もしもVの知力が0. 1だったら   作:正拳突き

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夜ふかしはするもんじゃないわ


20 ハッピーバースデス

ウエストブルックのノースオーク、ナイトシティでは珍しい空気にゆとりのある一角だ。

季節の草花が手入れされた庭に揺れ、並ぶ豪邸のどれもが「勝ち組」という言葉をそのまま形にしたような佇まいだった。

 

その中でもひときわ存在感を放つのが、ナイトシティ議会の古株マイケル • フィリップスの邸宅だ。

緑の芝はホテルのラウンジの絨毯のように隙なく整備され、温水プールの水面はナイトシティでは珍しいほど澄んだ青をしている。

 

金と権力があれば出来ないことなど無い、そんな傲慢な事実を突きつけてくるような家だった。

 

その日、その豪邸ではフィリップス家の一人娘、エマの七歳の誕生日パーティーが開かれていた。

 

「エマ、お誕生日おめでとう!」

 

「パパ…ありがとう!」

 

エマは年相応の笑顔で、ケーキの上のロウソクをぱっと吹き消した。

揺れる火が消えると、周囲の灯りに照らされた彼女は、まるで小さなスターのようだった。

 

「このために日本から取り寄せた、100%天然素材のショートケーキだからな。美味しいぞ〜」

 

父が誇らしげに言うと、エマは目を丸くした。

 

「日本のって…そんな高級品食べていいの?」

 

「いいんだよ。来年からは華のキャンパスライフが待ってるんだから。その前祝いさ」

 

エマは七歳にして飛び級予定という、常識外れの才女だった。

知力ブースターで底上げされた脳と、英才教育用のBDプによる学習。それらは彼女の内側に、異常なほどの可能性を育てていた。

 

「いいか、エマ…努力は必ず実を結ぶんだ。この街には、環境が悪いだとか出来ない理由ばかり上げて自分を正当化する連中が沢山いるが…そいつらは全員、努力を怠ってきた怠け者だ」

 

父の言葉は力強く、そして少しだけ残酷だった。

 

「現に、パパは小さい頃から沢山勉強をして、沢山努力したからこんなに立派なお家に住めてるんだぞ!」

 

「パパ凄い!そんなパパの娘の私凄い!イコール私凄い!!」

 

「そうだぞ、エマはこれからどんどん偉くなっていくんだからな」

 

確かに努力をしてきたのだろう。

だが同時に、彼らには努力できる環境と資産があった。人は平等ではない、世の中の真実を理解するにはエマはまた幼すぎたのだ。

 

「ねえパパ、もうケーキ食べていい?」

 

「ああ、いいぞ。いっぱいお食べ」

 

エマがフォークを持ち上げた、その瞬間だった。

 

轟音とともに、邸宅の壁が内側へ弾け飛んだ。粉塵の中を、ボロボロの車がリビングに突っ込んでくる。

 

「な、なんだ?」

 

窓が割れ、窓辺の花瓶が落ちる。車からは二人の男が降りてきた。

 

ひとりは青髪のおかっぱ頭の青年。落ち着きのない視線で室内を見回している。

もうひとりは、刀を携えたチンピラにしか見えない男。

その軽やかな足取りは、ここが自分の家であるかのように自然だった。

 

「よお、マイケル • フィリップスだよな。殺しに来たぞ」

 

刀を抜いた瞬間、刃が照明を反射して鋭い光を散らす。

 

「な、なんだ貴様は!私は警備会社に加盟しているんだぞ、こんな派手な真似をして5分もすれば___」

 

「5分もあればお前を殺して逃げるなんて楽勝だろ」

 

男のその余裕綽々な態度に、思わず冷や汗が流れる。

刀が振り下ろされようとした、その時____

 

「やめて!!」

 

エマが父の前へ飛び出した。

震える小さな背中が、巨大な刃を遮るように広げられる。

 

「何やってるんだエマ、殺されるぞ!」

 

「パパに酷いことしないで!」

 

刀の男は、少し本気で戸惑ったように首をかしげた。

 

「えーでも俺コイツを殺すつもりでここに来たんだけどな」

 

「パパが殺されるようなことしたの!?」

 

「あ〜カツオ、コイツ何してたんだっけ?」

 

呼ばれた青髪の青年、カツオがタブレットを操作し、淡々と罪状を読み上げる。

 

「えーと、殺し屋を雇ってライバルの政治家を暗殺したり、孤児の人身売買、アラサカから多額の賄賂を貰ってます。あっ勿論、全部フィクサー経由で裏は取れてます」

 

「だそうだ」

 

刀の男が軽く肩をすくめる。

 

「そんな…パパ、嘘だよね? パパ!」

 

エマは必死に父が無罪である事を願うが返答はない、沈黙が答えだった。

彼女はその意味を理解しきれず、目を涙を潤ませる。

 

「という訳で殺しまーす」

 

「お願い、パパを殺さないで!悪いこと沢山したかもしれないけど、私のただ1人の家族なの!」

 

その声は震えていたが、必死だった。

刀の男は短く息を吐いた。

 

「マジで?母親は」

 

「ママは…昔、事故で…」

 

「そうか…というか、今日誕生日だったのか?」

 

男は周囲を見渡す、派手に飾られた部屋と、粉々になったケーキ。

その中で、小さな少女だけが必死に父を庇っている。

 

「うわ、このケーキまだ食えるな。食っていい?」

 

「え…う、うん」

 

「ありがとう。うわ…マジ美味いなこれ。やっぱり金持ちって食うものから違うんだな」

 

生クリームを指につけながら舐めている姿に、カツオが呆れた声を出す。

 

「Vさんやめて下さい。みっともないです」

 

「悪い悪い。でもそうか〜こんな小さい娘がいて、誕生日パーティーまでしてたのか…」

 

その顔に浮かんだのは、ほんの少しの迷いだった。

 

「よし、決めた。おいマイケル」

 

「は、はい!」

 

「お前が今すぐ荷物をまとめてナイトシティから逃げるんだったら殺さないでやるよ」

 

「Vさん待ってくださいよ、コイツは僕らの顔を見たんですよ!生かしてはおけません」

 

「細かいことは気にするなよ〜。それに俺はホルトを殺してとっくにNCPDに目をつけられてんだ。今更変わらないだろ」

 

Vはエマの方へ向き直り、小さな頭をそっと撫でた。

 

「それに…どんなクズでも子供には親が必要だ」

 

少女は涙をこらえたまま、強く頷いた。

 

「さっきパパを守ろうとしたの、すげぇカッコよかったぞ。これからもパパを助けてやるんだ、いいな?」

 

「…うん」

 

「よし、マイケル。お前、40秒以内にここから出ていけ!」

 

「は、はい!」

 

マイケルは震える手でエマを抱き寄せ、愛車へと駆け込んだ。カリバーンのエンジンが唸り、車体は夜の闇へ消えていく。

 

背後では、かつて豪邸と呼ばれた建物が炎の音を立てて崩れ始めていた。

ナイトシティは今日も理不尽だ、そしてその理不尽がたまだま上流階級の人間に降りかかった、それだけである。

 

 

マイケルの家を燃やしたあと、車を運転していたカツオは、ハンドルを握りながらVにキレ気味でツッコミを入れる。

 

「あんな奴生かしたって改心なんてしませんよ、ホント」

 

「別にいいだろ、この街から1つゴミが消えたんだから」

 

Vは能天気に二コーラを飲みながら答える。Vはこれまで、レリックによる自信の精神の抹消を防ぐ為に必死になって行動をした。

 

しかし、自分たちにレリックの強奪を依頼したエヴリンは幼児退行し、開発者のアンダース • ヘルマンを誘拐したものの、進展はなし。

 

完全に八方塞がりである。

 

仕方がないので、彼はフィクサーからの依頼をこなし、その金で新しいクロームを入れたり、ドライブスルー感覚でギャングの拠点を襲撃したり、マイケルの様な汚職政治家を刀のサビにしていた。

 

「ホント、あなたのやる事は予想出来ませんよ」

 

「そりゃあ、俺は伝説になる男だから。普通じゃ伝説になれないだろ?」

 

『よく言うぜ、このままじゃ近い内に死ぬっていうのによ』

 

後部座席でジョニーが、半ば呆れたように言う。

ここ最近はカツオがVの介護までしているので、やることの減ったジョニーは暇を見つけては、こうして絡んでくる。

 

Vからすれば話し相手が増えるのは嬉しい事たが、誰もいない所に話しかける彼を隣で見るカツオからすれば、周りから自分まで変質者に思われるので、心底辞めてほしいと思っていた。

 

そのとき、カツオの両目がふっと青い光を帯びた。

ホロコールが始まった合図だ。

 

「あーもしもし、えっ本当ですか?ちょっと待って下さい」

 

「カツオ、今の電話誰だ?」

 

「N54チャンネルです。Vさんを番組に呼びたいらしくて… 巷で噂になってるギャング狩りの、独占インタビューがしたいって話ですよ。」  

 

「なんでお前に電話が来るんだよ」

 

「ああ、それは死んだパパのコネですよ。あの人、N54の重役と仲がよくて。向こうもまだ僕の名前を憶えてくれたそうで、ちょくちょく話してたんです」

 

「なるほどな。便利な親だったんだな」

 

「だったって言い方やめてくださいよ…」

 

カツオは軽く眉を寄せたが、すぐに気持ちを切り替えた。

 

「あーでもいくら表向きはNCPDに追われてないとはいえ、流石にテレビ出たりはしないですよね」

 

「大丈夫だろ、今の俺はあれからだいぶ強くなったし、仮にマックスタックが来ても次は全員あの世送りだって」

 

「その自信はどこから来るんですか…」

 

『バカは死ななきゃ治らねぇんだよ、つまりコイツは一生バカって訳だ』

 

ジョニーが後部座席でため息混じりに吐き捨てると、カツオは苦笑いを浮かべつつ尋ねた。

 

「それで、いつテレビに出ましょうか?」

 

「明日だ」

 

「明日!?流石に無理ですって」

 

「なら、この話は終わりだな」

 

Vの声が一瞬だけ沈む。その気配にカツオは思わず言葉を止めた。

 

「俺には時間がないんだよ。いつまでも遊んでられる訳ないだろ?」

 

「散々ギャングだ政治家を襲ってる奴が何言ってんだよ…」

 

カツオは聞こえないほど小さくつぶやき、再びホロコールへ意識を戻す。

 

「え〜とすいません。本人が明日しかダメだと言ってまして……

はい、はい……え!? 本当ですか? ありがとうございます!」

 

光が消え、カツオの瞳が通常の色に戻る。

 

「いけたか?」

 

「Vさんいけましたよ、明日の夜8時からジギーqの番組に出れるそうです!」

 

「ジギーってあのジギーか?」

 

「そのジギーですよ!」

 

「うわ、マジか…明日何着ていこうかな」

 

その瞬間、カツオの目が輝き、長い前髪がふわりと揺れた。

まるで風が吹いたかのように、さらさらの髪が肩の上で軽やかにたなびく。

 

「Vさんの服のセンスじゃ恥かきますよ、ここは上級市民の僕がコーディネートして差し上げますよ!」

 

『元、上級市民だろうが』

 

「お前…俺への態度、最近適当になってきてないか?」

 

「そんなことありませんって、そうと決めたら早速ナイトシティのオシャレ自慢の聖地、神宮寺へ行きますよ!」

 

能天気に盛り上がる二人の横で、ジョニーはひとり渋い顔をしていた。

 

この時誰も気づいていなかった。この軽いノリで決まったテレビ出演が、停滞していた運命を大きく動かすことになるなんて。




オマケ : 普通に人権侵害

ジョニー(テレビ)『テレビの前のお前ら!俺だ、ジョニー • シルヴァーハンドだ。今日はお前らにクリスタルパレスの魅力を教えてやる』

ジョニー『クソッなんだこの番組は』

V「お前いつの間にテレビに出てたんだ?」

ジョニー『お前にしか見えない俺がどうやってテレビに出るっていうんだよ!』

カツオ「それAIですよ」

V「AI?」

カツオ「最近、また流行ってるみたいですね〜AIで死人を復活させてCMを作るの。この前なんかマルクスが新ソ連の宣伝をしてましたよ」

ジョニー『V…今すぐ身体を貸せ、これを作った奴に挨拶をしにいく』 ぷるぷる

V「うーん、今日は暑いからやめとく」

ジョニー(テレビ)『クリスタルパレスのここが凄い』
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