再び転生した元神はダンまち世界へ   作:さすらいの旅人

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正邪決戦⑨

 地上のオラリオにも、フリーゼとアルフィアの戦いは確かに届いていた。

 

 二人が放った光波(ビーム)がぶつかり合った瞬間に生じた爆発の振動は、ダンジョン18階層だけでは収まらず、地上の街並みをも揺らすほどの衝撃となって跳ね上がった。石畳は細かく震え、建物の窓が一斉に鳴動し、まるで巨大な魔獣が地中を踏み荒らしているかのような地震が二度続けて起きた。

 

 市民達は恐怖に顔を強張らせ、悲鳴を上げる者もいた。それでも都市の治安を預かる【ガネーシャ・ファミリア】の団員達は必死に人々を宥め、避難誘導を行っていた。

 

 だが彼らの胸中にも不安は渦巻いていた。あの揺れの中心にいる者達は、果たして無事なのか。命懸けでダンジョンに潜っている冒険者達の安否を思うと、どうしても心がざわつく。

 

「……ロキ、リヴェリア達は?」

 

 フィンは、いつの間にか陣地に姿を見せていた主神(ロキ)に問いかけた。

 

 地震が起きる直前、地上では闇派閥(イヴィルス)が完全撤退していたため、戦況の確認に来たロキへ、真っ先に仲間の生死を尋ねたのだ。

 

「………まだウチとの繋がりは消えとらん。せやから、リヴェリア達が生きてるのは確かや。アストレアの眷族(こども)達は……分からんけどな」

 

 ロキはそう答えながらも、眉間に深い皺を刻んでいた。

 

 『恩恵(ファルナ)』が切れていない――それは確かに生存の証だ。とは言え、立て続けに二度も地上を揺らすほどの衝撃が起きるなど、尋常ではない。ダンジョン18階層で何が起きているのか、想像するだけで胸がざわつく。

 

 今すぐにでも捜索部隊を送り込みたい。しかし、どの【ファミリア】も闇派閥との戦闘で疲弊しており、戦力を割ける状況ではない。ましてや、彼女達が相対しているのは『大最悪』のモンスターと【静寂】のアルフィア。半端な戦力を送り込めば、救助どころか無駄な犠牲を増やすだけだ。

 

 フィン達は、ただ祈るしかなかった。

 

 ――どうか、無事で戻ってきてくれ。

 

「リヴァル、感じたかしら?」

 

「……ああ。まさか、あのフリーゼ様が本気になるとはな」

 

 ローゼとリヴァルは既に地上での役目を終え、団員達を迎える準備をしていた。その最中、地震と同時に、ダンジョンの奥底から爆発的に膨れ上がるフリーゼの闘気(オーラ)を感じ取ったのだ。

 

 フリーゼが戦いに加われば勝利は確定する――二人はそう信じていた。だからこそ、彼女の命で地上に残っている。しかし、今感じた力は余りにも凄まじく、胸の奥に不安が芽生えるほどだった。

 

 リヴァルは拳を握りしめる。すぐにでも駆け付けたいと。

 

 だが彼は冒険者ではなく、ダンジョンに入る資格がない。

 

 それにフリーゼから『地上に残れ』と厳命されている以上、勝手な行動は許されない。

 

「……念話が来ていないということは、まだ大丈夫だ。フリーゼ様は、必ず勝つ」

 

 自分に言い聞かせるように呟くリヴァル。ローゼも静かに頷いた。

 

 地上にいる彼らが出来ることは――ただ『待つ』ことだけだった。

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって、ダンジョン十八階層。

 

 アルフィアとフリーゼが放った極大の光波(ビーム)が衝突した瞬間、階層全体を飲み込むほどの大爆発が起きた。

 

 その余波は、周囲の地形すら原型を留めないほどの破壊をもたらし、かつての美しい景観は跡形もなく吹き飛んでいた。

 

 数日前まで、この階層は『迷宮の楽園(アンダー・リゾート)』と呼ばれていた。広大な森が広がり、澄み切った湖では水浴びもできるほどの自然豊かな場所として。

 

 しかし『神獣の触手(デルピュネ)』が誕生したことで、深層の疑似的な『竜の壺』へと変貌し、自然は荒れ果てていた。

 

 そして今、フリーゼとアルフィアの戦いによる光波(ビーム)の衝突が、さらにその景観を破壊し尽くした。再生能力を持つダンジョンであっても、元の『楽園』へ戻るには相当な時間が必要だろう。

 

 だが、それ以上に深刻なのは――

 

「無事か? リヴェリア」

 

「あ、ああ……アイズも大丈夫だ」

 

 爆発の中心に近い位置で戦況を見守っていたリヴェリア、ガレス、アイズの三人が、傷一つ負っていなかったことだった。

 

 本来ならば重傷どころか、爆風で吹き飛ばされていてもおかしくない。しかし三人は無傷で、互いに顔を見合わせながら『なぜ自分達は生きているのか』と困惑していた。

 

 その答えは、煙が晴れた瞬間に明らかになった。三人の周囲を、淡い光を放つ結界が覆っていたのだ。

 

「何じゃリヴェリア、あの爆発が起きる前に結界魔法の準備をしておったのか?」

 

「違う。これは私の魔法ではない……!」

 

「お姉ちゃんの魔法……」

 

 アイズがぽつりと呟いた。

 

 金髪の幼女が言う『お姉ちゃん』とは、もちろんフリーゼのことだ。

 

 さらに驚くべきことに、少し離れた場所では【アストレア・ファミリア】と邪神エレボスの姿も確認できた。彼らもまた同じ結界に守られて無傷である。

 

 アリーゼ達は自分達がなぜ生きているのか理解できず、ただ呆然と結界を見つめていた。

 

「どうやら彼女達もフリーゼのお陰で無事なようだな」

 

 リヴェリアが安堵の息を漏らしたその時、煙の向こうから赤色の魔力で覆われているフリーゼの姿が現れた。大爆発の中心にいたはずなのに、彼女はまるで散歩帰りのように平然としている。

 

 フリーゼはちらりとリヴェリア達へ視線を向け、指を軽く鳴らした。その瞬間、三人を守っていたルーン魔術『防壁のルーン』が音もなく消失する。

 

「フリーゼお姉ちゃん、本当にすごい……!」

 

「とんでもないな、あの娘っ子は。アルフィアと戦いながらも、ワシ等を守る為の結界魔法まで発動させていたとは……」

 

 アイズは尊敬の眼差しを向け、ガレスは逆に戦慄を覚えていた。

 

 もしこの場にフィンがいたら――フリーゼを嫁に迎えようとしているあの男は、一体どんな顔をしていただろうか。ガレスがそんな不謹慎な想像をしてしまうほど、フリーゼの力は常識外れだった。

 

 

 

 

 

(彼女達は無事のようだ、な)

 

 大爆発が起きる直前、フリーゼはリヴェリア達の位置を正確に把握し、事前に刻んでおいたルーンを起動させた。『防壁のルーン』――彼女がアルフィアと戦う前から準備していた保険。爆発の中心にいたにもかかわらず、三人や【アストレア・ファミリア】(それと邪神エレボスも)が無傷で立っていられるのは、そのルーンが瞬時に展開した結界のおかげだった。

 

 無事を確認したフリーゼは、指を鳴らして結界を解除し、再び視線を戦場へ戻す。

 

 そこには、彼女の光波(ビーム)――『ドラゴン波』を真正面から受け、ボロボロの姿で仰向けに倒れるアルフィアがいた。

 

 衣服は焼け焦げ、肌には無数の裂傷。それでもなお、彼女は生きている。

 

 フリーゼは全身を赤く染めていた闘気(オーラ)を収め、『龍帝拳』を解除しながらゆっくりと歩み寄る。数歩手前で立ち止まり、静かに言葉を落とした。

 

「あれ程の爆発を受けてもまだ生きてるとは……流石は『Lv.7』と言うべきですかね」

 

「……五月蠅い」

 

 アルフィアの身体がピクリと動き、ゆっくりと上半身を起こそうとする。その姿を見て、リヴェリア達は思わず身構えたが、フリーゼは一切動じなかった。

 

「ゴホッ……ゴホッ……。やはり、防ぎきれなかったか……」

 

「驚きましたよ。あの一瞬で魔法無効化を使おうとしたなんて、ね」

 

 フリーゼは見ていた。自分の『ドラゴン波』がアルフィアの魔法を突き破った瞬間、彼女が咄嗟に『シレンティウム・エデン』を展開しようとしたことを。

 

 だが、完全には防げなかった。魔導士の魔法ならば“最強の盾”として成立しただろうが、『ドラゴン波』は魔法とは異なる別種の力であり、相殺できたのはせいぜい一~二割程度だった。

 

「本当に……どこまでもふざけた奴だ……」

 

 アルフィアはふらつきながらも立ち上がる。その姿を見て、フリーゼは目を細めた。まだ戦うつもりなのか――そう思ったが、すぐに違うと気づく。

 

 魔力は完全に尽きており、立つだけで精一杯。戦闘どころか、歩くことすら困難な状態だ。

 

「私としては不本意だが……お前の勝ちだ」

 

「そうですか。一応確認ですが、貴女はこの後どうするつもりですか?」

 

「知れたこと。もう決まっている」

 

 アルフィアはゆっくりと歩き出す。向かう先は、深層へ続く巨大な大穴で底が見えない闇。

 

「おっと、私の前で死ぬなんて考えないで下さい」

 

 フリーゼはすっと前に立ち塞がる。殺す気など初めからない他、ベルとの関係を聞き出す必要がある。

 

「お前がそうするのは、大方……あの子の関係を知りたいのだろう?」

 

「………」

 

「知りたければ、あの村にいる助平爺に聞けばいい。それと……」

 

 アルフィアは服の中から小さな鍵を取り出し、フリーゼへ差し出した。

 

「何ですか、この鍵は?」

 

「私に勝った褒美だ。貸金庫が当時のままなら……好きに使うがいい」

 

「そんなの私はいら――」

 

「頼む。最後の願いとして――私の死を見届けてくれ」

 

「………………」

 

 初めて懇願するアルフィアに、フリーゼは言葉を失った。

 

 その沈黙を肯定と受け取ったのか、アルフィアは再び歩き出す。

 

「さらばだ、フリーゼ」

 

 普段閉じている両眼をゆっくりと開き、穏やかな笑みを浮かべる。

 

 その表情は、戦いの最中には決して見せなかった柔らかいものだった。

 

「……さようなら」

 

 フリーゼは悲しげに別れを告げる。

 

 次の瞬間――アルフィアは大穴へ身を投じた。深層から吹き上がった炎が彼女を包み、灰となって散っていく。

 

 この世界で初めて出会った強敵の最期。フリーゼは静かに目を閉じ、黙祷を捧げた。




アルフィアの死を見届けるフリーゼでした。

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