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アバジの町の墓場だ。
どうやら、ドグとコブラがやらかしてる。間違いなく奴らだ。
「ひゅー!そいつは潰しがいがあるぜ」
ドグらしい声が耳に届く。
俺は両手をあげて、二人の前に堂々と姿を現す。
「誰だ!」
「新手か!」
やれやれ、驚かせてやるのも悪くない。俺の心拍は上がっているが、表情には出さない。墓場の静けさを背に、俺は落ち着いた声で告げる。
「やっと見つけたぜ、コブラ」
「なんだぁ、レオ・ゴルドンじゃないか」
その瞬間、胸の奥でこみ上げる緊張と安堵が入り混じる。久々の対面、しかもこいつら相手にまともに話すのは危険極まりない――だが、無視できる問題じゃない。
「ドミニクは俺が預かってる――ぐぇ」
――その直後、俺の喉元を一瞬で掴まれた。流石はコブラ。抵抗する暇なんてなかった。
「どういうことだ」
俺は必死に息を整えながら、事の顛末を説明する。声が震えないように、意識的に落ち着かせる。
「サラマンダーに襲われて、8階からポイされたところを目撃したんだ。あんたのガールフレンドとして有名だったから、助けてやった……おかげで俺まで海賊ギルドに追われる羽目になっちまった」
拳を握りしめる。墓場の冷気が肌を刺すが、冷静になれ。油断すれば一撃で終わる、ここはそういう場所だ。
ドグが笑う。
「ふん、殺し屋レオ・ゴルドンがわざわざ来るとはな……面白くなってきたぜ」
「転職したんだ。今は探検家さ」
俺はその笑みを見逃さない。奴らが一斉に動く前に、こっちから仕掛けるタイミングを探る。
「……レディも無事だったろ。海賊ギルドが手配した爆弾コンテナも俺が引き取ってやったんだぜ」
墓場に沈む月明かりが、俺たちの影を長く伸ばす。心臓はバクバクしているが、喉元を掴むコブラの力強さに逆に冷静さを取り戻す。
「レオ。発着場で他所のドックが爆発してたのは、お前の仕業だったのか――借りが出来ちまったな」
「気にするな。それよりドミニク引き取ってくれよ。あんたのガールフレンドとはいえ、いつまでも銀河パトロール中尉殿を匿っていられない」
俺の声には焦りもあるが、目は冷静に相手を捉えている。ここから先は、言葉よりも行動がものを言う――墓場の静寂が、俺の次の動きを促しているようだった。
俺はコブラの鋭い視線を受けつつも、落ち着いて答える。
「ドミニクは俺の相棒に預けている」
コブラの目が一瞬大きくなる。
「レオの相棒だって?」
「コブラ、あんたも会ったことあるだろ。カゲロウ山でさ……デイジーだよ」
コブラは目を細め、すぐに理解したようだ。
「ああ、あのお嬢さんか!」
俺は思わず口角を上げる。
「お前、自分に靡かなかった女を“お嬢さん扱い”するのは止めとけよ」
コブラは少し笑いながら肩をすくめる。
「大人の魅力ってやつは、大人しかわからんのさ」
俺は軽く鼻で笑った。墓場の冷たい風が吹き抜ける中でも、二人の間に変な間が流れる。
「なるほどな……大人の魅力か。勉強になったぜ、コブラ」
コブラはにやりと笑い、俺の視線をまっすぐ受け止めた。
「まぁな……だが、今回のことは大人の力で解決させてもらうぜ」
俺は拳を握り直す。笑いごとじゃない。
「わかってる。俺だって手加減はしない」
雪原に沈む月光が、俺たち三人の影を長く伸ばす。緊張感と信頼が交差するこの瞬間、誰もが覚悟を胸に抱いていた。
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宇宙船ロシナンテのコックピットに座り、俺はネプチューラ星北極地帯の座標を確認する。
コブラとドグはパンプキンを迎えに刑務所だ。
バッドのことを考えると、少し胸がざわつく。あいつ、雪上船で雪クジラ漁師たちと仲良くやってるんだろうな……平和ボケしてるに違いない。
だが、俺は知っている。海賊ギルドが北極地帯に送り込んだ戦力は、想像以上に重装備だ。キングダム戦車隊まで投入されている。
サイコ・ガンでも正面から仕留めるのは難しいレベル。
「ま、どうせコブラの仲間認定されてるし、あいつがサラマンダーをぶっ潰してくれればなんとかなる……かな」
自分の宇宙船、ロシナンテに目をやる。
この船のスーパーブラスター、重粒子ビーム砲なら、キングダム戦車の全面300㎜メタライト装甲もぶち抜ける。
心のどこかで、自分のお人よしさに呆れながらも、舵を握りしめる手に力が入る。
「バッドの思い人を守る……いや、守らなきゃな。あいつなら戦車に追い回されても生き残るだろうけど、普通の漁師はそうはいかない。原作でも、そうやって死んでるんだから」
偵察機を視界に捉え、目標を補足する。
「まずは、サラマンダーの偵察機、そしてキングダム戦車8機を片付ける……これでバッドの安全は確保できる」
宇宙船のエンジンが唸り、重粒子ビーム砲が起動する。
冷たい北極光を背景に、俺は深呼吸して心を落ち着ける。
「やれやれ、俺ってホントに面倒な奴だな……」
でも、この手を緩めるわけにはいかない。
守るべきものがある限り、俺は宇宙を駆け抜ける。
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ロシナンテで北極圏上空を旋回しながら、俺は氷原に点在する雪上船を探す。
目標はただ一つ――バッドの思い人を守ることだ。雪原に潜む4本脚のキングダム戦車隊の影も、もうすぐ見えてくるだろう。
「くそ……多脚戦車8機か。正面突破は危険すぎるな」
操縦桿を握り直し、慎重に高度を調整する。まずは偵察機を片付けて、視界を確保しないと……。
視界に赤い機影。海賊ギルドの偵察機だ。俺は息を吐き、スーパーブラスターを照準に合わせる。
「これで視界は独占だ」
ビームを撃ち抜くと、偵察機は爆炎とともに墜落。ホッと一息つく間もなく、次に目に入ったのは4本脚のキングダム戦車だ。氷上を巨大な足音を響かせて進む姿は圧倒的な存在感。脚が氷を砕くたび、雪原が振動する。正面からじゃ、分厚い300mmメタライト装甲を貫けない。
「仕方ない……側面から、角度をつけて!」
俺はロシナンテを巧みに旋回させ、戦車の脇腹を狙ってビームを放つ。氷が砕ける音とともに、戦車の脚の一つが破壊され、動きが鈍る。
だが、残りの戦車も四肢を巧みに使って雪上船に迫ってくる。俺は加速し、ビームを連射して脚を狙い、雪上船と乗組員をカバーする。
「バッド! 動くな!」
無線で叫ぶと、雪上船の上で驚きながらも身を低くするバッドとその思い人。俺は彼らの表情を目で追いながら、無事であれと祈る。
数分間の激しい戦闘の末、4本脚のキングダム戦車8機と偵察機を全て撃破。雪上船は無傷、バッドとその思い人も無事だ。
「……やっとだ」
深く息を吐き、操縦桿を握った手を緩める。目の前の景色が、静かに凍りついた雪原に戻る。
思い人を見つめるバッドの目が、安堵と感謝で輝いているのを見て、俺は思わず笑った。
「お前ら、もう二度とこんな目に遭うなよ」
ふ……俺って、ホントにお人よしかもしれないな。
無鉄砲で、ちょっと面倒な奴だけど、守るべき者を守る――それだけで、今日の戦いは報われたんだ。
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北極地帯の吹雪が静まり返った。四本脚のキングダム戦車の残骸が雪原に散らばり、重装備の部隊は跡形もなく撃退された。ネプチューラ星の冷たい空気が、まるで戦いが終わったことを祝うかのように凍てつく。
俺は汗まみれの顔を拭いながら、雪原に残った戦車の残骸を見渡す。やっと……やっと片がついたか。
そんな俺の前で、バッドが静かに口を開いた。
「なあ、レオ。あんたらが俺を探さなければ、海賊ギルドも俺のことは放っておいてくれたんじゃないのか……」
俺は息を整え、冷たい風を吸い込みながらも、険しい表情を崩さない。
「なんであんな重装備の部隊が来ていたと思う、バッド。ネプチューラ星の北極地域でロド鉱石の鉱脈が発見されたんだ」
バッドの目が大きく見開かれたのを、俺はしっかり確認した。
「ロド鉱石……ロド麻薬か!」
「ああ、ロド麻薬は海賊ギルドの大事な収入源だ。あいつらはどのみち、雪クジラ漁師たちを皆殺しにするつもりだった」
バッドは一瞬言葉を失い、雪原にぽつんと立ち尽くす。でもやがて、決意を含んだ目で俺を見つめ直すのを俺は見逃さなかった。
「……そうか、仕方ないな。仲間を守るには、俺も戦わざるを得ないか」
俺は力強く頷き、拳を握りしめる。
「そうだ。彼らの安全と生活を守るには……ギルドの元帥、サラマンダーを倒すしかない」
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雪原の静けさに包まれた戦場で、バッドや仲間たちの息が白く立ち上るのを見て、俺は少し肩の力を抜いた。戦いの余韻が体中に残っている。
10日程してコブラとドグとパンプキンが民間船を途中下車してやってきた。
コブラの「ドミニクはどうした?」の問い。俺は口を開く。
コブラの目が一瞬だけ緊張で光った。
「マゼラン博士のところだ。あと今、ドミニクの新しい身分証を作ってる。彼女、ロイヤル姉妹の生き残りにして、俺の知る限りコブラのガールフレンドって有名になりすぎてるからな。この機会に別人になった方がいい」
バッドが首をかしげながらも、納得したように頷く。
「なるほど……平和な漁師生活のためには、ちょっとした変装も必要か」
「そうだぜ、バッド。あんたも名前を変えるなり、何かした方がいい」俺はつい、助言めいたことを口にしてしまう。
パンプキンは黙って頷いている。
ドグは険しい顔のまま、吹雪の向こうを見据えていた。
「バッド、お前がやらなくても俺はやるぜ。俺の種族は海賊ギルドに皆殺しにされたんだからな」
その言葉に、俺の胸が少し締め付けられる。だけど、コブラは静かに息を吐いた。
「すまない、バッド。お前の静かな生活を騒がすつもりはなかった」
俺は拳を握りしめ、冷たい空気を肺いっぱいに吸い込む。
「そうだ。仲間を守るため、そしてドミニクやバッドたちの生活を守るため、俺たちはやるしかない」
雪原の残骸の向こうに揺れる北極光を眺めながら、俺は自分に言い聞かせる。守るべきものがある限り、この手を緩めるわけにはいかない――俺はまだ戦いの途中だ。
いつの間にかどっぷり首を突っ込んでいる自分に呆れる。
没シーン・ドーベルっていったら、令和はこっちだよね!
/*/ 星間空間・廃船の中 /*/
赤錆びた鉄骨に縛り付けられたメジロ・ドーベル中尉は、緊張を隠せずにコブラを見上げていた。
葉巻を咥えたコブラが、ゆったりとした声で言う。
「銀河パトロールのメジロ・ドーベル中尉か。……手荒な招待ですまないな」
「……ふ、不器用ですよね、あなた……」
ドーベルは視線を逸らし、か細い声で返す。
「やり方が……いつも強引で。……でも、聞きたいことがあるんでしょう?」
コブラは肩を竦め、銃のグリップを軽く叩いた。
「その通りだ。……ドミニクを狙ったのは誰だ。誰の差しがねだ?」
「っ……!」
ドーベルの瞳が揺れる。彼女はぎゅっと唇を結び、首を横に振った。
「答えないってんなら、俺も手を変えるしかなくなるぜ」
義腕が淡く光を帯び、ドーベルの顔に青白い光が反射する。
「や、やめてください……っ!」
怯えた声を上げながらも、彼女は意を決したように視線を戻した。
「……全部、あたしが弱いから……こんなことに……。……でも……命令に背いたら……パトロールで居場所がなくなるんです」
「だからって、ドミニクに刃を向ける理由にはならねえだろ」
コブラの声が低くなる。
ドーベルは俯き、しばし沈黙。
やがて小さく、消え入りそうな声で呟いた。
「……〈サラマンダー〉です。……あたしに命じたのは……サラマンダー……」
コブラの目が鋭く細められた。
「やっぱりな」
葉巻の煙が揺らめき、二人の間に重苦しい沈黙が落ちた――その時だった。
かすかな「カチリ」という異音。
コブラが反射的に周囲を見渡す。
「……今の音は……?」
ドーベルが小さく震える。
次の瞬間、床下や壁の影で赤いランプが一斉に点滅した。
コブラは舌打ちし、ドーベルを抱き上げた。
「チッ……罠か!」
その瞬間、廃船は紅い閃光を撒き散らして大破した。
金属片と炎が無重力に散り、船体は音もなく四散していく。
爆風のただ中、コブラはオキシシガーを咥え、身体を丸めて身を守った。
腕の中にはメジロ・ドーベル中尉の身体があった――
「チッ……やりやがったな」
彼女の制服は爆発の衝撃で焼け焦げ、胸元には深い裂傷が走っている。
「……コ、ブラ……」
微かな声。彼女の瞳は揺らめき、消えかける星のように弱々しい光を放っていた。
「喋るな。まだ助かる……」
コブラは必死に声をかけるが、自分でもその言葉が虚しいことを知っていた。
「……もっと……強ければ……こんな……」
途切れ途切れの言葉。震える手がコブラの胸元を掴み、そして力なく落ちる。
「ドーベル!」
返事はなかった。彼女の身体は、静かに力を失っていく。
沈黙の中、漂う火の粉と残骸。
コブラは、燃え散る廃船の残骸を背に、彼女を抱き締めた。
「……まただ」
葉巻が口から落ち、真空に吸い込まれていく。
「また女を死なせちまった……」
無情な宇宙に、彼の呟きだけが響いた