もしもVの知力が0. 1だったら   作:正拳突き

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普段は勝気でイケイケゴーゴーなのに、恋愛になると奥手なパナムが好きです。


18 色褪せないもの

ソートンのエンジンが砂道を切り裂くように低く唸り、車体が細かく揺れる。

助手席に座ったVは、落ち着かない様子で窓の外へ視線を向けたり、パナムの横顔をちらりと盗み見ていた。

 

「デートとかほんと久しぶりだな、マジで楽しみって感じ」

 

「そんなに期待されるとこっちも緊張するって、ちょっとしたドライブなんだら」

 

言葉とは裏腹に、彼女の声は柔らかい。

ほんの少しだけ赤く染まった頬は、パナムにとってもまんざらではない事は明らかだ。

ソートンは砂を巻き上げながら、ナイトシティを背に走り続ける。

車内には乾いたバッドランズの風と、二人のどこか気恥ずかしい沈黙が混ざっていた。

 

『まるで修学旅行って雰囲気だな、まあ俺は黙っていてやるからたまには平穏な日常を楽しめ』

 

後部座席で居心地悪そうにくつろぐジョニーの声は、Vには届かなかった。

 

 

 

 

アルデカルドスのキャンプからわずか五分、ソートンを停めて外に出ると、強い日差しが肌を熱する。

切り立った崖のほとりに車を止め、2人は車の屋根へとよじ登ると、そこにあったのはVが今まで見てきたモノの中で、最も美しいと言える光景だった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「これは…本当に凄い景色だな」

 

Vは目の前の光景の美しさのあまり、元からゼロに等しい語彙力が更に低下してしまう。しかし、そんなVの気持ちはパナムには十分に伝わっていた。

 

「でしょ〜嫌なことがある度にここ来るんだ。こんなスケールの大きいもの見たらさ、自分が抱えてる悩みが途端に馬鹿らしくなるんだよね」

 

「なんか分かる気がするな…」

 

Vはゆっくりと息を吐き、地平線を眺める。

有毒な土壌に酸性雨と普段なら単なる荒野としか思えない場所が、今日だけはなぜか温かく胸を締めつけてくる。

 

ナイトシティに飛び込む前。まだ自分が何者になるか分からなかった頃の、遠い日の記憶が蘇るかの様に。

 

「ミッチやスコーピオンたちとも来たりするのか?」

 

「いや、アイツ等の燃料は酒だし…ここに連れて来たのはアンタが初めてかな」

 

「勿体ないな、こんなに綺麗なのに」

 

「ホントそれ」

 

二人はしばらく言葉を交わさず、ただ風の音だけを聞いた。

砂がさらさらと舞い、崖の下で小さな渦を描く。都会の喧騒はもう聞こえない。

 

「……」

「……」

 

数秒の沈黙の後、パナムは視線を落として靴先の砂を軽く払う。その仕草にさえ、どこか緊張の色がにじむ。

やがて、彼女は小さく息を吸った。

 

「ねえ、V」

 

「なんだ?」

 

「例えば、そう例えばの話だけどさ…アタシにキスしなきゃ死ぬってなったとき…アンタ、キスできる?」

 

太陽に照らされた彼女の耳だけが、不自然に赤い。

Vはソレ気づかないまま、あっさり答えた。

 

「なんだよいきなり、そりゃ死ぬんだったらキスするだろ」

 

「いや、あっごめん今のはなしっ」

 

パナムは慌てて手を振り、視線を逸らす。風が彼女の髪を揺らし、少しだけ顔が隠れた。

 

「それじゃあ…Vはアタシとキスとかってできる?」

 

声は砂の音の様に小さい。普段のパナムなら絶対に見せない弱さが、そこにはあった。Vは少し考えるでもなく、まるで天気の話でもするように気軽に答える。

 

「そりゃパナムならぜんぜんキスできるよ。カワイイし、俺のこと助けてくれるし尻もデカいし…悪いところが1つもないよな」

 

Vが言い切るよりも早く、パナムの肩がビクンとはねた。

 

「へ、へぇ〜そうなんだ…」

 

そんな2人の歯が浮く様なやり取りを聞いてたジョニー深いため息をつきながら、文句を垂れるのだった。

 

『たく…中学生みたいな恋愛しやがって』

 

風が少しだけ生温くなり、二人の会話が落ち着いた頃だった。Vがふと思い出したように、背負っていたカバンを探りはじめる。

 

「そういえば、俺弁当持ってきたんだよな。パナムの分もあるぞ」

 

「うそ、ありがとうV 凄く嬉しいよ」

 

この時、喜びを隠さないパナムとは対照的にジョニーは困惑の顔を表に出す。

 

『おい待て弁当なんて俺は知らないぞ。お前まさかアレを出すつもりじゃないだろうな、ホントにやめろよマジで後悔するぞ!』

 

ジョニーが必死に警告をするものの、1手遅かった。既にVが持ってきた“弁当”はカバンから取り出されパナムに差し出されてしまったのだ。

 

「えーと、コレはなに?」

 

「合成食パン」

 

「あ〜このパンを使ってサンドイッチを作るってことね」

 

少しだけ笑顔を取り戻したパナムだったが、Vは完全に違う方向へ全力で駆け抜ける。

 

「いや、このまま食うんだよ」

 

「え?」

 

その瞬間、パナムの表情がほんの僅かに引きつった。まるで背中からナイフを突き刺されたように。

ジョニーが絶望したように銀の腕で顔を覆う。

 

『あークソっ短い青春だったな…まあ、お前には高嶺の花だったんだよ』

 

「じ、じゃあ…マーガリンとかピーナツバターは?」

 

「そんなの必要ないだろ、パンって口の中で噛んでればそのうち甘くなるからな」

 

「ええ……」

 

この時、パナムの中にあったVに対する憧れの感情は完全に打ち壊されてしまった。どんなに魅力的な男であったとしても、女性とのデートの際に食パンを弁当と称して持参し、あまつさえソレをおかしいとすら思わなければ、幻滅されて当然と言えよう。

 

パナムは一瞬だけ迷ったように視線を落とす。

しかし、その迷いを振り切るようにまっすぐVを見つめると、再び彼に話しかけた。

 

「V…今度また出かける時はアタシがお弁当作るよ」

 

「いいのか?」

 

「そりゃあいくらなんでも、そんな食生活を続けてたら病気になるよ。これからはアタシの手料理を食べて、ちゃんと舌を肥えさせること、いいね!」

 

『マジかよ』

 

ジョニーにとっては完全に理解不能だった。食パンを出した瞬間に終わったと思っていた恋が、なぜかここで完全に息を吹き返したのだ。

 

Vだけが状況を理解していない。しかし、その無邪気さが皮肉にもパナムの胸の奥に火を点けてしまった。

パナムの中にあったVへの憧れは消え失せた。

 

パナムにとって、Vは手の届かないところにあると思っていた理想の男性だった。

圧倒的な強さと仲間への優しさを持ち、常に人のために戦う高潔な人物。自分とは釣り合わないと思っていたヒーローの姿。

 

その全部が実はただの、ちょっとバカで不器用なVへと変わった。

けれど、その不器用さがどうしようもなく愛おしい。

 

(心配しないでV…これからはアタシがアンタを支えていくから)

 

「うわまじか、生きる楽しみが増えたな」

 

「そんな大袈裟な」

 

途中アクシデントはあったものの、結果的に2人のデートは上手くいった。バナムはVを憧れというフィルターを通さずに、ありのままの彼を受け入れる事ができた、偽りのない本当の自分を愛してくれる人が、この世界に何人いるのだろうか。

 

『こんなバカには勿体ないくらいだ』

 

Vは自分がどれ程 幸運であるかに気付いていないが、ジョニーは確かに彼女の持つ優しさ、素直さを理解したのだった。

 

 

 

夕陽が傾き始め、ソートンの車内には心地よい疲労感が漂っていた。パナムはエンジンをかけVはシートに深く腰を沈める。静けさの中で、ふとVが思い出したように口を開いた。

 

「そういえば、俺がマックスタックに殺されそうになったときパナムが助けてくれたけど、なんで分かったんだ?」

 

「ああ、あの時は野暮用で街にいたんだけど、そしたらカツオ君から電話があったんだよね」

 

 

『パナムさん、助けて下さい…Vさんがホルトを殺したうえ、今マックスタックと戦ってるです!』

 

「なんて言われたもんだから、超ビックリしたよ〜」

 

「そうか、カツオのお陰で俺は助かったんだな…」

 

Vは腕を組みながらしみじみと言う。パナムは悪戯っぽく笑って、肘で軽く彼の肩をつついた。

 

「ちゃんとお礼言っとくんだよ」

 

「パナムはカツオがどこにいるのか知らないのか?」

 

「アンタは知ってるでしょ?」

 

「え?」

「え?」

2人は顔を見合わせ、次の瞬間同時に表情を固めた。

「……………」

「……………」

 

ソートンの車内に、重たい沈黙が流れた。

 

「うおおおい、てことはカツオの奴 何日も1人ほっちだったてことか!?NCPDに追われながら」

 

「何やってんのV、この3日間1回も電話しなかったの!?」

 

「だってアイツ影薄いんだよ!」

 

「いいから今すぐ電話しなさいよ、可哀想でしょ!」

 

パナムに急かされながらカツオを呼ぶと、僅か1コールもしないうちに接続され、ボロボロになったカツオの顔が現れた。

 

『Vさん…生きていたんですね。ニュースじゃマックスタックに殺されたって言ってて、僕すごい心配したんですよ…』

 

ホロに映し出されたカツオの顔は、まるで別人だ。目の下には濃い隈が刻まれ、普段は青くサラサラだったオカッパ頭は皮脂と汗でぺったり貼りつき、ホロ越しでもねっとりした悪臭が漂ってきそうなほどだった。

 

「あーホント悪い、今街にいるよな?迎え行くから場所を教えてくれ」

 

『今座標を送りました…もっと早く来てくれなかったんですか?』

 

「ホントに…本当にごめん。何か欲しいものとかあったらやるけど」

 

小さく息を飲む音が聞こえた。

数秒の沈黙のあと、しぼり出すような声が返ってくる。

 

『今は…柔らかいベッドと、シャワーを浴びたいです…』

 

「分かった!全部やる!今迎えに行くから待ってろ!!」

 

Vは叫ぶように言い、電話を切るとパナムに話しかける。

 

「パナム、今すぐカツオのとこに行ってくれ!!!」

 

「言われなくても!!」

 

ソートンのエンジンが荒野に響き、車体が勢いよく走り出す。そんな二人の慌てっぷりを見ながら、ジョニーは空を眺めながら誰にも聞こえないくらい、小さな声で呟いた。

 

『あのガキ、最初に命乞いなんてせずにお前に殺されてた方が幸せだったんじゃないのか?』




ジョニー『お前、ホントにパナムは大事にしろよ』

V「分かってるって」

ジョニー『本気で分かってんのか?あんなに器と尻のデカい女はそうやすやすとは見つからねぇぞ』

V「確かに…パナムの尻は核ミサイルだよな」












あとがき

エッジランナーズに出てくる、カツオのパパンに助かる道はないのかと考察しました。最初にカツオがデイビッドを挑発しなければ、デイビッドがカメラの前でサンデヴィスタンを使わずに、1連の騒動は起きないのかと…

でも、カツオ パパンがデイビッドに気付かなくても、誘拐されてしまうと思いますので、どう足掻いても死にそうですね。

さっすがナイトシティ、救いはないぜ!

恋愛要素は多いほうがいい?

  • いいぞもっとやれ
  • Vが暴れまくるところが見たい
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