黒いAVが夜空を裂き、爆音を残してVの頭上にホバリングをした。
底部のランプが開き、赤い光が地面を照らす。
その姿を見た瞬間、周囲にいたNCPDの一般警官たちは顔色を変える。
「マックスタックだ! 全員下がれ、巻き込まれるぞ!」
誰かが叫ぶ。
それを合図に、警官たちは一斉に後退を始めた。
恐怖からではない、生存本能だ。
ナイトシティでは誰もが知っている。
マックスタックの出動は、現場に血の雨が降ることを。
彼らが動いた後には、敵も味方も区別なく、肉片と煙しか残らない。
それが「鎮圧」という言葉の本当の意味だった。
その中から、影がひとつ。重装の隊員たちの中から、マスクで顔を隠した小柄な人影が軽やかに飛び降りた。
その仕草と輪郭からして、女であることが分かった。
「やっぱりいつ見てもマックスタックのAVはイケてるな」
女は無言のまま、両腕を前にかざす。
瞬間、マンティスブレードが展開され、風を裂くような動きで距離を詰め、Vの顔面めがけて突きを放つ。
Vは反射的に身をひねり、間一髪で回避。
すぐさま反撃に転じで、相手の首筋を狙って刀を振るうが、もう一方のブレードが火花を散らし受け止めた。
「クソッ今のを防ぐのかよ」
当然それだけでは終わらない。女の動きが一瞬止まり、次の瞬間サンデヴィスタンよる加速で先ほどとは比べものにならない速度で再び斬りつける。
しかしVも負けてはいなかった。
彼の身体にも、敵と同等かそれ以上のクロームが埋め込まれている。ここで出し惜しみをすれば命はない
そう直感したVは、秘密兵器を起動した。
時間が歪む。
マックスタックさえも凌駕する速度で、Vが斬り返す。
「な!」
切断された左腕を女は驚愕しながらも、続く追撃を避けられないと悟ると、逆に踏み込みVの身体を両足で蹴り上げ、その勢いで宙へ飛び上がった。
空中でブレードを収納し、腰のサブマシンガンを抜く。閃光のような連射が走り、弾丸がVを襲う。
Vは刀で弾丸を弾き返しながらも、いくつかの弾が肩と腹を掠めた。
「ぐ……はあ、はあ」
Vは肩で息をしながらも、表情を崩さなかった。
痛みは確かにあったが、痛覚エディターがそれを即座に切り取る。自分と大分距離を取った相手方は、既に部隊を完全に展開させ、合計4人が出揃っていた。
先ほど切り合った女は、左腕を失いながらも微動だにせず、残った右手のブレードを静かに構え直す。
他の3人は、一見余裕の表情で配置についた。だがその笑みは油断ではなく、実力に裏付けされた確固たる自信によるものだ。
彼らにとって、この戦いはもう終わっていると言わんばかりに。
「気を付けろ、あの男…チアンTの旧式を入れている」
その1言で他3人の表情が一斉に引き締まる。さっきまでの余裕が霧のように消え、代わりに生まれたのは、純粋な殺意だけだった。
4人のマックスタックが一斉に動いた。閃光のような残像が入り乱れる中、Vは狙いを定める。
(あのデカくて遅そうな奴から!)
距離を詰め、一瞬に相手の目の前にまで近づく。刀が重装備の隊員の胸部装甲を正確に捉えた。
しかし、結果は金属音と火花が散っただけだった。
分厚い装甲。まるで車を斬ったような手応えだ、Vの表情が僅かに歪む。斬りつけられた男のゴーグルの奥にある、無機質な光がこちらを捉える。
次の瞬間、両手に持っていたLMGが振り上げられた。
銃としてではなく、鈍器として。
振り下ろされる銃身が空気を裂く。
Vは紙一重で身をかわし、頬を掠めた衝撃に冷や汗を流した。
重い、まともに受ければ終わりだ。
ならばと今度は地を蹴り、背後へ回り込む。狙うは装甲の薄い関節部。目にも止まらぬ速度で斬りつけた瞬間、確かな手応えが走った。
金属の継ぎ目が裂け、血か油よく分からない液体が飛び散り、巨体が片膝をつく。
Vは息を荒げながら、刃を構え直した。
だが彼は忘れていたのだ。コレは集団戦であり、たった1人に注意を向け続ける事が、どれだけ危険であるのかを。
「ッ!」
乾いた音が響いた。視界の端で捉えた閃光、次の瞬間Vの手から刀が弾き飛ばされた、スナイパーだ。
刹那の隙、Vの頭の奥でノイズが爆ぜた。視界がチカチカと乱れ、世界が揺らぐ。脳に直接、誰かの指が差し込まれたような違和感。ネットランナーのハッキングが始まっていた。
体が動かない、呼吸も遅れる。
その時、あの女が動いた。
マンティスブレードの光が、残光のように走る。
ハッキングで身動きの出来ないVの胸元へ、寸分の狂いもなく。
鋭い痛みと共に、刃が心臓を貫いた。
息が詰まり、視界が白く弾ける。
女の顔はマスクで隠れて見えないが、どこか勝ち誇っている様にVは感じた。
金属音が止んだ。刃が胸を貫き、Vの身体が力なく崩れ落ちる。
女は静かに刃を引き抜き、倒れかけた彼を見下ろす。
もう終わりと、誰もがそう思った。
だがそんなはずがない。こんなところでくたばる様な男を、誰が伝説と認めるか。誰が語り継いでくれるのか。Vの予備心臓は既に起動していた。
「なんだ…笑い…声?」
彼女は一歩、後ずさる。Vの口元が、血で濡れたままわずかに歪むと、最初は息の漏れるような微笑だった。次の瞬間、喉の奥から笑い声が噴き出す。
「アハハハハハ!!アハハハハハハハ!!!」
Vの精神はこの瞬間、99.9%サイバーサイコシスを発症したといってもいい。彼の精神をこの世界に留めているのは、残り0.1%の部分だけだ。身体中のあらゆるインプラントのリミッターが解除され、それと同時にVからはまばゆい光が放出される。
その光は雷の様な形に姿を変えると、その場にいる全ての人間を包み込んだ。Vの1番近くにいた女は立つことすら出来なくなり、その場に倒れ込む。
「コレは…EMPだと?」
女は自分の腕を確認するが、ブレードを展開するどころか指を動かす事さえ叶わない。
「フハハハハハ!アハハハハハ!!」
Vは先ほど弾き飛ばされた刀を拾うと、笑いながら目の前で倒れている女の背中へ、ためらいなく刀を突き立てた。
「がっ…あ」
血の泡が喉から零れ、彼女の身体が痙攣を起こす。
「メリッサ!クソッ喰らいやがれ」
仲間のピンチを前に重装備の男がプロジェクタイルランチャーを起動するが、発射されるよりも早くVはその男に急接近した。
閃光のような加速、即座に男の巨体が地面に叩きつけられていた。
Vはその上に馬乗りになり、ゴリラアームで両腕を押さえつける。金属同士がぶつかり、アスファルトに亀裂が走った。
「思いついたんだけど」
「や、やめろ…」
「口の中はどうなってるんだ?」
Vはゴリラアームで男の顎を外すと、そのまま刀を勢いよくねじ込む。刀は口内の装甲を砕きながら、喉の奥を貫通し首の後ろまで突き出た。
その頃には押さえつけていたVの腕に、もう抵抗は伝わってこなかった。
ビルの屋上からVを見下ろしていたスナイパーにとって、それは最悪の状況だった。
銃身に接続されたセンサーが、ノイズだらけの信号を拾っては途切れる。
彼が構えているスマート式スナイパーライフルは、一度ロックすれば弾丸が自動で標的を追尾する、高性能な対サイコ用兵装だ。
だがその機能は、今やまるで意味を成していなかった。
Vの身体からは、今なお微弱なEMPが放たれている。
ソレが、ロックオンシステムを狂わせ、照準を固定できない。
センサーは誤作動を繰り返し、ターゲットマーカーは点滅を続けるばかり。
スナイパーは何度もスコープを覗き直すが、Vの輪郭すら掴めなかった。
トリガーにかけた指が、空しく震える。
ロックできなければ、発砲できない。それがこのライフルの仕様であり、同時に彼の敗北を意味していた。
他の隊員が次々と倒れた後も、まだ一人だけ生き残っていたネットランナーは最後の抵抗を試みようとしている。
「この…バケモノが!」
目を血走らせながらVを睨みつけ、ハンドガンを構える。
EMPの影響でシステムは半壊している中、まともに機能する銃はこれだけだ。
Vは刀を肩に担ぎ、ゆっくりと歩を進める。あと数歩。
刃を振り下ろせば終わり――
「う…ああ、こんな時に…」
頭が割れるような痛みと発作、レリックの動作不良が今一番起きて欲しくない時に起こったのだ。
「チッ……」
Vは頭を押さえ、刀を構え直そうとするが、腕が動かない。
とうとう膝が崩れ、地面に手をついてしまう。
「お前の負けだ」
男が立ち上がり、額に銃を押し当てる。その銃口の冷たさが、張り詰めた空気の中で異様に際立つ。
この至近距離なら、弾丸は頭部の装甲を貫き、確実に脳を破壊するだろう。
「最後に言い残すことはあるか?」
Vは震える呼吸の合間に薄く笑うと、血の混じった息を吐きながら低く呟いた。
「ハハ…凄く、気持ちよかった」
「そうか」
銃口がわずかに押し込まれ、トリガーに指がかかる。もう万策は尽きた、どうせ死ぬのであれば戦いの中で最後を迎えられて良かったと、Vは清々しい顔で死を受け入れる。
だが撃たれる事は無かった。
「うおおおりゃあああ!!!」
轟音が響くと同時に突如、男の背後から一台のバイクが飛び込んで来た。
乗っている女はエンジンの唸りと共に、質量と速度を乗せた一撃を食らわせにくる。
男が気づいて振り返った時には、すでに遅かった。
ハンドガンを構え、慌てて三発撃つが、バイクの装甲にはじかれて火花が散る。
次の瞬間、彼の身体は空中を一回転し、地面に叩きつけられた。
「何やってんの…!ほら、早く死にたくなかったらアタシの手を掴んで!!」
聞き覚えのある、凛とした声がVの耳から脳へと駆け巡る。
「パ…ナム?」
どうして彼女がここにいるのか、何故自分を助けに来てくれたのか疑問が尽きない。
考えるのが苦手なVは、結局その手を掴んだ。
引き上げられるようにしてバイクの後部に飛び乗る。
「飛ばすよ、掴まってて!!」
「あ、あり…がと」
「お礼は後で聞くから!」
パナムはバイクのアクセルを全開にし、最高速度で街を駆け抜ける。マックスタックの出動で、他の警官が離れていなければこうもすんなりとは逃げられなかっただろう。
Vは薄れゆく意識のなか、パナム背中に何とか掴み彼女の体温と鼓動を感じ取っていた。
やがて街の光が遠ざかり、砂塵と風の音だけが残る。
二人を乗せたバイクは、夜のバッドランズへと消えていくのだった。
オマケ : 俺の1杯
某日 アフターライフにて
V「クレア、飲みにきたぞ」
クレア「いらっしゃい、何にする?」
V「今日は俺のカクテルを作って欲しいんだ」
クレア「いいよ、アンタが派手に死んだらそんときはウチのメニューにしてあげる」
クレア「それで、どんな感じなの?」
V「よく聞いてくれた…二コーラのロックに、二コーラ ファイヤと二コーラ ブルー、そして忘れちゃいけない愛情だ」
クレア「あーV、ここはバーなの…ファミレスじゃなくて」
ジョニー『ドリンクバーのジュースをとりあえず混ぜる、クソガキみてえなレシピだな』
あとがき
『狂四郎2030』っていうこの2次創作の2077倍くらい面白い漫画があるんですよ。
エッジランナーズが好きな人は絶対ハマると思うんでオススメです。
ナイトシティよりも更に終わってるディストピアは最高ですよ。
それに純愛物ですので、純愛過激派の皆様でも安心して読めます。