いや、原作にそんな登場人物いなかったやんとか突っ込む以前に……そもそもブラック家の血を継ぐ者なのに何故ローマ神話風の名前? 確か星座とかギリシャ神話から名前を取っていなかったっけ? とか、あのベラトリクスが母親か。胸熱……とか産まれた直後の色々な混乱を経て一年と少し。
ヴォルデモートが斃れた。
ポッター家を襲い、未だ赤子だったハリー・ポッターに返り討ちにあったとのことだ。
と同時に、これは産まれた瞬間から訓練していた閉心術が功を奏したということでもある。
子マルフォイがスネイプに対して「僕は伯母から閉心術の訓練を受けた」と発言していることから、母にはおそらく開心術の心得があるのだろう。
無論母が私に対して開心術を一度も使わなかった可能性もあるのだが、多少おかしな行動をしていたので何かの違和感があった場合試したことくらいはある、はずだ。
決して母親としての自覚が足りなくてほとんど出払っており(主に殺人とか殺人とか殺人とか)ほぼ私の世話を我が家の屋敷しもべ妖精のサニーに任せきりだったとかそんな理由ではないと思いたい。
というか中の人が私じゃなかったら、わんわん泣きわめいて止まらなかったのではなかろうか? 前世で年齢の離れた弟の面倒を彼が小さい頃見ていた私が出した結論は母親って大事、ということだったからだ。
……話を戻すことにしよう。今私の前に居るのはこのレストレンジの屋敷にいる大人三人。彼らが何をしているのかと言えば顔をそろえてこれからどうするのかについての話をしていたのだった。
「まさか我が君が倒されるとは……私がお側に居れば!」
「仕方なかろう。闇の帝王はご自分で物事を解決されるのがお好きだったのだから」
「それよりも兄上、義姉上。我々は如何するべきか?」
母ベラトリックス、父ロドルファス、そして叔父ラバスタンが次々に発言して行くが結論は「闇の帝王の行方を探しに行かなければ」というものだった。
様々な嫌な意見が出た後で、反抗勢力に対し、見つけ次第拷問してでも心当たりを聞き出していくことで三人の意見がまとまったようだが、そこで問題になったのが私の処遇だった。
「お前の妹に預けてみればどうだ?」
「シシーは良いが、ルシウスの方は我が身可愛さに魔法省に差し出すかもしれないのにかい?」
「なら他にどんな預け先があると?」
「……」
ええ、基本脳筋だと分かっていましたよ。お母様。
「義姉上。兄上。よろしいか?」
「何か良い考えがあると?」
「聞かせてもらおう」
それにしても兄弟間だというのに堅苦しいことだ。他の名家と呼ばれる魔法界の家々も皆こんな感じなのだろうか?
まあ、今は話を聞くことに専念するとしよう。
「もう一人の妹殿に預ければ良いと思う」
「はぁ!?」
「正気かラバスタン?」
ああ、確かアンドロメダ・トンクスだったか。正直今まで存在すら忘れていた。原作でもそれほど触れられていない人物だった気がするが……。
「あんな穢れた血と結婚するような奴のところに預けるのかい!?」
「だからこそだ姉上。考えてもみてくれ。
俺達はあいつらを見下しているが、あいつらの方では産まれて一年ほどしたユースティティアを『未だに魔法界の根源を為す最も尊い思想』に染まっていない赤子としてしか見なさないだろう。
となれば肉親故の情故に見捨てるようなことはしないはずだ。闇の帝王が力を取り戻されるまではな」
「……納得は行かないがやる分には一理あるだろう。それでも保護呪文の類が私達を阻むだろう。それはどうするつもりだい?」
「サニーを使う。
これが死喰い人として誇りある任務の類ならば、屋敷しもべ妖精のような存在の手を借りるなどあってはならないことだが血を遺す為だ、問題あるまい。
……それに万が一俺達が帝王の復活に失敗したとしてもその子がきっと後を継いでくれるに違いない」
いや、残念ながらそうはならないだろう。私にその気が欠片も無いのだから。
「良いだろう。確かにそれしかないだろうしね。……サニー、聞いていたね。自分の仕事をしな!」
「心得ました奥様」
今まで私達四人の傍らで、ずっと家令よろしく控えていた片眼鏡を掛け襤褸を纏った屋敷しもべ妖精は、母直々にしたためた手紙付きで1歳と少しの私をトンクス家に送り届けたのだった。
というようなことをロンとハリーに説明(勿論転生云々に関しては省かせてもらったが)しておいた。というのもロンが
「君ってあのレストレンジ? 例のあの人に一番忠実だった?」
と私に嫌悪感の込められた眼で見てきた為(なおハリーも少し驚いたようにこっちを見てきたことも追記させてもらう)、叔母一家に育てられたこともあって純血主義に浸ってはいないことをアピールせざるを得なかったのだ。
途中でハリーが
「その……君と叔母さんの家族って仲は良いの?」
と聞いて来たので、悪くはないと思いますと返したら
「そう、羨ましいな。僕の方はあまり仲が良くないから……」
と困ったように笑っていたのが印象的だった。彼も色々あったのだったかな。まあ、そのおかげでハリーの家族の話からロンの家族の話に話題が変わって行き、話が弾んでいたのは良いことだと私も思う。
十二時半頃車内販売のおばさんが来たので、私は大好物のかぼちゃパイとまあまあ好みのかぼちゃジュースを購入した。彼らはと言えばロンは何も買わなかったがハリーの方は色々な物を買ってはお菓子を二人で仲良く分け合っていた。
「君も食べる?」
と言われたので蛙チョコレートをいただくことにした。
無論今生は魔法族の家で育った私にとっては珍しい代物ではないのだが、映画版と違ってやっぱり汽車の中でも蛙チョコレートの蛙が飛んだり跳ねたりすることはなかった。非常に残念だ。
いや、もしこれで本物の蛙のように動いていたとしたらウォンカさんの工場が本当にあったとは……!とあさってな方向に感動していただろうが。
だというのに『ゴキブリゴソゴソ豆板』というゴキブリ型のお菓子が袋の中で大量に蠢いていたのは一体どういう理屈なのだろう? 魔法界は絶対に魔法の使い方を間違えている気がする。
後、百味ビーンズも勧められたが断っておいた。以前ストロベリーやチェリーな味を期待しながら赤いのを食べたのに、キムチ味だったことがあってあまり好きではないのだ……。
そんな風にお菓子を楽しんだ後暫くしてから丸顔の男の子が来た。泣きべそをかいていたので、ひょっとしたらと思ったがやはりネビルだった。
そしてネビルが出ていったと思ったら直ぐ後に茶髪のモップ頭の美少女(ただし前歯は少し伸びているものとする)が入ってきた。
歩く死亡フラグな人達にもう既に関わっているのだ。例え今日このコンパートメントが千客万来だと分かっていたとしても私は堪え切って見せる……!
大袈裟というかネタみたいな台詞じゃないかって? いや正直な話、面倒だっただけなのだけど。物語の重要登場人物の顔を確認できるのは良いことなのだが、ニーチェ先生もこう言っているじゃないか。
即ち「汝が深淵を覗き込むとき、深淵もまた汝を覗き込んでいる」のだとね。
私が顔を確認すると言うことは、即ち相手もまた私の顔を確認すると言うこと。
後々ネビルが私の顔を覚えるのは仕方ないのかもしれない、両親の敵(未だ死んではいないけど)的な意味合いがあるのだから。でも逢ってそうそうハーマイオニーが
「レストレンジ?もしかして『黒魔術の栄枯盛衰』に出てきたレストレンジの三人に何か関係があるの?」
と聞いてきたのは正直勘弁してほしかった。それはつまり暗黒時代を生きた人々だけじゃなくて、多少過去の物事を知っている人であれば私の両親について知っているということじゃないか。こんな家に産まれてしまった以上、無理かもしれないだろうが私自身はあまり目立ちたくはないのだ。だというのにおそらくこの後来るであろう、フォイフォイと愉快な仲間達にはきっと顔を覚えられてしまうだろう。
まあ避けたい面子を知れるだけマシだ。そのはずだと思い込むことにした。最も大切な魔法ってイメージと言うか思い込みの類に違いない。はぁ……。
と思いながら二度目の説明を行いつつ、さて我が従兄弟殿は一体どんな反応を返してくれるのだろうと楽しみにしている私が居た。
暫くどの寮に入るのか、クイディッチがどんなに楽しいスポーツかということをロンが熱心に話していると仲良し三人組が現れた。
ドラコ・マルフォイ、ゴイルとクラッブだったか。
将来頭髪が心配そうなオールバックの美少年が一人、体格が良い男の子×2……ごめんたった今名前を教えてもらったばかりなのに、どっちがどっちだか正直わからない。
口喧嘩がヒートアップしたせいか、二人とも立ちあがり彼らと向き合っていたが私はと言えばひたすらモシャモシャとかぼちゃパイを食べ続けていた。
「……ええと君は?」
周りを見てみれば私以外の全員が毒気を抜かれていたようだった。
お気になさらず。私のことはしゃべる空気とでも思っていてくれ給え。と返せたらどんなに楽なことか。
とりあえず口の中のかぼちゃパイを飲み込むと私は坊っちゃん達(家柄は良いのだから間違ってはいまい)に名乗ることにした。口の中に物が入ったまましゃべるとか駄目、ゼッタイ。
「ああ、私の名前はユースティティア・レストレンジと言います。よろしくお願いしますね」
「君はひょっとして……!」
まあ今まで顔を合わせたことが無くとも気が付くか。自身の家系のことくらいは知っているだろうし。
「おそらくご想像の通りかと。それより食べますか……?これ」
と私は自分の手元に在るかぼちゃパイを指差した。
「あ、ああ。ありがとう。自分達の食べ物がなくなっていたからね、正直助かるよ」
「ティア、こんな奴らに渡すことなんてないだろ!」
ああ、ロンは知らないのか。まあさっき私がかぼちゃパイに色々していたところも見ていないから当然と言えば当然か。まあ、仕上げを御覧じろってね。
「かぼちゃパイがなかなか甘……辛い!?ゴホッゴホッ!」
渡された三人は涙目になってむせ込んでいた。
「美味しくありませんでしたか?かぼちゃパイ……タバスコ入りの」
「き……君はなんて物を入れるんだ!わざとなのか!?」
「いえ、単純に私自身が美味しく感じるからなのですが……不味かったですか?」
嘘に決まっているだろう。私自身の運命に対する単なる八つ当たりだ、くくく……!
「君の味覚がいかれているのか君の頭がいかれているのか、それが問題だ……」
うむ、英語圏の人と言えばシェイクスピアか聖書かマザーグースだからな。それらを引用するのは間違ってはいまい。
「悪いが口直しに別のお菓子を貰うよ!この辛さを何とかしないと……!」
「ああ、それはやめておいた方が良いですよ?」
「え?何で……」
「だってほら怖い番犬ならぬ番鼠がお菓子を護っていますから」
さっきまで寝ていた鼠がお菓子の側から、え?俺?みたいな感じでこっちを見ていた。
「何をそんな……あんなの単なるドブネズミじゃないか」
それを聞いたロンが明らかに怒っているが……ドラコ、君の容姿である程度やる魔法使いをドブネズミ呼ばわりは死亡フラグだよ……!
「そうでもありません。鼠というのは怖い動物です。古くは獅子が掛った網を喰い破り最近ではマグルの間で恐ろしい鼠が猛威を揮っているのだとテッド叔父さまから聞きました」
「マグルの鼠なんて、魔法使いの僕達が恐れる必要なんてあるのかい?」
馬鹿にしたようにこっちを見て笑うマルフォイ。しかしその笑顔も直ぐに失せるだろうさ。
「エンゴージオ マキシマ 巨大化せよ!」
と私が呪文を使うと見る間にロンの使い魔スキャバーズが見る間に大きくなって行った。
最終的にはコンパートメントの天井に届きそうなほど成長した鼠は自身の変化に驚いたのか前足を交互に見ていた。ピーター、そんなことしているとバレますよ?
この場にいる私とスキャバーズ、それからハリーと私の飼っている白い梟2羽以外が全員顔を真っ青にしていた。
ロンは飼い主なのだから別に怖がることは無いと思うのだが……。
「見て分かる通りマグルの世界にはこんなサイズの鼠が市民権を獲得しているようなのです。多分馬鹿にできないと思いますよ?」
ドラコ達の方を向いたスキャバーズは歯を剥き出しにして両手を上げてまるで熊のように三人を威嚇していた。
「わ……分かった。もう鼠を侮ったりしない。僕達ももう出て行くよ……!」
と三人は先を争って出て行ってしまった。他愛ない。
「あのさ……ひょっとしてその鼠ってミッ……」
言い切る前に私はハリーの口を塞いだ。
「その先は禁句です」
「いや、でも」
「名前を言ってはいけないのです。言い切ったら消されるともっぱらの評判なのです」
「……うん、分かった」
誰が見ているか分からないのに気を付けて欲しいものだ、全く。
「マグルの世界にも『例のあの人』みたいな怖いネズミって居たんだね……。ところで僕のスキャバーズは元のサイズに戻るね? 流石に今の大きさじゃちょっと……」
まあ餌代は掛かりそうだよね。持ち運びに不便そうだし。
その後でスキャバーズのサイズを直し、再びハーマイオニーが着て二人が着替え終わるまでコンパートメントの外に出ていたりしたのだけど最後の最後で酷い目にあった。
原作通りにお菓子が散らからなかったせいか残り物の処分に困り、私もお菓子の始末に多少なりとも協力したのだが……。
「いえ、何だか酷い予感がするのですが」
「大丈夫、タバスコ入りのかぼちゃパイを食べられるティアならいけるって」
ロンが酷くにやにやしながらこっちを見ていた。
そう最後に何やら意図的に残った百味ビーンズ、そのどれもが同じ濁った感じの灰色をしていたのだ。
「じゃあ行きますよ……!」
たった一粒で口に運んだ際に広がる濃厚な味。そして一気に口の中から鼻へと駆け上がっていく強烈という言葉では語りつくせいないような独特の臭み……!ペロッ これは
「シュールストレミング味じゃないですか。やだー」
涙目になった私とは正反対に、憎らしいほどロンは大爆笑していた。
最後のに関しては多分あるだろうという作者の想像、もとい妄想。手が空いたらタグに捏造設定も追加する予定。
正直な話明日(既に今日だけど)にハロウィンまでの場面まで書きあげたかったけど無理そう。うまくいかないものだ……(´・ω・`)
※ちょいと変更を加えました。主人公がフォイフォイ一味に対してなんであんなことをしたかとか理由を書き忘れていたので。