(本当に何なのこの人!? 戦いながら急激に成長するなんて異常にも程があるっての!)
アルフィアは怒りと焦りを抱えながらも、攻撃の手を止めなかった。だが、フリーゼはその連撃を受け流しながら表情こそ変えないものの、内心では驚愕の連続だった。
(これは予想以上だな。神豆を渡したのは失策だったかもしれない)
フェアに戦うために渡した回復アイテム『神豆』。それがアルフィアの成長を加速させてしまったのだ。
この世界に転生して以来、フリーゼは地上のモンスターや人間と戦ってきたが、強敵と呼べる存在は一人もいなかった。それでも腐らず鍛錬を続け、旅をしながら強敵との出会いを願っていた。
地上でアルフィアと初めて戦った時、彼女はまだフリーゼの敵ではなかった。本気を出せばすぐに倒せたが、ただ『Lv.7』の実力を測っただけに過ぎない。
だが今回の再戦でアルフィアが全身の魔力を解放した瞬間、状況は一変した。
急激な成長。実力が自分に迫るほどの伸び。元神であるフリーゼでさえ想像できなかった領域。
(でも――面白いじゃないか!)
普通なら焦る場面なのだが、フリーゼは逆に歓喜した。
本気で挑める強敵が、自分を押し上げてくれる存在が、こうして目の前にいる。
「もらったぞ」
アルフィアの声が低く響いた瞬間、フリーゼの動きが一瞬だけ硬直した。
その隙を、アルフィアは見逃さない。
魔力を拳に籠めた渾身の一撃――【
「ごっ!」
フリーゼは吐血しながら吹き飛び、岩の瓦礫へ激突した。
「まだだ!」
アルフィアは両手に魔力を集束させ、瓦礫に埋まったフリーゼへ向けて巨大な
光が瓦礫に触れた瞬間――爆発が起こり、凄まじい爆風が戦場全体を飲み込んだ。
爆風はアルフィア自身だけでなく、戦いを見守っていたリヴェリア達にも襲いかかる。
「お姉ちゃんッ!」
「止すんだアイズッ!」
アイズが駆け出そうとするが、リヴェリアが即座に抱き寄せて守る。
「リヴェリア、しっかりアイズを守るんじゃぞ!」
ガレスは大盾を構え、地面を踏みしめて爆風を受け止める。
「皆、アストレア様を守るのよ!」
「言われなくても分かってる!」
【アストレア・ファミリア】団長のアリーゼ、副団長の輝夜が主神を守り、眷族たちも必死に耐える。
「おいおい、これ本当に人間同士の戦いなのかよ……」
邪神エレボスは、フリーゼとアルフィアの戦いを見て震えた。人知を超えた戦い――それはもはや災害に近い。
漸く爆風が収まった。だが爆発で巻き上がった濃い煙が視界を覆い、フリーゼの生死はまるで判別できない。
その中で――アルフィアの身体に“異変”が起きた。
「はぁっ、はぁっ……っ、ゴフッ!」
荒い呼吸。そして、赤い液体が唇から零れ落ちる。
アルフィアは膝をつきそうになるのを必死に堪えながら、口元を拭った。
(クソッ、また……!)
彼女の身体は元々長時間戦闘ができないほどの不治の病に蝕まれている。
アリーゼ達との戦いで死にかけた時、フリーゼが渡した回復アイテム――『神豆』によって体力と魔力は戻ったが、病そのものは治っていない。
そして今回使った全身の魔力解放と、初めて撃ち放った巨大な
魔力だけでなく体力まで大量に消耗し、限界が迫っている。
(まだだ!
吐血しようが、息が上がろうが、アルフィアは最後まで気を抜かない。
煙の向こうにいるであろう
並の冒険者なら確実に死んでもおかしくないが、あの程度の追撃で死ぬ相手ではないと、アルフィアはそれを理解していた。
やがて、煙がゆっくりと晴れていく。
その先に立っていたのは――予想通り、フリーゼだった。
無傷ではない。服は裂け、肌には傷が走り、血も滲んでいる。
しかし、その姿は悠然としていた。
「ふぅっ、危ないところでした。思わず死ぬかと思いましたよ」
「……どこまでもふざけた奴だ」
死なないことは予想していた。
とは言え、殆どダメージを受けずに立っているその姿を見た事で、アルフィアの米神に青筋が浮かぶ。
実際、フリーゼは本当に危なかった。
アルフィアの放った巨大な
「もう少し貴女との戦いを興じたいのですが……そろそろ限界のようですね」
「……………………」
フリーゼは既に見抜いていた。
光波を放った直後から、アルフィアの
そして神豆で一時的に抑えていた『不治の病』が再発していること。
「このまま時間を掛ければ私の
「思い上がるなよ。貴様を殺せるだけの力くらいあるぞ」
アルフィアは理解している。自分の身体が限界であることも、魔力が底を尽きかけていることも。
それでも――『敗北』だけは認めたくなかった。特に、フリーゼのような小娘相手には。その意地が、彼女をまだ冒険者として保っていた。
「そうですか。ならば
「何だと?」
アルフィアの眉がぴくりと跳ねる。まだ奥の手があるという事実に、怒りと警戒が同時に走った。
フリーゼは伸縮棒を短いサイズまで縮め、懐へ収めた後、無手の構えを取る。
その瞬間、空気が変わった。
「かぁぁぁぁぁぁぁ……!」
「何だ? フリーゼの全身が……
フリーゼの身体が赤く輝き始める。闘気が沸騰し、まるで龍の咆哮のように空気が震えた。
リヴェリア達も思わず息を呑む。
そして――
「
「ぐっ!」
フリーゼが技名を叫んだ瞬間、姿が消えた。
次の瞬間には、アルフィアの頬へ拳が叩き込まれていた。
(何だ今の速さは!? この私が、見えなかっただと……!?)
吹き飛ばされながらも体勢を整えるアルフィア。だが、認識する間もなく接近を許した事実に、動揺が走る。
フリーゼが使った奥の手『龍帝拳』は、全力状態からさらに力を倍加させる技。前世で
現在の出力は――五倍。
急成長したアルフィアでさえ、フリーゼの姿を捉えきれない。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!」
フリーゼが再び接近し、拳の連撃を叩き込む。
「この……舐めるなぁ!」
アルフィアは反撃を試みるも、フリーゼは瞬時に躱し、背後へ回り込む。
「うぐっ!」
小人族とは思えないほどの強烈な蹴りが背中に叩き込まれ、アルフィアは激痛に顔を歪めながら吹き飛ぶ。
地面に着地しようとした瞬間――フリーゼが眼前に現れ、回し蹴りを放つ。
「ッ!?」
アルフィアは両腕を交差して防御するが、衝撃までは殺しきれず、再び後方へ吹き飛ぶ。
(何だこれは!? 出鱈目にも程があるぞ!)
背中と腕に走る激痛。バク転で着地しながらも、動揺を抑えられない。
フリーゼは本気で戦っていた。なのに、今の彼女は桁違いの強さになっている。
(? 一体何を……まさか!)
フリーゼが急に立ち止まった事に疑問を抱くアルフィアだが、その理由はすぐに分かった。
「ド…ラ…ゴ…ン……!」
両手首を合わせ、腰へ引きながら闘気を集中させる。その姿は、まるで前世の『あの技』の溜め。
闘気が満ち、空気が震える。
「ならば……!」
アルフィアも残りの魔力を全て両手に収束させ、再び
直後、二人は互いに全力の一撃を放った。
「これで――終わりだぁぁ!」
「波ァァァァァァァ!」
二つの光波が激突し、空間が歪むほどの衝撃が走る。
突き破ったのは――フリーゼの
「あ――」
アルフィアが声を上げる暇もなく、フリーゼの
漸く決着まで行きました。
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