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惑星メキコの海賊ギルド幹部、エル・ロデス邸の襲撃――俺は外された。
いや、正確に言えば「外してもらった」ってやつだ。てかさ、当然のように襲撃メンバーに数えんじゃねぇよ。俺が何した? なんで「お前も来るよな」って顔してくるんだ。
パンプキンみたいに撃たれた弾を筋肉で弾き返す身体なんて、俺にはない。アイツは生きた戦車だ。正面から撃たれても平気って、もう人間やめてるだろ。
バッド? 「あの目・耳・鼻」の三感覚に加えて、さらに空まで飛べる。あれはチートそのものだ。偵察も索敵も全部こなす、便利屋すぎるだろ。
そしてコブラ。言わずもがな、サイコ・ガン持ちで性格がアレだ。死地でも笑って突っ込む。タメ張れるのは、同じく狂った早撃ちのドグくらい。
で、俺は? 何もない。
パイロットとしての腕もなけりゃ、操縦席で無双できるスキルもない。あるのは――原作知識だけだ。いや、それを戦力に数えるなよ。メタすぎんだろ。
だから言ったんだよ。「俺は行かねぇ」って。
襲撃現場なんざ、撃たれたり切られたり吹き飛ばされたりがデフォだろ。そんな死に方ごめんだ。運が悪きゃ流れ弾で即退場だ。いやすぎる。
けどまあ、手ぶらで下がるのも気が引ける。
せめて置き土産くらいは――そう思って、俺はドグに小さなボンベを渡した。
「ほら、これやるよ」
訝しげに眉を上げるドグ。「爆弾かぁ?」なんてぬかしやがる。口の減らねぇ野郎だ。
「冷凍ガスの小型ボンベだ。見た目はちゃっちいけど効果は保証する。美女の熱すぎる抱擁があったら、これで冷やせばいい」
そう言ったら、ドグはわずかに口角を上げた。あれは笑ったのか、皮肉ったのか。まあ、どっちでもいい。
俺は真面目に言ってるんだ。
ここで言う美女は飾りじゃない。毒を仕込んでくるかもしれねぇし、抱きついたまま爆発する罠だってある。ハニートラップと自爆を平気で抱き合わせにしてくる。冷凍ガスはそういう時に役立つ。熱を奪って時間を稼げる、逃げるチャンスになる。
それに――原作じゃ、サラマンダーを倒したあと、ドグはサボイラーにバーベキューにされちまう。熱エネルギーで全身を焼こうとする敵を退けるには、水か冷凍ガスで冷やすしかない。俺が知ってるのは、その一点だ。
本音を言えば、気休めにすぎない。
サイコ・ガンでも、超感覚でも、鉄壁の筋肉でもない俺にできることなんて、ちっぽけなガジェットを渡すくらい。
それでいいんだ。俺は裏方で十分。
襲撃が終わって、みんなが笑って酒を飲んで戻ってきたとき、そこでちゃっかりジョッキを掲げる。それが俺の役目だ。
――だから、頑張って帰ってこいよ、ドグ。
/*/ ドゴール星マゼラン研究所
「帰ってきたわね、レオ」
研究所のロビーに足を踏み入れた瞬間、デイジーの声が飛んできた。
相変わらず背筋の伸びた立ち姿で、疲れを見せない。俺は軽く手を振り返した。
「ああ、カワイ子ちゃん。良い子にしてたかい」
デイジーは肩を竦め、少しだけ苦笑した。
「ええ、私もドミニクもね。……ドミニクは起き上がれるようになったわよ」
「そりゃ上等だ。じゃ、ドミニクにも現状を説明しとくか」
そう言って、俺は病室の扉を押し開けた。
ベッドに腰掛けていたのは、ドミニク・ロイヤル。
銀河パトロールの中尉にして、コブラのガールフレンドとしても名が知れてしまった女だ。背中にまだ包帯が残ってるのが痛々しい。けど、目の奥には闘志が戻ってきていた。
「さて、ドミニク。聞いてくれ」
俺はベッド脇の椅子に腰を落とし、わざと大げさに指を立てる。
「ドミニク・ロイヤル銀河パトロール中尉――いや、コブラのガールフレンドとして有名になっちまったあんたは、海賊ギルドにとって格好の的だった。コブラへの見せしめに、殺される寸前までいった。背中の皮を剥がれ、センチュリーホテルの八階からポイ捨てされたあんたを――偶然通りかかった俺がキャッチした。まったく、俺の人生で一番ロマンチックな抱擁がそれだなんて笑えねぇ話だ」
ドミニクはわずかに眉をひそめたが、俺の軽口を遮らずに聞いている。
「そのせいでな、俺まで海賊ギルドに目を付けられちまった。お陰で逃げ回る羽目になって、コブラに連絡するタイミングを逃した。結果、コブラはあんたが殺されたと思い込んで、復讐に動いたわけだ。昔の仲間をかき集めながら、サラマンダーを倒すつもりで動き出した」
デイジーが横で腕を組んでうなずく。ドミニクは唇を噛み、目を伏せた。
「安心しな。合流したときに、あんたの無事はちゃんと伝えてある。ただ――あの男の性格だ、止まらねぇ。サラマンダーを倒すと決めたら最後まで行くさ。でなきゃ海賊ギルドの矛先は、あんたや俺たちに向かい続ける。だから、コブラは突き進む」
俺はポケットから煙草を取り出しかけ、デイジーに睨まれてやめた。
「で、俺の仕事だが……その間に、あんたの新しい身分を作る。コブラがサラマンダーをぶっ倒せば、海賊ギルドはおろか銀河パトロールまで大混乱に陥る。大義名分だの正義だの全部吹っ飛んで、てんやわんやだ。そのタイミングで偽造の戸籍と認識票を滑り込ませる。そうすりゃ、あんたは公式に“死んだ”ことになり、別人として再スタートを切れる」
ドミニクが顔を上げる。俺はそこでにやりと笑ってウィンクした。
「名義は――ドミニク・シークレット中尉。どうだ? なかなか洒落てんだろ」
一瞬の沈黙のあと、ドミニクはふっと笑った。まだ痛みが残ってるはずなのに、笑おうとした。
俺はその笑顔を見て、小さく息を吐いた。
「いいか、中尉。コブラが勝とうが負けようが、あんたは生き延びろ。それが俺の仕事であり、コブラの望みでもある。あいつは必ず帰ってくる――その時に、また並んで笑えるようにな」
デイジーが「やれやれ」と肩をすくめるのが視界の端に見えた。俺は肩を回して立ち上がる。
「さて、俺は書類をこしらえに行く。お嬢さん方は大人しく養生してろよ」
そう言って背を向ける俺の耳に、ドミニクの小さな声が届いた。
「……ありがとう、レオ」
振り返らずに、片手だけひらひらと振った。
俺の役目は、いつだって裏方だ。けど、裏方にも裏方なりの見せ場ってもんがあるのさ。
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