午後2時過ぎ、若干曇り空の下でカブキの大通りで車を運転しながらジャッキーはVに語りかけた。
「V、今日の仕事で注意するのは一つだ。絶対にターゲットは殺すな、さもないと俺たちはタダ働きになっちまう」
「分かってるよジャック、俺を誰だと思ってるんだ?これまで俺たちの前に出てきた敵は全員あの世に送ってやっただろ?」
助手席で二コーラを飲みながらVは気怠げに答える。問題ないだろうと言いたげな表情だ。
「いや、だから今回はあの世に送っちゃマズイんだって。レジーナが生け捕りじゃないと報酬を払わねぇって______」
「______ジャッキー!車を止めろ!!」
急に声を荒げたVに驚きつつも、ジャッキーは言われた通りにブレーキを踏む。シートベルトを締めていなければ、間違いなく車外に吹き飛ばされていただろう。
そこにいたのはコーヒーを飲みながら談笑をしている三人組。だがそのグロテクスな顔は一目でインプラントだと分かり、ホラー映画の敵キャラの様な風体にしていた。
「メイルストロームだ!有り難い、飲み屋のツケが溜まってたんだよ!!」
「おい待てよ!仕事忘れたのか?」
歓喜を声を上げながらカタナを抜いて車を降りようとしたVの肩をジャッキーが掴む。後1秒遅ければ間に合わなかっただろう。
「何だよ、お前にも半分やるから文句ないだろ?」
話終わるや否や、Vがいつもの倍近いスピードで走りだした。
(ああ、また止められなかった…アイツら終わったな…)
ジャッキーは心の中で今日1番不運な3人に合唱しつつ、必要ないと思いながらも一応銃を構えた。
「うわ!なんだお前!?」
「よくも仲間を殺りやがったな!」
「ヒィィ!もうやめてくれ!!」
不意打ちだったのもあるがメイルストロムは30秒ももたなかった。後に残ったのはバラバラの死体と、その死体から必死にクロームを集めているVだけだ。
「早く逃げねえとNCPDが来るぞ、さっき走って逃げた奴らが『サイバーサイコだ!』って言いながら逃げていったからな!」
この時ジャッキーはかなり焦っていた。何流石のVもNCPDの対サイバーサイコ部隊【マックス•タック】が来ればひとたまりもない。今はただ、とにかく早く逃げる事だけを考えていた。
「OK、全部回収した。車を出せ」
ジャッキーは返り血まみれのVが車に乗るとすぐにアクセル全開にしその場を離れた、幸いにも追手は来なかった。
「たく、お前には肝を冷やさればかりだぜ。というか、サンデヴィスタンを入れたのか?」
「ああ、ヴィクがツケでいいって言ってたからな!」
まるで新しい玩具を自慢する、クリスマスの子供の様な屈託のない笑顔をVは向けた。
ヴィクターはナイトシティーで1番頼りになるリパードクでもあり、しょっちゅうツケ払いに応じてくれる文句無しの聖人だ。
最初会った時はVの身体を気にして、大してインプラントを入れさせない様にしていたが、この猪突猛進ぶりを知ってからは打って変わり、積極的にインプラントを入れさせようとしている。
彼なりにVが死なないよう、出来る限りサポートをしているのだ。
(しっかし、あのお人好しめ。何度もツケ払いにしてちゃんと儲かってるんだろうな?)
ジャッキーの心配をよそにVはサンデヴィスタンの良さを説明する。やれ自分以外が遅くなるだとか、風になった気分になれるだとか。
そうこうしているうちに、2人は依頼主から報告があったカブキの裏路地の前にたどり着いた。
そこにはミリテクの車両と、首から上の無い死体が大量に転がっている。
「ミリテクのヤツら、自分たちでサイバーサイコを仕留めようとしたが返り討ちにあったんだな。ホントどうしょうもない連中だぜ」
「よっしゃ、さっそく行くぞ」
「おい!ちょっと待てよ」
まるでジョギングをするOLの様な足運びで走るVを慌てて追いかける、もういつ襲われても不思議ではないのだ。ジャッキーは頭を戦闘モードに切り替え、サタラを構える。
生け捕りにしては火力過多な感じはするが、何せ相手はサイバーサイコ、用心し過ぎるという事はないのだ。
やがて2人は開けた場所に出た。付近の給水タンクに穴が空いたらしく、頭上から水がドバドバ流れ地面には大きな水たまりが出来ている。
何とも神秘的な雰囲気となっており、デートスポットに向いているかとジャッキーは思った。
辺りに散らばっているミリテクの死体を片付ければの話だが。
「また殺し屋を送りやがったな!!テメェら全員背骨をぶっこ抜いてやる!!!」
突然ゴーグルを付けたボブヘアの女が、背後からジャッキーの首を掴んで来た。
その握力は本当に強く、冗談抜きで背骨を抜かれるのではないかと思うほどだ。
(不味い、やられる!)
その瞬間Vが目にも止まらぬ速さで女の頰を殴り付ける。そのあまりの威力に殴られた女は、テニスボールみたいに勢いよく吹っ飛んでいった。
「ジャッキー、大丈夫か?」
「何とかなあ、しっかしあの野郎姿が見えなかった。光学迷彩か何か付けてやがる」
ジャッキーは自分がいきなり首根っこを掴まれた理由は、相手が透明であったからだと理解していた。そうでなれけばいくらサイバーサイコが相手といえとも、自分がそこまで遅れをとる訳が無い。
「なるほど、なら俺にいいアイデアがある!」
(ぜってーロクなアイデアじゃねぇ!)
そんな事を思いながらも他に策の無いジャッキーはVを黙って見守る。するとVはカバンから20個程のフラググレネードを取り出した。
「おい!アイデアってそれかよ?俺達ごと吹き飛ぶぞ!」
「ゴキブリ相手ににバル◯ン炊くのと同じだよ!隠れてるヤツはこうやって燻り出すんだ!」
そう言い切ると同時にVは辺り一面に、グレネード打ち水の要領で投げまくる。大量にあったのにも関わらず、既に空になっていた。
「さあ!デカい花火を上げるぞ!」
「何してる伏せろ!!」
危機感の足りないVを伏せさせた次の瞬間、信じられないほどの大爆発が鳴り響いた。
「たく、こりゃあ生け捕りは無理だったか…」
半ば諦めた様子で語るジャッキーだが、その顔には後悔や悔しさはない。何せ一歩間違えれば死んでいたのかもしれないのだ。命があるだけ儲けものと考える他ない。
こんなところで倒れてしまっては、名を残すどころか伝説になる夢も全て潰えてしまうのだから。
「帰るぞ______」
「______痛えじゃあねえか!」
「「!!」」
(コイツ化け物か?)
女は生きていたのだ、身体中にはグレネードによって破片が突き刺ささり、皮下アーマーが吹き飛び中のインプラントが露出しながらも、彼女を取り巻く雰囲気は凍りつくような殺意に溢れていた。
「トドメだくらえ!」
「舐めるな!!!」
サンデヴィスタンで斬り掛かったVの刀を女は右手で受け止め、更に左手のマンティスブレードでその首筋を切り刻もうとする。
だがその左腕は吹き飛ばされた、サテラのフルチャージショットによって。
「させねぇ!」
ジャッキーは的確かつ冷静に、相棒にはかすり傷一つ付けずに女のの左腕を打ち抜いた。
一瞬、女はジャッキーに気を取られたがそれがいけなかった。背後に回り込んだVに首を絞められ、そのまま抜け出せなくなってしまったのだ。
「離せ!離せ!離せよ!アタシにこんな事してただで済むと思ってんのか!!!」
「うるせえ!!とっとと気絶しろお!」
最後は再び加速したVに、先ほどと同じところを殴られてノックアウトした。
装着していたゴーグルは砕かれ、歯が全部折れたものの命に別状はなさそうだ。
ターゲットが気絶したのを確認してから、ジャッキーは今回の依頼主にコールする
「レジーナ、仕事は無事完了した。ターゲットは生きてるよ。Vの右ストレートが効いたんだろうな」
レジーナ•ジョーンズ、彼女からサイバーサイコを治療出来るかもしれないから、生け捕りにしろと言われた時は正気を疑ったが、大怪我をする事もなく終わらせる事ができた。
更にジャッキーはレイジーナに、女の名前はモウワー中尉だという事。彼女が所持していたチップから、彼女はサイバーサイコを発症しかけ、自分が所属していたミリテクに助けを求めたが。ミリテクが送って来たのは医療チームではなく、殺し屋部隊であった事を事細かに説明した。
『いつもの事だけど、コーポのやり口には反吐が出るわ。散々汚れ仕事をさせておいてガタが来たら切り捨てる』
「全くだ、アイツら人を人と思っちゃいねーんだ」
『でも生きてさえいれば希望はあるわ。ありがとう、彼女はコッチで回収するから2人は帰って大丈夫よ。報酬は既に振り込み済み』
ジャッキーは口座を確認すると、言われた通りかなり潤っており思わず笑みが溢れてしまう。
「ああ、確認した。それじゃあな」
通話を終了したジャッキーはVを探すと、いつもの如くミリテク兵の死体から武器を回収していた。
「V、仕事は終わりだ、もう帰るぞ」
ニヤケ顔で死体漁りをするVの肩にジャッキーは触れる。今まで命の取り合いをしていたというのに、このマイペースさ。やはりコイツは大物になるなと再び確信した。
「そうだな。金になりそうなのは結構取ったし…帰るか」
2人は車に乗り家へと向かう。流石に行きと同じ様な活気はないが、仕事が無事完了した事の達成感に車内は包まれていた。
家まであと10分というところでVがボソリと呟く___
「___ありがとなジャッキー」
「どうしたんだよ?」
「あの時、ジャッキーがサタラを撃たなかったら俺も無事じゃ済まなかった。お前と組んで本当に良かったよ」
その素直な言葉に思いのほか照れてしまう。Vは良くも悪くも素直なのだ。素直過ぎるが故に嘘を付けず人を怒らせる事もあるが、それでもこの純粋さはナイトシティーには勿体ないなとジャッキーは思う。
「何言ってんだよチューマ、俺だってお前がいなけれゃあそこに転がってたミリテク共の一員になってたに違げーねぇ」
少し意地を張りながらもジャッキーも素直な言葉で答えた。
本当に自分は運がいいと思う。優しくて強い偉大な母、辛い時に自分を励ましてくれる天使みたいな彼女、ツケ払いをしてくれる聖人リパードクに最高の相棒。
ナイトシティーいや、アメリカ中を探しても自分以上に恵まれている人間はいないだろうとジャッキーは本気で思った。
「そっか、それと話変わるけどよ、明日って暇か?」
「暇だがそれがどうしたんだ?」
「なら明日一緒に買い物に行こうぜ、ミスティも連れて3人で」
ジャッキーは車を運転しながら、ここ最近の事を思い出す。ここのところは、武器か弾くらいしか買った記憶がない。休日くらいはまともな買い物をするべきだろう。
「勿論良いに決まってるだろチューマ、それじゃ早速ミスティに_____」
「______いたぞ!アイツが仲間を殺ったんだ!!」
突然車が1台、猛スピードで突っ込んできた。運転手の顔のクロームを見間違える訳がない、メイルストロームだ。
「クソ!さっき殺した奴らの敵討ちってわけか!?懲りねえ連中だな!」
「ジャッキースゲェぞ!鴨がネギ背負って来てくれたんだ、やっぱり良いことって続くんだな!!」
そのVは再び刀を手にサンデヴィスタンで駆け抜けていった。その後どうなったかは言うまでもない。
ただ1つ言えるのは、Vはこの後ヴィクターにツケを返しに行ったということだけだ。
オマケ 2人に頼んだ理由
レジーナ「久しぶりワカコ、腕の立つルーキーがいれば紹介して欲しいんだけど。有名な傭兵は別のフィクサーと専属契約をしたりしてるでしょ?紹介料は弾むから良かったら教えてちょうだい」
ワカコ「それやったらオススメはVとジャッキーやな。2人ともまだ駆け出しやが光るもんがある。特にVの腕はアフターライフの連中にも劣らん程や。
ギャングを見境無く襲う事から『ギャング•キラー』という異名で恐れられとる」
レジーナ「それって大丈夫なの?コッチの言う事聞かないんじゃ…」
ワカコ「それは問題ないで、相棒のジャッキーが良いストッパーになっとる。ホンマ、ええコンビやわ」
レジーナ「そう、ならVとジャッキーの2人に依頼してみるわ。ありがとうワカコ」