「いいぞ!そこだ、やれ!」
寂れたスタジアムに作られた簡易的なバスケットコートを眺めながらVは声援を送る。彼の応援しているチームは劣勢だが、それでもVは応援を辞めない。その熱意が伝わったのか、選手の1人がシュートを入れ、同点にまで躍り出た。
「うおお!いけいけい!」
こんな事をしているVだが決して遊んでいる訳では無い。ロザリンド・マイヤーズを、ソングバードと共にバーゲストから救出し、ドッグタウン内の廃ビルに匿う事は出来たが状況は最悪だった。
突然ソングバードとの連絡が取れなくなり、先の戦闘で武器として猛威を振るったマイヤーズが全身複雑骨折をしたことで動けなくなった。すなわち、ドッグタウンからの脱出がより困難になってしまったのだ。
Vとしては、ソングバードの行方も気になるが大統領を放置する事も出来ない板挟み、そんな時にマイヤーズが解決策を出してくれた。
「ソロモン・リードという男がいる、7年間…この街のどこかに潜伏していた、他の者は信用できないが奴なら……」
そんな事を話すマイヤーズの目は鋭いというか、身体が無事ならVへ殴りかかってきそうな気迫を感じたがVひとまず置いて、その男と接触をする事にした。
しかしながら、7年もの間誰にも悟られずに潜伏した男と密会をするのは決して簡単ではない。そこで唯一彼との連絡が取れる手段、キャプテン・カリエンテという潰れたレストランから繋げる秘密の古い電話を使う事にした。
現代ではお目にかかれない、アナログな通信は往年のスパイ映画さながらであり、Vを大いに興奮させる。
そして、その電話の相手からの返事は1言
『日中にバスケットコートに来い、いいな?』
電話越しにでも分かる渋い言葉。プロというは短く、そして簡潔に物事を述べるものだとVは感動した。
という理由で彼はバスケットコートにいるのだが、いまだにそのリードという男はいない。この場にいる全員に「お前がソロモン・リードか?」と聞いたが皆首を横に振ったのでそこは問題ない。
彼が来るまでは休憩時間と称して、華麗にバスケ観戦をしていた。
『随分と楽しんでるみたいだが、自分がピンチだっていう自覚はあるんだろうな?』
バスケ観戦をするVの前にジョニーが現れる。ソングバードとの通信が切れた事で再び彼と話せるようになったのだが。その顔はとても怪訝なものだ。
「なに言ってるんだよ、ドッグタウンとかいう遊園地で大統領を巻き込んでド派手にバトって……こんな経験滅多に出来ないだろ?」
『お前みたいな奴は軍にもいたよ、いつもヘラヘラとしやがって…上官からぶん殴られても、銃弾やドローンが飛び交う戦場でも笑って……』
ジョニーが顔を背け、コートの方を向く。過去に蓋をするかのように。そして銀の拳を強く握りしめた。
『俺を庇って死んだ時も……ソイツは笑ってた…』
「ジョニー……」
Vも言葉に詰まる、彼らは同じ脳を共有しているのだ。お互いの考えている事までは分からなくても、感じている事は分かる。分かってしまうのだ。
「え~と……ジョニー……俺は_______」
「動くな、振り返らずコートを見てろ」
2人の会話はそこまでだ。突如、Vの腹に突きつけられたハンドガンは重く、服越しであっても金属の冷たさを感じさせていた。Vは目を細め、視界で伺える限り周囲を警戒しながらボソリと呟く。
「いきなりなんだよ?」
「お前が味方であるという証拠を見せろ」
耳元でささやく男の声には遊びの感情は一切なく、ただ冷徹に必要な事だけを的確に述べる言葉、少なくとも彼が電話越しに話した相手であるのは間違いなかった。
「ソロモン・リードだろ?俺はV、大統領に雇われたんだ」
「証拠は?」
「証拠って?」
「この業界で口約束を信じる奴の寿命は長くないからな」
その男の態度に少しだけだが不満を覚える。コッチはわざわざドッグタウンにまで出向き、大統領を助け、言われた通りにバスケットコートまで来たのに労いの言葉も無いのかと。
「なあ、まずは挨拶をしないか?俺のお母さんは俺を産んですぐ死んだらしいけど、挨拶は大事って言ったそうだぞ」
「お前がFIA(米国情報局)の人間だと示しめくれたらな」
銃口が腹に更に強く押し付けられる。次はないと言うかのように。通常の人間ならそれで言うとおりに従うだろう、通常の人間なら。
「あんまり調子に乗るなよ…」
「なんだと?」
「なんで俺がお前の言う通りにしなきゃいけないんだよ?」
「俺がお前に銃を向けているからだ。いいか、コイツは炸裂弾だ、ただの銃弾とはわけが違う。重武装の皮下アーマーさえも貫通し、体内で爆発する……“自分の中身”を見ながら死にたくなければ言う事を聞くのが賢明だ」
男の言葉あいも変わらず氷の様に冷たい。それがスパイとしては正しいのだろうが、その思いやりの欠片も感じさせない姿勢がVの琴線に触れた。
「お前そんなことして、俺が死ななかった時に無事でいられると思うなよ?」
「……」
返事はない、しかし一瞬だが銃が震えるのを肌で感じた。今が勝機と畳み掛ける。
「それで撃たれたとして、俺が死ぬまでどれくらいかかる?1分、それとも2分か?そんだけありゃあ、お前をバラバラにするくらいは楽勝だろ」
「正気か?」
「俺はいつだってまともだよ」
この男は知る由もないが、Vはレリックによって既に死にかけているのだ。頭の中にいつ起爆するか分からない爆弾を抱えた男が、腹に拳銃を突き付けられたくらいで動じるはずがない。
『やめろV、コイツは本気だ。さっきマイヤーズのババアから貰ったコインがあっただろ?アレを見せてやれ』
ジョニーの言葉を聞き、落着きを取り戻したVはポケットから黄金のコインを見せる。これがいわゆる身分証に当たるらしい。
「……ほらよ」
そよ風が吹くと共に、先程までVが応援していたチームが再びシュートを入れ逆転した。
「彼女は無事か?」
「ああ、ちゃんと生きてる」
「尾行は確認したか?」
「“ビコウ”って誰だよ、お前の彼女か?」
男が絶句し、吐いた息が首筋に伝わる。何かが分からないがしてやったとVは微笑んだ。
「………ついてこい、今すぐにだ」
Vは首根っこを掴まれ、そのまま近くに駐車していた黒いセダンへの助手席へと押し込まれる。ハッと顔を上げると運転席に座っていたのは50代半ばの坊主頭の黒人だ、ワイルドな無償ヒゲと筋肉質な身体はビーチに入ればモテるだろうなとVは思った。
「なぜあんな態度をとった?危うく撃つところだった」
「そっちが銃を向けてきたからな、こーいう時は相手の言いなりになるなってジャッキーが言ってたんだ」
「ジャッキー?まあいい、さっきは済まなかった。何分心配性でな」
男が車のエンジンを入れ、発進させる。要は済んだのだから長いは不要だと言うのように、そのハンドル捌きは的確だが若干の焦りが感じ取れた。
「そうか、じゃあ許すよ」
「本当か?ついさっきまで殺し合いになりそうだったというのに」
「相手が謝ったらデカい心で許してやれ、ってジャッキーが言ってたからな」
「フッ…そのジャッキーに感謝しなくていけないな」
「だろ?」
男の口角が微妙に上がる、緊張の糸がほどけやんやりとした雰囲気が社内に流れ込む。男がハンドルから右手を外し、空になった手をVへと向ける。Vもその手を取り、硬く握手をした。
「ソロモン・リードだ」
「V、近々伝説になる男だ」
初対面の相手に銃を向ける男と、銃を突き付けた相手を逆に脅し返す男。一風変わったコンビがドッグタウンに誕生した。
オマケ : これで俺もスパイ
リードと会う少し前、廃ビルにて
マイヤーズ「コレでお前も新合衆国のエージェントになったというわけだ」
V「スパイってことか?なんかカッコいいな」
ジョニー『乗せられてんじゃねーよ、ただ利用されてるだけだ』
V「こういうのコードネームとかないのか?映画みたいな」
マイヤーズ「ない、欲しければ自分で考えろ」
V「どうするか……VV7?……ちょっと違うな」
ジョニー『J・Bてのはどうだ?』
V「ジェームズ・ボンドって意味か!俺にピッタシだな!」
ジョニー(ジョン・ランボーって意味なんだけどな…)
あとがき
サイバーパンク2077の掲示板があるんですが、そこでリードに対して
52.名無しのサイバーパンク2023年10月08日 01:44
大統領から「道の真ん中でウンコしろ」と命令されたら
「道のど真ん中でウンコするなんてどう考えても間違ってる。こんな命令をする大統領も組織もクソだ。でもここでウンコしなかったらこれまで踏み躙った者たちに示しがつかない」と言って泣きながら道のど真ん中でウンコするタイプ
って言われてて、確かにコイツは大統領からやれと言われれば脱糞でも裸踊りでも何でもするだろうなと納得しました。