それにしても昨日とか更新していないのにやたらお気に入りやら閲覧数が増えていて驚きました、何故なのか。
私はお金とお酒と、読者が増えるのが怖い。
それでは前書きは以下の言葉を以て〆させてもらいましょう。
べ、別にこのペースを維持できるかどうか決まったわけじゃないんだからねっ!勘違いしないでよね!
……要するに今週はもう更新されないと言うことです。
何で彼らが此処に居るんだろう。
そう、久しぶりに思った。
ハーマイオニーとロンとハリーの三人が少し席を離していた隙に上がり込んでいるが、何と言うか、もうそういう運命だったりするのだろうか?
とりあえず私としては親しげに微笑んで「どうぞ」と彼らを迎え入れる以外の選択肢はなかった。
迷惑そうに「悪いけどこのコンパートメントはお一人様用でして」と言って断るのは明らかな失点であることは明白。
ほんの少し浮かれて、荷物を置いて一足先にリーマス・ルーピン、闇の魔術に対する防衛術の新しい先生、もしくはドーラの将来の旦那と言える人を見に行ったのは悪手だったと私は認めざるを得なかった。
まあ、彼の元に未だ三人の姿が見えない時点で少し嫌な予感はしていたのだが。
「久しぶりですね、ハーマイオニー。ロンも」
「久しぶり、ティア。手紙で知っていたけど元気そうね」
少し彼女は日焼けしているようだった。
フランスに行って中々アカデミックに過ごせたと言う手紙を貰ったのは記憶に新しい。
……ちなみに最初にハリーに久しぶりと声を掛けないのは彼をハブっているからではなく、フローリアン・フォンテスキューの店の前でときどき見かけていたからである。
尤も私は今よりも年を経た姿で少し変装と化粧をしていたからか、彼の方はまるで気が付かなかったようだが久しぶりと言う気がしなかったのだ。
「やあハリー、聞いたところによると叔母様を爆破したとか聞いたのですが」
「久しぶりだね、ティア。マージおばさんは生きているから。酷いことを言われて抑えきれなくて、ついおばさんを膨らまして空の散歩を楽しんでもらっただけだよ」
だけと来たか。普通は叔母様を膨らませる様な機会があるわけがないのだが、彼も大分魔法界の常識に毒されているようで何よりである。
というかついむしゃくしゃしてやったとか犯罪者の常套句だったはずなのだが。
彼が次に何かしでかしたら「彼は何時かやると思っていました」とでも私に対して質問して来た人に答えるとしよう。
「まあそんな話はどうでも良いのですが早速ハーマイオニーの新しい家族を見せて貰っても良いですか?」
そう、見知らぬ犠牲者よりも私の関心は
「勿論よ、ティア。猫大好きだったものね」
というか犬猫に限らず動物全般が大好きなだけだ。
前世で私の好きだった人にも言ったのだが、私は特に牛、豚、鶏と言った動物が大好きなのである。
……一番好きなのは人間だと言ってやったら何やら引き攣った顔をしていたがどうかしたのであろうか?
その後で人間は嫌いだと言ったら、好きだと言った時よりも更に微妙な顔になっていたのだが未だにどういうことだか良く分からない。
「ええ、ハーマイオニーの猫のことだからきっと可愛い……」
ロンに反対されつつも、さりげなく無言呪文で黙らせつつ、籠から出されたそいつを見て思わず私の台詞は尻すぼみになってしまった。
「素晴らしいですね!」
「でしょう」
彼女が新しく飼うことにしたぶさ可愛い猫は赤くて、でかくて、顔が潰れていて、毛深くて。
だけどこう言った猫は高いし、何よりただ可愛いだけの猫には無い独特の魅力があるものなのだ。
思わず撫でまわしながら、その長くてもこもこの体毛に顔を埋めてしまった。
ああ、クルックシャンクス、貴方は何故クルックシャンクスなの?
充分彼の手触りと体温を堪能した後で、彼女に毛深くて可愛いあんちくしょうを手渡しつつ、私は彼女に向き直った。
「どうも貴女に似て賢そうですね」
「そうかしら」
うむ、というか。
「あ、以前は貴女の方が猫に似たんでしたね」
「ティア、その話は止めにしようって前に言ったでしょう」
あ、ちょっぴり怒っている。
「そろそろロンに掛けた魔法を解いてもらえないかな」
そんな掛け合いをしているとハリーが冷静に突っ込んで来た。
決して忘れていたわけじゃない。
ただお猫様をモフモフするので忙しかっただけである。
ロンの事は決して嫌いではないが、如何ともしがたいことに彼と猫では越えられない壁があるのだ。
そう、クルックシャンクスに遭えただけでも彼女と知り合えた価値があったような気さえして来た。
今まで彼女を厄介事と共に現れる可能性のある人物と見做していて正直悪かったと思う。
これからは「クルックシャンクスの付属品」で決定だね!
ロンに掛けていた魔法を解除し、少しお説教された後で彼らはシリウス・ブラックの話に移った。
……ちょっと待って。私も居るのに何故ナチュラルにそんな話をするのだろう。
「私が聞いても良かったのですか?」
何を今更って目で見るのは止してくれませんかねぇ、三人とも。
「君だけに聞かせないわけにいかないじゃないか」
「そうだよ。それにしても恐るべき脱獄犯がハリーを狙っているって聞いたのに随分冷静だね。いつも通りだけど」
ロンが先ほど沈黙させられた結果何やら毒を吐いていたが
「焦っても仕方がないじゃないですか」
どうせ彼は現時点ではスキャバーズことピーターをぶち殺しに来ただけだし。
今のところ彼が来ることで考えられるデメリットはベラトリックスお母様の娘ということで私が殺される可能性くらいか。
それもハッフルパフに入っていると知られれば多分無くなるであろう、本当にごくわずかな確率だ。
実のところ私にとってはそんな遠い将来よりも確実に来るであろう「吸魂鬼」の襲撃の方が怖い。
何時だってそうだが遠くにある、来るかどうかもわからない可能性よりも近くにある確かな危険物の方が私は避けたいのだから。
と言っても一応何とか守護霊の呪文をつい最近使えるようになっているから、万が一の事態などはありえず、大丈夫だとは思うのだが。
「ティアは相変わらずね」
何も知らない彼女は笑った。
それにしても相変わらず、か。
二年前に入学する為にこの汽車に乗った時は、まさかこんなことになるとは思っても居なかった。
うっかり知り合いでもできて情が湧いてしまうことを恐れて、一人で居られるようなコンパートメントを探して、それで見つけた場所でハリーに出会ったのだったか。
直後にロンが来て、それでロンとハリーが熟女愛好会の会員と会長だと判明して……。
いやいや、違った。
何か記憶に混乱と言うか混濁が見られる、ような。
ああ、前世で見た面白動画の一つだった。
話を戻すが最初はただ帰りたい、それだけで甘い見込みに縋っていただけで。
だから
「そう簡単に私が変わるわけがないじゃないですか」
色々な意味で私は笑ってそう返した。
多分私は変われない。
それから話がホグズミードの見どころに関してのそれに移り、私も幾らか意見を言うことになった。
「上級生たちのお話がたまたま耳に入ってきたのですけど、『ホッグズ・ヘッド』というところではお酒も呑めるそうですね」
「眼をキラキラさせながら駄目なことを言わないでちょうだい、ティア。まさか行くつもりじゃないわよね」
「嫌ですね。そんなことをするわけがないじゃないですか」
少なくとも、今年は。
そんなことを考えているとロンは違和感があるとでも言いたげに言った。
「意外ね。ティアはもう少し冷めているかと思った」
「私だって同じ寮の皆と一緒にホグズミードに行くのは楽しみの一つなのですよ」
というか実は一人でなら去年、気晴らしに何度か行っている。
忍びの地図はこういう時に便利だ。ハリーに今年譲渡するから手放すことになるけれど、一応既に完全なコピーなら作成済みである。
「ティア、お願いがあるんだけど……」
そんな言葉と共にハリーに懇願されたのは、ホグズミードに行くための許可証のサインの偽造だった。
「ええと、それはちょっとどうかと思いますよ。少なくとも彼、シリウス・ブラックが出回っている状況でふらふら出歩かない方が良いと思います」
……というのは当然嘘である。危険が無いことを知ってはいるが、私がそんなことをしでかしたと知られたら面倒臭い事態に巻き込まれそうだからだ。
「駄目かな」
「貴方を心配してくれる人たちの事も考えるべきだと思いますよ」
「……分かった」
これで納得してくれて良かった。
「今年は無理でしょうけど、来年はきっと大手を振るって行けますよ。それまでに今回の馬鹿騒ぎも終わっているでしょうし」
ちなみに実際的なことを言えば、彼の叔父か叔母の筆跡が分かる物、例えば手紙などが有ったら可能だったかもしれない。
しかし如何にイギリスがサイン文化とは言え、魔法界と違い未だに羽ペンを使っていたりはしないだろうと思うから、どの道ハリーの叔父様の筆跡偽造は不可能だったように思えるのだがどうか。
その少し後で車内販売が来たので私はかぼちゃパイと他数種類のお菓子を幾らか購入した後、
「あ、ハリー。百味ビーンズ食べますか」
彼に勧めた。
「要らない。僕、それあんまり好きじゃない……というかもう誕生日プレゼントとして送ってこないで」
相手の嫌がることは進んでやりなさい、って前世のお爺ちゃんが言っていたの。
だから絶対にハリーの次の誕生日にも送ってやろうと私は決意する。
一通り三人で遊んだ後で私は一言断った後で、汽車が止まるまでふて寝することにした。
当然お気に入りの目隠しは装着済みである。
夢を見た。
「ティアや、起きなさい」
私が目覚めてそこに居たのは宙に浮いた、見るからに怪しげな目の死んだハァハァした巨躯のおっさんだった。
この前から何故か妙におっさんに縁がある私である。
彼を見たら心の中で突っ込まざるを得ない。色々な意味で浮いている!と。
「どなたですか」
「私は貴女の杖、イチイの杖の精です」
「なるほど」
私はそのまま何処かに向けて逃走しようとして、そして彼から制止する声を受けて立ち止まった。
「ああ、逃げないで! 逃げないで! ていうか引かないで!」
ふと私は足を止めた。そう言えばこんなのが眼じゃないくらいの変人たちと前世で既に関わっていたなと思い出した為である。
「今日は頑張る君の事を応援しに来ました! さあ、この精霊様に何でも言ってみんさい。ドバァーッとね」
自身の胸を打ちながらのたまうおっさんに私はほんの少しだけ安心感を受けた。
それ故に両方の手を祈るように組んで、彼に質問することを選んだ。
「それでは精霊様。一個だけ聞きたいことがあります。私不幸続きで酷い有様です……この先もずっと不幸に塗れる人生なのでしょうか?」
鼻をほじりながら事もなげにおっさんは言った。
「まぁね」
「……ッ!」
私は無言で逃げ出した。
「待ちなさい、ティア! 今の無し! ノーカン、ノーカン!」
私が足を止め、振り返ると彼の暑苦しい顔が迫って来た。
「良くお聞き、寝ている場合じゃないのよ。今君たちにゴイスーなデンジャーが迫っているのだよ」
なん……だと……!
「ゴイスーって何ですか……?」
更に顔を近づけて彼は応えた。
「凄いってこと」
「デンジャーって……?」
更に以下略。
「危険ってこと」
そこで声にならない叫びを上げつつ、私は意識を手放した。
酷い夢を見た。
そう、前世で見た漫画と私の深層心理が化学反応した結果、あんな混沌とした夢を見ることになるとは。
変過ぎる夢とかハリーにでも見せておけば良いのに。
どうせこれからヴォルデモートからの電波を受けて、彼は夢見る思春期の少年(笑)になるわけだし。
気に入っている目隠しを外した私に、ハーマイオニーが心配するように声を掛けた。
「大丈夫?ティア、酷くうなされていたようだけど」
「ええ。ちょっと夢見が悪かっただけです」
というか何で私の杖はあんな夢を見せたのだろうか、いやそれ以前に私の杖の精霊はあんなアレな感じのおっさんなのか……。
妙に脱力していると
「それよりティア。さっき君の『怪物的な怪物の本』がマルフォイたちを追い払ったんだよ」
「はい?」
何がどういうことだって?
「ちょっと前にマルフォイがクラッブとゴイルと一緒にこのコンパートメントにやって来たんだよ。それで言い合いになって、喧嘩になりそうになった時にそれがマルフォイたちに咬み付いて、追い払ってくれたんだ。胸がすっとしたね」
ロンが得意げに言っているが、確かに今年手に入れた彼には怪しい奴が居たら襲い掛かるように「服従の呪文」を予め掛けておいたのだった。
……おい、誰だ。今私の事は襲わないの? と言った奴は。
まあ、良い。彼の事は労ってやるとしよう。
「そうですか。良くやりましたね、ステファニー」
そう言いながら彼の事を撫でているとロンに酷く驚いた声で尋ねられた。
「君そんな名前をそいつに付けていたの!?」
「え、だって可愛いじゃないですか」
この子は可愛い。
異ロンも反ロンも認めない。
と、問題はそんなことではなかった。
「汽車が止まっているようですね」
「うん、僕たちもどういうことかなって」
招かれざる客が来た、ただそれだけのことなのだろう。
もしかしたら此処には来ない可能性もあり得る。
希望を抱きつつ、それでも私は会敵に向けて精神を集中していった。
この汽車の中の灯は落ちて、闇に閉ざされている中で。
私はその場に留まり、幸福な記憶を思い出していた。
その記憶は、今生において初めて友達ができた入学式の夜のこと。
何度か試して見たのだが、前世のそれでは駄目だったのだ。
ドーラに可愛くお願いして、彼女の空いている時間の中で監督してもらって練習している時に判った。
生きている記憶と言う物の、強力さを。
できるだけ必死に前世で経験した嬉しかったこと、楽しかったことを思い浮かべて、その全てが守護霊を形作るのに用を為さなかった。
私に残されている時間は思ったよりも少ないのかもしれない。
あるいは今生で経験して来た物の記憶が前世を塗り潰して行っているのだろうか?
嬉しかった筈の前世の記憶も色褪せて、ただモノトーンの無感動の記録に変わっていく。
それはごく当然の事なのに、今まで経験した何よりも恐ろしいことのように私には思えてならなかった。
組み分け帽子は私を何処の寮でもやっていけるだろうと言っていたが、多分それは間違っている。
きっとグリフィンドールだけは合わなかっただろう。
何故かと問われれば理由は簡単だ。
だって、私にはこんなにも克服できる気がしない怖いことだらけなのだから。
変えようがないほど臆病で、それでも進まなきゃいけないのが転生者の辛い所だ。
覚悟は良いか? 私はできればしたくなかったよ。
そんなことを考えながら、運命の時を迎えた。
事前にコンパートメントに入り込んで来たジニーも、転がるようにして入り込んで来たネビルも恐怖に動けなくなっているのが良く分かる。
吸魂鬼が出ていこうとしていたハーマイオニーを後ずらせて、コンパートメントの内側に侵入して来たからだ。
とりあえずこの戦いを上手く凌げたら、次回からホグワーツ行きの汽車に乗る時は、是非とも同じ寮の子達と一緒になれるよう心がけようと真剣に思った。
周りを見渡し、犠牲者とするべく身構えたそいつは、私達全員から活力を奪い始める。
この心が死んでいくような感覚は、前世で何度かは経験した代物だ。
普通の魔法使いや、魔女であればこれだけで気力が失せ、望みさえも捨ててしまいそうになるかもしれない。
だが生憎この私は違う。
精神のベースも、魔法に対する意欲も、一般的な彼らとは違うのだ。
だから誰何の声を上げて、それでも吸魂鬼が退かないと見るや、私は身に着けたばかりの切り札の一つを用いて退場して貰うことにした。
「エクスペクト・パトローナム! 守護霊よ、来たれ!」
私がそう叫ぶと同時に銀色の、確かな実体を伴った像が吸魂鬼へと立ち向かって行った。
やああってからハーマイオニーが思わず口から出てしまった、というように呟く。
「銀色の……ピクシー妖精?」
と。
ハーマイオニー、ピクシー妖精に再会する。
ちなみにイチイの杖の精はティアの夢の中でしか出てきませんが、本来の姿は金髪の女神めいた姿をしています。
本人曰く、ニワトコに杖の精みたいな強い魔法使い(あるいは魔女)と見たら直ぐに主人を変える様なさせ子(ビッチ)な杖じゃない、とのこと。
つまりはティアに対するヤンデレ。