もしもVの知力が0. 1だったら   作:正拳突き

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26 大統領を殴った日

ドッグタウンの路地は入って数分もしないうちに歓迎ムードを見せつけてきた。

 

Vが何気なく路地を歩いているだけで、突然背後から複数の足音が迫ってきた、振り向くより早く銃撃が始まる。彼を襲っているのはギャングではなく、ドッグタウンの現地の住民たちだ。

よそ者が1人で歩いている、ただそれだけでカモだと思われたのだろう。

 

もっとも、素人に毛の生えたような程度のごろつきが叶うはずもなく、既に通りには数多くの肉片や血が飛び散っていた。

 

Vはそんな彼らの武器やインプラントを回収しながら、思わずニヤッと呟く。

 

「ホント金になるなここ……もっと早く来ればよかった」

 

『全くいいところじゃねぇか』

 

スカベンジャーまがいの行動にもいい加減に慣れたジョニーが鼻で笑うような声が響く。それと同時にVの視界が揺れ、彼は地面に倒れ込んだ。

 

ズキン、と脳を直接針で突き刺されたみたいな痛みが走る。

 

「っ……!?」

 

視界が一気に暗くなり、足元がぐらりと揺れた。Vはたまらず、近くの壁に片手をついて膝をつく。

 

『おい、どうした』

 

「……頭が……急に、ぐちゃぐちゃに……」

 

言葉を絞り出すように呟いたところで、ジョニーの姿が揺れ動き次第に薄くなる。

 

ロッカーボーイの姿がノイズを走らせながら薄れていく代わりに、視界の正面に光の粒が集まり始めた。空中で渦を巻いた光はやがて1人の女の形をとる。

 

『はじめましてというべきかしら、V』

 

肩までの紫がった赤髪に、薄いジャケットの下には配線むき出しの黒いランナースーツ。かつてVの仲間であったTバグを思わせる姿の女は、腕を組んだままこちらを値踏みするように見下ろしていた。

 

「……あんたがソングバード?」

 

『ええ、レリックを通してあなたの脳に深く潜り込んでる。だから少し痛かったはず』

 

「少しのレベルじゃないだろ……」

 

Vは眉間を押さえながら立ち上がる。周囲の喧騒は変わらなが、ジョニーの気配だけがすっかり消えていた。

 

『時間がないから手短に話す。あなたにここでやってもらいたい任務の内容を説明する』

 

「大事な話ってわけか」

 

『ええ。今、上空を飛んでいる専用機がある。スペースフォースワンって名前に聞き覚えは?』

 

「なんだそれ?」

 

『チッ……大統領専用機よ。私も今乗ってるんだけどそれがもう直ぐ、このドッグタウンに緊急着陸する』

 

ホログラム越しでも分かるくらい、ソングバードの視線は真剣だった。

 

『ドッグタウンの支配者にてバーゲストの王、カート • ハンセンは大統領のロザリンド • マイヤーズを殺すつもり。あなたには大統領の救出、及びドッグタウンから脱出を手伝ってもらいたいの』

 

「いいね、面白くなっきてた」

 

『そしてここらは報酬の話、あなたが無事に大統領を守ってくれたら、今度は私があなたの命を助ける』

 

「そんなことができるのか?」

 

Vは驚きを隠さずに問う。これまでにローグ、ケリー、オルトと頼れる助っ人は見付かったが、肝心のVを助ける方法だけが分からず終いだった。故に、目の前にいるランナーの言葉を無視することが出来ない。

 

『勿論、レリックにハッキング出来るランナーが私以外にいた?』

 

「いや」

 

短く返すしかない、実際その通りだからだ。

 

「でしょ。大統領もあなたも生き延びて、私も無事に生存出来る。ウィンウィンってこと」

 

「ウィンウィン…いいな、それ」

 

ぼやきながらVは無意識のうちに腰に手を伸ばした、いつもの場所いつもの重み。

 

_____が、そこには何もなかった。

 

「あれ」

 

『どうしたの』

 

Vは右の腰、左の腰、背中と順番に触る。何度触っても指先に冷たい鞘の感触は戻ってこない。

 

「……おい、待て。俺の刀は?」

 

『落としたんじゃないの?』

 

「そんなはずないだろ!さっきまで使ってたんだ」

 

ソングバードが何かを調べる様な動きを見せた後、バツが悪そうに視線をそらした。

 

『……さっきあなたの脳に割り込んだ瞬間、一瞬倒れたでしょ。その間、周辺のカメラを巻き戻して確認したの。あなたがぶっ倒れたあと、通りがかりのチンピラが腰から刀抜いて走っていくのがバッチリ映ってた……』

 

「おい、どうしてくれるんだよ!1番強い武器だったのに!」

 

『大丈夫、直ぐに見つけてあげるかr____』

 

ソングバードの声が途中で掻き消える。同時に、頭上から腹の底を揺さぶるような轟音が鳴り響いた。廃虚となったビルが震え、路地のゴミが跳ねる。Vは思わず顔を上げた。

 

高く霞んだ空の向こう。そこにひとつ黒い塊があった。煙を引きながらこちらへ一直線に落ちてくる、巨大な宇宙船の様な機体。

 

「……なんだ、ありゃ」

 

『嘘でしょ、そんな!』

 

ソングバードの悲鳴にも近い声がVの脳内に響く。

 

「どうした?」

 

『スペースフォースワンにミサイルが命中した!このままじゃあと1分以内に墜落する!』

 

「どこに堕ちるんだ!?」

 

『それは………嘘……』

 

「どうしたんだ?」

 

僅かに言葉を濁したあと、ソングバードは覚悟を決めた顔で答えた。

 

『ここに堕ちる』

 

「え?」

 

見上げた先で、スペースフォースワンがさっきよりも何倍も大きく見える。煙と炎を引きずりながら、Vのいる区画めがけて真っ直ぐ落ちてきていた。

 

『じゃあ私は脱出ポッドで逃げるからあなたは大統領を助けて!』

 

一方的に言い放つと同時にホログラムは掻き消える。

 

「いやお前ふざけんなよ!!」

 

ソングバードへの文句を叫びながら、Vはサンデヴィスタンを起動する。

 

落下してくる機体の動きが、信じられないほど遅くなる中崩れた建物の破片や、機体の残骸がスローになりながら降り注ぐ。

 

Vはそれらを次々と足場にするように踏みつけ、空中を跳ぶ。

 

「っと……危ねぇ!」

 

頭上を巨大な金属の塊がゆっくり横切る。サンデヴィスタンが切れると同時に、世界に速さが戻った。

 

背後で ドゴォォォン!! と大地を揺らす爆音が轟いた。

 

「今日の天気は晴れときどき宇宙船ってことか」

 

砂煙の向こうには2つに折れた巨大な機体が見えた。あちこちから火と煙が上がり、金属が焼ける匂いが鼻を刺す。

 

ソングバードの声は、まだ戻ってこない。

 

「大統領を助けろ、ね……」

 

刀という最大の武器を失ったものの、文句を言っても状況は改善しない。Vは崩れた胴体部分に空いた隙間から中へと潜り込んむ。

 

機内はひどい有様だった。

 

座席は潰れ、荷物がいたるところに散乱している。床には血が広がり、何人の人が倒れていた。

Vは一つ一つ息を確かめながら通路を進む。だが大統領らしい人物は見当たらない。

 

「……いないな」

 

Vが諦めて帰ろうかと思っていた時、通路の陰から人影が飛び出した。銃口の金属光沢、短く息を吸う音。

 

「ッッ!」

 

反射だけで身体が動いた。Vは飛び出してきた銃を弾き、そのままカウンターで右ストレートを叩き込む。

 

「ぐはっ……!」

 

悲鳴とも呻きともつかない声が上がり、相手は床を転がった。手から滑り落ちた銃が乾いた音を立てて転がる。

 

気を失ったその人物は、年配の女だった。高そうな白いスーツは血と埃で汚れているが、仕立ての良さは隠しようがない。

 

『大丈夫?私は無事に脱出できたけど大統領は?』

 

そこへタイミングよくソングバードが戻ってきた。

 

「いないな……この変なおばさん以外はみんな死んでる」

 

Vは転がっている女を顎で指す。それと同時にソングバードの身体が硬直する、腕がぷるぷると震え、見てはいけないものを見てしまったと言わんばかりの酷い表情へと変貌した。

 

『ああ……そんな……』

 

「コイツ急に俺に銃を向けて来たから右ストレートでぶっ飛ばしてやったよ」

 

『何してんの!?この人がロザリンド • マイヤーズ、新合衆国の大統領よ!!』

 

「……は?」

 

Vはしばらく無言で、その「変なおばさん」の顔を見下ろした。確かにニュースで、何度か見たことがある気がする。本来はもっと威厳のある人物なのだろうが、今は白目をむいて気絶していた。

 

「……マジかよ」

 

『マジよ!ってよりによって殴る!? それでもプロなの!?』

 

「いや、先に銃向けてきたのは向こうだぞ」

 

『それでもよ!!』

 

ソングバードが頭を抱えている。しかし彼らに口論を重ねる暇は残されていなかった。何故なら既に機体の外から、複数のエンジン音と怒号が聞こえてきたからだ。

 

機体の外を見ると、すでに何台もの装甲車が墜落地点を取り囲んでいた。

 

バーゲストの連中だ。ライフル、マシンガン、グレネードランチャー。重武装にもほどがある火力が、一斉にこちらへ向けられていた。

 

『まずい……バーゲストの暗殺部隊よ。大統領をここで始末する気』

 

「マジで殺しに来てるってわけか」

 

Vは舌打ちしながら、気絶したマイヤーズを瓦礫の陰まで引きずる。腰に手を伸ばすが、やはり刀はない。

 

「クソ……今使えるのはコレだけか……」

 

腰のホルスターに収まったハンドガン「リバティ」を手に持つ。信頼性のあるいい武器だが、現状は火力不足だ。

 

構えると同時に、先に動いたのはバーゲストだった。

 

雨のような銃弾が瓦礫を削り火花を散らす。Vは身を低くして遮蔽物に隠れながら、隙を見てリバティで撃ち返す。

 

1人、2人と倒れ込むが数が多すぎた。

 

「……多いな、オイ」

 

『小隊ひとつは来てるわ』

 

瓦礫の陰に身を隠したまま、Vは息を整える。弾倉の残りは心もとない。しかも背後には大統領というお荷物つきだ。

おまけにグレネードランチャーにより遮蔽物は徐々に削られていき、逃げ場は刻一刻と減っていった。

 

絶望的な状況の中Vは横にいるマイヤーズをチラリと見る。

 

「……そういやさ」

 

『なに? 今すぐ役に立つ話以外は後にして』

 

「大統領ってことは、やっぱり皮下アーマーがっつり入れてるよな」

 

『は?』

 

Vはマイヤーズの肩を掴んで、上体を少し持ち上げる。

 

「国で1番偉いんだろ……ちょっと試してみるか」

 

『待って、それ“試す”って何を_____』

 

Vはマイヤーズの頭をゴリラアームのそこそこの力で叩く。

 

ゴンッ。

 

金属同士が触れ合う音が返ってきた。明らかに、ただの生身の頭蓋骨の響きじゃない。

 

「おお……マジで硬え」

 

『ハア?いきなり何してんの?』

 

銃弾の破片がVの頬をかすめる、逃げ道はない。弾もそう長くはもたない。もう1度、Vはマイヤーズを見下ろした。

 

「……それじゃいくか」

 

ニヤリと笑う。

 

『ちょっと待って、V本当に何する気?嫌な予感しかしないんだけど』

 

「マイヤーズ!歯あ食いしばれよ!」

 

Vはマイヤーズを押し倒すと彼女の足首を掴んだ。

 

「ああ……貴様なんのつもりだ?」

 

うっすらと意識を取り戻したマイヤーズがかすれ声で問う。

 

『まさか…V待ってそれだけはどうか!!やめ______』

 

Vはそのまま大統領を片手でぶら下げるように持ち上げ、試しに軽く振ってみる。

 

ずしり、といい手応えが腕に伝わった。

 

「……いいな。バランスもいい」

 

『よくないから、1ミリもよくない!!』

 

「バーゲスト共!今からお前らに国家権力の力を思い知らせてやるよ!!」

 

V自身もよく意味を理解していない言葉を叫びながら、彼は遮蔽物から飛び出した。

 

「うおおおお!大統領アタックだあああ!!」

 

Vは迫りくるバーゲストの1団へ向かい、渾身の力を込めてマイヤーズを叩き付けた。

ぶん、と空気を裂く音。続いて、ゴシャッ、と鈍い衝突音。

 

マイヤーズの頭部が先頭のバーゲスト兵の顔面にクリーンヒットした。

 

「ぎゃあああああ!!」

 

兵士は悲鳴を上げながら横に吹っ飛び、隣の仲間にぶつかって一緒に転がっていく。

 

『いやあああああ!!』

 

バーゲストとソングバードの悲鳴が木霊する中、Vはそのまま勢いを殺さず、大統領を振り回し続けた。

 

ブンッ、ゴンッ。ブンッ、ゴシャッ。

 

ふっ飛ばされたバーゲスト達が、次々と地面に転がっていく。

 

「嘘だろ……人を……武器に…」

「こんな奴と戦う訓練なんざ受けてねぇぞ俺は!!」

 

後方にいたバーゲストたちが、目の前の光景にドン引きした声を漏らす。

 

彼らから見れば、状況はこうだ。

 

護衛対象を打撃武器として振り回す、常識外れにもほどがある光景。舞台の余興ならまだ笑い話で済むが、残念ながらコレは現実だった。

 

「そこだあ!!」

 

Vがもう1度全力で振り抜くと、正面にいた兵士が3人まとめて吹き飛んだ。うち1人は、壁に頭から突っ込み足を数秒間両足をバタバタとさせた後に動かなくなった。

 

『やめてぇぇぇぇ!! マイヤーズの耐久値にも限界があるからぁぁ!!』

 

「大丈夫まだいける、だってコイツは大統領だぞ!」

 

『何を基準に判定してるのよ!!』

 

この一見頭のおかしいよう見える作戦だが、効果は絶大だった。

 

脳の処理能力を超えた光景を見せられた兵士達は、一瞬だが動きが遅れ、その隙にサンデヴィスタンで加速したVがマイヤーズを叩き込む。完全に部隊の連携が崩れ残っていた兵士たちは、もはや銃を撃つことすら忘れて後退を始めている。

 

「このままじゃジリ貧だ1度撤退するぞ!」

「覚えてろよ、キ〇ガイ野郎!!」

 

そう叫びながら、生き残ったバーゲストたちは装甲車に飛び乗り、煙と砂埃を上げてその場から逃げ出していった。

 

やがて銃声もエンジン音も聞こえなくなる。

 

残ったのは、瓦礫と破壊された装備と、泡を吹いている大統領を片手でぶら下げているVだけだった。

 

「……ふぅ。国家権力、マジでスゴイな」

 

Vがそう呟いてマイヤーズをそっと地面に下ろすと、ようやくソングバードが深いため息をついた。

 

『Vほら、受け取って』

 

彼女が指を指すと、空から1台のドローンが降りて来る。そのドローンのアームには、見慣れた日本刀が掴まれていた。

 

「コレ……俺の」

 

『あなたが戦ってる間に回収しといた……だがら2度とこんなことしないで、いい?』

 

「使ってて楽しかったんだけどな…」

 

『返事は!?』

 

「はいはい、もう絶対に大統領を武器として使わない。コレでいいだろ」

 

『ホントに頼むからね……じゃあ増援が来る前にさっさとここから逃げて、脱出路は確保してるから』

 

Vはソングバードに言われた通りマイヤーズを担ぎ、墜落現場を後にする。

彼女の怒りはもっともだが、結果だけ見れば依頼どおり、大統領を救出したと言えなくもない____方法に目をつぶればだが。




おまけ : アイコニック武器紹介

名称 ロザリンド • マイヤーズ

説明 誰もがご存知の新合衆国大統領、元はミリテク社のCEOでもある。現在大統領としては3期目であり、4期目を目指している。
また元軍人でもある為、荒事にもめっぽう強い。

彼女の強さは肉体だけではなく、危機的状況においても一定の冷静さを保つ精神力である。

コレを武器として使うことで自分がちょっぴり偉くなった気分になれる。



あとがき

ジョニーはきっと笑ってるだろうな
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