06 騒がしい隣人
Vは死んだ。
アラサカが開発した生体チップ『レリック』を盗もうとしたものの、仲間であるTバグとジャッキーは志し半ばで命を落とし彼自身もデクスに撃たれて死んだ。
ではこの物語はこれで終わりなのか?否、それは決してない。後にナイトシティ1の大馬鹿野、頭サイバーサイコ、自分をジョニー • シルヴァーハンドだと思い込んでいる精神異常者、と呼ばれる彼の伝説はまだ序章に過ぎない。
(俺は何を見ているんだ?)
Vは自分が見ている光景に対し、頭に最初に浮かんだのは疑問だ、彼はアラサカタワーに仲間と共に突撃し、核爆弾で吹っ飛ばした後に殺された。だが当然そんなこと当然Vはしてはいない、そもそもこれは現実と明らかに矛盾がある。
第一に自分が見た光景には見覚えのある人物が3人いた。ローグ、スマッシャー、サブロウの3人である。
しかしローグは自分がアフターライフで見た時よりも若かかったし、スマッシャーは紺碧よりもゴツくなかった。極めつけには死んだはずのサブロウ • アラサカが出て来たのだ。
以上の情報をもってVは自分は見た、厳密には体験した光景をこう結論付けた。
(コレは夢だな!!)
夢であれば死んだ人間が登場する等といった矛盾にも納得が出来る。本来は彼の首に埋め込まれたチップから記憶が流れ込んで来ているのだが、そんな事を判断する知力はVにはない。
(しっかし…じゃあ俺はどうなったんだ?デクスに撃たれたはずなのに_____)
「____おい起きろ!」
「うぇへ!」
Vが足りない頭で思考を巡らせているなか、突然何者かに顔を殴られる。たちまち目を開けて見ればそこには見知った男が2人いた。
1人は今回の依頼を持って来たフィクサーにしてVを撃った男、デクス本人である、だがソレは眉間に風穴を開けられており誰がどう見ても死んでいた。
そしてもうひとりの男は…忘れもしない。自分と相棒の運命が大きく揺れ動いた場所、紺碧プラザにてサブロウのボディーガードをしていた男だ。
「…あんた…知ってる、確か名前は…タケムラって」
「黙れ」
「アベシ!」
タケムラは更にもう一発パンチをVの鳩尾に打ち込む、途端に息が出来なくなった彼はヒュー、ヒューと情けない音を出しながら必死で呼吸をする。
「ヨリノブ様、サブロウ様の殺害犯を捕らえました。これよりアラサカタワーに連行します」
抵抗しようにも身体中がボロボロのVにそんな力は残されていない、痛みを紛らわせるためか周囲を眺めるとそこはゴミ捨て場である事が分かった。
(デクス…お前こんなとこで死んだのか…)
Vは自分の隣で死んでいる太っちょを眺める。生きていたら恨み言の1つでも言ってやりたかったが、それさえも出来ない。疲れからか或いは先ほどのパンチが効いたのか、Vはゆっくりと目を閉じた。
「V!まだ死ぬな!!俺に友人を2人も失わせるつもりか!?」
「V!お願い…目を開けて…」
声が聞こえる、それも何度も聞いてきた耳に馴染む心地良い声だ。
「ヴィクに…ミスティ?」
僅かに動く唇でその声の主たちと思わしき名前を呟く。しかしそんな事をあるはずがない、自分はアラサカの追っ手に捕まったのだ、この2人がここにいるなどあり得ない。
それでも恐る恐る瞼を開く、どうか今の声が幻聴でありません様にと祈りながら。
再び光が入ったVのキロシに写ったのは____
「____良かった、目を開けてくれたな!本当に…本当に良かった!」
ヴィクのメガネから溢れた涙がVの頬に落ちる、辺りを見回せばそこは何時も通っているヴィクの診療所だった。
「どうして?俺はここに?」
「タケムラっていう男が重傷のお前をここまで運んで来てくれたんだ」
「は?タケムラが?」
なぜ?と強い疑問が浮かぶ。あの男は最後自分をアラサカタワーに連行すると言っていた。なのにどうしてヴィクの所へ自分を運んだんだのか見当がつかない。
「道を間違えたのか?」
「そんなわけないだろ、お前に話がある様子だった。多分そのうお前さんに連絡して来るはずだ」
「そうか、じゃあ俺はひとまず助かったんだな!!」
Vは右手を強く天井に上げる、生き残った事への感謝や死んでいった仲間達への哀悼の意がその拳には握られていた。オマケにスマッシャーとの戦いで壊れた腕や脚には、新しいクロームが装着されている。
「壊れたクロームも取り替えてくれたのか!本当にありがとうヴィク、今は持ち合せが無いけど必ずツケは払うからな!!」
「ちょっといいかしら…V」
突然今まで黙っていたミスティが口を開く、その顔は気不味さと悲しみを半分ずつ入れ込んだ様な複雑な表情をしている。
「ああ!ミスティ、本当にごめん!俺がドジ踏んだせいでジャッキーが……!!」
Vは額を地面に強く打ち付け、渾身の土下座をミスティに見せる。今1番辛いのはミスティだ、Vは殴られる事も罵倒されツバを吐かれる事も覚悟し彼女に全力の謝罪をした。
「V…今はジャッキーよりもあなたが大変なの」
「えっ俺が?」
「詳しくは俺が説明する。いいか、落ち着いて聞いてくれ」
ヴィクはVでも理解出来る様、なるべく簡潔かつ要点を絞って話した。
彼が盗んだチップには50年前のテロリスト、ジョニー • シルヴァーハンドの記憶痕跡が入っており、デクスに撃たれても生きていたのはチップのナノマシンが傷を修復したから。しかし、チップの影響でVの身体は少しづつジョニーの乗っ取られ、元の自分の人格は消えてしまい、チップを抜けばVは死ぬという事。
絶望的な余命宣告を前にしたVの反応は
「つまりどういうことだ、もう一度言ってくれ?」
理解出来なかった。ヴィクは簡単に話したつもりだったがVには難しい過ぎた。ならばと彼は更に簡単に小学生でも分かるくらい簡単に説明し直す。
「だからどういう意味なんだよ?」
それでもVには分からなかった。この後もヴィクは何度も簡単に分かるようVに説明をし直すが理解してもらえず、ついにはミスティに紙とペンを持ってこさせ紙芝居の様にして解説をした。
「何が言いたいんだ?チップの中に人がいるわけないだろ」
「何で分からないんだよお!!!」
温厚なヴィクもこれにはキレた。既に両手の指を合わせた数よりも説明をしているのに、この理解度の低さ。よく今まで怒らなかったものである。
「お前さんは近いうちに死ぬ!助かる方法はない!以上!!!」
「ええ!何で俺死ぬんだよ!?」
ヤケになったヴィクの説明にVはようやく事の重大性について理解する。結局半分も理解出来なかったが取り敢えず、自分の命は長くないと理解したVはミスティに支えてもらいながら自分に部屋へと帰った。
「ごめんな…ミスティ、ジャッキーは俺を庇って死んだんだ。アイツは本当に勇敢で…頼もしくて」
「泣かないでV、ジャッキーにとっては自分よりもあなたに生きていてほしかったのよ。彼が選んだのなら私にとやかく言う権利はないわ」
「それじゃあねV、いろいろ辛いと思うけど私たちはいつで味方だから」
ミスティは部屋から出ていく前に薬を2つくれた。1つの青い薬はヴィクから、Vの死を少し遅らせ、頭の中にいる隣人を抑える効果のある遮断薬。もう1つはミスティからで逆に例の隣人に身体を譲り渡せる効果のあるオレンジ色の擬似エンドトライジンという薬である。
ミスティ曰く
「コレを飲めば2つの魂を消失せずに済むから」
との事だ。
だがVにとって今は1秒でも早くベッドで眠りたかった。ここ最近は色々な事があり過ぎた、ベッドに潜り込むとVは赤ん坊の様にぐっすりと眠れた。
『おい、おい!起きろ!!』
「うーん…あと5分だけぇ」
『起きろつってんだよ!!!』
突然の怒号に目が覚める。何事かとVが部屋を見渡すとそこには銀色の義手をつけた、ひげ面で濃いグラサン姿のオッサンが壁に寄りかかっていた。
「誰だよお前、どっから入ったんだ?」
『タバコが吸いたい、1本吸わせろ』
「持ってない」
Vは何だコイツと思いながらも謎の男の要求に返事をする、正直少しムカついていた。
『だったら買ってこい!このバカ野郎!』
「うるせぇ!」
Vは謎の侵入者に右ストレートをぶち込む、いきなり人の家に上がってタバコを要求するどころか、持ってないと言えばバカ呼ばわりなんてVの堪忍袋の尾はプッチンと切れていた。
『が!テメェ何しやがる!』
「何しやがるのはお前だ!勝ってに人んちに上がり込みやがって俺の家から出ていけ!!」
悪態をつく男に更にもう一発蹴りを入れる、確実に当たっているのに何故か手応えがない。手数が足りないからかと更に何発も渾身の蹴りを披露した。
『おいマジでやめろ!記憶痕跡を蹴るとか世界で1番無駄なことしてるぞ!』
「さっきからグチグチうるさいんだよ!!いいからとっとと出て行けよ、このタコ!」
「うるせぇぞV!今何時だと思ってるんだ!」
部屋のドアからドンドンと叩く音と、騒音によって起こされてしまった隣人の怒鳴り声がする。Vは目の前のグラサンに警戒しながらもドアを開けた。
「V、こんな時間に何してんだよ?」
ドアの前に立っていたのはバリーというVのひとつ下の部屋に住んでいる男であった。過去には車の話を一度だけしたが、それ以上はとくに関わりはなく、Vにとっては顔見知り程度の男だ。
「バリー!起こして悪かったな、今部屋にドロボーがいるんだ!NCPDを呼んでくれ!」
「泥棒!?そりゃあ大変だ、俺が何とかしてやる!」
Vは知らないがバリーは元NCPDてあり、治安が最悪のナイトシティでは様々なトラブルに遭ってきた。元ではあるものの、警官の誇りを忘れていないバリーは護身用に持っていた拳銃を手に取りVの部屋へと入った。
「泥棒はどこだ?」
「ほらそこ!窓際の壁に寄りかかってるやつ」
「だからどこだ?」
「そこだって!」
バリー必死に泥棒を探すが見つかるわけがない。何せその男はVの頭の中にだけ存在するのだから。
『よりによってこんなアホの中に入っちまうなんてな…』
謎のオッサンはやれやれと言いたげな顔で頭に手を上げながら首を横に振った。バカだのアホだのと言われたVは怒りのボルテージをより強く上げる。
「何だよ!?人のことバカだのアホだの言いやがって!」
「バカにバカって言って何が悪い?」
「バカっていう奴がバカなんだぞ!」
謎の男と幼稚な口喧嘩をしていたVだが、バリーに肩を触られたことでやっと我に返った。振り返るとそこには、哀れみに近い顔のバリーがコチラを見ていた。
「お前…誰と話してるんだ?」
チップの事を初め、Vが置かれている状況を何も知らないバリーが導き出した結論は薬物による幻覚である。実際彼も警官として勤務してた時は見えないお友達と話している人を大勢見てきたのだ、勘違いしても無理はない。
「バリーには見えないのか?」
『ようやく気付いたのかよ、てんで使えねぇジョイトイだな』
知力の低いVも少しづつだが理解してきた。この謎のオッサンは自分にしか見えないのだと。そして先ほどのヴィクの説明と照らし合わせると
「アンタがジョニーか!」
まるで溜まっていた糞便が排泄された様な爽やかな気持ちで、男に話しかける。なるほどこの男が自分を乗っ取ろうとしてるのか
「V!」
「うわ、何だよバリー!」
突然背後からバリーがVをギュッと抱きしめる。男に興味のないVにとってはただただ不快なだけだ。
「お前に何があったかは知らないが、薬だけはやるな…!俺も大切な人を亡くして辛くて逃げようかと考えたが、それだけはしちゃダメだよ!!」
バリーは泣きながらVに懇願するが当の本人にはまるで意味が分からない。どうして自分がヤク中扱いされねばならないのだろうか。
「なあジョニー、何でバリーは泣いてるんだ?」
『ああ…先が思いやられるぜ…』
ジョニーは窓からチラリと見える朝日を眺めながら1人項垂れていた、どうせなら相方の方が良かったと呟きながら。
しかしジョニーはいや、ナイトシティはまだ気付いていない。ジャッキーというストッパーを失ったVの真の恐ろしさを。
アクセルしかない車、ツッコミのいない漫才、ルーだけのカレー、ナイトシティに新たなる伝説が誕生する。
補足ですがヴィクが途中Vに見せた紙芝居の内容はミスティが絵を描き、それに対しヴィクが
ヴィク「むか〜しむかし、正確には50年くらい前にジョニーという銀の腕を持ったロッカーボーイがいました」
っていう感じで説明してくれました。
流石ナイトシティ1の聖人、優しい。