楽しめるか否か。それが問題だ。   作:ジェバンニ

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お気に入りに入れてくださった方々が増えた……だと!?


便利な道具

何だか最近シリアスな空気が続き過ぎている気がする。そう、私はコメディを得意としているのであって「自分や他人の身が危険に陥るほどのシリアスが死ぬほど大好き☆」と言うわけでは断じて無いのだ。

故にある程度慣れて来た私はちょっと嫌気がさして来たのだった。何に?それは勿論、色々な意味でちょっぴり危険なホグワーツでの学生生活に。

そんなわけで過去の私の迷いやすいという弱点を克服するべく色々と行動を開始しているのである。

「はあ、凄いですね。この『忍びの地図』と言う奴は」

ハロウィーンの翌日。それから慎重に行動すること2週間。ついに幻と言われている「忍びの地図」を手に入れることにティア特派員は成功したわけであります。

迷子になりやすい私には必需品。そう、充実した学校ライフを楽しむためには迷うことでロスする時間をできるだけ短縮しないと行けないと思うのだ。

なおはっきりさせておかなければいけないのは、私は別に不正な手段を使ったわけではないのだと言うことである。

そう、赤毛の双子の傍らを「たまたま」通り過ぎると何故か私の手の中に件のブツがあっただけのことなのだ。……実に不思議なことだと思わないか?

2週間もの間彼らの観察を続け、彼らが服の何処に隠したかをじっと見つめた後でハッフルパフ生の集団が彼らの脇を通り過ぎるのを待ち、不自然ではないようにその中に紛れ込んで、誰にもバレないように掏った……というわけではない。

何の因果か手に入れた時は「素敵な偶然」もあるものだ、と彼ら二人が入れないような安全な場所に辿り着いてから思わずガッツポーズをしてしまったほどなのだ。

いや、前世で高校生だった時分にとあるマンモス校の奇術部(ただし明らかに「使う」目的での犯罪研究がメインだった)に所属していた身としてはこの程度の作業は造作も無いのだよ。

この私はあくまで彼らに「無断で借りた」だけ。返す予定だってあるし、彼らが言う所のマグル式の小技を使った犯罪の類なぞ、ただの一年生にしか過ぎない私には無理に決まっているじゃないか。

そんなことを思いながら、私は昔取った杵柄の偉大さに感謝しつつ地図の写しを取って行った。もう二度と迷子にならないように全体図、そして何処にどんな秘密の通り道があるかの検証を続けて行ったのだ。

クリスマスを過ぎたあたりには返せるだろう。写し終えるにはそのくらいかかるし、万が一の場合にはとある目的さえ達してしまえばそれ以上は私には必要無いのだから。

 

「私の従弟のドラコへ

 

お友達のクラッブとゴイル共々(もっとも私にはお二方の区別が付かないのですが)お元気ですか?この間のスリザリン対グリフィンドール戦は残念でしたね。

ですがハリー・ポッターに渡された『ニンバス2000』を上回る箒がそう、人数分スリザリンチームに渡れば話は色々と違ってくるのでしょう。

箒に乗るのは個人的に怖い私ですが、一人の職人により作られた『シルバー・アロー』には興味が尽きません。マダム・フーチに飛行訓練の自習時間にそのことについて話しかけてみたところ、箒その物の概要は良く分からなかったのですがそれがとてつもなく良い物だと言う彼女の認識については充分理解することができました。

来年こそは貴方がクィディッチの選抜メンバーに選ばれると信じて。

 

ユースティティア・レストレンジ」

 

「僕の従姉のティアへ

 

僕もクラッブとゴイルも相変わらず元気です(もっとも二人の場合は頭の方がお世辞にも良い とは言えませんが)。

父上が手に入れた情報ではニンバスシリーズにも新しいそれが出るみたいなので僕もそれを手土産に来年の選抜メンバーに加わる予定です。マグゴナガルが自分の出身寮であるグリフィンドールに贔屓する以上、誇りあるスリザリンの卒業生たる父上にも僕たちの寮にお味方していただかなければ。

ティアが箒に乗るのが怖い理由が僕には分かりませんが……。あまり良く分かっていないであろう君に説明しておくと件の箒はそこまで高い評価を純血の一族の間では受けていません。あまりにも幼稚な方法で製造されたとの噂ですし、製造中止になるのも無理は無いと思います。

御好意有難く受け取ります。

 

ドラコ・マルフォイ」

                          

 

頬杖を突きながら私はと言えば彼からの手紙を読み終えた。この後の展開を知っている身としては

「嗚呼。なんという茶番劇」

元から筆無精の気がある私には数日に一回の手紙のやり取りも億劫に感じるのだが、まあ読んでいると男の子だなぁ、とは思う。

私の知っている知識通りに試合は終了したわけだが……「尊大」のアーニーや「天然」のジャスティン、それから私たちの会話にたまに加わる「嫌味」のザカリアスといった男の子達、そして私の友達との賭けで私は見事勝利者側に付き、それなりのガリオンを稼いだのだった。

問題はこれ以後クィディッチの勝利結果に関する賭けに参加した場合、そこまでそのことに関する知識が無いことだ。勝てる試合にだけ投資しようと堅く心に決めた。原作ではグリフィンドールにしか焦点があっていなかったわけだし、数はどうしても限られるが。

ちなみにうちの寮での渾名は一人一つで被ることは無い。場合によっては何年か前の卒業生の物を今の生徒が引き継ぐと言うこともあり得るのだが……先に挙げた面子の中で「天然」の渾名を頂戴したのは最近ではドーラとジャスティンだけらしい。

ジャスティンは魔法界に対する理解不足で、ドーラは何処でも転べる不思議な特性故に。その理由を聞いた時、私は確かにそうだなと納得したものだった。

 

近況に何があったかはまあ大体こんなところで良いだろう。

さて、私が某強欲な島の高い方の地図みたいな「これ」を手に入れなくてはいけかったことにはわけがある。

迷うことにより予想外の事故に遭遇するのも嫌だったが……それ以上に私は良く語られているような「必要の部屋」に用があるのだった。

とはいえ残念ながらその所在が何処だったかを私は覚えていなかったのだ。無論、この地図では生憎とその位置までは教えてくれない。

ならどうするのか?必要の部屋を必要としていながら諦めるのか?答えは否だ。

私ならそう、その部屋の正しい位置を知っているだろう存在にでも訊いてみることにするだろう。

 

というわけで「果物が盛ってある器の絵」の裏の隠し戸から厨房に侵入に成功した私は屋敷しもべ妖精の歓待を受けることになったのだった。

「お嬢さま、これはいかがですか!?」

眼の前にいる彼らの一人がそういってそれを差し出してきた。

「これは……かぼちゃパイ……!」

しばらくその場で紅茶と一緒に御馳走になりながら幸せ一杯な私だったが、三切れ食べた辺りで目的を思い出した(とりあえずはお腹が満ちたとも言う)。なおハロウィーンの時のかぼちゃパイはパンプキンパイ、それ以外の時のかぼちゃパイはかぼちゃパイと呼ぶのが私の神聖なマイルールである。皆覚えておくように。

「一つ質問があるのですが」

「はい、なんなりとしてくださいませ!」

眼をキラキラさせながら礼儀正しい彼らには好感が持てる。これからも彼らを満足させる為にちょくちょく訪れるとしよう。決してかぼちゃパイと紅茶だけが目的ではない。

……ホントだよ?

「このホグワーツには『あったりなかったり部屋』というのが在ると聞いたのですがその正しい位置を教えていただけませんか?」

周りに居る彼らは一斉に顔を合わせ、何だそんなことかという顔をして見せた。

程なく私はその部屋の正しい位置、及びその正しい入り方に関する確かな知識を手に入れることに成功する。

 

貰ったエクレアのうち一つをお気に入りの手提げ鞄から出し、叔母曰く「大変お行儀悪く」食べ歩きながら私は8階へと向かっていた。

「こんなところドロメダ叔母様には見せられませんね、全く……」

テッド叔父様と駆け落ちしたのだが、元は魔法族の良いところの出である叔母は大変躾や礼儀作法にはうるさ……厳しいのであった。

ドーラ?あれは父親似のパパっ子だし、礼儀作法以前の問題があるからということで小さい頃はどうも甘く見られていた様なのだ。

まあ、何にせよ地図を確認しながら咎めて来そうな面々をやり過ごし無事にその場所まで辿り着いた。

「いたずら完了!」

誰も聞いていないだろうが小声で呟くと持っていた物はただの羊皮紙に戻った。

そう「バカのバーバナス」の大きなタペストリーの向かい側の壁。それこそがまさに私の求める部屋の入り口なのだ。

彼らに聞いた通り「とある願い」を込めて壁の周りを三回歩き回った。そして壁を見ると

「何も無い?」

何かがおかしい。彼らが嘘をつくとは思えないのだが……?

いや、必要の部屋に限らず強力な魔法と言うのは強く意識することこそが大事なのだ。もしかしたら私の願いが足りていなかったのかもしれない。

先ほどよりもさらに強く「それ」を念じてみたのだが結果は先程と変わらない。

「んー?扉が出るはずなのに」

此処で必要の部屋に関しての思い出せる限りの知識を上げてみることにした。

 

1、 入るには三回この位置で歩き回らなければいけない。

2、 強く念じる必要がある。一度閉じてしまったら再度入ることは1の手順を繰り返さなければ不可能。

3、 食べ物だけは絶対に出ない。

 

のはずだ。

となると3を願ったわけでは無いので出現してもおかしくないはずなのだが

「強く願っていなかったから出ない。もしくは必要の部屋の能力以上の物だから出ないのかも?」

一見万能に見える必要の部屋でさえも人が作った物なのだ。その能力に限界は存在するのだろう。魔法その物にも限界があるように。

死者を生き返らせる呪文は存在しないし、何も無いところから食べ物を出す呪文も存在しない。

その点で言えば今回の私の願いは微妙ではある。さて、どうしたものか。

後者だとしたらこれ以上願うだけ無駄なわけだが、私としてはできれば諦めたくはないのだ。前者という過程で行こう。その前提で行けばあるいはこの願いがそもそも私の幸せと完璧には直結していないからなのだろか……?

だとしたら話は簡単ではある。自身の願いをはっきりさせれば良いだけだ。

「次は『みぞの鏡』を見に行かないといけませんね」

ちなみに腹いせに「意地悪の仕方に関する知識で一杯の部屋が必要です」とか「武器で一杯の部屋を」と願ってみたところ叶った。中の物は基本的に部屋の外に持ち出し不可なところが玉に瑕だが予想以上の物だったので問題ない。

色々と参考になる知識が手に入る場所というのは実に良い場所じゃないか。

一番の目的は今回達成させることができなかったわけだが、クリスマスには色々とやるべきことができて私はホクホクだった。

「まあ、こんなところにしておきますか」

楽しくてついつい時間があっという間に過ぎていた。きっと灰色の時間泥棒がやってきていたに違いない。今日みたいな休日ならそこまで心配することは無いが平日ちょっと寄って行くとなると思わぬ時間の失費となってしまうだろう。

クリスマスにイースターの休暇。こっちなら休暇や休日が結構あるのだ。必要の部屋を利用し尽くすというミッションをクリアするのはまた次の機会で良かろう。

そんなことを思いながら再度忍びの地図で確認しながら私はハッフルパフ寮に急いだのであった。

 

……なお記録に正確を期すために記しておくと、私は忍びの地図がある状態でもしばしば道に迷っていた。

 




彼女の願いは「まだ内緒」ってことで。

どうも週一更新になってしまいそうです。それでも読んで下さる方は今後ともよろしくお願いしますね。

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