楽しめるか否か。それが問題だ。   作:ジェバンニ

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気が付けばお気に入りが二千人超えていて驚きのジェバンニです。一晩じゃあ色々と無理なことが多過ぎる……!

あ、次の話が始まります。


騒ぎの始まりについて

それは私がハグリッドの小屋に行って、頼んでいたブツを受け取った帰りの事だった。

「絶命日パーティ?」

ハーマイオニーが突然寄ってきたかと思うと、そんな物に参加しないかと問いかけてきたのだ。

「そう、ハリーが私たち三人で行くってニコラスに約束しちゃって……ティアも良ければ参加しない?」

私は頭が痛くなってきていた。

「ハーマイオニー、それがどういう物だか知っていて参加すると明言したのですか?」

「いえ、知らないけど。ティアはどういう物だか知っているの?」

自分も知らないことを知っている私に対する眼が何だかキラキラしている。

私としてはどんな物かも知らないで参加を決めちゃうあたりが「実にグリフィンドールらしいな」とは思うので、ハリーやハーさんは既に馴染んでいると言えると思っているのだがどうか。

「ええ。うちの『太った修道士』に詳細を聞いたことがありましたから」

いや、まあ裏を取った程度だったのだが。

「……どういった物か聞いて良い?」

そこで私は知る限りの全てを語ってあげることにした。

「絶命日、それは既に生無き者達が大勢集う儚き宴。

供される食物はゴースト専用で、普通の人間なら口にすることすら耐えられないような一品ばかり。

生あるものは死者とのあまりの温度差に苦しむことになります。……主に周囲の空気から彼らが体温を奪っていくという意味合いで。

最後に、真の意味で喜びも悲しみも生者と共有することはできなくなってしまった彼等と私たちは、バベルの塔以後の全人類のようなものです。

まあ要するに多分彼らとは話が合わなくて苦労するのではないのではないでしょうか?」

おとなしく私の話を聞いていた彼女は頭を抱えていた。

「なんで私参加するなんて言っちゃったのかしら。……一応言っておくとティアは出たりしないわよね?」

何かを期待して居る感じのハーマイオニーには悪いが

「勿論です。例え『汝、パンプキンパイを諦めて絶命日パーティに行くがよい!』と神様に言われたとしても、私は神様を殴り殺してでも拒否するでしょうね」

「うん、分かっていたわ。ティアってパンプキンパイ大好きだもんね」

残念そうに、しかして得心顔でハーマイオニーは頷いた。

「ある程度予想はしていたのでしょう? その代わりと言っては何ですがこれを持っていってください」

そう言って包みを持たせた。

「これは何なの?」

「今は未だ秘密です。ですがそこから帰る時になったら役に立つと思うのでその時になったら開けてみてください」

ちなみに中身はしっとり長持ちするかぼちゃのパウンドケーキが三人分である。

必要の部屋で適当にキッチン(食べ物は出せないがガス、電気、水道は使える)なんぞを出して、家事に関する呪文の復習がてらに焼いた自信作なのだ。

……私だって別に四六時中怪しげな研究や嫌がらせだけに精を出しているわけではない。

こう言った感じの生きている上での楽しみと言うのは大切なのだから。

昔の人も言っているじゃないか。

紅茶とケーキには幸せの魔法がかかっているのさ、とね。

それから大分後になって、ケーキの礼を言われた時に私がその台詞を引用したらハーマイオニーに同意されたのは嬉しかった。

その時生憎紅茶を飲めるような状況では無かったらしいが、ケーキそれ自体は美味しかったと言えるレベルだったとのことであるそうなのだから。

 

さて、そんなどうでも良い話は置いておいてハロウィン当日の話をしよう。

私はこの日を楽しみにしていた。と言うのも噂が本当なら「彼ら」に会えるからだ。

「ティアの眼が凄くキラキラしていますね。今宵は一体誰がティアの悪戯の犠牲者になるのでしょう。それとも何か面白いことでも見つけたのでしょうか」

……ジャスティンも大分私を理解してくれているようで何よりである。

「まるで私が何時も酷い悪戯ばかりしているみたいに言わないでください。一体私が何をしたって言うんですか」

「……少なくともついさっきまで僕は君が聞かせてくれたマンドレイクの子守唄で眠っていたわけだけど」

もうどんな顔をしたら良いか分からないという感じのザカリアスが私の右斜め前に居た。笑えばいいと思うよ。

「おはようございます、ザカリアス。良く眠れましたか?」

「ぐっすりと医務室のベッドで八時間ほどね。君が凄い笑顔で右手の親指を立てながら、僕に対して笑いかけてくる夢を見たよ」

いつも通り皮肉気に笑っているように見えるが、彼にしては少しキレが無いように感じた。

「まあ、それは。きっと天に昇るような心地の夢だったのでは?」

「危うく召されるかと思ったよ」

何が悪いかと言うと彼が私に対して多少成長したマンドレイクの幼子を押し付けようとしてくるのがそもそもの発端だった。

 

私に対してはまるで効果が無かったが。

 

何故かと言うとどうやら薬草学の時間に私が愛用しているあのピンクな耳当ては「使用している者が望まない限り外れない」という魔法が掛かっているみたいなのだ。

故にザカリアスが幾ら外して押し当てようとしても悉くそれは失敗に終わり、逆に私に押し当てられて彼が何度も医務室のお世話になってしまうという悪循環ができていたという寸法である。

そう、もう二寮の合同授業における四度目で流石に大雑……おおらかなスプラウト先生も彼に居残りや減点するという事態になってしまっているのは地味に問題だと思うのだ。

なおマンドレイクの成長に伴って気絶時間も伸びている模様。

対立する私たちを尻目に、付き合いのあるハッフルパフ生の何時もの面々はと言えば、ザカリアスが私に一矢報いることができるのか、それとも私が無事逃げ切るのかで賭け事をする始末である。

 

その賭け事における分け前は貰う約束だからまあ良いのだが。

 

「まあ、そろそろ止めた方が良いでしょうね。ザカリアスもまだ死にたくはないでしょう?」

「今年はもうこれっきりにしておくよ。……来年は覚えていろ」

頬杖を突きながら負け惜しみを吐いたがお互いそれが一番だと分かっていた。

ザカリアスが私を負かす為には、私より先にあのピンクの耳当てを付けなければいけないのだが、どうにも男の子のプライドというのはそれを拒絶させるらしい。

その時点で私に対して勝負を挑んだ彼は最初から詰んでいたのだ。

「賢明な判断ですね」

ふふん、と得意げに笑う私に対して

「貴方たちは仲が良いんだか悪いんだか」

間髪入れずにそう言った私に対してスーザンが呆れたように肩をすくめて言った。

まあ、前世で言うところの喧嘩するほど仲が良いという奴なのかもしれない。

アーニーが唯一ザカリアスに賭けていた(どうも彼は大穴狙いだったらしい)ので、彼が他の四人に規定の賭け金をしぶしぶ支払っている様子を横目で見ながら、私はそんなことを思ったのだった。

閑話休題。

ところで私が楽しみにしていた物はと言えば以前からあった噂についてなのだ。

ホグワーツにこの日、あのグループが来ると聞いて事実かどうかを確かめないままだったとはいえ私は珍しく期待していたのだ。

それに伴うようにして懐から私は一冊の薄い冊子を取り出した。

それは以前一回だけドーラに連れて行ってもらった時に貰ったパンフレットで、その思い出の品を私は未だ大切にしていたのだ。

 

これによれば彼らの創業は一三四七年。

六百年以上続いている老舗の踊る音楽団、その名は『骸骨舞踏団』。

元々は当時流行っていた黒死病でマグルたちがバタバタ倒れていくのを見て、景気づける為に自身を骸骨に替えて躍らせられる魔法使いや魔女たちが始めたのが切っ掛けだとか。

メンバーは全員が変身術で骸骨に替えられる力量の持ち主で、なおかつ誰が元はどんな姿なのかはメンバー以外には秘密だそうな。

有名な「死の舞踏」は彼らをモデルにしているとのことで、パンフレットに依れば当時のマグルの画家たちが彼らを見て描いていたらしいが、当時は彼らに対する魔法の露見に関する規制が緩かった頃だからこそできたのだろうと思う。

 

それ以外の情報だと毎年メキシコの「死者の日」で定期公演も行っているそうだ。

このホグワーツで踊り、楽器を演奏している彼らも、この後参加するなら「姿くらまし」してかの地まで赴き、次の公演を行わなければならないので相当タイトなスケジュールになるはずである。

 

私が熱心にそれを見ていると左隣に座っていたジャスティンが

「確かティアの一番好きな魔法界の音楽グループでしたっけ?」

と訊いてきた。少しばかり一度見たきりの彼らの思い出を邪魔されたようで腹は立ったが

「ええ。あの不気味で綺麗な演出が好きでして」

と応じておいた。

 

噂だとは思っていた。

しかしながらダンブルドア校長の

 

「もう既に噂だけなら広まっておろう。しかしながら諸君の大半の人々は半信半疑だったはずじゃ。彼らの忙しい時期にホグワーツに来るはずが無いと。

だがしかし! 彼らは来てくれたのじゃ! 未来ある若者たちの為、彼らの持てる技術の一端を明らかにするため、そして夢のようなひと時を提供する為にじゃ。 お待たせしたホグワーツ生よ。はるばるこのハロウィンの為にこの場で夢のような一時を諸君らを目撃するであろう! 『骸骨舞踏団』のお出ましじゃ!」

 

という言葉で大広間は静かな歓喜に包まれた。

 

何かが爆発するような音と共に無数に異形がこの場に現れた。

ハッフルパフ寮、グリフィンドール寮、スリザリン寮、そしてレイブンクロー寮のどれもが驚きに包まれている。

それも無理はないだろう。

何故なら何時もこの場に決して存在しないであろう、無数のしゃれこうべが現れたのだから。

はっきり言ってしまえば不気味だ。食卓にそんな物が現れるなんて冗談ですら酷過ぎる。

現れた無数の化け物に対してしかしこの場はと言えば

 

……無数の生徒たちの放つ歓声に湧いていた。

理解は不可能かもしれない。

だが魔法界に生まれた者たちにとって彼らの存在はあまりにも有名だったのだ。

彼等こそ魔法界でその名こそ知らぬ者のいない『骸骨舞踏団』!

 

現れてから僅か十分という短い間。

それに満たない時間と言え、彼らが我々を「魔法に掛ける」には充分過ぎたのだ。

 

数瞬が永遠、とでも言うような類の見ない紫色の光と黒い煙の演出。おそらくあれは以前話に聞いたことがあるペルーのインスタント煙幕を利用しているのだろう。

白骨に敢えて躍動的な動き、鮮やかなピルエットを行わせ、ホグワーツ生たちの眼を魅せる踊りの数々。

それは本当に夢のような時間だった。

身近で、今まで一度も目にすることの無かったマグル生まれの者たちはと言えば目を奪われていたし、一度目にした私たち魔法族の者たちにしてもそれはほぼ同様だろう。

これだから魔法界は住まう住人達を魅了して止まないのだ。

生徒たちの誰もが終わった後でそう思い、魅せてくれた者たちに対してサインをねだって(しかしそれにしても誰が誰だか「骸骨」という姿の彼では『個』を特定するのは不可能だったが)幸運な者はそれを受け取り、不幸な物はただ受け取った者を妬ましく見た後で

 

「実に魅力的な踊りと歌の数々であった! 諸君、さあ宴の御馳走をとくと御覧じろ!」

 

という校長の一言と共に、喜びに包まれた者も妬ましさに包まれた者も等しくハロウィンの御馳走を平らげるのであった。

 

 

私たちハッフルパフ寮の生徒たちはと言えば実は大広間に一番近い場所に、すなわち普段四寮全ての人員が揃って食事を摂る場所に、最も近い場所に帰る場所があるのだ。

だから興奮冷めやらぬ様子で宴の全てが終わった後で、寝る時間だというのにベッドへと向かわずに、先ほど目撃したホグワーツでの奇跡に関して話していたとしても誰も責められなかったとは思う。

故に私も含めて誰もが浮かれていて、たまたま他の寮と交流のあった上級生から不吉な知らせを受けて、誰もが驚いたとしても仕方がないはずだ。

 

「おい! 皆、今ミセス・ノリス、あのフィルチの飼い猫の奴が『秘密の部屋の継承者』にやられたって!」

 

このようにして私たちハッフルパフ生の喜びに水を差す形で、不本意ながらも彼の物による宣戦布告は行われたのだった。

 




ハリー……原作の主人公。何の因果か入学する年にロンに加えてティアとも同じコンパートメントになったことで彼女とは腐れ縁のようになる。
最近何故か「百味ビーンズ」が嫌いになったらしい。理由を彼は頑なに語ろうとしない。

フィルチさん……スクイブ、苦労人、ツンデレ。原作においてマダム・ピンスとの仲を噂されていたがこの話ではガチでできている。職務に忠実で熱心な人。実はティアがフレッドとジョージとは別の意味で厄介であることに気が付いていない。

マダム・ピンス……フィルチさんとできている。自らの城である図書室のお気に入りの本に害をなすと倍返しする強力な呪いをかけている女性。以前ダンブルドア校長も被害にあったとか。本について異様に詳しく、二巻開始後にはティアはかなりお世話になっている。

ザカリアス……本作における被害担当。ティアに良く突っかかっては数倍にして返されてしまう。何故ティアに構うのか?
一つ、ティアの外見は悪くない。二つ、ザカリアスは正しく思春期。三つ、ティアは勝負事などには遠慮なく開心術を使うが、最低限の礼儀として他人のプライベートにはそれを使わない為にザカリアスの心のうちにまるで気付いていない、という理由がある。
ちなみにザカリアスの気持ちにはティアとジャスティン以外のハッフルパフ二年生の「何時もの面々」は完璧に気が付いていて、報われるかどうかが賭け事の対象にされている。

アーニー……尊大な丸い男の子。テレビ伝道師から少し激しさと宗教観を取り除いたら多分こんな感じ。
ザカリアスが半分冗談で「ティアとエロイーズはお互いに体を交換すれば良いのに」と言ったところ「止せよ、君。現れるのは確かに『性格が最高のティア』かもしれないが同時に『性格が最悪なエロイーズ』も出現するんだぞ! 」とティアの眼の前で彼を窘めた良い洞察力を持つ御仁。
……ただしその後三日間謎の腹痛に苦しんだとのこと。
二年生の男子ハッフルパフ生の中では一番成績が良い。

ジャスティン……ちょっと天然気味なハッフルパフ生の男の子。何時もの面々の中では唯一のマグル生まれ。ファンタジー大好きに加え、同級生に自分が魔法に目覚めたところを見られたことで魔法学校に行くことを決めた。ティアとは割合と話が合う。色々と何時もの面々から魔法界のことを学んでいる見習い。

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