今回もフライング投稿です。
互角の戦いが続いていた。
パワーもスピードも常識を逸脱し、周囲で見守る者たちはただ息を呑むしかない。誰一人として割って入ることなどできず、ただ地面を揺らす衝撃と空気を裂く音を受け止めるだけだった。
戦う二人は、観客の視線などまるで存在しないかのように、ただ相手だけを見据えていた。拳が交わり、足が閃き、瞬間ごとに勝敗が揺らぐ。やがて、同時に跳び退き、砂煙の中で互いに距離を取る。
「思っていた以上に扱いが難しいものだ。解放した魔力を制御しながら戦うと言うのは……」
低く吐き捨てるようなアルフィアの声が、空気に溶けていく。
対峙しているフリーゼは思わず肩をすくめてしまう。
(いやいや、アンタもう充分に使いこなせているから!)
心の中で突っ込みを入れながらも、表情には出さないフリーゼ。
ローゼとリヴァルが初めて
ローゼの場合、まるで意思を持った炎のように荒れ狂い、彼女自身振り回されているのが明らかだった。歯を食いしばりながら必死に制御しようとしても、闘気は全く言うことなど聞く気はなかったとか。
リヴァルも同様に苦戦し、全身から溢れ出す闘気が空気を震わせ、周囲の草木もざわめかせていた。それを知った彼は苦笑しながらも、暴走寸前の力を押し返すように集中を高めていた。
とはいえ、二人には
その光景にフリーゼは、思わず口元を引きつらせた程だ。苦笑というより、半ば呆れに近い表情で。
(あの二人以上に恐ろしいな、この人)
フリーゼは、ふと視線を落としながら思考の渦に沈んだ。ローゼとリヴァルの急成長を見ていると、どうしても一つの『もしも』が頭をよぎる。
(……もし、私がもう少し早く生まれ、アルフィアと出会って、
ローゼやリヴァルの成長速度を見て驚かされている今でさえ、アルフィアの才能はその二人と並ぶか、あるいは凌ぐ可能性すらあった。もし闘気の解放を教えていたら、恐らくあっという間に自分を追い抜いていたに違いない。
フリーゼは小さく息を吐いた。苦笑とも、感嘆ともつかない表情が浮かぶ。
(この人が本気で修行してたら、私などすぐ置いていかれるだろうな)
そう思うと、少し悔しくて、少し誇らしくて、そして少し寂しい。才能というものの残酷さと美しさを、フリーゼは誰よりも知っていた。
「私と戦っている最中に考え事とは、随分と余裕だな」
その低く鋭い声音に、思考の渦へ沈んでいたフリーゼはようやく意識を引き戻した。
目の前にいるアルフィアは、明らかに不快そうな表情を浮かべている。自分を前にして別のことを考えていたなど、彼女にとっては侮辱に等しいのだろう。
フリーゼは軽く息を整え、落ち着いた声で応じた。
「これは失礼しました。その力を簡単に扱う貴女を見て、つい考え事をしてしまいました」
アルフィアは黙ったまま、ジッとフリーゼを睨む。瞳を閉じていても、怒りというより納得できないという感情が濃く滲んでいた。
(……いや、そんな顔されても。と言うより
心の中で突っ込みを入れながらも、フリーゼは表情を変えない。
元神としての余裕を崩さないためでもあり、何よりアルフィアの気性を多少理解しているからだ。
しかし、アルフィアの不快な表情は一向に収まらない。魔力を纏ったまま、静かに、しかし確実に圧を増していく。
(本当、扱いづらい人だ。――けど、才能は本物)
フリーゼは内心で苦笑しつつ、再び構えを取った。アルフィアの苛立ちを正面から受け止めるように、
戦いはまだ終わらない。むしろ、ここからが本番だと二人とも理解していた。
アルフィアは、魔力を纏ったままフリーゼを睨みつけていた。その表情は露骨なまでに不快で、内心の苛立ちが隠しきれていない。
(あの小娘、どこまでも腹立たしい奴だ)
静かに、しかし確実に怒気を孕んだ視線。その苛立ちとは裏腹に、アルフィアはフリーゼに対して一切気を抜いていなかった。
先ほどまで思考の渦に沈んでいたフリーゼに向けて、【
魔法を当てたところで通用しない。それはアルフィア自身が一番よく理解していた。
(無駄どころか隙を晒すだけだ)
ならば一瞬で懐に入り、一撃を叩き込む。その選択肢も脳裏をよぎった。
だが、それもまた却下される。やったところで躱されるから。
それどころか反撃されて、無駄にダメージを負う未来が容易に想像できた。そう警鐘が鳴り響くように、アルフィアの本能が告げていたのだ。
(本当に、厄介な相手だ)
苛立ちと警戒が同居するその瞳は、獣のように鋭く光っていた。
フリーゼを前にしたアルフィアは、怒りながらも冷静だ。それが彼女の強さであり、同時に扱いづらさでもあった。
フリーゼがわずかに肩を動かした瞬間、アルフィアの視線が鋭く細まった。懐から何かを取り出そうとしている動きだけで、彼女は即座に警戒を強める。
「何の真似だ? そんな棒切れを出すとは血迷ったか」
低く吐き捨てるような声。だがフリーゼは、まるでその怒気を楽しむかのように苦笑した。
「棒切れでないのですが」
彼女の手に収まったのは、片手用の赤い短棒。
普通なら、あんな短すぎる得物で戦おうとするなどふざけているとしか思えない。だが、アルフィアは違った。その瞳には侮りなど一切なく、むしろ強い警戒が宿っている。
(あの小娘……また厄介なことを)
その読みは正しかった。
フリーゼが構えた瞬間、赤い短棒が――急速に伸びた。
「くっ!」
予想外の不意打ち。
だがアルフィアは持ち前の反射神経で瞬時に身を翻し、伸びる棒を紙一重で回避する。そのまま伸び続けた棒は、ダンジョンの壁へと突き刺さり、岩肌を深々と抉った。
「残念、外れてしまいましたか」
フリーゼは落胆したような声を出しながらも、口元にはしてやったりの笑み。次の瞬間、伸びていた棒は急速に縮み、元の短いサイズへと戻っていく。
アルフィアは舌打ちを飲み込みながら、再び構え直した。フリーゼの得物がただの棒切れではないことを、嫌というほど理解させられたからだ。
「そんな摩訶不思議な物、初めて見たな。一体何処で手に入れたのだ?」
「素直に教える訳無いでしょう」
本当なら『私が作った』と言いたいフリーゼだが、敢えて伏せた。何しろこの『伸縮棒』は、
小人族の低い背丈を補うため、彼女は『神の力』を使ってこの武器を作り上げた。ちなみにローゼの金棒やリヴァルの片刃大剣も、フリーゼ製である。
「入手方法は教えませんが、『
元のサイズに戻っていた短棒が、次の瞬間――両手用の長さへと変形した。
フリーゼはそれを両手で構え、地を蹴る。急速に距離を詰め、鋭い刺突を繰り出した。
「小癪な」
アルフィアは紙一重で回避する。伸びた杖の先端が空を裂き、風圧が彼女の髪を揺らした。
リーチが一気に伸びたことで、フリーゼの間合いは広がった。だが、アルフィアにとっては然して問題ではない。魔導士であろうと武器を扱う者であろうと、彼女は飽きるほど戦ってきた。その瞳は、怒りと警戒を同時に宿しながら、次の一手を見据えている。
伸縮棒の刺突を紙一重で躱したアルフィアは、着地と同時に地を強く蹴った。その動きはまるで獣の跳躍。魔力が一瞬だけ濃くなり、空気が震える。
(今の一撃で間合いは読めた)
フリーゼの伸縮棒が元の長さへ戻るより早く、アルフィアは踏み込んだ。距離を詰めるというより、切り裂くように空間を奪う動き。その速度は、魔導士とは思えないほど鋭い。
「――っ!」
フリーゼの瞳がわずかに見開かれる。伸縮棒を構え直すよりも早く、魔力で覆われているアルフィアの掌が迫っていた。
「『破衝』」
低く呟いた瞬間、アルフィアの掌から魔力が爆ぜた。
近距離で叩き込む衝撃波――魔法と言うより、純粋な身体能力と魔力の融合技。
因みに彼女は初めから使えた訳ではない。魔力解放を経験したことで、『こうすれば出来る』と踏んで瞬時に編み出したのだ。
フリーゼは即座に後方へ跳び、衝撃波を回避する。だが、アルフィアの攻撃はそれで終わらない。
「逃がすか」
アルフィアはさらに踏み込み、連撃を繰り出す。掌、肘、膝など、魔導士とは思えないほど洗練された近接戦闘。魔力が刃のように形を変え、フリーゼの周囲を斬り裂く。
フリーゼは伸縮棒を最短に縮め、まるで短剣のように扱いながら連撃を受け流す。しかし、アルフィアの攻勢は止まらない。
魔力解放をした事で急激に成長していくアルフィアでした。
感想お待ちしています。