けてきたのは、自分と同じ寮に所属する名家出身のクラスメートたちの一人だった。教室から早めに出た自分たちと違い少し話し込んでいたようだから今追いついてきたのだろう。だが今はタイミングが悪かった、それも天文学的に。

「マルフォイがハーマイオニーにラブレターを書いたんだ。それも十枚以上も」

ポッターが怒ったように吐き捨てたが怒りたいのは彼の方なのだ。

「は?確かグレンジャーの奴だったか?おいおいあんなマグル生まれなんかにドラコがそんなものを書くはずが……確かにドラコの字だな」

「え!?これドラコの字じゃない」

常識的な判断をしつつその手紙を視認したのはセオドール・ノット、父親同士が仲良いため、彼とはクラッブやゴイルと同じく入学前からの知り合いである。甲高い声で震えながら渡された手紙に視線だけで穴が開きそうなほど見つめているのがパンジー・パーキンソン。彼自身の従姉を別とすれば純血の名家出身の女子の中では彼と一番近しい人物だった。

「誤解だ!僕はこんなものを書いた覚えはないぞ!」

そう必死に否定したのだが

「マルフォイがハーマイオニーにこないだから付きまとっているんだ。ハーマイオニーはあんなに嫌がっていたのに!」

指し示した方向を見るとそこには涙で顔がグチャグチャになったグレンジャーが居た。

やめろ、どうしてこんな最悪のタイミングでお前が居るんだ、と思ったところでこちらの顔を確認したのか彼女は走り去っていった。

……この時の彼の最大の間違いは彼女を捕まえなかったことだろう。もし捕まえてさえいればあるいは彼女が手にしていたユースティティアから貸してもらった目薬に気付けたかも知れなかったのだから。

「そういえばこないだから何だか妙にこそこそしていたような」

「オレ、ハーマイオニーたちのことを付け回しているマルフォイのことを見たことがある」

「嘘!?ドラコって本当に?」

次々に飛び交う流言飛語、そして毒のように廻る一割の事実。

何が何だか分からない。ドラコ・マルフォイは頭の中が真っ白になった。

 

ジェバンニが一晩でやってくれました。

まあ、女子高生だった時分にゲリラ新聞部(通称東ス○部。ただし活動内容は盗さ……撮影や盗c……事件の聞き取りや筆跡の偽造、事実のでっち上げなど明らかに使う目的での犯z……素敵なスキルの習得だったのは公然の秘密である。なお私は噂話の創作担と……新聞小説担当だった。自分で言うのも何だが結構人気があった。教職員や生徒会の執行部とあまり歓迎したくない感じに仲良くなれそう的な意味で)で「ジェバンニ」のペンネームを使い数々の学校内限定のセンセーションを巻き起こしていない。

筆跡偽造を中心とした新聞部での技術は今も生きているようで何より。

さて、種明かしと行くとしよう。今回私ことユースティティア・レストレンジが行った作戦は実に単純である。

それは「フォイフォイの筆跡でハリー宛の手紙を書く」というものだ。

但し

1フォイフォイがハーマイオニーに懸想しており、その相談をハリーにしているものとする。

2送った手紙の枚数は既に十通を超えているものとする。

という条件が付くが。

それがプランAである。プランB、実は「フォイフォイがロンを相手に懸想している」アイデアも浮かんだのだが本人たちが凄まじく嫌がりそうだし、何より前世の高校時代の友人と違って私にベーコンでレタスな関係を楽しむ趣味が無かったので没とした。

解せないのはハーマイオニーとの噂が流れた後でドラコが「未だポッターとの仲を疑われた方がマシだ!」と手紙で言ってきたことか。……純血主義は未だに私にとって完全な解析が不可能な代物である。

流石に一晩で十通もの偽手紙、それも深夜書いたラブレター風のテンションの内容ででっち上げるのは少々骨だった。徹夜が明けた後は一日ハリーとロンの演技指導もしなければならなかったし、基本的に面倒くさがりやの私にしては結構精力的に動いた方だと思う。

うん、今回ドラコを出汁に使ったことには特に深い意味はない。ただ単純に定期的に人を騙し……人前で演技していないとやり方を忘れてしまいそうで怖くなったので久しぶりに使ってみただけである。

フォイフォイは犠牲になったのだ……私の大いなる目的、その犠牲にな……。

まあ別にプランC、ドラコが「マグゴナガル先生に懸想している」設定でも良かったのだがフォイフォイを婆フェチ(敬老精神に著しく欠けている表現に関しては謝罪しなければなるまい。まあ、するだけなのだが)にする気は無かったし、自分がそんな男の子の従姉妹と判明しても嫌だったし。幾ら恋愛に年齢なんて関係ないと言っても限度という物があるだろう。

……決して副校長にバレたら私の命が危なそうだからとかそういう理由ではないのだ、本当に。

まあプランBとプランCのことを話した時にはハリーとロンには思いっ切り引かれ、ハーマイオニーには「何て凄い嫌がらせなの! やっぱりティアね!」と褒められて凄まじく微妙な気分になったがそれはそれ、これはこれとしておこう。

実にアホらしい作戦及び行動だが「こうかは ばつぐんだ!」を記録したようで何よりである。

なお作戦の効果を確認したロンからは

「君、なんでスリザリンに入らなかったの?」

とかなり怯えるような様子で問われたので

「貴方こそ何でハッフルパフに入らなかったのですか?」

と返したら何だか涙目になっていた。感受性豊かな十代前半の男子の考え方は良く分からない。ハッフルパフ寮良いとこ、一度はおいで。

そんなこんなで私の可愛い従弟殿はスリザリン寮の友達、それから先輩方相手に「僕はマグル生まれなんかに恋をしていない!」と力いっぱい否定することに何日かの間躍起になり、ハリー達の邪魔をするどころではなくなってしまったようだ。

観察してみるに、たかがハーマイオニーとの仲を疑われるだけで純血主義のコミュニティでは孤立しかねないほど社会的ダメージを負う物らしい。ドラコのマグル生まれ嫌いは今後も多分治らないのだろうな、という感想を私は抱いた。

……と他人事のように思ってはいるが考えてみればそれは大体私のせいだったか。

ドラコよ、強く生きてくれ。

何だか今回は彼の純血主義についてのスタンスと頭皮に深刻なダメージを与えてしまったような気がしないでもない。

というのも手紙が出回った日以降、暫く彼の愚痴と怒りと嘆きの籠った手紙を読み続ける作業に追われつつ、私はどう返信したものか悩む作業に没頭させられる羽目になっていたのだ。

周りが信じてくれない中で、手紙の上でだが客観的に意見を述べている私は地獄に仏に思えるらしい。そう、私は正しく「マッチポンプ売りの少女」を演じていた。

ドラコもバカではないので自分の筆跡が使われたのはマグルの技術を疑っていた。私はと言えばテッド叔父様から以前マグルのそれにそんな技術があったのでグレンジャーが何らかの形で関与していたのではないですか? と手紙に認めておいた。そう、私のような純血がフォイフォイの不幸に関わっているとは思いもしなかったようで何よりだ。

ホグワーツは今日も平和である。

 

そして仔ドラゴンを密輸する数日前、ハグリッド部屋でのこと。

「それで君は結局当日協力してくれないの?」

「ええ、前にも言ったかもしれませんが私は毒虫、ゴ○ブリ、爬虫類と両生類は嫌いなんです」

「一応ドラゴンは魔法生物学の分類上、爬虫類ではないのだけど……」

「似たような物では無いですか。ホグワーツが滅びるわけでもなし、貴方たちで頑張ってください。私はそこまであのハグリッドという人と親しいわけでは無いですし、私だけ違う寮だから連携が取り難いじゃないですか」

「ああ、ロン。赤ん坊でもドラゴンの牙には毒があるから気を付」

「あ痛ッ!」

哀れロンはハーマイオニーが言った傍から餌を上げていた彼はドラゴンに咬まれてしまったのである。こう言うのを飼いドラゴンに手を咬まれるというのだったか?

最近日本のことわざを忘れかけているのだが大体あっているはず。

まったくロンは本当にコメディ体質だった。六巻の時はその体質の前にラブが付くのだったか。ハーさんも苦労しそうである。

多少揉めたものの、当日の昼間にドラゴンを箱詰めする作業に手を貸すことを約束しながらも実際のドラゴン引き渡しに関してはやはりハリーとハーマイオニーがやることになった。

私は万が一捕まってしまうと品行方正なこれまでのイメージが崩れてしまうだろうし。

……明らかにイロモノ枠じゃない、というスーザンの声が聞こえてきそうだがそんなものは無視である。登場人物の類型などから言えばどう考えても私は正統派ヒロインに違いあるまい。

まあ、私も鬼ではない。作戦の成功くらいはベッドの上で祈っておくとするか。祈るだけならタダなのだから。

さて、結果から言えば翌日グリフィンドールの点数のみが百点ほど砂時計から引かれていた。何でもハリーとハーマイオニーは一番高い塔でドラゴン受け渡しを無事完遂した後で透明マントを脱いだまま忘れてきてしまい、匿名の手紙で彼らが此処に来ることを知っていたマグゴナガル副校長とフィルチ氏に待ち伏せをされていたらしい。

……いや、うん。彼らとある程度親しい私でもそこまで責任は持てなかった。

ドラコに対して「手紙には手紙で。具体的な決行日時の日取りは掴んでいるのですからそういったものを教職員に密告でもすれば良いのではないですか?」と気軽に言ったのが効いてしまったようだ。

あまり原作とは乖離しない感じに進んでくれたようで何よりである。

彼等には是非ヴォルデモートとの暗いところでの鉢合わせを楽しんできていただきたいものだ。

 




この作品は主人公=作者でないことを明言しておきます。なお前書きはあくまで十年ぶりくらいに本屋でとあるスぺオペの続きを見たことによる私の反応であって作者自身の事ではry

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