ジギーq「大丈夫、ナイトシティにコンプライアンスなんてないから。何かあってもそこは私が責任を取るよ」
カツオ「僕は忠告しましたからね…」
スタジオの照明が温かく広がり、セットのネオンが静かに瞬いていた。
観客のざわめきが収まると同時に、ジギーqが金色のスーツを輝かせて立ち上がる。
「ナイトシティのみなさん、こんばんわ〜今夜のゲストは現在、ギャング狩りとして街中のギャングを恐怖のドン底に叩き落としたこの男、Vくんだ!」
観客席が一気に盛り上がり、その熱を押し返すように黒いタキシードを着込んだVがステージに入ってきた。
天然シルクの生地が照明を受けて静かに光り、黒が深く沈み込むように舞台に馴染む。
「どうも」
短い挨拶にも関わらず、照明の下で彼の姿はやけに目立った。
「そのスーツ、バッチリ決まってんね!」
「ありがとう。神宮寺まで行って買ったんだよな。結構高かったよ」
ジギーが「ああ〜なるほど」とでも言うように大きくうなずき、観客席からも軽い笑いが起こる。
ライトがVの肩に落ち、舞台の空気が静かに波打つように揺れる。
軽く言葉を交わす間にも、観客席の熱は途切れる事なく一定のリズムを刻んでいた。
「それじゃあ早速質問なんだけど_______」
『これがテレビの収録か? 俺は公開処刑にしか見えないがな』
ジギーの明るい声とは対照的に、Vの背後に立つ影はひたすらに無言だ。
カメラの死角に、5人のマックスタック隊員が配置されている。その銃口は常にVの頭を向いており、まるで殺意を隠すつもりがなかった。
NCPDからすれば、自分たちの顔に泥を塗ったVを今すぐにでも処理したいというのが本音だろう。
だが、彼は公式にはすでに死亡扱いになっている以上、公然と手を下すことはできない。
だからこそ、こうした場が利用される。
Vがカメラの前でほんの少しでも不自然な動きを見せれば、サイバーサイコシスと断じて即座に蜂の巣にするつもりなのだ。その冷たい視線が、照明の熱をすり抜けて背中に張り付いていた。
「ねえ、聞いてるVくん?」
「悪い、ぼーっとしてた」
「そう、ならもう一度聞くんだけどさ。ズバリ!君はどうしてギャングを襲うんだい?」
「金になるからな。アイツ等から武器とかクロームとかを剥ぎ取って売っぱらうと、結構いい金になるんだ」
Vが軽く腕を上げると、ゴリラアームが照明を反射し金属光沢を放つ。
「その金で新しいクロームを買って、またギャングを狩る。その金でまたクロームを_____」
「そりゃあまるで永久機関じゃないか! 凄いね君。そんなことしてさ、ギャングからの報復とか怖くないわけ?」
「いや全然。むしろ向こうから来てくれる方が探す手間が省けてラッキーだよな」
強気すぎる答えに観客席がどっと湧き、笑いと歓声が混ざり合った熱が一気にスタジオへ広がる。
「皆さん、聞きましたか! まさしく彼は極悪非道なギャングと戦う、弱者のヒーローなのです!!」
『何がヒーローだ、ただの暴力装置だろ』
ジョニーの声が耳の奥に響き、Vはほんのわずかに表情を動かした。幸いにもその微細な変化は観客には届かず、ただ舞台の空気だけが静まる。
「ちなみにだけどさ、今クロームはどんなの入れてんの?」
「えっと…チタン骨に反射神経チューナーと、アホロートルにゴリラアームと強化腱に…あとはサンデヴィスタンと…自分でもよく分からないな」
「フッ、アハハハハハ!」
ジギーは椅子を揺らすほど腹を抱えて笑い出し、その笑いにつられて観客席も大きくどよめいた。
スタジオの照明が少し揺れ、影が壁の上を踊る。
「それは凄いね。そんなに入れてサイバーサイコとかなったりとかしないんだ?」
「ああ、今んところは大丈夫だ」
Vは淡々と答えるが、その落ち着きが逆に観客の興味を刺激している。ざわつきが再び大きくなり、熱が上へ上へと押し寄せる。
「是非とも、これからも私たち良き市民の味方であって欲しいよ。それと知ってる?」
「なにがだ?」
「最近、自首する犯罪者が激増したんだ」
「それと俺に関係あるか?」
「勿論! 自首した奴らはみんな口を揃えて言うんだ。“ギャング狩りに殺されるくらいなら刑務所の方がマシだ”ってね!」
「へぇー」
Vの気のない返事とは裏腹に、観客席は「おお…」とざわめきの色を変える。
ジギーはその反応を拾いながら、さらに話を広げていく。
「悪人が減ったお陰で、犯罪件数は前月から9%も下がってさ、これってこの街が始まって以来の快挙だよ」
観客が感嘆の声をあげる中、Vはもう飽きてきたような表情で椅子から腰を上げた。
「そういうこともあるんだな。じゃあ俺はもう帰っていいか?」
立ち去ろうとするVの背中に、ジギーが慌てて手を伸ばす。
「ちょっと勝手に帰んないでよ、まだ尺は余ってるからさ」
「いや、さっきからスーツがケツに食い込んでさ…」
ステージの空気が僅かに止まり次の瞬間、観客たちが爆発するように笑い声を上げた。照明がわずかに揺れ、Vのタキシードの黒がまた深く輝く。
「そうかそうか。じゃあ最後に、自分が人と変わってるところって何だと思う?」
Vは一度視線を少しだけ上げ短く息を吸う、そして迷いのない声音で答えた、否答えてしまった。
「やっぱり頭の中にジョニーがいることだろうな」
「ジョニーって?」
ジギーが困惑したように首を傾げる。
観客も、今の発言が冗談なのか本気なのか判断できず、ざわつきがか細く揺れた。
「ジョニー • シルヴァーハンドだよ。昔アラサカタワーを吹き飛ばした」
「まぁ…うん、有名人だけど……彼がどうしたの?」
照明がわずかに色を変える。
ジギーの顔に落ちた影が、妙に硬く見えるのは気のせいではない。
「だからジョニーが俺の頭の中にいて、姿も見えるし話すことも出来るんだよ」
「はっ……えっ? いきなり何言い出してんの??」
ジギーの笑顔がぐにゃりと歪み、ひきつるように崩れた。
その動揺は観客にも伝播し、ざわめきが一瞬で吸い込まれるように消え失せる。
舞台全体が、照明の機械音だけを残して静まり返った。
さっきまでの熱気が急速に退き、観客の誰もが息を飲んで固まっている。まるでスタジオの酸素が急に薄くなったような、息苦しい沈黙だった。
この街でジョニー • シルヴァーハンドの亡霊が頭にいるなどと言い出す人間は、冗談で済む範囲を軽々と越えているのだ。
誰も笑わず、誰も動かない。ただ全員が頭のおかしい人間を見る目でVを見ていた。
『おいV! 葬式みたいな空気になってんぞ!』
「ヤバい、どうしよジョニー?」
『俺に聞くな! とにかく嘘だとかなんとか言って誤魔化せ!』
Vは必死に言い訳を考えるが、脳が焦りで空回りし舌が喉に張り付くほどに乾いていく。
「え〜と、今誰と話してんの?」
ジギーの声は震え、微かな恐れが混じっていた。
ジョニーの存在を知らない彼らにとって、Vの言動は紛れもなく“サイバーサイコの兆候”にしか見えない。
マックスタックの隊員たちが姿勢を低くし、銃の引き金に指をかける。次に発する言葉で次第では、大惨事になってもおかしくない。
その緊迫の中で、Vの脳裏にひらめきが走った。
「そうだ! ギターだよ。ジョニーってめちゃくちゃギターが上手かったんだろ?」
「SAMURAIだね。確かに50年前は一世を風靡したって聞いたけど、それがどうしたんだい?」
「ギターを弾けば俺の中にジョニーがいるって分かるだろ。ジギー、何でもいいからギター持ってきてくれ!」
叫ぶ様な声、冗談とは思えない本気の態度に圧倒されたジギーはスタッフへと指で合図を送る。
「まぁ……それなら余ってるのがあると思うけど」
『勝手に決めやがって! 俺はギターを弾くなんて一言も言ってないぞ!』
ジョニーの怒鳴り声がVの頭の内側で響き、思考の端を乱暴に揺らした。
「んなこと言ったって他に思い付かなかったんだよ!」
ほどなくして、舞台袖からスタッフがギターを抱えて駆けてきた。
大急ぎで持ってきたのは、合成樹木で作られた安い量産品。ボディは薄く質感も粗い。しかしそれでも無いよりは遥かにマシだ。
「よし、今ジョニーに変わるから、ちょっと待ってくれ」
Vは鞄から疑似エンドドライジンを取り出し、一気に飲み干すと身体の主導権をジョニーに譲った。
「頼むぞジョニー。俺が嘘つきじゃないって証明してくれ」
『……クッソ、やるしかないようだな』
その声が響いた瞬間、Vの意識は深い闇に落ちていった。数秒後、Vの身体がゆっくりと姿勢を変える。
その瞳が獣のように鋭く光った。
「V? V?……なるほど。俺が出ている間、お前は眠り姫ってわけか」
「あーえっと……Vくんなんか雰囲気変わったね。今飲んだのってハイになるお薬?」
「お前が知る必要はない。よこせ」
ジョニーは低く短く言い放つと、スタッフの手からギターを乱暴に奪い取った。
その動作には、長年ステージで暴れ回ってきたロッカーボーイ特有の荒々しさが滲む。
ギターのボディに照明が反射し、その影がステージ中央で鋭く伸びる。
ジョニーは慣れた手つきでチューニングをしていく。その指先は迷いがなく、まるで50年という空白など存在しないかのようだった。
観客席は息を呑み、ジギーもマックスタックさえも動けずに見守る。
そし次の瞬間、ジョニーは弦に指を走らせた。
それだけでスタジオの空気が一変した。
伝説のロッカーボーイ。反逆に生き、命を燃やし、そして散った男。その魂が50年ぶりにこの世界へ戻ってきたのだ。
音は鋭く荒々しく、それでいて妙に温かい。
企業の金で飾り立てられた今の音楽とはまるで違う。ジョニー・シルヴァーハンドそのものの音だった。
ギターの弦が震えるたび、金属的な響きと、獣のような熱が混ざり合って空気に流れ込んでいく。音が刃のように舞台を切り裂き、観客の胸へとまっすぐ突き刺さる。
ジギーqでさえ、椅子の上で硬直した。
口元を両手で覆い、信じられないものでも見ているかのように目を見開く。
普段どれだけ饒舌でも、こういう時だけは黙るらしい。
観客席同じだった、誰1人として声を発さない。拍手も歓声もなく、ただ圧倒的な沈黙だけがスタジオ全体を支配していた。
2分か、3分か。時間の流れがゆっくりと歪み、まるで世界から色が抜け落ち、音だけが存在しているような不思議な感覚に包まれる。
そして、ジョニーの指がふっと止まった。ギターが床に置かれる乾いた音だけが響いた。
「……と言うわけだ。じゃあ俺はここで御暇させてもらう。Vの野郎……一つ貸しだからな」
ジョニーはそれだけ言うと遮断薬を飲み、身体を本来の持ち主へと戻した。
「あーえっと……俺、今ギター弾いたよな?」
何が起きたのか分かっていない顔。観客の沈黙と、ジョニーが残した余熱がまだ空気に漂っている。
その静寂を破ったのはジギーだった。
「ブラボー! ブラボーブラボー!!」
椅子を蹴り飛ばす勢いで立ち上がったジギーが叫び、観客が総立ちで拍手を送った。
Vは状況を理解できず、ただ目を瞬かせる。
「え? なんだよ急に」
「正直に言わせてもらうと、最初は“何適当なこと言ってんだこのサイバーサイコ野郎”って思ったよ」
「酷いなアンタ」
「でも今の演奏を聴いて完全に理解したよ。君は本物だ! 本物のスターだ!」
ジギーが両手を大きくVの字に掲げると、観客席はさらに大きな歓声で応えた。
「しっかし面白いねそのキャラ……私も真似していい?」
「まぁ別にいいけど」
笑い混じりのやり取りに、観客席からまたどっと笑いが起こる。さっきまで凍りついていた空気が嘘のように、スタジオは温かい熱に包まれていた。
こうしてVのテレビ出演は想像以上の成功を収めた。とりわけ演奏シーンはその日のうちに切り抜かれ、ネットにアップされた動画は瞬く間に100万回以上再生されたのだった。
今までギャング狩りとして、裏社会でしか噂されていなかったVの名前が初めて、ごく一般的な世界にまで届いた瞬間だった。
オマケ : スーツは苦手だ
神宮寺にて
カツオ「久しぶりだねゼイン」
ゼイン「これはこれはカツオお坊ちゃんじゃありませんか!再び当店に来ていただけるのを、首を長くしてお待ちしておりましたよ」
カツオ「アハハ、ここ最近けっこう忙しかったからさ」
ゼイン「左様ですか…ところで、お連れのお方は初めてのようですが?」
V「Vだ、よろしく」
カツオ「この人はなんていうか、まあ僕が今お世話になってる人で…彼が明日の夜ジギーqの番組に出るから、恥ずかしくない格好にして欲しいんだよ」
ゼイン「なるほど、そういう事でしたらとっておきがあります!コチラのタキシードなど如何でしょうか?」
V「うーん、ちょっと地味じゃないか」
ゼイン「最近はこの様なクラシックな様式が見直されております、コレを着ていればパーティーにお呼ばれされても皆様の注目の的ですよ!」
V「俺はもっと明るい色の方が____」
カツオ「じゃあそれもらうよ、Vさんは素人なんだから黙ってて下さい」
V「いや、コレ着るの俺なんだけど」
ゼイン「ありがとうございます!お会計6万5千エディーとなります」
V「ろ、6万!?嘘だろ、車が買えるじゃないか!」
ゼイン「こちらは上下共に、天然のウールやシルク素材ですので、その分値は張りますが、間違いなくお値段以上だと自負しております!」
V「じゃあ…コレ、買うよ」
ゼイン「お買い上げありがとうございます。では早速記念撮影といきましょう」
カツオ「Vさん〜コッチ見てください!」
【挿絵表示】
V「コレが6万か…」
ジョニー「全然似合ってねぇな、こういうのを服に着られてるって言うんだぜ」
V「お前そういうこと言うなよ…ホント凹むから」