……あまりにも酷いと醍醐味ではなく粗大ゴミになるだけで。
突然だがそもそもこの世界の魔法における才能とはどういうものだろうか?
七変化、蛇語、人間以外との混血の持つ特性。本人の才能に基づくものなどが色々あるのだがおそらく次のような公式が成り立つのではないのかと私は考えている。
使える魔法=受け継いでいる資質(あるいは元からある資質)×本人の努力×杖に使われている木材の性質×杖に使われている魔法生物の素材、である。
全ての杖の材質とその芯を覚えているわけではないがヴォルデモートの場合は「イチイの木(死と再生の象徴)」と「不死鳥の尾羽(言うまでも無く不死鳥とは死と再生の象徴だろう)」だ。ホークラックスや「死の呪文」を得意とする彼らしい杖と言える。
ハリーは「柊(魔除け)」と「不死鳥の尾羽(同上)」。彼らしいと言えば彼らしい杖だ。特にヴォルデモートに対抗する辺りや死の呪文を食らって生きていると言う運命がマッチしているという点では。
杖に使われている木材の名前は忘れたがヴィーラを素材とした杖は「ヴィーラ(魅了者の象徴)」のクォーターの女性の役割を存分に果たしたし、ネビルは桜(同じく魔除け)とユニコーン(聖性)もその性格や役割に沿ったものだったと言える。
誰もが知っているであろう「ニワトコの杖」は「ニワトコ(魔除け)」と「セストラルの尻尾の毛(死の象徴)をその素材として使っている。それそのものをシンボライズしているように私は感じるのだ。
長々と説明したが要するに杖とはその魔法使い及び魔女に最も合っているはずの物が彼または彼女の下に来ているのだ、と言うことだ。
さて、では此処で私ことユースティティア・ドゥルーエラ・レストレンジはと言えばどうなのか?
前世というけったいな物が存在する私にとって、ある意味では実に「らしい」杖となっているのだ。
即ち「イチイの木(転生したことの象徴か?)」と「セストラルの尻尾の毛(前世の自分の死体を幽体離脱形式で見たのが影響しているに違いない)」が使われているのである。
この点で第一段階は充分なほどクリアされる。そして第二段階、魔法自体の適性。両親が死喰い人と言う点でそれも充分以上に揃っていると私は考える。
杖を入学前に手に入れてから色々な魔法を試しては見たのだが初めて試みて以来、絶対と言われている「死の呪文」に関しては失敗したことが無い。
庭先にやってきた庭小人や台所に侵入した「名前を出すのもはばかれるアレ」を使って実験してみたのだが他の「許されざる呪文」よりも明らかに適性があるのだった(といっても他の二つも適性は高そうではあったが)。
努力する前からおそらくは成功することが決まっていた嫌な呪文ではある。闇の魔法が上手だということが将来の栄達やその他大勢に埋没する生き方に役立つわけでもなさそうだし、「もう一つの私の目的」にはもっと合致しない。
それに何よりこの魔法が使えると言うことは決して平静なまま「殺し」ができることとイコールではない。
意識的に切り替えると言うより、私自身に殺す為の存在へと変わるスイッチが入ってしまう気がするので得意になって使いたい物でも無いのだ。
で結局何が言いたいかって言うと拙い。何が拙いってこの後に来るだろう三人の先生方に眼を付けられるのが拙い。
「ティア、今の何……?」
あれ?ハーさんなら知っているかと思ったのに。とりあえず
「お静かに」
今先生方にどう対応するかを考えているところだYO!
1 戦う
2 逃げる
3 正直に話す
1と2とか論外。3は危険人物扱い確定だろう常識的に考えて。
まさかこんなことになるなんて……!
そこまで考えたところできっちり三人分の足音が聞こえてきた。
……あれ?もしかして私詰んでない?
女子トイレのドアを開けて最初に飛びこんで来たのは副校長のマグゴナガル先生、その次に入ってきたのがスネイプ先生、そして最後がクイレル先生だった。
情けない声を上げて倒れこんでしまったクイレル先生と違い、スネイプ先生はトロールを触診、マグゴナガル先生はこちらを威厳と怒りで満ちた素敵なお顔で睨みつけている。
「一体全体あなた方はどういうつもりなんですか!……殺されなかったのは運が良かった。
なぜ寮にいるはずのあなた方がどうしてここにいるんです?」
すみません、実は肥大化呪文を食らったマーカス・フリント先輩が襲って来たのでうっかり殺してしまったんです、と「4ボケる」を選択した私が声を上げようとすると
「すみませんでした!」
ん?何故にマイちゃんが応えるのだい?
「私がトイレで顔を洗っていたらティアとロン、それからハリーがトロールの襲撃を知らなかった私を迎えに来てくれたんです。それからロンがトロールに気絶させられて……ティアが私の知らない呪文でトロールを倒してくれました!」
やっぱり未だ許されざる呪文については知らなかったのか。何でも知っている印象が勝手に私の中で根付いていたので意外ではある。
だってハーマイオニー印の魔法辞典とかあっても私は驚かないもの。
「そうだったのですか……」
マグゴナガル副校長は暫く考えた後で言った。
「今回の貴方がたの行動はやはり軽率だったと言わざるを得ません。何より貴方達はミス・グレンジャーが取り残されていると分かっていたならホグワーツの教職員に一言知らせるべきでした。ですからハッフルパフ、グリフィンドールからそれぞれ一人5点ずつ減点です」
横にいるハリーから何だか落ち込んだような気配を感じた。
確かに副校長やスネイプ先生ならばほぼノーリスクで回避できた事態ではあるのだから当然と言えば当然。妥当な評価であるようには感じる。
先にトロールにエンカウントしていたのは私達が先である以上、今回の場合間に合うか否かで言ったら間に合わなかった可能性も無くは無い気はするが。
「ですが」
と副校長は続けた。
「学友の為にトロールと対峙すると言うその姿勢、私は嫌いではありません。グリフィンドールの二人にはそれぞれ10点、ハッフルパフに20点差し上げましょう」
あ、ちょっと嬉しそうな気配。
……さあ、ポッター、ミスター・ウィーズリーを医務室へ連れて行ってあげなさい。他の二人は寮へお戻りなさい。パーティーの続きは談話室で行われています」
そう言われ、私達は女子トイレを出て寮へと帰ることにした。
色々と危なかった。
もしあそこでハーマイオニーがああ言ってくれなかったら私は墓穴を掘っていただろう。
最初は彼ら「三人組」に関係する気なんてこれっぽっちもなかった。
ただ単に特に危ない人達から注目を浴びずに楽しく魔法に満ちた学生生活をやり過ごし、卒業後は私以外の面子が消え去ったレストレンジ家の財を継いで「はい終了」のつもりだったのだ。
彼ら三人の物語であって私の物ではない。そもそも元の話からして何もせずともハッピーエンドじゃないか……とは口が裂けても言えないかもしれないな、やっぱり。
ただ究極的に言えば誰が死んでも、誰が生きようとも私自身には大きな問題なんて無いのだ。それに私が手を出さずとも完結してしまうであろうものに手を出して何の意味があると言うのだ?
取り返しのつかないことになる前にできればさっさと……
「ティア!」
さっさと……彼らから離れられれば良いな、なんて考えていたのだよ。
「何ですか?ハーマイオニー」
振り返れば奴が居た。少し息を切らしているところを見ると何か用があってわざわざ離れた私を追いかけて来たか。
「あの、さっきはありがとう」
「どういたしまして。で……それだけじゃないですよね?」
何か聞きたいことがあるっていうことくらい開心術を使わなくても分かる。
「あの緑色の光を放った魔法は何なの?」
正直な話現段階で手に入れるには早過ぎる知識なのだが……ハーマイオニーなら別に良いか。
女性は秘密にしておくということができないというのは神話時代からある定説だが、私が使えるということが彼女の口から広まったりはしないだろう、きっと。
「あれは『許されざる呪文』と呼ばれる三つの魔法の内の一つです」
「許されざる呪文?」
「ええ、本来人間に対して使ってはいけない種類の呪文のことです。倫理上の問題で多くの魔法使い及び魔女は進んで使おうとしません。
何年か前、魔法界の暗黒時代に流行っていた頃、母も得意としていたようです。もっとも私とは別の『それ』のようですが……私にとってはこれが一番相性の良い魔法なのでしょうね、悲しいことに」
「貴女がパーティーに行く前に話していた才能ってそれのことなのね?」
ああ、そのことか。色々あったせいか何日か前のことのような気がするよ、全く。
「ええ。両親に似て、この私はこれらの呪文を非常に上手く扱えるのですよ。
……こんな物を使えるからって今の時代何の役にも立たないでしょうに」
暫く沈黙が場を支配した。さて、開示できる情報は最低限開示したし、きりの良いところでもう寮に戻ろうかと「さようなら」を言いかけた時にハーマイオニーが再び口を開いた。
「あの!」
「未だ何か用ですか?」
質問には答えたはずなのだが。知識欲豊富な彼女にこれ以外の物があるのか?
「私と……友達になって欲しいの」
「はあ?いきなり何を言うのですか?」
「だってあの呪文を使い終わった後のティアはすごく悲しそうだったし……でも」
その先は言葉にならず、それでも整理できないであろう感情が渦巻いているのはこちらにも伝わってきた。
その質問にお断りします。と素早く応じられたら楽だったのだが。
先程のようなイレギュラーもあることだし本当に私が知っている物語の通りになるとは限らない。……だけど絶対に彼女は厄介事を持ち込んでくる気がする。
とも考えたがもう既に巻き込まれているな、これは。
トロールのことだけでは無い。
そもそも先程遭遇したのは現在在籍している先生方の中で、ダンブルドア校長を別とすれば頭脳面で最も優秀な三人の先生方なのだ。
もう既に「何で死んだのか分からない」という表情のトロールの死体の状態を調べ、私がどのような呪文を使ったのか推測を終えているだろう。となるとありそうなのが私に対するそれとない監視。
母親と同じ道に走らないかどうかの警戒。それと純血主義に傾倒しているか否かのチェックあたりを気付かれないようにさり気なく、か。
当然私はそんな面倒くさい物に関わる気は無いのだが、彼らはそのことを分かりようが無い以上仕方が無い。
此処でハーマイオニーと友達になることで僅かに警戒が緩む選択肢を取るか……それとも友達とならないことで厄介事を多少でも回避する選択肢を取るか。
ほんの少し迷ったが、やはりここはもうこうするしか無いだろう。
「私は既にハーマイオニーとは友達のつもりだったのですよ?」
「ティア!」
純度100%の似非台詞に感極まった彼女に抱きつかれてしまい、私はと言えば大きく眼を見開いてしまった。
抱き付かれる前に少しだけ見えたのは、花が咲いたようなそれは素敵な笑顔だった。あの笑顔を見た後だと、心にも無い嘘を吐くのが多少悪いような気になってきてしまう。
……が多分錯覚だ。
「この学校に入ってから初めて友達ができたわ!」
「ハーマイオニーなら直ぐに後何人かできるんじゃないですか?」
後二人ほど。というか本当に友達が居なかったのか……。
「あれ?ティアどうしたの?」
「少し頭痛がしてきただけです」
この子はもう。
「それは大変ね。マダム・ポンフリーの所に行く?」
「いえ、それには及びません」
一刻も早くハーマイオニーから離れれば解決する気がするし。
「風邪なら気を付けてね、じゃあ私は寮に戻るから!」
「ええ、ハーマイオニーもお気を付けて」
いや貴女のせいだから、という言葉を必死に飲み下し、自分でも引き攣っていると自覚できている笑顔で私は彼女を見送ったのだった。
それから直ぐに寮に戻ったのだが
「あれ?ティアどうしたの?かぼちゃパイ好きだったよね?」
凄まじく不思議そうな眼でハンナがこっちを見つめて来た。まあ、普段の私を見ていれば当然か?
何せかぼちゃパイと紅茶さえあれば私は幸せになれるからね。
「ええ。今は何かこうちょっと心配事がありましてね」
いや何かこう結構話の流れを変えちゃったような気がするけど、彼女はあの二人とちゃんと友達になれるよね?
ハーマイオニーもハリーと同じく、人に話をし過ぎる癖に人の話を聞かないところがあるからなぁ……。不安でいっぱいになった私は結局この夜パンプキンパイの味が全然分からないまま過ごすこととなってしまったのだった。
翌朝それとなく確認したところ、ロンは直ぐに意識を取り戻し、特に後遺症も無くあの後直ぐに寮に戻ったとのこと。彼とハリーは無事に彼女の友達になったらしい。
「ティアの言う通りだったわね!」
「そのようですね」
無邪気にはしゃいだ様子の彼女を見て、私はと言えば今度は胃痛がして来たのだった。
余談だがこれ以後、何故か彼女に「同い年の女の子の親友」が私の他に一人もできず、何かある度にハーマイオニーが別の寮に属している私に話しかけて来ることとなる。
私がグロッキーになっても話しかけて来るし、明らかに切り上げようとしていても次から次へと話しかけて来る。
そう、全てはあのハロウィーンの夜に変わったのだが、そのことを私が後悔したか否かは長い間私だけの秘密になったのだった。
随分遅いハロウィン終了でしたというお話。次回から原作に沿いつつちょっと積極的に動く彼女が見られる……!はずです。
今回主人公のミドルネーム出しましたが多分付けられるならこういう感じだろうなということで一つよろしくお願いします。