「おい、出てきたぞ!」
「よし、あの野郎を囲んで穴だらけにしてやれ!」
「いや待て…殺す前にまずは俺たちの顔を見せておかないとな。誰の弔い合戦かも知らせずに殺しちまったら、死んだチューマたちが浮かばれない」
テレビ局の玄関から出てきたVを、路地に潜んでいたギャングたちが一斉に取り囲む。照明とカメラに照らされていたスタジオの中とは違い、外の空気は一気に不穏なものへと変わった。
「おいコラ、V。テメェ、テレビ出演とは随分と呑気だな」
「…弟の敵なんだ…弟の敵なんだよ、あいつが……」
人垣の中で、タトゥーだらけの男が歯を食いしばりながら涙をこぼしていた。その肩を、隣の仲間が気まずそうに叩く
「落ち着けよ。泣くのは殺してからにしろ」
「うるせぇ…! 弟はな…ただ、ちょっと調子こいただけで……!」
「誰だお前ら?」
『……30……いや、40人近くはいるぞ』
頭の中でジョニーがうんざりしたように数を数える。
「ここにいる全員、お前にチューマを殺されてんだよ」
先頭の男が、怒りで顔を歪めながら言い放つ。
「だからどうしたんだよ?」
Vは肩をすくめるだけだ。その態度が、さらに男たちの神経を逆なでする。
「偉そうに出来るのも今のうちだけだ。テレビに出る時は武器は持てねぇ。つまり今のお前は丸腰だ」
男たちは、Vに見せつけるように一斉に銃を構えた。
拳銃、ショットガン、サブマシンガン。安物のクロームとバラバラの装備だが、数だけは揃っている。
「死ぬ前に、俺たちの兄弟に詫びをいれろ。そうすりゃ楽に死なせてやるよ」
「ハハハハハハ!」
「なんだ……」
「とうとうおかしくなったのか……?」
Vは腹を抱えて笑っていた。まるで、酒場でくだらないジョークでも聞かされたかのように。
「お前ら、なに勘違いしてるんだよ。素手の俺になら勝てると思ってんのか?」
「違うとでも?」
「俺の身体そのものが武器なんだよ。刀や銃を持てば更に強くなれるが…お前らみたいな雑魚相手には、これで十分だ」
「いい気になってんじゃねぇよ!!」
先頭の男が叫び、ハンドガンの引き金に指をかけた、だが遅すぎたのだ。
男が発砲するより早く、Vの拳が彼の右腕に叩き込まれる。
骨格を覆う肉ごと砕かれた右腕は、グシャリと嫌な音を立てながら、曲がってはいけない方向へと折れ曲がった。
「ぎゃああああっ…! クッソぉ! 殺れ! このクズを殺せ!!」
それを合図に、Vを取り囲んでいた連中が一斉に引き金を引く。だが、銃口が火を噴くほんの前には、Vはすでに次の男の懐に潜り込んでいた。
「それに武器ならここにいくらでも転がってるからな」
「え?」
Vは隣にいた男の頭を鷲掴みにする。次の瞬間には、その身体をブン回し、周りの仲間たちに向けて勢いよく叩きつけた。
皮下アーマー同士がぶつかり合い、鈍い衝撃音と共に火花が散る。
彼らの致命的な誤算は、「仲間を大勢連れてくれば、数の暴力で押し切れる」と勘違いしたことだ。
たとえばアリが百匹集まったところで、アフリカ象にだって敵わないように、世の中には決して覆らない格差というものが存在する。
「オラッ! オラッ! おらぁあああ!!」
Vはそのまま、その男を打撃武器として振り回し続ける。
リーチは長くて頑丈で、その上敵は仲間を撃つことを躊躇う。なんと効率的な「武器」だろうか。
しかし、いくらなんでも乱暴に扱い過ぎたのだろう。とうとう「武器」は原型をなくし、顔だけになってしまった。
こうなってしまえば、リーチは素手と大して変わらない。最後はその頭を投擲武器として敵に投げつける。
卵の殻が割れるような嫌な音と共に、誰かの悲鳴が辺りに響いた。
だが、敵もやられっぱなしではない。
仲間の破片が飛び散るのを見て、ついに恐慌状態になった一人が、乗ってきた車を急発進させ、Vめがけて突っ込んでくる。
「うおおおお! 死ねえええ!!」
咄嗟にVはジャンプし、ボンネットに乗り上げる。衝撃を殺したことで致命傷は避けたが、その直後に車は横の壁に激突。
爆音と共に車体が止まり、Vと敵の本隊との距離は一気に開いた。
運転席の女がショットガンを引き寄せて構えようとする。
「この化け物が……!」
だが、それよりも速く、フロントガラスごとVの拳が彼女の顔面を打ち抜いた。
厚いガラスが砕け散り、女の頭部に直撃する。
女は死にはしなかったものの、パンチの衝撃で両目が飛び出し、ヨダレを垂らしながらぐったりと気絶した。
「いいか、あの化け物には近づくな! 遠距離からジワジワ削るんだ!!」
Vの戦闘力をようやく正しく理解したらしい男たちは、それからは一切の慢心を捨て、数十メートル離れた位置から絶え間なく弾丸の雨を降らせてくる。
さすがの弾幕に、Vといえども車の陰から離れることができない。
「あ、ちょっと待て! 俺のスーツに穴あいてるんだけど!」
『んなこと気にしてる場合か!』
「いやだって、これクソ高かったんだぞ!」
Vがスーツの袖をつまんで文句を言っている間にも、弾丸は車体を削り続ける。だが逆転の一手というのは、諦めなかった者の前にだけ転がり込んでくるものだ。
Vをいつまでも仕留められないことに痺れを切らした一人が、ついにグレネードを取り出したのだ。
フラググレネードのピンが抜かれる、あの独特の金属音。聴力強化のインプラントで研ぎ澄まされたVの耳が、その小さな音を確かに捉えた。
すかさず音のした方向へ向けて、車内に転がっていたハンドガン、レキシントンを発砲する。
放たれた弾丸は、まさにグレネードを投げようとしていた男の胸を正確に撃ち抜いた。
「がはっ…!」
男が前のめりに倒れ込むのと同時に、ピンの抜けたグレネードが、彼の手から滑り落ちて地面を転がる。
数秒後、夜空を裂くような大爆発と共に、近くにいた五人の男がまとめて吹き飛んだ。
元々、武装しているだけでほぼ素人同然の集団ではあったが、この爆発で連携は完全に崩壊した。
さっきまで無差別に乱射していた連中も、ほんの数秒だけ爆発音のした方向に注意を奪われ、銃を撃つ手を止める。
その数秒が命取りになるとも知らずに。
Vは、強化腱による二段ジャンプと空中ダッシュで一気に距離を詰めると、最も近くにいた筋肉質で大柄な男の身体を掴み、そのまま周囲に向かって投げ飛ばした。
まるでボーリングのピンのように、ぶつかった敵が次々と倒れていく。
「このイカレサイコが!!」
連中の中で1番身体の細い、薬中にしか見えない男が、両腕からマンティスブレードを展開しVへと斬りかかる。
だが、こと刃物に関しては、Vのほうが何枚も上手だった。
単調で読みやすい軌道の攻撃を、Vは上半身を反らせるだけで躱す。足は一歩も動かない、その場で軽く身体をずらすだけで、刃は紙一重で空を切った。
そして次の瞬間には、Vのゴリラアームが男の両腕の付け根をがっちりと掴んでいた。
「いやー、やっぱり刀のほうが俺に合ってるからな」
「な、何言って……?」
意味を理解する暇もない。Vはそのまま尋常ではない怪力で、マンティスブレードごと男の両腕を引き千切った。
肉と金属が裂ける音が響き、男は声にならない悲鳴をあげながら、自身の血と小便にまみれて気絶する。
「マンティスブレード二刀流!」
Vは引き千切った腕をそのまま掴み直し、文字通りカマキリのように構えると、残った敵へ向かって突撃した。
鬼に金棒、Vに刃物と言うべきか。
その攻撃は圧倒的で、彼らは成すすべもなく斬り刻まれていく。気づけばあれだけいた敵のうち、まともに戦えそうなのはもう3人程度しか残っていなかった。
「こ、降参します……ホント……ゆ、許して下さい……!」
その情けない言葉を皮切りに、残った全員が一斉に地面に額を擦りつける。
すでに仲間のほとんどが倒されたこの状況で、さらに歯向かう気力など彼らには残されていない。
「おっ、そうか。俺はまだまだ全然イケるぞ」
「これ以上は無理です! 死んでしまいます!」
『集団でリンチしようとして返り討ちとは、情けねえ連中だな』
ジョニーが、呆れを通り越して半ば同情した様に呟く。
「まあ別にいいけどよ。今ので何人死んだんだ?」
「く、詳しくは分かりませんが……半分近くは……」
「半分!? マジかよ。これでも殺さないように手加減したんだぜ!」
「はあ……」
(手加減してくれてたのか…)
もはや、誰も突っ込む気力すら残っていなかった。
「あのぅ、俺たち2度とV様に歯向かったりしませんから! だから…どうか、命だけは…」
「いや、別に何度でも俺を殺しに来ていいぞ」
「「「え?」」」
「もっと仲間をたくさん連れて、もっと強いクロームと武器を持ってリベンジに来い。そうすれば______」
Vは、今日一番の悪魔的な笑みを浮かべた。
「お前らの武器やらクロームを剥ぎ取れば、更に金になるからな」
「「「あああ……ああ……」」」
誰も言葉を発せられない。
この男にとって、自分たちの命など最初からどうでもよかったのだ。
あまりにも狂気じみたその提案に、彼らは心の中で一斉に叫ぶ。
(この野郎……いくらなんでもイカれ過ぎだろ……)
(警察はなんでこんなのを野放しにしてるんだよ!)
(こんなサイコバカに構っても、良いことなんて1つもないわ!)
「そういうことだ。はい、解散」
「「「うわああああ!!」」」
生き残ったギャング達は蜘蛛の子を散らす様に逃げていった。Vはそんな彼らの様子など、気に求めずに戦利品を回収していく。
通りには、さっきまでの激しい戦闘の匂いがまだ残っていた。焦げた金属の臭いと、壊れたクロームの火花の残り香。
そんな中で、戦場の空気とはまるで真逆の、妙にのんきな声が飛んできた。
「Vさ〜ん!」
声の方を見ると、カツオが嬉しそうに手を振りながら駆けてくる。この場所が死体だらけの惨状だという事実を、完全に忘れているかのようだった。
「カツオか、どうした?」
「どうしたじゃありませんよ! さっきの番組、大盛りあがりだったんですよ!僕、N54チャンネルのお偉いさんから、お礼言われちゃいました!」
カツオは胸を張って誇らしげに笑った。自分のおかげで視聴率が取れたとでも勘違いしていそうな勢いだ。
しかしその直後、まるでタイミングを合わせたかのように、黒い影がカツオに猛突進をしてきた。
「だっひゃああああ!」
鈍い衝撃音、カツオの身体が有無を言わさず横に吹き飛ぶ。黒いカリバーンが、まるで獲物を狩る肉食獣のようにスリップしながら停止した。
カツオは空中で半回転し、地面に叩きつけられて転がっていく。
「か、カツオぉ!!」
『よそ見しやがって、馬鹿が』
カツオは痛みより怒りが先に来たらしく、地面に手をつきながら顔を真っ赤にして叫ぶ。
「どこ見て運転してんだよコラ!!チタン骨入れてなかったら折れてたからな!!」
その怒鳴り声に反応するように、カリバーンのドアがわずかに開いた。細い隙間から、落ち着き払った女の声が返ってくる。
「そりゃあ悪かったね。治療費と慰謝料はアフターライフに請求しな」
たったそれだけで、カツオの顔から血の気が引いた。
「あ…あなたは……」
「ローグ!」
『ローグ!』
「ローグさん……!」
名前が口にされた瞬間、カツオの態度は破裂音みたいな速さでひっくり返った。ついさっきまで怒鳴っていたのが嘘のように、地面に額をこすりつける勢いで土下座する。
「いやあ〜コチラこそよそ見しててホントすみませんでした〜!
僕が悪いんですよホント、気にしないで下さい!」
そして、とても人間としての尊厳が残っているとは思えない速度で、ローグの靴を舐め始めた。
『カツオの野郎、マジで権力に弱いな』
ローグは特に表情を変えず、軽くため息をついただけだった。ナイトシティを生き抜いてきた彼女にとって、こういう人間は珍しくないのだろう。
「V、さっきアンタがテレビでやった演奏は、アタシの知る限りじゃ世界でたった1人しか出来ないんだよ。それをどうして…」
言葉を区切るように、ローグはVへと近づく。彼女はどうしてもVに尋ねなくてはいけない事があったのだ。
「それで一体なんの御用で________ダゴズ!」
またしても横から衝撃。カツオの身体が再び宙へ舞い、地面に叩きつけられる。
今度の車は、眩い銀色のボディを持つエアロンダイト。ナイトシティ住民の平均生涯賃金の52倍とも言われる超高級車だ。
「か、カツオぉ!!」
『おいおい、嘘だろ。1日に2度も轢かれやがったぞ、マジでついてねーな!』
カツオは全身傷だらけになりながらも、その口はその舌は饒舌に動かし続ける。
「テメェこの野郎!こんなクソ高い車乗り回してるクセに、まともな運転手雇う金もねぇか!あああん!?」
怒鳴り声は、路地に残った火薬の匂いを揺らすほどだ。
だが、運転席から降りてきたその人物を見た時、カツオの怒声は喉の奥でひっかかったように止まる。
「本当に悪い…言い訳でしかないが急いでたんだ…金なら払う…その、本当に…悪かった」
「あ、あなたは…」
白金の髪、肩に落ちるタトゥー、黄金色のアクセサリー。薄暗がりの中でもひときわ目立つ存在感。
「ケリー • ユーロダイン!」
『ケリー!』
「ケリーじゃない!」
彼こそナイトシティ、いや世界的ロッカーケリー • ユーロダインその人であった。
「…コイツ誰だよ」
カツオは自分を引いた相手が誰かを理解すると、ローグの時より速く、土下座する勢いで地面に倒れ込み。ケリーの足元へ滑り込むと、彼の靴も舐め始めた。
「いやぁ〜ケリー様とは気付かずホントご無礼を働きました〜僕カツオ • タナカと申しますぅ!どうぞお見知り置きを!!」
カツオはケリーの靴をローグの時よりも、激しくそしてなおかつ丁寧に舐める。
「カツオ…お前、それでいいのか?」
『いかに落ちぶれようとも、頭ん中にまで溜まったコーポの糞は取れねぇみたいだな』
Vの1言、その一言が決定打になった。カツオの舌がピタリと止まり、ケリーの視線がギロッと横に流れVを射抜く。
次の瞬間、ケリーはカツオを無視してVに掴みかかった。
「おい、テメェこの野郎!」
「なんだよいきなり!」
「なんだよはコッチの台詞だ!ジョニー…テメェ今までどこほっつき歩いてたんだ!」
「いや、俺ジョニーじゃなくてVだし」
「んな2秒で分かる嘘をつくんじゃねぇ!俺はお前の演奏を1番近くから聞いてたんだ…その俺がお前をジョニーだと言えばお前はジョニーなんだよ!」
「お前言ってることが滅茶苦茶だぞ!!」
Vがケリーと口論をする間に、彼の脳内に新たな来客が現れた。
『ジョニー…ジョニー…聞こえるか…私だ』
それは、電気信号の奥底から浮上してくるような、かすれた女性の声だ。
『その声はまさか…オルト…!!』
ジョニーの声が震える。怒りでも驚きでもなく、胸の奥を殴られたような動揺が感じ取れた。
「嘘だろおい、また知らない奴が来たぞ!」
「ちょっとV、どういうことか説明してちょうだい」
「聞いてんのかジョニー!?話はまだ終わってないからな!」
『ジョニー…まさかこうしてお前を見つけることになるとはな…』
「いや〜まさかナイトシティのレジェンドが2人もお見えになるなんて、舌が何枚あってもたりませんよ〜ペロペロ」
身体の内と外から絶えず聞こえてくる声に、Vの精神はとうとう限界へと達した。
「ああ、もううるせぇよ!お前ら1人づつ話しやがれ!」
その怒声で、ようやく全員の口が止まった。最初に話し始めたのはケリーだった。
「確かに、こんなとこで話あって埒が明かないな…よし、一旦俺の家に来い」
「そりゃあいい、アタシもそうさせてもらうよ」
「ジョニー、俺の車に乗れ」
「だから俺はVだけどな」
「あのー僕の席は?」
ケリーはエアロンダイトのドアを指し、困ったように眉を下げた。
「悪い…このエアロンダイトは2人乗りなんだ、他を当たってくれ」
「じゃあローグさんのカリバーンに…」
「なんでアタシがアンタを乗せなきゃいけないんだい…骨が折れてないんだったら、自分の足で歩きな」
「……」
エンジン音が遠ざかり、路地にはカツオだけが残された。
「へっ!どいつもこいつも調子に乗りやがって、いいですよそれなら僕はデラマンに乗って快適にケリーさんの家に向かいますから!」
負け惜しみとも言える声でデラマンを呼ぼうとしたカツオの肩を、何が強く掴む。
「まて」
「なんだよいきな……り」
それはマックスタックだった。カツオの肩を掴んでいる男の後ろにも4人の隊員が彼に銃を向けている。
「ここらでサイバーサイコが暴れていると通報があった…この死体の山を作ったのはお前か?」
「いえいえいえ、僕じゃありません!コレをやったのは____」
「つまり犯人を知っているんだな、重要参考人として、これより貴様を連行する」
「ちょっと待って下さい!誤解です!話せば分かりますから!」
「黙れ!さっさと歩け!」
カツオは1日に2度も車に轢かれ、更にはマックスタックに連行されるという、今日のナイトシティの不運な男ランキングが存在したらぶっちぎりで1位を取れるほどの不遇具合を発揮した。
オマケ 目覚めた人
アフターライフ内
クレア「Vもついにテレビデビューか」
ローグ「遅いくらいさ」
クレア「随分と高く買ってるねーっあ、Vがギター弾いてる」
ローグ「……」
クレア「どうしたの?」
ローグ「クレア、店は任せたよ!」
クレア「ちょっと、どこ行くの!?」
ケリーの自宅
ケリー「頭の中にジョニーがいるだあ…ホラを吹くにしてももっとマシなのを言いやがれ…」
V(ジョニー)がギターを演奏しだす
ケリー「………」
ケリー「あのクソ野郎!!」
オールドネット内
オルト『今日も情報収集だな…ん…この演奏は…』
ローグ「………」
ケリー「………」
オルト「………」
「「「これジョニーじゃん!!!」」」